Sweet Time
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■152 / inTopicNo.1)  スペクタクル
  
□投稿者/ まぁじ -(2003/04/08(Tue) 16:01:38)

     ──畜生。
     俺は腹を抱えてうずくまり、さっきくらった一撃のせいで胃液を吐いた。
     厚底の、つま先に鉄の仕込みをされたブーツで、どいつもこいつも好き放題に踏み潰しやがって。俺は毒づきながら、狭くなりかけた視界を無理矢理こじ開けた。群がった足はざっと見、10数人。
     てことは残り40人くらいは、無様な俺を高見の見物らしい。
    「けっ。他愛のねえ」
     頭上からダミ声と一緒に、唾を吐きかけられた。避けようとして、俺は反射的にコンクリの床に顔をなすりつけた。ざり、と反対の頬が擦り切れた。
    「ラダムの兄貴。こんな小僧っ子に、招集はやりすぎじゃねえですか?」
     ダミ声の主が、横倒しになった俺の肩を踏み、体勢を仰向けに転がした。でけえ足。40センチはゆうにある。馬鹿の大足とはよく言ったもんだ。
     下から見上げると盛りあがった腹が邪魔をして、顔が拝めない。ついでに、さっきの重い一撃はこいつの足だとわかった。この大男をはじめ、連中は揃いのスペーススーツを纏っている。両肩に牙をイメージしたデザインで、けばけばしい原色。趣味が悪い。
    「油断するな。そのせいで先代は、ビースト・ウォリアーズを壊滅間際に追い込んだ。そうだったな、クラッシャージョウ」
     地の底を這うような低音。俺を知ったような口振り。
     声のする方向に顔を向けると、さっと連中の足が左右に開けた。はったりな野郎だ。声に似つかわしくない、青白い小太り男がソファでふんぞり返ってやがる。がらんどうの廃墟では場違いな、ブラックスーツを着ていた。
     スキンヘッドで、頭皮の裾だけ長髪を残した50代そこそこの男。中途半端な野郎だ。禿げるか、伸ばすかどっちかにしろ、と俺は舌打ちする。
     初めて見る人物。だが記憶の断片に、ビースト・ウォリアーズの名はかろうじてひっかかっていた。違法武器を製造していた研究所の取り巻きに、そういやそんな名のちんぴらがいたっけな。先代てことは……。用心棒もまともにできない残党が、性懲りもなく再結成したらしい。
    「……ようは、お礼参りか」
     殴り倒され、顔の左半分が腫れ上がった俺の声はくぐもっていた。
    「クラッシャーに刃向かうとは、いい度胸だぜ」
    「おうよ。俺たちがお前さんの、最初で最後の敵討ちってことになるだろうさ」
     ラダムとかいうドンではなく、ダミ声の男が応えた。
     よほどの出しゃばり好きらしい。
    「ジャミエル。お前は黙ってろ」
     持っていた杖を、ラダムはダミ声のジャミエルに投げつけた。
     ほらな、言わんこっちゃない。まんまどんぴしゃで、俺は鼻で嗤った。
    「ぬかせっ!」
    「──がっ」
     顎にジャミエルのつま先が入った。喉を反らし、俺は数メートル飛んだ。蹴飛ばされ落ちた先は、ラダムの足元からほど近い。
     仰臥したまま、食いしばって顎を引く。目玉がひっくり返りそうだ。ちかちかしやがる。俺は、二三強くかぶりを振った。
    「──ジョウ!」
     悲痛な叫びが飛んできた。俺はすぐ起きあがれず、どうにか上体だけ捻って振り返った。
     アルフィン。
     ドンの側近らしい男に、後ろ手に回されて捕らわれていた。側近はラダムに対抗してホワイトスーツ姿。そしてすぐ横に居座るラダムは、俺とアルフィンを交互に見て、にやにやと実に愉しげでいる。
    「休暇中といわず、永遠に眠らせてやってもいいんだぞ」
     胸ポケットから葉巻を出し、先端を囓って吐き捨てると、ラダムはにやついた口元でそれをくわえた。
     休暇中。
     俺たちは2週間の休暇で、惑星ペリアに一昨日降りたばかりだった。タロスとリッキーは、プライベートビーチでのんびりしたいと腰が重く、結局俺だけ、アルフィンのショッピングにつき合った。
     毎度のごとく、休暇中のスケジュールは行き当たりばったり。それなのにこいつらは、俺たちの足取りを嗅ぎつけた。ずっと監視していたのかもしれない。だとしたら随分と暇な連中だ。
