Sweet Time
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■64 / inTopicNo.1)  グッドラックをもう一度
  
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/24(Thu) 12:06:15)
    <まえがき>

    おかしい・・・。
    裏も読み切りで書こうと思っていたのに、何故か繋がってしまいます(笑)。
    このままいくと、ジョウの「裏の成長記録」というものができてしまいそう。
    ちなみに今回は「なまいきリッキー」に対する感想から、アイデアを
    いただきました。いや、これメインかしら。

    ということで、よろしければおつきあいください。
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■65 / inTopicNo.2)  Re[1]: グッドラックをもう一度
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/24(Thu) 12:07:07)
     <ミネルバ>の副操縦席に就いたまま、ジョウは難しい顔をしていた。ぶつぶつと独り言を言ったかと思うと、深い溜息をつく。
     今夜しかないというのに。その焦りが、さらに思考を撹拌させる。
     昨日の夕方遅く、くじら座宙域にあるコロニーへと<ミネルバ>は降り立った。わずか48時間だけの休暇ができたのである。昨夜は<ミネルバ>の船体チェック、今日は午後まで、燃料や弾薬、生活雑貨の補給に費やされた。
     これまでであれば、あとは出発までのんびりするだけだった。しかし今のジョウにとっては、そうはできない。このチャンスを逃すと、またしばらく仕事が立て続くのだ。
     アルフィンとの時間を、どうしてもつくりたい。
     そのことで頭の中がはち切れそうになっている。
     なにせパンドーラでの初めての一夜以来、まったくもって接触がない。つまり身体が、アルフィンを求めて求めて仕方がないのだ。腰の辺りがずっと疼いて、落ち着かない。
     とはいえ甘い快感を知ったジョウは、自分にひとつの戒律を立てた。チームリーダーとして、<ミネルバ>の秩序を保つために。
     <ミネルバ>の中では、決してアルフィンと関係を持たない。宇宙生活者であるクラッシャーにとって、これはかなり勇気のいる決断だった。
     家でもあり、仕事場でもある<ミネルバ>だ。クルー全員が気持ちよく生活できる配慮を欠かしてはならない。ジョウとアルフィンの船室を、こっそりと行き交うことが可能だとしても、それがなあなあになってはモラルもへったくれもなくなる。
     ジョウはそれを危惧した。
     だからこそ休暇で、<ミネルバ>を降りられる機会をつくり、アルフィンと外で落ち合う。この時だけに、アルフィンと関係を持つことに決めた。
     ある意味、その方が気楽でもあった。周囲の気配を察しながら抱き合うのも後ろめたく、何よりもその最中に気を配れる自信がない。
     思いきり、気兼ねなく。アルフィンと肌を合わせるには、外で時間をつくることが最善の対処と思われた。

     しかし。
     ジョウは困惑していた。こういう誘いを、どう切り出せばいいのかと。
     パンドーラでの一夜は、きっかけと弾みがあった。なにせジョウ自身、いきなり関係が持てると思っていなかった。それはアルフィンも同じだろう。
     まさに、神からのご褒美としか言いようがない。
     だが何度もご褒美が続く訳もなく、次からは自力で機会を生み出さなければ。ムードを演出しようにも、ここは開放的なリゾート地でもなければ、ロマンティックな観光地でもない。惑星から溢れた宇宙移民者の居住コロニー。
     しかもアルフィンをその気にさせるだけの時間もない。だがストレートな誘い出しでは、いやらしい、と拒否されるのがおちだ。まずジョウ自身、露骨なくどき文句も持ち合わせていなかった。
    「参ったなあ……」
     一人愚痴るばかりで、堂々巡りを続ける。
    「なにが参ったんだい? 兄貴」
    「うわっ!」
     ジョウの背後から、リッキーがひょっこり顔を出した。
    「……お、驚かすな!」
