Sweet Time
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■112 / inTopicNo.1)  スペシャル・デイ(そして2人は)
  
□投稿者/ まぁじ -(2002/11/28(Thu) 11:14:05)
    <まえがき>

    表に中途半端なものをアップしてしまったので、お詫びでございます(^^;)。
    しかし・・・個人的にジョウのトーンがいつもと違うので、
    かなり難しかった。そのうえ、誰かの目線で書くっていうのも難しいですね。
    よろしければ、おつきあいください。
引用返信 削除キー/
■113 / inTopicNo.2)  Re[1]: スペシャル・デイ(そして2人は)
□投稿者/ まぁじ -(2002/11/28(Thu) 11:15:34)
     あたしは、振り返ることができなくて。
     じっと、地上に広がるイルミネーションを見るしかできなかった。今日はジョウの誕生日。そして、バースデイ休暇で得られた、たった24時間の自由時間。
     いつの間にかジョウに騙されて、第3コロニーに降り立っていた。
     そしてここはコロニーの中心地が一望できる、インペリアルタワーという名の超高層ホテル。その最上階のスイートに。
     あたしと……ジョウがいる。
     天井まで届く大きな窓ガラスに、あたしはずっと鼻先を擦るようにして夜景を見ていた。すると後ろから。

    「お気に召したかな」

     いつものジョウらしくない、少し仰々しい口調が届いた。だけどあたしは、ええそうね、なんて短くしか応えられなかった。
     緊張しすぎて。
     それ以上言葉にしたら、声が震えそうだったから。
     コロニーに着いてから、ジョウはあたしの我が儘をいっぱい聞いてくれた。今日の主役はジョウなんだけど、その方がいいっていうから。甘えてみた。
     ショッピングに映画、そしてさっきまでこのホテルの中階にあるレストランにいた。大切な自由時間を、もう充分すぎるほどあたしのために使ってくれた。
     プレゼントのお礼だなんて言ってたけれど。初めてのキスは、あたしにとってもプレゼントだった。
     だからどう考えても、ジョウの方が損してる。
     けれどここに来て分かった。ジョウがいつの間にか、こんなホテルをリザーブしてたなんて。もう子供じゃないんだもの。その意味は分かってる。
     あたし、今夜……。
     ジョウと寝るんだわ。

    「こうすると、よく見えるぜ」

     するとジョウは、部屋の明かりを消した。ふっ、とローソクの炎を吹くようにして。確かにイルミネーションがずっと鮮やかになったけれど。
     それ以上に、窓ガラスに映るジョウの姿が気になった。
     あたし、気づかないふりをしているけれど。見えてるの。ジョウが一歩ずつ、近づいてくるのが。もうあたしの心臓は、慌てふためいてる。
     覚悟は、しているつもり。だけどまだ少し、距離を置きたい気持ちもある。
     そんなあたしの気を知ってか、知らずか。ジョウはそっとあたしの肩に、手をかけた。でもそれは手すりのようなもので、隣でジョウも夜景に見入った。
     まだ平気、これくらいなら。でも身体は自分の意志通りに、うまく動かせなくなってきてる。

    「……逃げたいか」

     ふいに、ジョウが思いがけないことを訊いてきた。

    「無理強いはしないさ。嫌ならいいぜ……逃げても」

     そんな意地悪な質問をしてくる。逃げたい訳、ないじゃない。ジョウは待ってるの? あたしが自分の口から、抱いて、って言うのを。
     でもそれって、初めてのあたしにはちょっと酷だと思う。
     だったらジョウが力づくで、あたしが逃げられないようにして欲しい。こっちの気持ちは充分すぎるほど知ってる筈なんだもの。
     今度は、今夜は。
     ジョウの気持ちを教えて欲しい。
     だからあたしからは何も、応えたくはなかった。

    「……じゃ、こうしようか」

     またジョウが、遠回しなことを言い出した。

    「アルフィンがノーと言ったら……そこでストップだ」

     あたしをとても、困らせることばかりを言う。仮にそう言ったとしたら、ジョウは本当にそこで止められるの? そんなに簡単に、気持ちを切り替えられるの?
     それって、それほど。あたしのこと、求めてくれてないってことかしら。つい、そんなことを考えてしまう。
     けど。
     黙っていると。
     ジョウが、あたしに。今度は、ぶっきらぼうな口調で言ってきた。

    「……こっち向けよ、アルフィン」

     でもあたしは。振り向かなかった。
     今こんな間近でジョウを見たら、きっと動けなくなるだけ。
     それに応えないってことは、イエスってことでしょ。だから黙ったままでいた。
     すると、しばらくして。
     ジョウの手が……。
     あたしに、触れてきた。


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■114 / inTopicNo.3)  Re[2]: スペシャル・デイ(そして2人は)
□投稿者/ まぁじ -(2002/11/28(Thu) 11:17:03)
     顔を向けなくても、ジョウの指が何をしているのか分かる。あたしの髪を指ですくって、その隙間に滑らせる。あたしは、そうされるの好きだから。
     言葉の代わりに、ゆっくりと瞼を閉じた。