     なにせビースト・ウォリアーズが絡んだ任務は、4ヶ月も前に終了した。惑星シャフロクでの任務。ペリアからは10万光年ほど離れてる。
     違法製造の証拠を入手するのが第一の依頼で、ブツを運び出すのに多少手荒な仕事をした。だがクラッシャーに依頼するてのは、暗黙の了解でもある。奴らの会話の前後を繋ぎあわせると、その抵抗勢力として、こいつらの先代が指揮っていたビースト・ウォリアーズがいたことになる。
     ただそれだけのことだ。
     雑魚がいくら集まっても、俺たちの相手じゃない。喧嘩を売る相手を間違えたことに、さっさと気づかない方が間抜けだ。自業自得。
     それをお礼参りとはな。ラダムが最前線で俺たちと真っ向勝負していれば、もしくはもう少し頭がキレてりゃ、恥の上塗りなんぞやらかず筈はない。
     足りない頭で必死に捻り出した策が、俺たちの完全なオフを狙うこと。しかも手口が姑息だった。海岸沿いをエアカーで通過中、道ばたで男が苦しげにうずくまっていた。アルフィンがそれをめざとく見つけた。
     救助しようとしたところ、大挙を成して俺たちは連行されてしまった。つまり人の温情に漬け込むやり方。いい死に方しないぜ。
     だが、散々罵ったところで、結局まんまと罠に嵌っていたりするから立つ瀬がない。
     しかもアルフィンも巻き添えだ。
     休暇中で少しばかり気を抜いていたとはいえ、俺もどじを踏んだもんだ。
    「ジョウにこんなことして! ただじゃ済まないわよ!」
    「どう済まないのかな? お嬢さん」
     何食わぬ顔で、ラダムは指を鳴らした。
     俺は全身に警戒が疾った。アルフィンの元へ飛び出そうとする。しかし察した連中の幾人かが、俺の背や腕、そして足までも踏みつけた。この能なしめ。踏んだくる以外ないのか。
     俺はまた砂の浮いたコンクリに突っ伏し、張りつけとなる。
     わずかに面は上げられた。するとアルフィンは、側近の男に押しやられ、つんのめりながらラダムの前を横切る。左から右へ、俺の目線は流れた。
    「離しなさいよ!」
     ほんの一瞬。側近より先を歩くアルフィンは、くるりときびすを返し片足を蹴上げた。スリップドレスの裾がひるがえる。しなやかな足先の狙いは、男の急所と読めた。
     が。
     側近は彼女の足裁きを、いとも簡単に平手で払う。
    「きゃっ」
     バランスを崩し、アルフィンは呆気なく尻餅をついた。その隙に、側近は拳を振りかざした。血走ったまなこ。俺はぞくりと凍る。
     同時に叫んだ。
    「アルフィンよけろ!」
    「────!」
     両腕を交差し、彼女は顔をガードした。
     だが。
     側近は拳を振り下ろさなかった。
    「……それでいい。拳を痛めずとも、傷物にする方法はある」
     別の側近が、ラダムの葉巻に火をつける。たった一服で、大量の紫煙を吐いた。たるみきった青白い皺面が、濃い紫煙で雲がかった。
     それを片手で一刀両断し、ラダムは口を開く。
    「クラッシャージョウ。これだけの包囲網では、さすがのお前も手足が出せまい。かと言って、大人しく命乞いをするとも思えん。ま、そうやすやす殺すのも、つまらんと思っている」
    「……なにが言いたい」
     俺は食い入るように、ラダムを睨めつけた。
    「お前のおかげで、わしらの名声はがた落ちだ。ビースト・ウォリアーズを再結成させたところで、汚名返上を計らねばならん。つまり、だ。それ相応の実績が物を言う。たとえクラッシャージョウであっても、手痛い代償を払わされるという証拠をな」
    「代償? ……ふん。えらく自分を、高値でぼったくりやがる」
    「てめえ!」
    「──ぐっ」
     背中のど真ん中に、ジャミエルの足がどかんとめり込んだ。肋骨がきしみ、肺が圧迫される。くそったれ。覚えてやがれ。
    「ほどほどにしておけ。ショータイムのVIPだ、この男は」
     ショータイム。
     むさ苦しい男でひしめき合う空間で、紅一点はアルフィンだけだ。俺の脳裏にまずい予感がかすめた。だが、俺は意に反して表情を固く引き締める。
     狼狽え、焦りをみせれば、ますますラダムの機嫌をよくするだけだ。