     胸に手を当て、早鐘のような動機を抑える。ひやりとした。こんな妄想をちらちらと覗かせている姿を、リッキーに見られたことが恥ずかしい。
     やや顔が上気する。
     しかしリッキーはその赤面を、いつものジョウの剣幕だと捕らえていた。まさか一人で悶々と、チームリーダーがやましい妄想にかられているとは。
     想像すらしなかった。
    「なんか用か……」
     ジョウは決まり悪い表情のまま、ぶっきらぼうに訊く。
    「外で飯を食おうってさ、タロスが」
    「飯?」
     クロノメータに視線を落とすと、コロニー時間で午後5時を指していた。些か早い気もするが、早めに食事をして後はゆっくりしよう。そういう意味にも取れた。
     だがジョウとしては、残り少ない時間を皆でのんびり会食している訳にもいかない。
    「……行ってこいよ」
     つい渋ってみせた。
     しかしリッキーは譲らなかった。
    「兄貴を絶対連れ出せって言われてんだよ、俺ら。何か話がしたいみたいだぜ」
    「話なら、飯を食わなくてもできるだろ」
    「分かんないけど。……改まった話なのかも」
     そんな素振りがあれば気づくだろうに。ジョウは親指を噛むと、しばし考えた。
     そして迷った。
     身体の誘惑に負けて、大事なクルーの話をないがしろにするのはチームリーダー、いやそもそも人として頂けない。そのうえ相手はタロスだ。
     ジョウの心はぎしぎしと、諦めへと傾く。
     今回のチャンスは、見送るしかなさそうに思えてきた。
    「……分かった、行くよ」
    「じゃ、10分後」
     それだけ言い残すと、リッキーはブリッジを出た。
     人気がなくなった所を見計らい、ジョウは一人大きな溜息をつく。身体の中に、ぽつぽつと火照りがまだ灯っている。
    「……抱きてえなあ」
     その欲望を胸の中に抑え込むように、少し姿勢を屈めた。そうやって、ただひたすらに若い肉体を持て余すしかなかった。


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■66 / inTopicNo.3)  Re[2]: グッドラックをもう一度
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/24(Thu) 12:08:05)
     宇宙港からタクシーで15分。コロニーの繁華街に出た。タロスを先頭に、ジョウは複雑な気分で後についていく。
     というのも、外食にアルフィンが欠席だった。つまり今<ミネルバ>で一人残っている。それを先に知っていたならば。
     ジョウは胸の内でひたすら悔しがった。
     しかしながら、タロスの話を断ることもできない。苦渋の選択。なすがままに任せるしか、ジョウにはもうできなかった。
    「遊び甲斐のある雑居ビルらしいですぜ」
     タロスが顎をしゃくった先に、ネオンをきらびやかに光らせたビルがあった。看板から察すると、レストランをはじめ、ビリヤードやゲームセンター、クラブやカジノまで収容されている娯楽施設だ。
     まず3人はいくつかあるレストランのうち、コロニー名物を出す店に入った。ドアを開けると、テラのオールディーズが流れていた。古いジュークボックス、ピンボール、そしてダーツなど。遊び心を充分に取り入れた店だ。
     仕事帰りの人間がふらりと立ち寄れる気軽さからか、軍人やポリスマンなど、制服のままの客が多い。ジョウ達もクラッシュジャケットという制服である。こういう雰囲気に溶け込みやすく、ある意味居心地がいい。
     そのボックスシートに、ジョウとリッキーが並び、タロスと対面する。
     ホバースケーターを履いたホットパンツ姿のウエイトレスに、タロスは名物料理フルコースをオーダー。そしてコロニーの地酒であるペル酒をボトルで、そしてリッキーには特別にリキュール系のドリンクを付け足した。
    「今日はアルフィンがいないから、俺らもガンガン飲むぞ」
    「リキュールでも、てめえは数杯と持たねえよ」
    「言ったなあ! タロス!」
     リッキーは鼻息を荒くしたものの、実は今夜のはめ外しに上機嫌であった。なにせ男同士での会合など、久しぶりのこと。酒乱のアルフィンがいると、おちおち酒も飲めないからだ。