    「……いいよ、それでも」

     囁くようなジョウの声が届いた。
     視線がなくなったのをいいことに。ジョウの指は、何度も、何度も、あたしの毛束を撫でていく。髪の毛だっていうのに、まるで背筋を撫でられている気がする。
     ジョウがそうやってあたしに興味を示してくれるのを、待ってた。

    「よく、分からないな。これじゃ……」

     その意味は、後で分かった。ちょっとの間を空けたら、ひたり、とジョウの指があたしの右頬に触れたから。
     チタニウム繊維の感触じゃない。節くれたジョウの、生々しい指の感触。じりじりと、あたしの顎あたり、そして喉元までをなぶっていく。
     不思議ね……。
     仕事の時のような荒っぽさが全然ない。猫でも撫でるように、繊細に、あたしの肌に絡んでくる。無骨にみえて実は、そんな動きもできる指だったなんて。

    「……あったかいな。アルフィンは」

     あたしは胸の中だけで呟く。
     ジョウ、あなたの指の方が少し、熱っぽいわ。

     身じろぎしないでいると、ジョウの指があたしから離れた。
     なんだか、不安。暗闇の中で独りぼっちになったような、不安。
     だから瞼を開けた。
     今度は無理なく、隣に首を巡らせることができた。ジョウがじっとあたしを見ている。ジョウの背丈だと、あたしを見るときに伏し目がちになる。やさしいまなざし。
     それも、好き。

    「着替えてみないか……さっき買った服。一番先に、俺に見せてくれよ」

     そう言って、ジョウの口元が笑った。
     ショーウインドウで、あたしが一目惚れした黒のロングドレスのこと。肩紐が細くて、背中が半分も開いていて。
     少しだけ背伸びしたドレス。そして、ジョウが買ってくれたドレス。
     まっすぐに瞳を見られないから、あたしはジョウの胸の辺りに視線を落として、一回だけ頷いた。
     
     ソファ脇に置かれたショッピングバッグまで、あたしはゆっくり歩いた。
     ジョウは窓辺から動かずにいる。バッグを手にしてから、どこで着替えようかと思った。スイートだもの。
     隣のドアの、ベッドルームでもそれはできる。
     けどあたしは。
     シャワールームへ向かった。
     直接的な言葉は使わないけれど、ジョウがそれを、望んでいるのが分かったから。


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■115 / inTopicNo.4)  Re[3]: スペシャル・デイ(そして2人は)
□投稿者/ まぁじ -(2002/11/28(Thu) 11:17:49)
     髪を洗うと、渇かすのに時間がかかる。
     でもそれをしないで、おろしたてのドレスを着るのはいけないと思った。それにあたしの髪は、砂糖菓子のような甘い香りを含んでいた。子供のような匂い。
     今から着るドレスには、一番ふさわしくないと思うから。

     シャワーをたっぷりと浴びて、息を吹き返したあたしの肌。そのままドレスを身に着けた。
     胸元は大きく開いているけどドレープ感がある。あたしの胸の形は分からない。けれども腰の辺りはシルクがぴたりと張りついて、忠実にあたしの曲線を浮き上がらせる。
     肌着のラインは出したくないから。
     あたしはそのままで、シャワールームを出た。

     すると、さっきまでいたリビングに。なかった香りが漂っていた。
     ジョウがソファにゆったりと腰をかけ、その手元から何かがくゆらいでいる。

    「吸うの? 煙草……」
    「……ごく希にね。内緒だぜ、これ」

     そう言って、悪戯っぽく片目を閉じてみせた。
     知らなかったジョウがいる。あたしはとても不思議な気分で、ソファに座る足元まで近寄った。
     指の間の一番奥に、部屋に備え付けられた煙草が一本。ジョウは右手で口元を被うようにして、その紫煙を吸い込む。そのしぐさが似合う手を、ジョウはしていた。
     あたしもちょっと好奇心がわいてくる。
     少し、試してみたい。きっとそんな考えが、顔にも出てたのね。

    「せっかくシャワーを浴びたんだ。……髪に匂いがつく」

     そんな風にたしなめられた。
     でもね、ジョウ。リビングはすっかり煙草の匂いが広がって、もう遅いと思う。それから、まだ長さのある煙草を。ジョウはアッシュトレイにもみ消して、こっちを向いた。
     あたしは立ったままだから、今度はジョウが見上げる姿勢になっていた。
     アンバーの双眸が、ゆっくりとつま先まで降りていくのが見える。視線で、あたしを撫で回す。
     再び面もちが上がった時、ジョウの両手が、あたしのウエスト辺りに伸びてきた。

    「……男が女に、服をプレゼントする意味。知ってるかい?」
    「悦ばせてあげたいから?」
    「そうだな……それもある」
    「ほかにあるの?」
    「……脱がせるため。そういう意味もあるらしい」

     また笑った。いやらしくない顔で、いやらしい言葉を使う。ギャップが、余計にどきりとさせる。
     そしてジョウはソファからゆっくり立ち上がると、あたしのウエストを引き寄せた。
     頬がジョウの胸に押し当たる。両手をどこに置いていいか分からなくて、あたしは棒立ちだった。
     やさしい抱擁。
     互いの存在を確かめ合うだけの、抱擁。けれどもあたしの腰の後ろで、ジョウの両手がクロスしていく。いつの間にか、しっかりと抱き留められた。