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■153 / inTopicNo.2)  Re[2]: スペクタクル
□投稿者/ まぁじ -(2003/04/09(Wed) 21:12:00)

     紫煙を吹き出すと、ラダムはヘイゼルの瞳をちらと振った。すると再び捕らえたアルフィンを傍らに置く側近が、何かを持った手を天に向けて伸ばした。
     すると、やけに野太いモーター音がうなった。
     うつぶせに踏みつぶされたままの俺は、最初ことの成り行きを仰ぎ見ることができなかった。何をやらかしてるのか。ようやく視界で捕らえたものは、側近の手元に向かって降りてくる一本の太い鎖。その先端には、巨鯨をも釣れそうな馬鹿でかいフックがぶら下がっている。
    「──やっ! あにすんのよ!」
     側近がダークブルーのネクタイを外し、アルフィンの両手首を前にまわし、あっという間に縛った。やはりこいつら、彼女を晒し者にするつもりだ。
     どう回避する。
     考えるより先に声が飛び出した。
    「大口を叩く割にゃ、発想が貧困だな」
     まだなんら対策はない。俺はそれを気取られないように牽制を仕掛けた。
     ともかく時間稼ぎが先。
     奴らの意識を引きつけながら、脱出の画策を同時に始めた。うまい具合に、ラダムの関心を引くことができた。
    「……よくありがち、と言うことか」
    「そうだろうさ。所詮、女子供を盾にするしか脳がないてことだろ?」
    「ほお」
     ラダムは葉巻を指に挟んだ手で、顎をひと撫でした。ならば?、と目配せしてくる。
     俺はいかにも思惑があるふりをして、口端をわずかに上げた。
     ラフな私服とはいえ、俺はレイガンだけは携帯していた。だがそんなものは、真っ先に剥奪された。通信機もろとも。タロスやリッキーへの連絡の糸は断たれた。
     奥の手といったら、電磁メスと光子弾だけ。小型で薄型の得物は、ボディチェック程度で探り当てられないよう隠し持っている。
     とはいえ相手はざっと50人はいる。電磁メスで一人ずつ始末したところで、群れを成されたら払いようがない。結局、自滅だ。
     そして連中の目的は、俺の泣きっ面を暴きたいらしい。アルフィンを陵辱し、取り乱す俺というやつを。低俗な連中の思いつきといや、せいぜいそんなとこだろう。
     となれば、何よりも先に彼女を奴らの手中から逃さなきゃならない。
     ただ、どうすれば。
     どうすれば……。
     俺はポーカーフェイスを装い、考えを走らせる。
    「ならば、お前が払える代償とやらを聞こうじゃないか。内容如何では呑んでやってもよかろう。だが気にくわなければ、わしらの好きにさせてもらう」
     ラダムがまなざしで指示を仰ぐ。
     と、同時に、側近がアルフィンの縛られた手首を引いた。
    「いたっ! レディの扱い方も知らないの? 最低」
     甲高い声で減らず口をたたく。気丈な女を貫く彼女。
     しかし俺はすでに見抜いていた。碧眼の奥で、怯えきった光を。
     ただアルフィンもクラッシャーだ。泣き叫ぶことが、男の残虐性に油を注ぐことくらい、女の本能で察している。囚われの身で冷静さを失わないよう気を張り、ぎりぎり自分を保っていた。
     そしてさっきからずっと、目の端で俺を呼んでいる。
     ──助けて、ジョウ。
     時折震わせる唇で、俺に訴えてくる。
     ──こんなの、いや。なんとかしてジョウ。
     弱みをみせたら最後、連中の獣性をくすぐり、彼女を面白がっていたぶりかねない。
     そのアルフィンは側近の腕づくで、縛られた手首をフックに掛けられた。チェーンがわずかに上昇する。両腕を真上にかざし、つま先立ちの宙づりにされた。
     アルフィンをかっさらって逃げることが、より困難になった。
     ……仕方ない。
     俺はある一計を案じ、先に腹をくくった。
     圧倒的不利な状況下で、逃げ道がなけりゃ、突破口を切り拓くしかない。
     それが多少、肉を切ることになったとしても。恥さらしな真似だったとしても。
     アルフィンの貞操と命には代えられない。
    「勿体ぶるな。貴様の提案はなんだ」
     ラダムは2本目の葉巻の先を、囓り捨てた。
    「……その前に、こいつらをどうにかしてくれ」
     俺を踏み台か何かと勘違いしている奴らに向かって、首を回し肩越しに睨みつける。
     するとラダムは、葉巻を挟んだ手でひと払いする。俺の頭上で、ジャミエルが舌打ちした。最後の一撃といわんばかりに、くそ重たい靴底を背にねじ込んでから、ようやく退いた。
     しかしながら、俺に私刑をしかけた連中が半歩下がると、高見の見物と称してぐるりと囲んでいた外周の集団が、輪を狭めてくる。
     手には大型レイガンやハンドブラスター。
     クラッシュジャケット姿ならまだしも、なんの防弾対策もなされていない恰好だ。この段階ではまだ、大人しくするしかない。
     いっときの自由を与えられた俺は、膝を支えにしてのそりと立ち上がる。身体のあちこちが軋む。足を捻っていないのが幸いだ。これならチャンスと同時に、充分逃げ出せる。
     シャツやジーンズの埃をはたくふりをして、俺は身体のはしばしまで体調をチェックした。
     不自然ではない仕草で、間を引き延ばす。
     そして最後に口の中にある、血の味が混じった唾液をコンクリに吐き出した。
    「……ラダム、とか言ったな。殺すだけじゃ満足できないとは、俺も随分つまらん恨みを買わされたもんだ」
    「安心しろ。あとできちんと始末もつけてやる、あの女ともどもな」
    「生き恥をさらして長らえるより、マシってことかい」
     俺は片手を腰に置き、皮肉混じりの笑いを突っ返した。
    「ぜひとも、お前の栄光とやらもけがせる、置き土産を期待するが」
    「栄光? ……そんなもん好きにすりゃあいい。ただ、彼女をあんたらでどうかされるのは断る。だったら、潔く自害してやるさ」
    「それもこれも、お前の提案によるな」
    「ふん。……期待に添えると思うぜ。俺自身も相当呆れる思いつきだ」
     ラダムはくわえた葉巻を、側近の前に突きだした。火を点け、そして深々と一服する。
     俺は一旦、床のコンクリに視線を落とす。骨を断つためのひと芝居に打って出る。自分を、奮い立たせた。
     ゆっくりとかぶりを上げる。
     ラダムのヘイゼルの瞳を、まっすぐ見据えた。
    「……俺が」
     言葉を切り一瞬口をつぐむ。あえてためをつくり、ここにいる全員の気が向くのを待った。
     ほどなくして、全身に痛いほどの視線が浴びせられた。
     そして俺は、口にするのも馬鹿馬鹿しい提案をぶっちゃける。
    「俺が、この場で彼女を抱く……てのはどうだい?」
     演じついでに、余裕綽々と片目をつぶってやった。
     コンクリで塞がれた殺風景な空間に、ガラの悪い男たちの声が一斉にどよめいた。下品な笑いをたてる者、指笛をならす奴。俺の提案はこの場をどっと沸かせた。どうやら大多数はお気に召したらしい。
     そしてラダムは。
     腐りきったまなこを、にんまりと半月に縁取ってみせた。
     オッケイ。取引成立だ。
     だがこのざわめきの渦中で、たった1人言葉を失った者がいた。
     当の、アルフィンだった。