     今回はアルフィン自らの辞退である。多少おいしい思いをしても、それでやっかまれる心配はない。
     そして数分後、飲み物が先にが運ばれた。タロスはすぐに、自分とジョウにボトルを注ぐ。3人はグラスを手にすると早々に乾杯を交わした。
     ジョウは一気にグラスを空にする。灼けるような、それでいてとろりと粘膜に張り付くような喉ごし。かなり熟成を重ねた酒であることが分かった。
    「てえしたもんだ。酒に関しちゃ、もう一人前ですぜ」
     タロスは実に嬉しそうに、さらにペル酒をついだ。
    「仕事はまだ半人前だと言いたいんだろ」
    「随分とご機嫌が悪いようで……」
    「ほっとけ」
     ジョウが早くも2杯目を空ける頃、飾り切りをされた魚介類らしきオードブルと、大皿に盛られた肉の塊が運ばれた。まだ皿はあとから続くようだった。
    「これが結構な珍味らしいんでさ」
     艶やかな魚介の彩り、じゅうと立ちこめる肉の香りは、確かに食欲をそそる。3人はそれぞれに、コロニーの名物料理に舌鼓を打った。

     一通り胃袋が満たされると、リキュールで頬を染めたリッキーがお喋りを切り出した。大体こういう場での話題は、下らないお悩み相談になりやすい。
    「……でさ、その雑誌には“結婚したくない職業ベスト5”にクラッシャーが入ってんだぜ」
     リッキーはやや大袈裟な身振り手振りで、まったく分かっちゃいないや、と態度にしてみせた。
    「まあそれもよ、認知度が上がったと言えるわな」
     タロスが若かりし頃の時代は、クラッシャーはならず者と同格。職業としては認められていない部分もあった。クラッシャーとは何者だとも言われ続けた。
    「俺らとしては、老いぼれの独り身って奴だけは避けたいんだよなあ」
     そう言うと、ちらりとタロスを見た。
    「けっ! 独身貴族の方が華があっていいんだ」
     だがタロスは、齢を重ねてからというもの、実際は華らしきことから遠のいた。
     強がりでもあった。
    「なあ兄貴。兄貴は結婚する気、あんのかい?」
    「俺か?」
     詰め寄ってきたリッキーに、少しジョウは身体を反らす。結婚。随分と遠い話だと思った。なにせ目先のアルフィンでさえも、自分のペースで扱うことができない。恋人という状態すら怪しい。
    「相手がアルフィンだったらいいよな。同業だから理解もありそうだし」
    「そうかねえ」
     ジョウはそれ以上語らず、グラスを傾けた。
     そしてタロスが話に割り込む。
    「結婚で大騒ぎする前によ、まずはねーちゃんを突捕まえる方が先だろが」
    「ホントだよなあ。じゃないとタロスみたくなっちまう」
    「一言多いんだ、てめえわよ!」
     タロスの手が料理のフライ物を掴むと、ぐいとリッキーの口に押し込んだ。
    「むががががが!」
     そんな2人のやりとりを見ながら、ジョウの脳裏にアルフィンが浮かんだ。
     リッキーが話題に持ち出したせいだ。少し酔いが回ったこともあり、欲望を抑え込む力が弱まっている。
     パンドーラでの夜。
     アルフィンの悩ましげな表情、驚くほどきめ細かな肌の感触。熱い吐息と、何度も耳元で囁かれた自分の名。そして甘く、胸を掻きむしるほどに、ジョウを迎え入れた時の感動。突き上げるような快感。
     そんなひとときが酷く懐かしく、そして切なさから、ジョウは両手で顔を覆うと天を仰いだ。吐息が指の隙間から漏れていく。
     下手な戒律などつくるのではなかった。ジョウは心底後悔していた。


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■67 / inTopicNo.4)  Re[3]: グッドラックをもう一度
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/24(Thu) 12:08:53)
    「どうしたんだい? 兄貴」
     リッキーの声にジョウは我に返る。慌てて姿勢を正し、またグラスを空にした。
     それを見越し、タロスが3本目のボトルを追加オーダーする。
    「き、気にするな。楽しくいこうぜ」
     アルフィンの幻想のせいで、肌は熱を帯びた。
