| 「ねえ。ちょっと。ジョウ起きて。」
隣に眠る男を静かに揺り起こした。 「・・・・っってなんだよ・・・」 「ねぇねぇってば。」
ミネルバの室内。
一仕事終えたジョウチームは次のクライアントとの接触のため、手じかにあった惑星ガレイアに降り立った。 クライアントはこの近くの惑星で新規事業を立ち上げるため、腕の立つクラッシャーを護衛に付けたいとアラミスへ打診。 運も悪く「任務終了」の報告をあげたジョウたちに、またもや仕事が舞い込んだ。
しかし今までの仕事は。
いつも請け負うブルックリー商会。 通常オークションはいまやネットで行う時代に、オークショニアをおき選ばれたメンバーのみが一同に介しひとつひとつ競り落とすという、古来よりの方式を取り入れている銀河系屈指の専門業者である。
この会社はジョウをお贔屓さんとして、オークション開催月には必ずやジョウチームを使命する。 その為のかなりの前金も、本部に上納済みだ。 つい昨日までその仕事に追われていたのであった。 そして、閉会の幕が下り、オークション会場となっている豪華宇宙船をブルックリー商会本部のある惑星アレクに送り届け、終了のコメントを出すや否や、また新たな仕事を手にしてしまったわけである。
このあと3日でも、4日でもいいから、できたらゆっくりと休みたかったのが本音で。
ガレイヤはあまり評判のよくない星であったが、時間短縮、休息第一で早々に宇宙港に入港した。 入港はするが、クライアントとのやり取りは通常通り、標準時間でこれより翌日の朝5時、現地時間では朝8時という事になっていたはずである。 そんなもの本部に報告を上げていても、入港し入国審査をすませていても、次の業務へ準備などで時間は早められない、という言い訳くらいいくらでもできる。 寝惚けた目をこすりつつ。クロノメーターに目をやる。
「・・・・」
時間は現地時間で夜中の1時。どうにもこうにもねむい。待ち合わせまであと4時間。支度を考えても、化粧をするわけでもないので30分もいらない。
しかも2人が眠りについたのはつい先ほどである。
「なんだよ・・・。」 「さっきニュースパック見てたら、こんなのがあったのよ。」 「あ・・・ん?」
広いとはいえないジョウの部屋のベッドで、ジョウに寄り添うようにうつぶせになりながら、シーツを一枚だけかぶったアルフィンが手元にあるリモコンで画面を検索していた。 「これこれ!ねえ」 指をさしてなにかを見ろといっているようだ。それはなにか・・・。
オークション会場で氏のホステス役兼警備として張り付いていたアルフィンその人であった。
このオークションの神秘性、確実性、そして歴史あるメイシーズの流れを汲むオークショニアを有するブルックリー商会をコレでもかというほどに賛辞をならべ、褒め称えていた。
誰もを魅了する微笑を浮かべながら。
「・・・・・・・」 「ねっ。きれいにとれてるでしょ?この番組の看板キャスターも霞んじゃうと思わない?」
そういえばあの時目の端でインタビューのようなものをされているらしきアルフィンは見つけたが、忙しさに忙殺されてなにをやっていたのか尋ねるのをすっかり忘れていた。
「・・なんでなんにもいわなかったんだよ・・・。」
少し不機嫌そうな声で、ぼんやり画面を見つめながら呟くジョウに、このときのドレスは正解だっただの、このままスカウトされたらどうしようだのと浮かれながら一人満足そうな表情のアルフィン。 このドレスこの前のショッピングで見つけて一目ぼれ!ジョウッたらお昼寝〜なんていってついてきてくれなかったから、今回初めてみるでしょ?
そのドレスに惚れ込んでいるのであろうアルフィンは、見つけた時のじぶんの驚きから、いかに気に入っているかを説きだした。
確かにこの黒いドレスは、とてもよく似合っていた。正装した招待客たちの中に紛れる為、いつものクラッシュジャケットではなく、ブッルクリー氏のタキシードに合わせ、全身黒いドレスに身を包んでいた。 カラダにフィットしたデザインで、全体的にはサテンオーガンザーを使い、裾のあたりはオーガンジーがゆらゆらとゆらめく。そこから覗くすんなりした脚、 細い肩から大きく開いた背中、それは黒いドレスと相まって肌の白さを際立たせていた。
気が付くと、上目遣いでジョウを見上げる碧い瞳。それっきり何もいわないジョウがヘソを曲げたと思ったのだろうか、瞳の中に少しばかり暗雲が漂っている。
「任務中だしどうかとは思ったんだけど、相談しようにもジョウたち忙しそうだ し、ぜひともなんていわれちゃったり、ブルックリーさんは出ろ出ろってうるさくて」 どうにもいま不機嫌な理由が飲み込めていないらしいアルフィンは、しどもどと語り始める。 見続けていると、なんとブルックリー氏をアルフィンが紹介し、画面に登場したはいいが、彼はなれなれしくアルフィンの肩を抱いたり、腰に手を廻したりしているではないか。 そこでますますジョウは気分を害し、アルフィンからリモコンを取り上げてスクリーンを消す。
任務中にということでヘソを曲げたのではない。こういうアルフィンが人目にさらされることが我慢ならない自分がいることに、いつからか気が付いていた。 自分しか知らないはずの白い肌を人目に晒すのは嫌なのだ。自分の目が届くところならまだしも、ほかの男がその肌を見ていると思うと。 ましてや彼女に触れたのかと思うと。
それを彼女に言えれば苦労しない。着るなといってもなぜだと問われれば、その理由を述べねばならない。ましてや今回はフォーマル着用といわれ、自分のあずかり知らぬ所でこのような状態になっている。 なにもアルフィンのせいではない。 それに、そんな恥ずかしい事を口に出せるのなら、もっと早くから2人こういう関係になれたはずだ。
もし次に会うクライアントがブルックリー氏だとしたら、殺しかねないと思う自分に苦笑する。
そばにある、心配気な瞳のアルフィンの腕をぐっとつかみ、自分のもとに引き寄せる。 挑発しすぎとだけささやいて、愛する女を組み敷いた。
そしてこの後このドレスがお蔵入りになった事はいうまでもない。
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