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■157 / inTopicNo.3)  Re[3]: スペクタクル
□投稿者/ まぁじ -(2003/04/10(Thu) 12:04:42)

    「おめえら車座をつくりやがれ。一番前のヤツは座れ。でねえと、全員でとくと拝めねえからな。クラッシャージョウ様の生板ショーとは、こりゃ華々しい余興だぜ」
     ジャミエルは相好をだらしなく崩し、場をとり仕切る。
     そして横にずいと並ぶ。一瞬タロスがいるのかと思うほど巨漢な男だ。さっきまで俺を痛めつけた奴とは思えないほど態度を軟化させ、親しげに肘で俺の腕を小突いた。
     現金な野郎だ。単細胞め。
    「よう、おめえもなかなか考えるじゃねえか」
    「一応男だからな。冥土の土産として、いい思いをしておきたい」
     よく言うよ、俺も。
     内心嘆息をついていた。
    「正義感ヅラしてる割にゃ、かなり女に悪どいぜ」
    「そりゃどうも」
     ジーンズの両ポケットに手を突っ込み、肩をそびやかした。
     そして首をゆっくりと巡らし、二列に渡って車座をつくる連中の道化を見渡す。人垣の舞台が、あっという間に形を成していった。
     後列には、ムービーカメラを手にした男が3人。光信号で録画するタイプだ。型からすると最新式。思った通りだ。しっぺ返しをくらう俺を最初から録り納めるつもりで用意してたんだろう。
     映像を記録されても、あのタイプならこっちも望むところだ。コンマ1秒も漏らさず、しっかり録れよ。
     そしてアルフィンを吊った鎖が平行移動する。つま先が後を追うようにして、嫌がる素振りを見せた。俺によほど愕然としたのか、罵倒すらできないほど放心した表情。
     アルフィンは、ラダムから3、4メートル離れた真正面に立たされた。ラダムを始点であり終点として、仕組まれた車座。ぎらぎらと好色さを垂れ流しにした連中の視線が、360度から注がれる。
    「──これで全員か? 見張りの連中がいたら、あとで文句言われても知らないぜ」
     俺は薄笑いを浮かべ、目だけラダムに向けて確認する。
    「観覧しながら見張りも兼ねている」
    「そりゃ結構。お節介だったな」
     次に俺は、5、6歩先にいるアルフィンに目線を移す。
     紙のように真っ白い顔色。ふたつの碧眼がやけにくっきりと光っている。いまにも泣き伏しそうな顔だ。俺がまるで、連中に寝返ったように映るんだろう。
     そうじゃない。
     こんな一計を興じるのは、アルフィンだからできることだ。肌を合わせたことのある、互いの心をさらけ出せた相手。俺たちがただのクルーだったら、こんな博打は打てやしなかった。
     場所は最悪だが、初めて寝たときのように俺を信じてすべてを任せて欲しい。悪いようにはしない。俺は胸の中でそう訴えた。
    「準備はいいぜ旦那。大いに楽しませてもらおうじゃないか」
     ジャミエルの声がわんと響いた。
     ソファに居座るラダム、両脇につっ立ったままの側近。それに並ぶ最前列であぐらをかいたジャミエル、以下雑魚の面々。
     ジャミエルは座高が高すぎて、後ろの奴が首を横から抜き出してるのが見えた。
     俺は先に、シャツの襟首を引っ張る。背中を剥き出しにして、頭からずっぽりと中のTシャツもろとも2枚いっぺんに脱いだ。胸やら腹やらに内出血がシミのように広がっている。
     だが気にも止めず、上着をコンクリの床に投げ出した。
    「いいガタイだ。こいつはスタミナありそうだぜ」
     下品な笑いを織り交ぜながら、ジャミエルはいちいち注釈を挟む。俺は無視した。
     そしてアルフィンの元へ一歩踏み出す。
    「……や」
     首を小さく振った。
     金髪が音を立てて揺れる。必死にとりなした気の強さが、がらりと崩れるのが分かった。
     まずい。
     俺は歩を早めた。
     乱暴に、押さえつけて抱くつもりはない。取り乱されたらことだ。だから俺はすぐ両腕を伸ばし、彼女の腰を抱き寄せる。
     悲鳴を上げる寸前の唇を、真っ先に塞いだ。
     同時に連中から歓声が上がった。俺がさっさと、ことをおっぱじめたからだ。
     廃墟を揺らさんばかりに、連中は吠えた。
     俺たちの合わさった唇。
    「く……」
     拒む吐息が彼女から漏れる。実際、歯はしっかりと閉ざされ俺の侵入を遮断している。
     力業ではなく、やわらかく、舌先で愛撫を重ねた。丹念に、根気よく。アルフィンの方から口元をゆるめ、俺を受け容れてくれるまでそれを続ける。
     気づいて欲しい。
     俺のこのキスは、いつもきみを愛しているものと何ら変わりないことを。
     薄目をのぞかせ、俺は彼女のきつく閉じられた目元を観察した。観察しながら、唇や歯の間を丁寧に舐めつくすことを止めない。
     すると。
     アルフィンの柳眉から険が消える。ふっ、と鼻の付け根、目尻に刻まれた皺もほどけた。俺はそれを確認すると、唇を離した。
     そして額を、彼女のむきたての卵のようなおでこに当てる。
    「……ジョウ」
     俺たちにしか聞こえない小声で、彼女は囁いた。まばたきを数回繰り返す。
     想いが通じた手応えを掴む。
     周囲から、野次が飛ぶ。序の口でもたもたするな、次に進め。おそろしく、かしましい。よほど飢えてるに違いない。おあいにくだな。そっちのペースに合わせる気は毛頭ない。
     じらして、引き寄せて。連中が俺たちの行為に、釘付けにすることが目的だ。
    「……すまない。妙なこと口走って」
    「ほんとよ」
     碧眼が俺を射抜く。鋭い目線。
     だが俺は引くわけにはいかない。逆に彼女を窘める。
    「そう言うけどな、先手を打たなきゃ確実にまわされてたぜ」
    「……それも嫌よ、絶対」
     アルフィンはくしゃりと困惑顔をつくる。
     なだめる心づもりで、そのおでこに口づけた。
    「まだ俺の方がマシだろ」
    「だからって、人前なんて……」
    「確かにそうだよな」
     そしてアルフィンが好む、まぶた、こめかみにもキスしてやった。目を閉じると、彼女はじっと俺の唇の感触にふける。
     再び、ゆっくりとまぶたを開けた。
     甘い輝きが、碧眼にとろりと波紋を広げた。それは、俺に抱かれようとする時によぎらせる、まなざし。
     清純な仮面の奥で、普段は息をひそめているアルフィンのもうひとつの顔。俺だけが知っている、欲情に溺れていく彼女の素顔。
     俺たちだけの間で取り交わされる、濃密な空気が対流しはじめた。
    「……アルフィン、ここが何処とか、周りに何があるかとか、気を散らすなよ」
    「無理よ」
    「できるさ」
     くびれた腰に回した右手を、俺はそっと下ろす。形よく上がった尻を軽くさすってやった。
     彼女の眉根に、薄い皺が刻まれる。条件反射のようにして。
     感度のいい身体。身じろぎするも、俺のやることを拒んでいる訳じゃない。
    「いつものように俺だけ見てろ。何も考えるな」
    「ジョウ……」
     恨めしそうに、上目遣いで返してきた。
     それに応えるよう俺が腰の辺りを撫でまわすと、アルフィンはわずかにしなをつくった。普段は手もつけられないわがまま娘は、こういう時だけ別人のように従順。
     そんな面を知って以来、俺は、ますます彼女に夢中だった。
    「欲しいよ、アルフィン」
     俺は、鼻先がぶつかるほどの至近距離で、碧眼をつかまえて離さず、そっと囁いた。
    「……欲しくて、気がふれそうだ」
     低く、彼女の鼓膜を震わせた。
     アルフィンの瞳の周り、白い皮膚がほの紅く染まっていく。
     俺がこうねだると、彼女は力が抜け落ちていく。実際もう立っているのがやっとのように、ふらりと姿勢が揺れた。抱いている俺の両腕に、ずしりと重みがかかる。
    「ジョウ……」
     軽く唇を噛んで、瞳を徐々に細め、少しばかり苦しげに呼吸を乱す。アルフィンは俺の要求に、大概言葉では応えてくれない。表情や態度で、好きにしていい、とサインを送ってくる。
     アルフィンがくたりとやわらかくなるにつれ、俺の芯は熱を帯び固くなってきた。
     

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■158 / inTopicNo.4)  Re[4]: スペクタクル
□投稿者/ まぁじ -(2003/04/11(Fri) 10:45:43)
     