    「こうしてみると、ずいぶんと華奢なんだな。……少し怖いよ。壊れそうで」
    「壊さなきゃ……いいんじゃない」
    「……ただ、壊してみたい気も、あってね」

     意味深めいた言葉を吐くと。ジョウが、ふっとあたしの額に息をかけた。前髪が舞って、額が露わになる。そこに柔らかく、少しだけ湿った感触が、触れた。
     ジョウの唇。
     やっぱり暖かい。あたしは目を閉じて、その一点に意識を集中する。気持ちいい。どきどきするけど、まだ心地いいときめき。
     ジョウの唇が離れるとき、吸い取るような音がした。すると今度は、あたしの頬に触れてくる。煙草の匂いがする吐息がかかった。鼓膜に、ジョウの溜息が届く。
     このまま、なし崩しにされてしまうのかしら。まだ心の準備は完全に整わない。
     あと少しだけ時間が欲しくて。あたしは問いかけてみた。

    「……ねえ」
    「……うん?」
    「入らないの? ……シャワー」
    「もう少し、あとでかな」

     腰に回されたジョウの腕に、より力が加わった。あたしの身体は自然に、反り返ってしまう。それを狙っていたのね。ジョウの唇が、あたしの喉元に狙いをつけた。
     皮膚が薄い所。唇の感触を受け止めるだけでも、過剰に刺激を感じてしまう所。それなのにジョウは、舌先まで這わせてきた。
     ぞくりと、あたしの全身の皮膚を、痺れが走った。
     出すつもりなどなかった、あ、という声が勝手に漏れる。

    「感じるのか」
    「……や、訊かないで」
    「なら……止めようか」
    「…………」
    「そうだよな。……ギブアップには、まだ早すぎる」

     まだ早すぎる。そう言われると、抵抗できなくなる。子供扱いされたくないもの。
     だからあたしは、ジョウのなすがままに任せた。
     鎖骨辺りにまで降りてきたジョウの愛撫。顔を返すがえすする度に、荒い息づかいがあふれてくる。ジョウの気持ちも少しずつ、高ぶってきている証拠。
     そしてあたしの肌の味わい方が、だんだんと貪るように変わってきた。
     ああ、どうしよう。
     立っていられなくなる。膝が震えて、崩れてしまいそう……。


引用返信 削除キー/
■116 / inTopicNo.5)  Re[4]: スペシャル・デイ(そして2人は)
□投稿者/ まぁじ -(2002/11/28(Thu) 11:18:21)
    「俺に、罠を仕掛けたつもりか?」
    「……え」
    「ドレスの下……何もつけていないだろ」

     ジョウの視線が、あたしの目の前に戻ってきた時に。くぐもるような声で言われた。
     あたしはジョウの瞳を見られなくて、視線を外す。
     罠だなんて。本当に、そういうつもりじゃなかったのに。
     無駄だとは分かっていたけれど。
     そういう女だと思われたくないばかりに。あたしは本当のことを言った。

    「違うわ。シャワーの後は、ゆったりしたいだけ。それとドレスに、変なラインが出るのが嫌だから……」
    「なら、そのちょっとした油断がどういうことになるか。教えてやるよ……」
    「ジョウ……」
    「アルフィンは少し、自覚した方がいい」

     あたしの頭は、ジョウの左手に強く引き寄せられた。顎が、その肩に乗せられる。さっきまであたしに密着していたのに。ジョウが軽く屈んだせいで、胸の辺りに空間ができた。
     離れてしまうと思ったせいか、あたしの両手が反射的にジョウの脇腹を掴む。丁度、クラッシュジャケットのベルトがある辺り。だから掴みやすかった。
     ほっとしたと思った途端。あたしはさっきよりも熱にうかされたような、あ、という声を上げていた。
     ジョウの右手が、あたしの視界が届かない所で。左の胸を捕まえたから。
     無意識のうちに身体が、しなをつくってしまう。

    「……ほら、分かっただろ」
    「ジョウっ……」
    「感じやすいのさ。……ちゃんと防御しておかないと。これで男を誘ってないなんて、言い訳できないぜ」

     その忠告を刻みつけるためか。ジョウはあたしの胸を包んだ右手を、執拗に動かしはじめた。
     駄目……。
     あたしは逃げようとして、ベルトを掴んだ手をより伸ばそうとした。でもジョウの方が身体はずっと大きい。あたしが精一杯広げた距離など、意味もなかった。
     黒いドレスの中で、ジョウの手のひらの中で。小さな変化が起こったらしく。
     それをジョウは親指でなぞり始めた。

    「……すぐ、こんな風になる」

     かあっと顔から火が出そうになる。あたしは恥ずかしさのあまり、無我夢中でジョウを引き剥がした。
     きっとジョウが手を緩めてくれたんだと思う。今度は本当に、離れることができた。
     咄嗟にあたしは両手で胸元を隠して、肩で息をしないといられずにいた。心臓が暴れてる。そしてジョウの指の感触は、離れてもまだ色濃く残っていた。