     しかしこの薄暗い照明のせいで気づかれずに済んだ。
    「……そういえばタロス、俺に話って何だ」
     話題でも変えなければ。ジョウはまた妄想に悶絶しそうだった。
    「いえね、大したことじゃねえんでさ。まあ、ぼちぼち後で話ますぜ」
    「そうか……」
     なら無理について来る必要もなかったのでは。ジョウはとてつもなく、この場にいることも後悔し始めた。とはいえ、タロスもリッキーも実に愉快に盛り上がっている様子。中座などして、水を差す気にもなれなかった。
    「けどさあ俺ら、色々と悩みが尽きないよなあ」
    「言ってみろよ」
     ジョウが促した。
    「その雑誌にさ、男の初体験は16才が平均なんだってよ。俺ら、そろそろやばいだろ? ちょいと焦っちゃうよなあ……」
    「じゅ、16?」
     ジョウはごくりと固唾を飲む。自分自身はつい最近だ。しかも二十歳前にして。ぎりぎりどころか、とっくに遅れをとっていることになる。
    「まあその手は、年でするもんじゃあねえさ」
     タロスが応えた。
     その口調は、酔いがいい感じに回っていることを示す。
    「ちぇっ! 自分は14で済ましてっから、そう言えんだよ」
     リッキーは、前にも男同士で盛り上がった時の話を持ち出した。タロスの場合、時代が時代だ。ある意味、ジョウとは年が離れていることもあって、訊いてもさほど驚かずにいた。
     しかし下手をすると、リッキーに先を越されることはありえる。競うことでもないのだが、何故かジョウははらはらとした感情を過ぎらせていた。
    「タ、タロスの言う通りだぜ。やっぱり相手ありきさ。金で買えんこともないが、それじゃあリッキーも空しいだろ」
    「……うん。俺ら、それはやっぱヤだな」
    「えらいぞ、青少年」
     そういうとジョウは、リッキーの頭に手をやった。

     するとリッキーがむくりと顔を上げる。
    「ねえ、兄貴はいつだったんだい?」
     ジョウはぎくりと顔を強ばらせる。しかも“いつだったんだい”と、すでに過去形で訊かれた。
     つまり15才のリッキー以前の年齢を、問いかけている意味にも取れる。ますますもって、口が裂けても。
     19才とは言えない。
    「そ、それは……」
     口ごもるしかなかった。
    「はあ〜」
     リッキーはテーブルに肘をつき、頬杖する。
    「兄貴は色男だもんな。……俺らも、兄貴みたいだったらこんな苦労ないだろうに」
     そうでもないけどな。
     と、ジョウは胸の中でしか応えられなかった。
    「それじゃよ、リッキー。まずは出会いってのが大切だ」
     タロスが胸ポケットからキャッシュを数枚出した。
    「あそこに、ダーツで遊んでるねーちゃん達がいるだろ? 賭ダーツでもして、お友達になってくるんだな」
    「出会いかい?」
    「出会いがねえと、先にも進まねえ」
     リッキーは人差し指を顎に当て、ちらりと空を見上げる。
    「そうだなあ。クラッシャーなんてやってると、よっぽどの事じゃないと出会いなんてないもんな」
    「そうそう。ミミーみたいな出会いのケースは奇跡だ。あとは自分でチャンスをつくるしかねえんだよ」
    「けど、動機が不純じゃないかい?」
     初体験を済ませたいばかりの出会いというのに、リッキーは抵抗があるようだ。浮浪児上がりの割には、真っ当な精神構造である。
     タロスは続けた。
    「ねーちゃんだって馬鹿じゃねえ。おめえを気にいってよ、好きにならなけりゃ許しもしねえもんだぜ。そんでもってよ、リッキーも惚れりゃあ問題ねえだろ」
    「そっか、確かに」
     ようやく納得したのか、リッキーはタロスからキャッシュを手にする。
    「じゃ俺ら、ちょいとばかし出会いってのにチャレンジしてみるよ」
    「おう、ゆっくり楽しんで来い。どうせ出発は明日の夕方だ。朝まで遊んでもお釣りがあるぜ」
    「だね!」
     タロスがやけに悠然とした笑顔で見送る。リッキーは室内の奥へと向かって行った。丁度リッキーと年端が近い女の子が3人いる。
     とりあえず一緒に興じる雰囲気には持って行けたそうだ。それを見届けると、タロスはジョウに面もちを向ける。
    「……やれやれ、やっと邪魔者が行きましたぜ」