     濃厚なキスを繰り返すうちに、アルフィンはのめりこんでいく。
     俺だけに没頭するようになった。
     まるで取り囲む連中へあてつけるように、俺たちは舌をからめあい、時折唾液の糸を光らせながら深く貪った。いつもならアルフィンは、癖の強い俺の髪をもみくちゃにして抱く。だがいま両手は自由を奪われ、それができずもどかしそうだった。
     離れないように、つかまえるようにして、俺の名を吐息混じりに呼ぶ。
     彼女の高ぶっていく声は、魅力であり、罠でもある。俺もどんどん引き込まれ、抱きたいだけの欲望にかられていく。油断すると、何故この場でアルフィンを抱く羽目になったのか、そう仕組んだのか、目的を忘れそうになる。
     しかしながら幸か不幸か、連中のブーイングが意識を覚まさせる。どけ、見えねえ。俺やアルフィンの背後に位置する野獣らから、鼻息の荒い怒声が飛ぶ。その度に俺は、彼女の身体を抱いたままわずかに体勢をターンさせる。
     俺たちが動くと、太い鎖ががちゃがちゃと無粋な音をたてる。アルフィンの両手首で、縛られたネクタイがぎしと鳴った。だがもう彼女は、手首の感覚を失うほど行為に溺れていた。
     そうして満遍なく連中に俺たちのまぐわいをさらすと、元の立ち位置に戻る。ラダムが左方向から熱心に鑑賞するさまを、俺は目の端で確認する。
    「……は、……あっ」
     アルフィンの頭が仰け反り、金髪が優雅に波打った。
     線の細い喉元を、俺が舌先で滑らせていく。浅く窪んだ鎖骨のあたりを愛撫した。そして右手では、スリップドレスの上から彼女の左の乳房を揉みしだく。
     握る都度、胸元のレースから押し上げ、皮膚が盛り上がる。手放すと、乳房はもとの形に戻る。まさに若さが弾む肌てやつだ。
     さらに触れてわかったこと。裏地がやや厚ぼったいせいで、アルフィンは下着をつけていない。そこで俺は、添えた手もとのうち、親指だけで、つんと上向いた周辺をらせん状にまさぐった。
     たちまち、指の下でアルフィンの先端は固くなった。
    「吸っちまえ!」
     左後方から、折角のムードをぶちこわす野次。声からするとジャミエル。いちいちやかましい奴だ。
     言われなくてもそうする。でないと俺自身が、どうにも収まりがつかない。
     だが奴らに彼女の肌を見せるのは癪だ。
     そこで俺は、スリップドレスの胸元に右手を差し込むと、アルフィンの左の胸を掬い上げた。柔肌に包まれた、温かな感触。
     胸元のレースから一瞬、彼女の生身が露わになる。が、俺はすぐに固い先端を口に含んだ。
     膨らんだ房の部分は多少お披露目しても、肝心な部分はお前たちに拝ませてはやらない。
    「あっ……ああ。……ジョウっ」
     顎を上げたまま、アルフィンは艶めかしい声を上げた。
     俺は思わず息を呑んだ。
     眉間に深い皺を刻む。甘い喘ぎに反応し、俺の全身はしびれ、しばらく動けなくなる。腰のあたりが一層ざわざわとうずきだし、前がいよいよどうにもならないほど張りつめていく。
     俺は、長い吐息をつく。密かに呼吸を整えた。
     まだだ。こっちが先に果てては意味がない。
     腰をぐっとアルフィンの腹部に密着させた。どれだけ興奮しているかを彼女に伝える。俺ももうこんなだ。もっと乱れていい。なにも気にするな。
     俺たちだけで勝手に、快楽の渦に吸い込まれていこう。身体を密着させて、そう伝達する。
     やがて。
     アルフィンが快楽に悶絶していく。
     そのさまは、取り囲む男たちを徐々に黙らせていった。
     血眼になって凝視し、発情した雄犬のように短い呼吸が繰り返され、ある者は身震いし、ある者は股間を両手で抑えているのが見える。
     俺はアルフィンのもとにひざまずき、右足を肩にひっかけさせ、濡れそぼった秘所を責め続けた。太股までスリップドレスがまくれ上がった。生地のドレープが、俺の鼻の付け根でたまる。やらかしている口元を包み隠す。
     完熟した果物に、すっとナイフを入れたように。その裂け目からは、甘いしたたりが落ちていた。どんなに俺が舌ですくっても、後から後から溢れてくる。
     そしてひと心地ついたところで、俺は立ち上がり、彼女のものでぬるついた唇でキスをかわす。すっかり高揚した肌の色。鼻の頭やこめかみで、玉になる汗。
    「すごく、濡れてる」
     俺はわざと口汚く、彼女の耳朶を犯した。
    「だめ……」
     ──言わないで。
     感じることをどうにも止められない身体を恥じるように、アルフィンは苦しげにうつむく。
     俺は伏し目がちのまつ毛をみつめながら、さらに追い打ちをかけた。
    「案外いいんじゃないか? こういうのも」
    「……やだ」
     知られたくない。そう言わんばかりに首を小さく振って、あらがってみせた。
     こっそり俺たちが二三言葉を取り交わしていると、横からラダムがしゃしゃり出てきた。
    「女を手込めにできて役得かと思いきや、なるほど、そういう間柄か」
     唸るように言を継いだ。
     遅いな、気づくのが。
     とはいえ、特に気分を害した様子もなさそうだ。さっきまで膝をおっぴろげてふんぞり返ってたラダムは、さりげなく足を組んでいたりする。
     そのソファも、大分座り心地が悪かろう。
     ラダム、お前は俺の醜態を面白がってるつもりだろうが、本当は逆だぜ。いきり立っているものをひた隠しにし、顔をひきつらせながら平静を装う。実のところ身体が欲情しきって、ひいひい鳴いてるんだろう? 毒だよな、それも相当。
     かといってこの場から飛び出して、どこかで自分を慰めるなんてのもできやしないよな。一応、ドンの立場であるお前としては。
     俺は、こみ上げる笑いを噛み殺した。
     するとラダムは、アームレストに肘をつく。嫣然と構えたポーズをとった。
    「──女」
     少ししゃがれた声。
     俺には奴がどれほど、喉をからからに干上がらせているかが手に取るようにわかった。
    「お前も奉仕したらどうだ?」
    「……な」
     俺は両目をむいた。
     なんてこと口にしやがる。
     アルフィンにそんな真似をさせる気は、さらさらなかった。俺の淫らないたずらを、彼女が媒介し、官能的な声や仕草で連中をとりこにしたかっただけだ。
     彼女はあくまで致し方なくで、そうするしか道がなくて。俺だけが単なる好き者に落ちぶれればいいと。
     アルフィンがどう俺を悦ばせているかなんて、そもそも知る必要もないだろう? 恥さらしは俺だけで充分なはずだ。
     うまく切りかわせる言い訳はないか。俺はめまぐるしく思考を回転させる。
     すると、またモーター音のうなりが聞こえた。
     太い鎖がコンクリの床に伸びていく。
     すでに力の抜けきったアルフィンは、両膝をつき、へたりこんだ。スリップドレスが一瞬、空気を含んでふくらみ、しぼんだ。
     彼女の腰を支えていたものの、急な負荷がかかったせいで腕から滑り落ちてしまった。俺は慌ててしゃがみこむ。
    「大丈夫か」
    「……ジョウ」
     彼女は短い呼吸を、絶え絶えに繰り返していた。
    「外して……」
    「しかし」
     彼女が自由の身になるのは好都合。
     とはいえ、ことの成り行き上、俺は躊躇せずにいられなかった。
    「いいの……外して」
     面を上げ、すがるようなまなざしで俺を射抜いた。
     やれる、というのか? ここで。こんな観衆にさらされた場所で。目でそう問いかけた。
    「欲しいのよ、ジョウ……」
     淫乱さに支配された彼女。ベッドの上でこうして時折ねだってくる彼女。
     俺の気持ちはまだ戸惑っていた。だが、無意識のうちに軽く顎を引き、俺はうなづいてしまっていた。
     地獄の底まで墜ちてくれるのか。
     俺と一緒に。
     なんて女だ……。
     胸の奥底から、熱い想いがふつふつと沸き立つのを感じた。
     俺は言われるがまま、アルフィンの手首に巻きつくネクタイをほどきにかかる。
     指先がどうにも震えた。
     一途で、純粋で、俺を虜にして離さない唯一無二の女。
     どこまでも俺についてこようとする、このいじらしさに。後ろめたく、せつなく、それでいて愛おしい。俺は表情には出さず、心臓だけが泣きたいほどの感激にうち震えていた。