     その時あたしは、どんな顔をしたのか分からない。ただジョウが、両手を広げて肩をそびやかしていた。あたしの顔を見た後に。
     まだまだ子供だね、と言われたような気もするし。ちょっと強引過ぎたかな、と反省しているようにも。
     抵抗したのは、ノーという意味ではないのに。ただ、いたたまれなくなっただけ。
     それをジョウがどう解釈したのか。あたしには分からなかった。

    「……シャワー、浴びてくるよ」

     それだけ言い残すと、ジョウはきびすを返した。あたしはただ、後ろ姿を無言で見送る。
     ジョウの言葉は、どっちなんだろう。あたしの頭の中は、ただただ、混乱するだけだった。
     もう休もうかという意味なのか、それとも。
     もっと先へ進もうかということか。
     どんなに考えても。
     ジョウが戻ってくるまで、あたしは答えを見つけ出せなかった。


引用返信 削除キー/
■117 / inTopicNo.6)  Re[5]: スペシャル・デイ(そして2人は)
□投稿者/ まぁじ -(2002/11/28(Thu) 11:20:15)
     今度はあたしがソファに腰掛けて、ジョウが戻ってくるのを待っていた。
     気がつくと、とても喉が渇いていて。小型冷蔵庫にあったミネラルウォーターを、半分ほど一気に飲み干していた。
     今夜、ジョウに抱かれる。
     そう思うだけで、胸が張り裂けそうなくらいに痛くなる。ずっと心の片隅で、望んでいたことだもの。
     でもそれには。さっきのような、迫り来る息苦しさに耐えないといけない。ジョウの顔をみつめることが、難しくなってきているのに。あたし、本当に、ジョウと向き合えるのかしら。
     なんだか、自信が薄れていく。

     それから少ししてから。ドアから微かに洩れていた、シャワーの音が消えた。
     自然とあたしの身体が硬直していく。
     耳だけで、ドアが開いたことを探るしかできなかった。

     ジョウは、待っていたあたしに。
     一言も声をかけない。
     足音もなく近寄って、ソファの背後にある小型冷蔵庫をおもむろに開けている。あまりにも長いだんまりに。
     あたしは、ジョウの姿を、目で追わずにはいられなくなった。
     膝まで隠すように巻かれたバスタオルが視界に入って、それから、髪はちゃんと拭いていないみたいで。濡れていて、しずくが無駄のない背中を伝っていた。
     そして小型冷蔵庫の上で。氷をグラスに落とした音がして、ジョウは何かを注いでいた。

     なんだか、あたしの存在をまるで無視しているみたいだった。中途半端に置き去りにされたあたしは、この先、どうすればいいんだろう。
     ただ、もじもじと、ここに座っていればいいのかしら。それはそれで、とても居心地が悪くて。もしこのままジョウに置いてきぼりをされたら。
     また別な意味で、恥ずかしいかもしれない。恥辱、という意味の。

    「アルフィン」

     ふいに呼ばれた。
     あたしはほっとして、そして急に嬉しくなって。身体を捻って、ジョウに振り向いた。

    「今までの俺っていうの、忘れてくれないか」
    「……え……どうして」
    「どうしても」

     そう言ったきり、ジョウはグラスに入れたものを飲んでいた。喉を鳴らす音だけが、小さく聞こえた。
     またジョウはだんまりになった。あたしは、身体の力が抜けた気がした。
     ジョウはきっと。
     あたしのさっきの態度を、ノーだと思ったんだわ。
     そうじゃないって。そうじゃないってあたしは言いたかったけれど。どうしても口にすることができない。
     自分からジョウにせがむなんてこと。あたしには、とても、難しい。

    「ドレスが皺になるぜ。……奥にガウンがあるはずだ。その格好も、疲れるだろ」

     ジョウの言葉を。あたしは、ぼおっとしたまま聞いていた。
     怒った様子はないけれど、平然とした口調だけど。なんだか、あたし。
     また、ふりだしに戻った気分だった。
     折角ジョウが、大切な時間をあたしと過ごしてくれているのに。初めてのキスまでしたのに。あたしのちょっとした狼狽えのせいで。
     なんだか、また遠くなっちゃった……。
     気が抜けたというよりも、居所のなくなった気分を、すごく持て余してしまう。
     そしてもうあたしは、することがなくなって。
     ジョウに言われた通りに、奥のベッドルームに行った。ドレスまで、しわくちゃになったら。あたしはもっと悲しくなる。

     ドレッサーのハンガーから、ガウンを外した。身体に張りついていたドレスを脱ぐと、こもっていた熱が散っていく。ガウンの肌触りは良かった。
     とても仕立てがいい、上質の物だと分かるんだけど。すごく、寂しくなった。寒いわけじゃないけれど、身体がなぜか震えてくる。
     あたしは、腰ひもをだらだらとした手つきで結びながら、そのままダブルサイズのベッドに腰を下ろした。
     ベッドルームはもう一つある。
     だから今夜あたしはここで。一人で眠るんだろうって思った。
     取り残された寂しさを、抱えながら。


