| 恋人たちがキスを繰り返す。 ただそれだけの映像が流れている。 擦れ気味な女性ボーカリストの歌声が情感を煽る。 エンドロールの間も歌声は続き、話の余韻を物語っていた。
ほおっと溜息をついた彼女は隣のオトコの肩をつついた。 「終わったわよ」 「・・・・え?」 「終わったっていってんの。まったくもう。ずっと寝てるんだから・・・」 言葉とは裏腹にややもすれば含み笑いをこめたような口調で、クセのある髪をつまんだ。 「いてっ」 「すっごい熟睡してたみたいだから、刺激与えないと眼はさめないでしょ?」 「・・・・・眼さましてどーすんだ?」
う〜ん、と手足を伸ばし、くきくきと首をならす。 「さ。起きた起きた」 「・・・・・・ムードない・・・」 先ほどとはうってかわって、拗ねた口調でぼそりと呟き、ブランケットをずりあげると、その中に身を沈めた。 確かに今、肩を抱いていたはずなのに、するりと抜け出された手前、手持ち無沙汰になって空を彷徨っていた腕をぽとりと落とす。 振動で、かすかにベッドがきしんだ。
「おい」 「・・・なによ」 「終わったっていったんじゃないのか?」 「そうよ」 「なに寝てんだよ」 「だって映画おわっちゃったんだもん」 「だから起こしたんだろ?」 「別に」 「起こした」 「違うもん」
そういうと、彼女はぷいっと彼に背中を向けた。 陽光に煌くブロンドは、月に照らされ昼間とは違う妖しい輝きを放ちながら、ベッドにもたれる彼の腰の辺りに渦巻いていた。 その髪を一房握り、さらさらと指の間からこぼしてみた。 さらさら。さらさら。 指の隙間を通り過ぎる金の絹糸は、立ち上る甘い馨りで鼻腔をくすぐった。
・・・ジョウといっしょにみたかったのに。・・・
小さく囁くような声を聞き逃す事はなかった。 「拗ねたのか?」 「・・・・・もうねむいの」
彼女の幼さの残したような口調に、すこし含んだ笑いをこぼす。
アルフィンが見たがっていた映画は、少し、いや、かなり自分にはくすぐったいもので、これはもうさっさと寝たふりをしてしまおうと肩にもたれてはみたものの、昨日までの睡眠不足は正直で、ぼそぼそ呟くせりふは心地よく、すんなりと誘われていったのは事実だ。 きっとそれは、彼女にもわかっていたことだろう。 だから身じろぎもせずに、自分がもたれきった姿勢での映画鑑賞になったに違いない。 それに通常、彼女が見たがる部類のものではなく、きっと今の2人を意識して見たがったのだということくらいはわかる。 しかしながら、男の眼からして、ことさら自分の眼からして、小洒落た粋な演出、気障な台詞というものは、こっぱづかしい事この上ないもので、逆に萎えそうになる。 まあ、長い付き合い、彼女にもわかるだろう。 それなのに、拗ねて不貞寝をしているような態度をとるというのは、ひとえに「誕生日だったから、なんでも言うことをきいてやる」といった自分への報復だと思う。
「・・ジョウもうちょっと向こうによってよ」
口にはださず、頭で何かれと考えつつ、彼女の髪を弄び続けていたひとところの間、2人で眠るにはやや広いくらいのベッドで彼女が窮屈さを感じているとは思えない。 ブランケットを胸元に掻き寄せつつ、むっくりと起き上がると、髪で遊ばないで。と冷たい一言を残し、またもや視界の端に消えようとしていた。 彼女が倒れこむ動作と同じく、自分の腕を彼女の肩に廻し、引き寄せ抱え込みそのまま押し倒す。 大きくスプリングが揺らいだ。
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