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■159 / inTopicNo.5)  Re[5]: スペクタクル
□投稿者/ まぁじ -(2003/04/13(Sun) 01:52:17)

    「……っ」
     俺は喉を天井にさらし、熱い吐息を抑えきれなかった。
     コンクリの床に両足を放りだして座り、腕をつっかい棒のようにして上体をやっと支える。開け放たれたジーンズのジッパー、ずり下ろされたアンダーウェア。
     腰の辺りに金髪の毛束が渦を巻き、四方に散らばる。
     小さな頭がさっきからずっと、上下に動く。あの小ぶりな唇から、卑猥な音が鳴りやまない。
     俺は身体の震えを、どうにも止められなかった。
     拳を固く握り、耐える。
    「見ろよ、よがってやがる。銀河系随一のクラッシャーといえども、こうなるとザマぁねえな」
     ジャミエルがげらげらと笑った。
     くそ。うっとおしい。お前の馬鹿でかい靴を、まんまその大口にたたっ込んでやりたいぜ。
     すると俺の気が逸れたのを察したのか、アルフィンが根元まで含んだまま、軽く歯を立ててきた。
    「──う」
     弧を描くように身体が跳ね、俺はぐんと前に屈む。左手でくしゃりと金髪を鷲づかみにしていた。
     あ…っ、馬鹿。出ちまう…。
     腹筋を震わせ、呪いの声を腹の底で上げた。
     明らかにいつも以上に、情熱的なオー×ルだった。ねっとりとした舌づかい、狙い澄ましたように青筋ばった部分を執拗に責めてくる。
     俺の頭の中が、白く霞んでいく。なんだ、いきなり上達して。
    「どうだい姉ちゃん、お味は」
     また、ジャミエルがなじる。連中のほとんどが、しんと静まり返りだしたのに対し、こいつの口調はさらに滑らかになった。
    「おっと、こいつは失敬。そのなりじゃあ、喋りようがないもんなあ」
     おどけが空しい。
     おそらく、ジャミエルもかなり気が気じゃないと俺は読んだ。落ち着きのなさが物語っている。
     そして俺自身も気を抜けない。彼女に吸い取られそうだった。
    「……アルフィン」
     呼ぶと、熱にうかされたようなまなざしで、俺を見上げた。
    「もう、充分だ」
     右の手のひらで、彼女の顎をすくう。半開きになった唇は、唾液と俺の先走ったもので、グロッシィなルージュを塗ったように輝く。
     一方、俺の芯は腹につくほどそそり立ち、かさがひくついてる。まるで、魚のエラ呼吸だ。彼女のうるんだ唇の中から陸に上がり、もがき苦しむ様とだぶった。
    「良かったよ、すごく」
    「そう……」
     彼女は初めて、この場に連れ込まれてようやく、うっとりと微笑んだ。
     もう俺しか映らない瞳。彼女に恋い焦がれてしまう理由が、またひとつわかった気がした。四つん這いになったまま、飼い主にかしづき、名残惜しそうに俺の先端に軽くキスをして離れた。
     上体を起こした彼女。俺は力いっぱいに抱き寄せた。
     こんな真似をさせてしまった申し訳なさと、そこまでして慕ってきてくれる想いが、俺の感情を複雑に乱した。
     アルフィンを掻き抱きながら。
     俺は彼女を視姦しつくした連中を見渡す。いい年した面構えで、童貞のように双眸をらんらんと光らせていた。欲求不満を身体に充満させた顔ばかり。
     だらしのない連中だ。しかし、わからないでもない。モデルだか、アイドルだか、遠い存在のいい女が、目の前で愛欲に喘いでいるんだものな。それも生々しいまでに。
     好色に濡れた視線はいつしか、俺への羨望のまなざしに移ろいでいたようだった。
     立場が完全に逆転した。
     さぞ俺とすり替わりたかろうな。視界の端にいるラダムは、時々貧乏揺すりをして、気を散らしているのが見え見えだった。
    「……アルフィン」
     俺は耳元に唇を近づけて、こそりと囁いた。
    「入れたい、もう……」
     肩につっぷしたままで。
     彼女はこくりとうなづいた。
     俺はさっき脱ぎ捨てたシャツを片手で拾い、アルフィンの後ろに広げた。そして反転させ、彼女がその上で両手、両膝をつけるようにうながす。
     人間にあるはずの尻尾を、ぴんとかかげるように。彼女は形のいい尻を、突き出した。
     スリップスカートの裾をまくり上げる。だが、すべてを露出させやしない。必要最小限だけさらし、俺は背後から彼女に覆い被さった。
    「……いいな」
    「ん」
     返事を合図に、俺は狂いそうなくらいに怒張したものを、一気に彼女に押し込んだ。
     そして、ほとんど同時だった。いきなりア×メが俺たちを襲う。
    「あっ」
    「づ……」
     俺たちは、あられもない奇声を上げた。


引用返信 削除キー/
■160 / inTopicNo.6)  Re[6]: スペクタクル
□投稿者/ まぁじ -(2003/04/14(Mon) 11:02:32)