引用返信 削除キー/
■118 / inTopicNo.7)  Re[6]: スペシャル・デイ(そして2人は)
□投稿者/ まぁじ -(2002/11/29(Fri) 13:21:08)
     気持ちを切り替えたくて、あたしはしばらくベッドに座っていた。するとドアの向こうから。
     あたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。
     きっと、ただガウンに着替えるだけなのに、もたもたしてるから。ジョウが気にかけた。
     その類だと思ってた。

    「開けるぞ、アルフィン」
     
     あたしはもう、膝の上に置いた自分の手元しか、見ていなかった。あと少しだけ落ち込んで、それを忘れて、今夜はジョウと遅くまでお喋りしよう。
     こういう楽しみ方もあるって。そんなことを考えていた。
     するとあたしの視界に。
     ジョウのまとっている、タオル地が目に入った。

    「なんだ、疲れたのか」
    「……ううん。そうじゃないの」
    「ま、もっとも、休ませてやるつもりないけどな」
    「……え」

     あたしは、ジョウの顔を見上げた。
     無表情だけど。口端だけが、ふっと上がった。
     
    「言ったろ?……今までみたいに、アルフィンのご機嫌に振り回される俺じゃないんだ」

     ジョウが言った、今までを忘れてくれっていう言葉。
     それは、さっきじゃなくて。
     もっともっと長い、今までという意味。
     
    「……アルフィン」

     あたしの前に、じりじりとジョウが迫ってくる。
     まだ何がなんだか分からなくて、あたしは目を閉けたまま。そしてジョウの顔が、視界の真ん中に映った。
     唇から、アルコールの匂いがする。
     さっき飲んでいたのが、ウイスキーだって分かったのは。ジョウの舌が、あたしの舌に絡みついてきてからだった。
     突然の襲撃に。
     あたしはすっかり状況が変化していることに、ついていけずにいる。
     けどジョウの両手が、あたしの手首を痛いほど握って。組み倒されてから。ようやく飲み込めてきた。
     もともと明かりが柔らかなベッドルーム。
     その明かりを背負ったジョウが、あたしを見下ろしている。

    「俺の気分次第じゃ、ノーは聞き入れないぜ」

     あたしが応えないでいると。
     ジョウはそのまま、ガウンの合わせた部分に鼻先を埋めてきた。あたしが身じろぎするのを利用して、あっという間に、前がはだけた。
     その瞬間、あたしは恥ずかしさに耐えきれず、瞼を閉じた。けれどもジョウの言葉から、どんな風に見られているのかを。
     教えられる。

    「……綺麗なもんだな」
    「あ……あんまり、見ないで」
    「触れるのは、いいのか」

     息が、止まりそうになる。
     ジョウがあたしの胸に、顔を埋めてきたのが分かるから。両手を広げられたままのあたしは、ジョウの下でもがくことしかできない。敷かれた、ベッドカバーが揉みくちゃになっていく。ジョウが激しく胸にキスをしてくるから。
     キスだけじゃない。このまま食べられちゃうんじゃないかっていうくらいに。ジョウがしてくることは、あたしの想像をずっと超えて。
     やさしいのか、乱暴なのか。
     分からなくなった。


引用返信 削除キー/
■119 / inTopicNo.8)  Re[7]: スペシャル・デイ(そして2人は)
□投稿者/ まぁじ -(2002/11/29(Fri) 13:22:41)
     たぶん、もう。
     あたしの身体で知らないところは、ジョウにはなくなったと思う。それくらい、あたしの全部をジョウは求めてきた。シャワーを浴びたのが嘘みたいに。頭の先から、つま先まで。
     あたしからは。
     ジョウの匂いしかしない。
     いろんな格好をさせられて、淫らな声を強要されて。あたしは放心状態に近かった。でもジョウは許してくれなくて、あたしの身体はくたくただった。
     だけどまだ、ひとつ知られていないことがあって。ジョウはわざとそれを避けてきたようで。そしていつしか、あたし自身も。
     最後まで知って欲しい、と望んでいた。

    「……っつ……」
    「ゆっくりでいい……そう、力を抜いて」

     片腕であたしを抱きしめながら、ジョウは声で導いていく。空いた手はあたしの脚の付け根にあって、そのうちの中指だけが。
     あたしの身体の中の温度を探りにきていた。ぴりっとした痛みと共に、中で、折り曲げられる。
     ジョウはあたしを労るように、頬に何度もキスをして、この苦痛を紛らわそうとしてくれた。けどその思いやりに、溺れていく余裕はもうなくて。あたしはジョウの腕を必死に掴んでいた。
     ジョウの指は、あたしのせいでふやけはじめている。けど、そんなことはお構いなしという顔つきで、時間をかけて、あたしをほぐしていく。

    「……やっぱり……駄目……かも……」
    「大丈夫さ。……さっきより柔らかいもんだぜ」
    「……でも」
    「あとは、こっち次第だ。怖かったらアルフィンは、俺にしがみついてればいい……」
    「……ジョウ……」