     その言葉に、ジョウは悟った。
     タロスの用件がこれから切り出される。そういうことだ。ジョウにだけ話すとなると、仕事のことだろう。しかし酔いが回り始めた状態で、シビアな話ができるのだろうか。
     少しジョウは自信がなかった。
     だが。
     それは余計な心配に終わる。内容は仕事ではなかった。
    「……で、ジョウ。最近アルフィンとはどうなんですかい?」


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■68 / inTopicNo.5)  Re[4]: グッドラックをもう一度
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/24(Thu) 12:09:49)
    「……ど、どうって」
     ジョウの両眼は大きく見開かれた。そしてアンバーの瞳は、落ち着きなく泳ぐ。タロスの質問はどう受け取るべきなのか。
     迷った。
     だが迷う必要もない。応えは決まっている。
    「み、見てりゃ分かるだろ? まんまさ」
    「そうですかい」
    「なんだよ、何かあって欲しいのかよ」
     ジョウはわざとつっかかる物言いをした。
     タロスは胸の中で呟く。うちのチームリーダーは、こっち方面に関してはまだまだ若い。その言葉以上に正直な態度から口元に笑いを浮かべた。
    「お節介っちゃあ、お節介なんですがねえ……」
     そう意味深な言葉を吐くと、タロスは店のウエイターを呼んだ。さっきから滑るように、店内を動き回っているウエイトレスではなく。敢えてウエイターを呼び寄せた。
    「お呼びでしょうか?」
     ウエスタンハットを被った男が現れた。
     服装はラフだが、接客の質はいい。
    「ここには置いてあるのかい? “グッドラック”を」
     タロスの質問にウエイターは、にこやかに頷く。ジョウは何のことだか皆目見当がつかない。
    「もちろんでございます」
    「で、どこのだ?」
    「テラのジパング物を」
    「いいじゃねえか」
     タロスはぴゅう、と口笛を付け足す。
    「勿論、店の信用に関わりますので。……お持ちしましょうか」
    「じゃ、そいつを1つばかり頼む」
    「かしこまりました」
     そしてウエイターは去っていった。このワンクッションで、アルフィンに関する話の腰が折られた気がした。
    「何をオーダーしたんだ?」
    「ま、じき分かりますぜ」
    「酒か? 俺はもうこれ以上強いのは……」
     遠慮がちに断る。このまま飲み過ぎると、本当に潰れてしまいそうだ。ジョウはせめて、アルフィンの顔を見るまでは意識を保っていたかった。何もできなくとも。
     それからしばらくタロスは語らなかった。グラスを傾けるばかりだ。
     さっきの受け答えで、タロスなりにアルフィンとは何もない、そう理解したのだろうかと。ジョウは気にはなったが、突き詰めると逆に突っ込まれる。だからジョウも黙って、ペル酒を飲んだ。
    「……お待たせいたしました」
     ウエイターが何かを手にして現れた。
     それは酒のボトルではなかった。片手にすっぽりと収まる程の、小さなチタンケース。携帯用のアッシュトレイだろうか。ジョウはそのブツに視線を移す。
     するとタロスの手に渡ったものが、そのままジョウに差し出された。
    「何だ」
    「……餞別でさあ」
     ジョウは受け取ると、そのケースを開けてみた。
    「!」
     そして驚き、すぐさま閉じた。
    「タ……タロス、おまえ……」
     そのジョウの慌てぶりに、タロスはにやりと笑った。

    「ジパングは手先が起用ですからねえ。より小さく、より薄い物をつくるのが得意ときやがる」
     “グッドラック”。
     それは男達だけの間で交わされる隠語。うまい料理と酒を出す店は、その後の男と女の時間を豊かにする。食後の演出にまで気が利いているのだ。つまり、手渡されたのは避×具だった。
     ジョウは、なぜタロスがこんな物を手渡すのか。
     訳も分からず、ただ一人胸をどぎまぎさせていた。
    「あたしも伊達に年を食ってませんからねえ。分かるんでさあ、ピーンと来るもんが」