     アルフィンの中は、たぎるように熱かった。しかも、蜂蜜のような体液が何層も重なり、充血し膨らみきったひだが、俺の芯をきつく締めつける。
     は……。
     視界に映るスリップドレスの後ろ姿が、陽炎のようにゆらゆらと歪んだ。
     ああ、溶けちまいそうだ……。
     俺はあっという間に、彼女の身体に陶酔しきってしまう。
     クライマックスへの幕が上がり、連中の余興も終盤にさしかかったことになる。だがここでもう、あの小うるさかったジャミエルもだんまりになった。リズムが狂った呼吸音だけが、廃墟に反響する。
     こいつら全員の体温も急上昇して、換気の悪い空間はうだるような、じっとりした湿り気を発散し、亜熱帯のようにむっとした空気が漂う。
     俺は理性がぶち壊れたように、激しく身体を打ちつけた。
     アルフィンの肌と俺の肌が、容赦なく打ちあう音。その隙間に、彼女の奥がどれほど溢れているのか、したたっているのかを伝える、悩ましい水音が折り重なる。
     連中はそれをも聞き漏らさないように、耳をそば立てているのがわかる。だから俺はいっそう、彼女の中を目一杯かき回してやった。
     やさしく抱いてやりたい気はある。だが身体は裏腹だった。興奮しきって、待ち望んだ状況にどうにもセーブが利かない。
     突っ込むほど、固さが増してくる。はち切れそうな痛みすら感じる。迎え入れる彼女の秘所が、ますますすぼまる。いや、俺の方が膨れあがっているせいか。
     すると、耐え切れなくなったように。がくん、とアルフィンが崩れ、顔を横にむけてうつぶせた。
     腰が一番高い恰好となる。両手は俺のシャツをしっかりと握って、離せない様子だった。
     小さな悲鳴が切れ切れに響く。
     声を殺すなよ。もっとあいつらに聞かせてやりゃいい。
     俺は右手を、彼女の腹側に回す。ハの字に支える足、その間で充分に開ききった花弁。俺の指はその中に埋まっている蕾をつまんだ。
    「や……、だめえ」
     アルフィンは身体をわななかせた。
    「悪くないだろ。ほら、ここなんてさ」
    「あー……」
     指でその愛らしい突起を、俺はこねくりまわす。
    「あ、あ、……イッちゃうっ」
    「……まだだ」
     正直、俺自身がとっくに臨界点に来ている。吹き出す寸前。
     だが彼女はもっと深く、それこそ忘我の境地へとつき落としてやりたかった。
     俺は、動きを止めた。
     顔や身体から流れ落ちる汗が、スリップドレスに吸われていく。
     俺は肩で荒々しく呼吸を繰り返す。
    「おねがい……やめないで」
     肩越しに碧眼が振り向く。瞳にいっぱいの涙をためて、俺に懇願する。はしたない言葉を、もう平気で口走る。これこそ、俺にしかみせないとっておきの彼女の素顔。
     一旦、深く埋め込んだ俺のものを抜いた。アルフィンは未練をたっぷり身体に残したまま、がくりと腰を落とす。敷いたシャツに額を押し当て、悶絶した。
    「……抱きしめてやる。こっち、向けよ」
     ほんとう? 碧眼の端で、俺をうかがい見る。
     軽くうなづくと、俺は力ずくで彼女の腕をとった。上体を引き起こしてやると、アルフィンはしゃにむに俺に抱きついてきた。
     背中に爪が立った。
    「いっぱいして……」
    「ああ」
    「ジョウしか感じない身体にして」
    「それもいいな……」
     貪欲な一面を覗かせて、愛らしい声で、小悪魔的なことを耳元でつぶやいた。
     もうすっかり俺たちは。
     周りの状況などお構いなしだった。
     そして。
     俺は彼女が望む、もっとも深いところで結びつく体位をとった。俺の両肩に、アルフィンの膝がひっかかる。彼女は胎児のように身体を丸ませて、俺の首に両の腕をまわす。
     俺の動きに合わせて、天井に向けられた彼女のミュールの底、右足首にからまった下着も激しく揺れた。
     アルフィンは金切り声を高々と上げた。俺も喉をつまらせながら喘いだ。まるでここには、俺たち2人しかいないみたいだった。
     誰に遠慮するともなく、愛欲にふける男と女。それほどに、連中はじっと押し黙っていた。完全に俺たちに呑まれたようだ。
    「アルフィン……」
     浅く、深く、それこそ俺のものが摩擦でいかれるほど、彼女をずっと突き上げ続けた。
     汗が何度も、俺を仰ぎ見る彼女の顔に、粒となって落ちた。
    「ジョウ……、あたし……あたし」
     俺の髪を両手の指をせわしくまさぐりながら、アルフィンは身体が泣いてたまらないとばかりに、すすりを上げはじめる。
     彼女の耳たぶを軽く咬みながら、俺は誘いかけた。
    「ちゃんと言えよ……。どうしたいんだ」
    「気持ちいい。壊れちゃいそう……っ」
    「……いいよ。そんなアルフィンも好きだ」
    「…………」
    「俺のことだけ考えて……いけよ」
    「ジョウ」
    「いいな。他は……何も考えちゃいけない」
    「ジョ……」
     不意に。
     どくん、と俺の芯をくわえ込んだ彼女の中が、心拍を打った。ねじるように俺を締め上げ、息ができなくなる。
     彼女は白い喉を反らせ、魂消る声を上げて、絶頂を迎えた。
     失神した。
     俺も道連れにされそうだ。だが土壇場で、必死にとどまらせる。
    「…………」
     歯咬みしながら、すかさず腿のあたりまで落ちたアンダーウェアに右の指先をもぐりこませる。その内ポケットにある固い感触。遠のきそうな意識のなか、必死に引きずり出した。
     そして彼女の中から俺自身も抜いた。溶けあった感触を引き裂き、上体を起こす。
     左手でスリップドレスをたくしあげると、彼女の白い腹めがけて思いきり放出した。
    「──くっ……」
     一気に。空っぽになるまで。
     それは下腹部から胸の谷間にかけて、まっすぐに一本の白い川を生み出した。
     と、同時に。
     俺は手にした物体のスイッチを入れ、下から上に高々と放った。それが放物線を描こうとした時。意識を失った彼女の顔を、カバーするよう身体で覆った。
     俺の背後で。
     まるでノヴァが誕生するような、この魔の光景をかき消すような、真っ白な閃光が辺り一帯を包み込んだ。
     

引用返信 削除キー/
■161 / inTopicNo.7)  Re[7]: スペクタクル
□投稿者/ まぁじ -(2003/04/14(Mon) 11:03:26)
     