     あたしの声は、もう嗄れかけていた。さっきからずっと、喉を切るような声しかでなくて。ジョウの鼓動もすごく大きく聞こえてきて。時々、奥歯をぎりっと噛む音もあたしの耳に届いていた。
     落ち着き払って見せてるけど、本当は、ジョウはもう。
     あたしを射抜きたくてしかたないんだと思う。

    「アルフィン……、俺の気持ちは決まったよ」
    「……どうしたの、急に」

     うっすらと目を開けると。ジョウの切なそうなまなざしが、注がれた。あたしの瞳、全部に。あたしの胸はそれだけでもう一杯になって。嬉しさが、こみ上げてきた。

    「今まで、いい加減ですまなかった。……これからは俺が、アルフィンを見ていく」
    「……あたしを?」
    「アルフィンが逃げても……俺が、追いかける」
    「…………」
    「感謝してるんだ……飛び込んできてくれてさ」
    「ジョウ……」
    「もうちゃんと応えないとな……。欲しいんだ、アルフィンが」

     紡がれた言葉。とても短い言葉。
     たったそれだけだったけど。あたしは、泣いた。
     いろんなことに感謝して、泣いた。
     20年前の今日、ジョウをこの世に産み落としてくれた人に。育て、守ってくれてきた人に。あたしの我が儘を許してくれたお父さま、お母さまに。そして、ジョウと巡り合わせてくれた神や運命に。
     抱えきれない幸せで、満たされていた。
     あたしの全身にはもう、これ以上の幸せを詰め込める余地はない。
     そんな、はち切れそうな状態の、あたしの身体の中に。
     ジョウが、入ってきた。
     初めて知る、切り裂かれる痛みと共に。ジョウが、入ってくる……。


引用返信 削除キー/
■120 / inTopicNo.9)  Re[8]: スペシャル・デイ(そして2人は)
□投稿者/ まぁじ -(2002/11/29(Fri) 13:24:26)
    「……んっ」
    「苦しいか。……あと少し……こらえてくれ」

     やさしい口調で耳元に囁きながら、ジョウの身体は、あたしに残酷な行為をしている。
     でも裏腹で、おかしくなっているのは、あたしもそうだった。
     無理矢理に押し込まれる激痛を感じながら、こんなに嬉しく思えるなんて。
     膝を抱え込む、屈辱的ともいえる姿勢でいながら。容赦なく、無遠慮なまでに、攻め込んでくるジョウの強行を前にしても。
     あたしは、幸せだった。
     一番奥深くまでジョウが届くと。あたしの上で、ひとつの達成感からか、ああという官能的な声が聞こえた。あたしの身体がそれに共鳴したみたいで。

    「そんなに、締めつけるなよ……」

     ジョウは短い呼吸を繰り返しながら、小さく呟いていた。
     眉間に深い皺を刻み込んだジョウは、あたしの中で起こっているうねりに。顔の半分をしかめながらも、それを歓迎する笑みを口元に浮かべていた。
     あたしはもう、ジョウの顔が見えているような、ただ映っているだけのような。身体中が病に冒されたとき以上に、熱さに喘ぐだけだった。
     そしてジョウは。
     あたしの痛みに挙動を加えてきて。焦げてしまいそうなほどの、摩擦を起こして。あたしを激しく抜き差しする。ジョウがひと突きするたびに、押し出されていくのはあたしの掠れた声。
     動きの間隔が短くなるにつれて、喘ぎは長い悲鳴に変わっていって。自分の身体なのに、あたしにはもうコントロールは不可能。
     操れるのは、ジョウだけだった。

    「……凄いな。……とんでもなく俺を、いたぶってくれる」

     あたしの方がよっぽど、虐められているのに。ジョウはそんなことを口走っていた。
     そしてあたしはただ、耐えていた。痛みもそうだけど。さっきからちらちらと、奥の方でも、別の感覚が蠢きはじめている。
     このままジョウに、好きなようにされて。ただ、溺れるような呼吸を続けているあたし。
     その時間だけが、永遠に続くかと思った。
     だけど、あたしの身体がジョウを難なく飲み込めるようになったところで。
     突然、ジョウはするりと身体を抜いた。
     あたしは焦点が定まらない視界で、その顔を探した。

    「……駄目だよアルフィン。もう、終わりそうになってただろ」
    「よく……分かんないけど……浮いちゃいそう……」
    「いけないな、これからだってときに」
    「こ……これから……?」
    「分かったのさ。……どうやらアルフィンは、こっちの方が好きみたいだ」

     覆い被さっていた身体が、どいた。あたしの身体に自由が戻る。
     あたしは何が起こるのか分からなくて、ぐったりと仰向けになっていると。ジョウが軽々と、あたしをひっくり返した。うつ伏せにさせられる。
     さっきまでは部屋の天井。今度は、ベッドの上のピローが視界に入る。
     するとジョウの腕が、あたしのお腹あたりに差し込んできて。ぐいと難なく上げる。