     本当は、パンドーラの夜の情事が聞こえてきたのだが。それを明かすには、あまりにもジョウのショックが大きすぎる。同じ男としての配慮でもあった。
    「男のたしなみですぜ。準備は欠かしちゃいけねえ」
     タロスのその言葉に。ジョウは口を半開きにしたまま、狼狽していた。だがそれも長くは続かない。軽くかぶりを振り、ちらりとタロスを盗み見る。
    「……知ってたのか」
     ついにジョウは観念した。
     頭の中がぼうっとしている。酒が一気に回ったのか、冷めたのかも分からなくなった。
    「女の方でも薬で防御できますがね。まだアルフィンは、そこまで準備万端とはいかねえでしょう」
    「……そうだな」
    「できちまってからじゃ、後々大変ですからねえ。2人ともまだ若けえんですし」
     ジョウは肩が大きく上下するほど、吐息をついた。
     タロスに知られていた。
     気を回していたとはいえ、かなりショックだった。それだけにアルフィンと関係があった後、浮ついていたのだろうか。情けない気持ちがジョウの胸を満たした。
    「……そんなに俺の挙動、おかしかったか」
     タロスはジョウのグラスにペル酒をついだ。
    「そういう意味じゃないですぜ。仕事の間は、いつも通りに集中してやす。それはジョウ自身も分かってることでしょう」
    「だが、タロスにばれちまうと。……少し自信がない」
    「困りますなあ……。あたしゃ別に、悪い意味で渡した訳じゃないですぜ」
    「とは言ってもなあ」
     ジョウは手のひらに乗った小さなチタンケースを、恨めしそうに見つめた。


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■69 / inTopicNo.6)  Re[5]: グッドラックをもう一度
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/24(Thu) 12:11:29)
    「俺がこれを渡す理由には、3つありますぜ」
     ジョウはゆっくりと面もちを上げ、タロスを見た。
     父親に教え諭されている気分になってくる。こういう出来事に関して父親に説教されるとなると、かなり立つ瀬がないものだ。
    「ひとつは、ジョウが男として一人前になった。母親を赤ん坊の時に亡くし、その後の環境的にもジョウは女性免疫が低すぎる。同じ男として、心配してたんでさあ」
    「だが、どうにかなるもんだな……」
    「どうにかできたのは、ジョウ、あんたの努力でもありますぜ。そしてお次は、あたしも若い時はかなり遊んでましたからねえ……。本当に惚れた女は一人ですが、昔を思い返せば、ジョウの今の気持ちが痛いほど分かる」
    「そんなに遊んでたのか」
    「若けえうちに大金を手にしちまうと、ロクな使い方をしませんぜ。それに……」
     タロスはぐびりとグラスを空けた。
     ジョウがそれを察し、ペル酒をつぎ足してやる。
    「仕事の緊張が解けた時に、なんだかジョウの背が痛々しくてねえ。身につまされやす。なにせまだ19だ。そんだけの健康体でありながら、恐ろしく理性的でいやがる」
     そこで言葉を一短切ってから、タロスは続けた。
    「……見てて、男として、切なくなりますぜ」
     共に生活しているのだ。
     ジョウが<ミネルバ>にいる間は、常にアルフィンと一定の距離を保っていることくらい簡単に察する。つまりはタロスやリッキーへの気遣いを理解した。本来、一度盛りがついた男であれば、毎晩でも夜這いをかけたくなるものだ。タロスにもその衝動は身に覚えがある。
     だが、ジョウはそれをしない。
     その男気に、タロスはいたく感服していた。
    「あとひとつは何だ」
     ジョウはグラスを傾けながら、話の受け手に徹している。
     タロスはソファに反り返り、顎に手をやりながら語り出した。
    「さっきのリッキーの話じゃないですがね。クラッシャーって仕事は、危険でスリリングで、時には命を落とすこともある。そりゃ結婚対象としては、女は引きますわな。その上若者らしい生活を送ることなく、ただひたすら仕事だ。そんな青春を刈り取っちまう、因果な商売ですぜ」
    「……だが俺は、この仕事がいい」