     肩を抱いたまま、アルフィンはまだ目を覚まさない。
     俺は少し不安になった。もしかするとあのまま、情事のあとの心地よいまどろみの底に、落ちただけかもしれないが。
     やっぱり、不安だった。
     指先で軽く、彼女の顎を上向ける。そっとキスしてみた。ついばむようにして。
    「……ん」
    「アルフィン」
     声をかけた。すると、重たそうにまぶたが開かれた。
    「やっと起きたか」
     随分とタイミングがいい。もしかすると俺がこうして起こすまで待ってたとか? まさかな。起きられない、起こして。目覚めのキスが欲しい時は、彼女はそうやって甘えてくる。
     だからこの覚醒は本物だった。
     彼女は目元をこする。
     そして、早いまばたきを数回繰り返した。
    「ここ、どこ?」
     狐につままれた表情で、首をゆっくりと右から左へと回した。
     俺たちの目の前には、白い砂浜が続き、遠くの沖で小さなさざ波が起きていた。鼻先をかすめるのは、強い潮風。
    「なにが?」
     俺はしらばっくれた。
    「え? ……ここって、嘘」
     連中に連行された海岸沿い。公道から砂浜へは一段低く落ちくぼんでいる。俺たちはそこに並んで腰を下ろしていた。
     50人はいたビースト・ウォリアーズの連中は、一発の光子弾で一掃することができた。俺たちを、まばたきも忘れて食い入っていた連中は、強烈な閃光によって完全に失明。回されていたムービーカメラもショートし、メモリ部分まできっちり灼き尽くした。
     武器を手にしていた連中は、突然の襲撃に泡くって、おのおのが乱射しやがった。その流れ弾は見事、ラダムやジャミエル、以下数十人を呆気なく屠ってくれた。
     俺はしばしその銃撃が止むまで身を伏せ、武器のエネルギーが切れたところで、靴のインソールに隠しておいた電磁メスであらかた、たたっ切った。
     あの廃墟にはもう、血祭りの後の静寂さしかない。
     深い恍惚を味わったアルフィンは、ずっと意識を失ってくれていた。そうなって欲しかった。彼女を抱えて、俺は連行されたエアカーを駆って、最初の現場に舞い戻った。
     正直、道中冷や冷やした。
     途中でアルフィンが目覚めやしまいかと。だがそれは希有に終わった。
     いくら辱めの相手が俺とはいえ、できることなら彼女の記憶にはない方がいい。ここまでの手際は、俺が思った以上にうまく運んで、丸くおさまりそうでもある。
     あとは。
     アルフィンをどこまで誤魔化せるかだ。
    「覚えてないのか? 人助けしようとして、落ちたんだぜ、アルフィン」
    「落ちた? どこから?」
    「この段差から」
     俺は顎をしゃくった。
    「だって……」
     彼女は砂浜で立ち上がる。高い目線の先に、俺たちがレンタルした赤いエアカーが路肩で停車している。また、まばたきをする。エアカーを見つけたようだった。
    「ここの段差って、高さ1メートルちょっとじゃない」
    「そうだな」
    「落ちたって大してないでしょ」
    「打ち所が悪かったんだろ」
    「……あの具合が悪かった人は?」
    「こっちに驚いて、けろっとしてどっかへ消えた」
    「うっそお」
    「ホント」
     いけしゃあしゃあと俺は嘘を重ねる。サギ師まがいだな、これじゃ。
     するとアルフィンは、膝を抱くようにその場にしゃがみこんだ。
    「ジョウも? 落ちたの?」
     俺の、アザだらけの顔を覗き込む。
    「つられてね」
    「反射神経いいのに? ジョウが?」
    「俺だってたまにゃ、真っ平らな場所でも転ぶぜ。丁度、あれがさ」
     俺は脇にあった、人頭くらいの大きさの、砂から突き出た石に親指を指す。
    「落ちた真下にあって、運悪く直撃だ」
    「いったあい」
     アルフィンは両手を頬に当て、口をあんぐりと開けた。
     素直というか、俺の言葉だと丸々鵜呑みにするというか。そこがまた、彼女の可愛いところでもある。
    「痛いよ、めちゃくちゃ」
     もう痛みは引いているのに、俺は手のひらで取り繕うようにさすった。
    「でも、信じられない。嘘みたい」
     アルフィンは、スリップドレスの裾を身体に巻き込みながら、砂の上にまた腰を落とした。すらりと伸びた足を、左斜めに倒す。
    「あんなリアルな幻覚ってある? おかしいわよ、どうしたって」
     自分の身体を抱くように、両手を回した。
     腕や、くびれのあたり、そこかしこを手のひらで確かめている。身体に残った余韻を、まるで探るようにして。
    「へえ。何を見たんだ」
     俺は瞳を流し、わざと先に突っ込んだ。
    「なんか、やけにうなされてたぜ」
    「……そ、それは」
     かあ、とまたたくまに両の頬を染める。
    「怪しいぞ」
    「べ、別に怪しくなんかないわよ」
     そっぽを向いた。ひるがえった金髪を潮風がさらい、ふわりと舞い上がった。
     俺はその一束を手にすると、つん、と引っ張ってやる。
    「言えよ。気になるじゃないか」
    「い、いいの! 知らなくても」
    「ほー、そうかい」
    「ほー、そうよ」
     必死にとりなす彼女が可笑しくて、俺はこみあげる笑いを我慢する。そう、そのまま、あの出来事は悪夢のひとつにしちまえよ。忘れてくれた方が俺もいい。
     細かい詮索はもう止めろよ。そう俺は願った。
    「言えないってことは、相当えぐいもん見たんだな」
    「ばっ……、馬鹿じゃないの? 呆れた」
     アルフィンは振り向き、俺の手から金髪がすり抜けた。
    「そういや休暇に入ってまだ、まともに寝てないもんな。ご無沙汰なまんまだ」
    「やめてよ。外で、そういうあけすけなこと」
    「へいへい」
     俺は肩をこれみよがしにすくめた。
    「顔面打って、頭もおかしくなったんじゃない? 少しは冷ましたら?」
     不機嫌な顔つきで、すっくとアルフィンは立ち上がった。
     そして右手をずいと差し出す。
    「ハンカチ」
    「え?」
    「ハンカチ出しなさいよ。濡らしてきてあげるから」
    「あ? ああ……」
     俺はジーンズの右後ろに手を回す。指を差し入れ、そこではたと止まった。
    「……忘れた」
    「出かける前に聞いたじゃない。ちゃんと持ったの? って」
    「ハンカチ程度で、いちいち目くじらたてんなよ」
    「こういうこともあるから、言ってるんじゃない。もうっ」
     するとアルフィンは、脊もたれにしていた土手に、つま先を引っかけ両手をつき、よじ登りだした。
    「どこ行くんだよ」
    「あたしのハンカチ、エアカーのバッグにあるの!」
    「いいよ、そんなもん」
    「海に頭ごと突っ込んで、冷やされたいの?」
     いきなりこの剣幕だ。
     俺にあれこれ突っ込まれたくないポーズ。とりつくしまも与えないてやつだ。
     俺は諦めた。もう好きにさせておこう。
     そして。
     俺はジーンズの後ろのポケットにあったハンカチを抜いた。アルフィンに気づかれないうちに、始末しないとな。布地は、彼女の身体に撒き散らした俺の体液で、ごわごわとしていた。
     その拍子にふと、俺の脳裏にあの時のアルフィンがかすめた。
     案外、ああいうシチュエーションも彼女は嫌いじゃないみたいだ。なにせ今までの中で、かなり乱れもだえまくっていた。
     さすがに公然の面前というのは、もう遠慮したいもんだが。
     人目をかいくぐって、見られるんじゃないかとスリリングな中でのお楽しみてのも、悪くないかもしれない。月夜だけが照らす、海辺や森の中とか。
     ……やばいな。
     俺は一人勝手にめぐる妄想に、かっと熱を感じた。
     ちょっと俺、癖になりそうかもな……。


    <END>
fin.
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