    「……や、何するの……」
    「じき分かる……」

     ジョウの予言通りに。
     その瞬間。
     あたしは、あたしの物とは思えない、あぐうという変な声を喉から絞り出した。信じられなかった。
     高々と上げられた腰を、ジョウが力で引き寄せたせいで。
     そして、奥の方で蠢いていた部分を、直撃したせいで。
     疼きが一気に膨れあがってきた。
     ジョウの姿は見えないけれど、さっきよりもずっと、存在を近くに感じる。
     だってもう、ジョウからは、余裕が薄れてきているようで。後ろからあたしを調教するようにして、自分自身をも捲し立てている感じ。そして身体の高鳴りが同調する感じ。
     怪我の痛みに耐えるような、それに似た呻き声を。ジョウ自身が洩らしはじめていた。
     あたしのような、あけすけな叫びではないけれど。
     噛み殺している吐息が、背中から伝ってきた。

    「迂闊だっ…た……、くそったれ……」

     ひどく毒づいていた。
     それは、あたしを嵌めようとして、自分も嵌ってしまった。そういう意味にもとれた。
     だからなのか。ジョウの動きはより不規則になって、時折ずうんとあたしを深く責める。その度にあたしは、音を上げそうになる。
     たまらない、たまらないの。あたしの胸は、ジョウの動きとまったく同じリズムで揺れていることも。あたしの背に注がれるジョウの視線も。
     そして、この角度はあたしにとっては、不利で。隠されていた弱点を、晒された気分で。服従するしか道はもうなくて。
     でもそれを、ジョウに探り当てられたことが。嬉しくもあった。

    「……ねえ……ジョウっ……お願い」
    「いきたいんだろ……。さっきから、ずっと、ひくついてるもんな」
    「これ以上は……もう……許して……」
    「……いいさ、いけよ。俺も案外……だらしがな……」

     ジョウの自嘲する声が突然途切れて、動きが止まった。痛いくらいにあたしの腰を両手が掴む。
     弾けてしまう寸前だったあたしは、その制止が却って辛い。
     もっとして欲しい。もっともっと、あたしを追い込んで欲しい。
     そして今となっては、言葉なんか使わなくても良くなっていた。繋がった部分からそれが届いたようで。ジョウは、息を詰めるようにして、またあたしに動作を加えはじめた。

     あたしは、耐える辛さから解放されるときを知って。
     みっともないということも、恥ずかしいということも、忘れて。
     何もかも忘れて。
     丸裸という無防備な状態で、ただジョウという愛しい人の感触だけを頼りに。
     甘酸っぱい痺れを、全身で受け止めた。
     すうっと意識が消えて、無意識があたしを支配していた。身体中のあちこちで勝手に痙攣が起こる。あたしの無意識が、そうさせていく。そして息絶えたのは、あたしだけじゃなかった。
     あたしと結びついていたジョウにも伝わって、襲いかかって。
     ジョウもそれに観念したことを。
     送り込まれてきた拍動で、あたしは知った。


引用返信 削除キー/
■121 / inTopicNo.10)  Re[9]: スペシャル・デイ(そして2人は)
□投稿者/ まぁじ -(2002/11/29(Fri) 13:25:41)
     夢のような時間は短い。
     もっと続いて欲しいのに、無情にも終わりを告げられる。
     けれどもあたしは、例え短い時間でも、深めることで夢の時間が膨らむことを学んだ。
     もうすぐ、バースデイ休暇が終わる。
     でもジョウが<ファイター1>の中でも、ずっとあたしの手を握っていてくれているから。寂しくはなかった。

    「……幸せ。すごく幸せ……」
    「そういうアルフィンの顔が、俺には最高のプレゼントだ」
    「そうなの?」
    「ああ」

     ジョウの笑顔をみて。
     それがリップサービスじゃないことも、あたしにはもうよく分かった。
     ジョウが握ってくれている手に、また力が込められる。
     そしてコクピットのコンソールに、ビーコンが映っている。<ミネルバ>の居場所。あたし達が、帰る家。
     あと少しで、辿り着く。
     着船を知らせるために、ジョウはタロスとの交信をはじめた。

    「……お疲れさまです。で、打ち合わせはどうでしたかい?」
    「折り合いがつかない仕事でね。ご破算にした」
    「へへっ、そうですかい。そりゃよござんした。なにせまだ休暇中ですからねえ」
    「邪魔されずに済んだな」

     ジョウは平然とした様子で交信しながらも。
     あたしの手を、握ったり、指を絡めてきたり。モニタに映らないのをいいことに、最後の最後まで、時間いっぱいまで、あたしに気持ちを伝えてくる。
     そしてタロスとの交信が終わった。
     モニタから映像が消える。
     それを機に、あたしは溢れそうなジョウへの想いを。今度はお返ししてあげたくなった。
     名前を呼んで、唇を少し差し出して、ジョウに甘えてみた。

    「次にゆっくりできる時、また、たっぷり可愛がってやるからな」

     そう言ってジョウは、あたしにとても情熱的なキスをしてくれた。軽いタッチでも良かったのに、あんまりにも熱っぽくて。
     あたしの頬は、上気してしまう。
     ちょっと失敗したかも。だってこれから、タロスやリッキーとも顔を会わせる。それが急に、どきまぎとあたしを責めはじめた。