     タロスは両の腕を組み、大いに頷いた。
    「それはそれでいいんでさ。しかし、そんな青春も糞もねえ仕事のままじゃ、クラッシャー稼業の先が見えてます。俺やおやっさんの代は、荒くれ者を統括し、クラッシャーという仕事そのものをまず世間で認知させることが役目でした。けどこの先は、もう少し変わっていかねえと廃れちまう……」
     タロスの口調が、少し熱を帯び始めた。
     クラッシャー稼業をダンと共に起こした、先駆者としての言葉だった。
    「生半可な気持ちで、クラッシャーになる奴らが増えても困る」
     遊び半分のチームメイトが一人でもいたら、命がいくつあっても足りない。そういう場面に何度もジョウは直面してきた。
    「そんな奴はまずクラッシャーを選びませんぜ。ジョウ、あたしが言いたいことは、あんたたち若い世代が、これからのクラッシャーを支えていくんです。そのためにも惚れた女の一人くらい、自由に抱けねえお堅い状況じゃ、いつかポッキリ折れちまう」
    「それが甘えにならなきゃいいがな……」
     タロスの意見はもっともだった。現に今、ジョウ自身は欲求に振り回されている。抑圧のしすぎだ。しかしそれを垂れ流しにしては、油断に繋がらないだろうか。
     ジョウはまだ、大人の関係を囓り始めたばかりだった。どこまで自分を保てるのかも、不明だ。些か不安も過ぎる。
    「溺れちまう奴はそれまででさあ。しかし環境としては、柔軟さが必要だと俺は思いますぜ、この先」
     一晩限りの遊びは、ある意味手軽だ。男の欲求はそれで大概は処理できる。しかし本気で惚れた女との接触は、タロス達の時代ではうまく両立できなかった。御法度とさえ思われた。それゆえ些か、男の幸せからは遠のいた。
     ダンとて結婚も遅かった。そして自分はその機会を放棄した。
     仕事と恋愛くらい両立できなければ、これから先。自らを犠牲にしてきた先駆者として、継ぐ者達へのエールでもあった。
     そしてジョウは。
     少しずつ。
     タロスの真意が理解できてきた。
     同時に、この言葉は決して父親代わりでもない。補佐役でもない。同じ男として、同じクラッシャーの世界に身を投じている者として、同等の扱いをも意味する。

     いかがわしいチタンケースだが、タロスが贈ることによって、深い意味が生まれた。大袈裟かもしれないが、それだけジョウのことを考えているカタチでもある。
     きっと本来ならば、こういう類の物は男同士の仲間内で横流しされる。リッキーがスパーク団の仲間の間で、女の話を色々と学んだように。だが10才からクラッシャーの世界に飛び込み、がむしゃらに活躍してきたジョウだ。そんな悠長な時間は得られずにここまで来た。
     それを知るタロスだからこそ、ジョウへの餞別として渡された。
     些か年上すぎるが、同士として。
     その心意気にジョウはようやく胸を打たれた。
    「……分かったタロス。感謝する」
    「しかもジパング物ですからね。文句はねえはずだ」
     と、タロスはにやりと笑った。
    「そんなに違うのか」
    「テラでもアメリカ物はいけねえや。まるでゴム手袋みたいなもんですぜ。コンマ数ミリの仕上がりって奴は、ジパングが一番でさあ」
    「そうなのか……」
     ジョウはそれを、クラッシュジャケットの胸ポケットにしまう。
     何となく気恥ずかしいが、こういう代物にもいつかは慣れていくのだろう。誰しもがこうして、大人の男としての階段を上っていく。そういうことなのだろうとジョウは思った。


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■71 / inTopicNo.7)  Re[6]: グッドラックをもう一度
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/25(Fri) 11:17:18)
     そしてタロスは、ちらりとクロノメータに視線を落とした。まもなく午後9時になろうかとしている。
    「ってことで、ジョウ。今夜はリッキーと、ここらで遊んでいきますわ」
    「……え?」
     タロスがソファから身を乗り出した。ジョウもつい顔を寄せる。
    「明日の昼には<ミネルバ>に戻りやす。それまでは、お互い自由行動にしましょうや」