    「……なんだか、緊張してきちゃった」
    「どうして」
    「だって、どういう顔して<ミネルバ>に帰ったらいいのか……あたし」
    「普通にしてたらいいさ」

     ジョウはもう一度あたしに、軽いキスをして。コ・パイのシートに、あたしを押し戻した。
     それから10分くらいで。あたし達は<ミネルバ>に戻った。
     格納庫に空気が充満するのを待ってから、ようやく<ファイター1>を降りた頃。
     珍しくタロスとリッキーが出迎えに来ていた。

    「どういう風の吹き回しだ」
    「いえね、一日遅れですが。ジョウの誕生日を祝おうと思いまして。主役のお出迎えですぜ」
    「……いい年して、お誕生会か」
    「ま、いいじゃないですか。年に一度のこと。それに今年は二十歳って節目だ。準備もそこそこ整ってますぜ」
    「無駄にさせるのも、忍びないしな」
    「大人ってもんは、好意を無にしちゃいけねえ」
    「それもそうか」

     ジョウはタロスと対面しても。
     一向に態度が変わらなかった。いつも通りに、当たり前の素振りで。
     あたしもそれを見習わないと、と思っていたところに。リッキーがあたしを見上げてきた。

    「すぐ帰ってこなかった、ってのはさ。どっか遊びに行ったんだろ?」
    「えっ」
    「なんか面白いもんあったかい?」
    「そ……そうねえ。た、楽しかったわよ、ショッピングとか映画とか」
    「なんでえ。それっていつものことじゃん」
    「いつも通りに、楽しかったのよ」
    「へえ……」

     リッキーは腕を組んで、妙ににやにやとあたしを見た。証拠として、ドレスの入ったショッピングバッグを見せても。どこか信用していない顔つき。
     どういうつもりかしら。いつもみたいに、単に怪しんで、からかってるだけ?

    「じゃあさ、あとでたーっぷり、土産話聞かせとくれよ」
    「ど、どうせいつものことだもん。聞いてもつまんないでしょ」
    「おっかしいなあ。……なんかアルフィン、ちょいとばかし妙だぜ」
    「そんなこと、ないわよ」

     あたしはもう、そっぽを向くしかできなかった。リッキーったら、前々から変に察しがいいっていうのは、知ってるけど。今日はさぐられたくなかった。
     だからあたしは、もうリッキーを無視して。ブリッジに戻ろうと歩を進めた。
     その背後で。
     ジョウとリッキーのやりとりが、ちょっとだけ聞こえた。

    「あんまりアルフィンを困らせると、容赦しないぜ」
    「あれえ? まいったなあ兄貴。今日は随分と正直じゃん?」
    「困ってる様子だったから、忠告したまでさ」
    「……あやしいなあ〜」
    「勝手に怪しめよ」
    「……なあ、やっぱりなんかあったのかい?」
    「ご想像にお任せする」
    「俺ら、すんごいのご想像しちまうぜ。いいのかなあ」
    「いいさ。どうせそれは、リッキーの妄想だろ」
    「あいちっ!!」

     リッキーの悲鳴に、あたしはつい振り返った。
     どうやらタロスが、拳骨を振ったみたい。

    「ちぇっ! アルフィンがしおらしいと思って油断してたら、これだ……」

     あ、そうか。
     いつものあたしだったら、リッキーの余計な口をそうやって封じ込めていた。
     自分でも気づかなかった。ジョウに躾られたせいか、あたしったら、ちょっとしおらしい女になってたみたい。それでもいいけど。
     それはジョウの前だけに、しておきたい。そんなことを思った。
     だからもう振り返ることは難なくできた。

    「あーらリッキー。あたしにお仕置きして欲しかったの」
    「い、いやあ、もう結構ですぅ」
    「どうせあんたの勝手な妄想。見逃してあげようと思ったのに」
    「見逃していただければ、何でもしますっ」
    「そ。じゃ、いらっしゃい」
    「……へ?」
    「急いでバースデーケーキつくるのよ。あんたをコキ使ってやるわ」

     あたしは顎をしゃくって、リッキーを呼んだ。
     そう、これが普段のあたし。
     こういう態度でいると、不思議なことに、気持ちが据わってくる。
     次にジョウとゆっくりできるまで。
     しおらしいあたしは、鍵をかけて、しまっておこうと思った。
     それを開ける鍵は、ジョウにだけ渡してあげる。開けたくなったら、いつでもあたしを呼んで。これからは“とびっきりの時間”を、ジョウは好きな時に過ごせるんだから。



    <END>

引用返信 削除キー/
■122 / inTopicNo.11)  Re[10]: スペシャル・デイ(そして2人は)
□投稿者/ まぁじ -(2002/11/29(Fri) 13:30:05)
    <あとがき>

    多少こじつけが目に付きますが、お許しを・・・。
    でもって、「あれ?ジョウはチェ○ーボーイでは?」という疑問については
    皆様でご自由に回答を模索していただければ、よいかと(^^;)。
fin.
引用返信 削除キー/



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