    「……タロス」
     再び身体をソファに預けると、視線の向こうにいるリッキーを捕らえていた。
    「あのクソガキは、何だかんだと察しがいいんでね。俺達が戻る前までには、<ミネルバ>にいてくれると有り難てえ。こっちで適当に誤魔化しておきますんで」
     ジョウは呆気にとられていた。だがそれは、嬉しさが頂点へと達したせいでもある。
     アルフィンとの時間がいよいよ持てる。
     その事実を前に、密かに胸を躍らせた。降ってわいたようなチャンスに、鼓動が早まり始める。神はまたジョウに幸運をもたらす。今回の神の化身はタロス。
     まさに“グッドラック”が舞い降りてきた。
    「ああ、あと。市街地の外れに、ちょいとばかし洒落たベイエリアがあるらしいですぜ。……夜のデートにゃ最適だと思いませんか」
     そんなことまでタロスは下調べをしていた。ご丁寧なことに。
     ジョウは小さく笑いを浮かべた。
     その気持ちも有り難く受け取ることにする。
    「しばらく、タロスには頭が上がらなさそうだ」
    「こっちに関しちゃ、あっしの方がいくつになっても上ですぜ。仕事の腕は別ですが……」
    「じゃあせめて、仕事ではいつかタロスを抜いてやるさ」
    「その意気ですぜ、ジョウ」
     大きく頷きながら、タロスはグラスをジョウに向けて掲げた。

     リッキーに気取らないよう、ジョウは早々に店を後にした。そしてタクシーで一路、<ミネルバ>に戻る。船内通路に辿り着いた途端、はやる気持ちに脚が追いつかない。そんな感じだった。
     目指すはアルフィンの船室。
     そのドアの前に立ちはだかると、ジョウはひとつ大きく深呼吸をした。意を決し、ドアをノックする。
     ややあって、ドアがスライドした。
     赤いクラッシュジャケット姿のままのアルフィンが現れる。どくん、とジョウの鼓動がひときわ大きく跳ねた。
    「あらジョウ、どうしたの?」
    「……気になって、戻ってきちまった」
     声が些か震えてしまう。
     いまここでアルフィンを抱きしめられたらどんなにいいか。そう過ぎりつつも、ジョウはやせ我慢をする。あと少しで2人きりになれるのだ。自分に誓いを立てた戒律を破らないためにも。
    「タロスとリッキーは?」
    「コロニーの夜を満喫するらしいぜ。だから……」
    「だから?」
     小首を傾げたせいで、金髪がさらりと流れた。
    「……明日の昼まで戻らない」
     ついに言った。
     ジョウはアルフィンをまともに見られず、顔を横に向けた。しかしアルフィンにその言葉だけで、正確に思いが伝わったのかどうか。
     そこでジョウはタロスの言葉を思い出す。
    「な、なんでも、ここから近くにちょっとした絶景ポイントがあるらしいぜ」
    「どんな」
    「ベイエリアらしい」
    「そう」
     どうもアルフィンの食いつきが悪い。どこか少し間合いを計っている感じがする。それはジョウの思惑を察しての態度なのだろうか。
     だんだんと、痺れを切らし始める。
     とはいえ焦りは禁物。ジョウは努めて冷静さを装い、ストレートに誘ってみることにした。
    「……出かけてみないか。散歩がてらに」
     アルフィンの碧眼がジョウをじっと見つめている。
     それが視界の端でも充分に伝わった。
    「いいわよ。けど……」
    「けど何だ?」
    「……この格好でいいのかしら」
     アルフィンは両手を広げ、軽く肩をそびやかしてみせる。
    「ちょっとは、お洒落した方がいい?」
     ジョウはようやくほっとした。
     デートという意味合いが、ちゃんとアルフィンに届いたからだ。
    「そのまんまでアルフィンは充分さ」
     着替えさせる時間を待つのももどかしい。それに何を着ていようと、ジョウには関係なかった。一刻も早く、クラッシュジャケットに隠された素肌が欲しい。
     この感情がどんなにアルフィンに対して失敬だったとしても、ずっと今日まで堪えてきたのだ。理性のたがをここで外してしまえば、アルフィンをすぐ船室のベッドに押し倒してもいい。けれどもそれを必死で耐える。
     多少の妄想、焦りは許して欲しい。それがジョウの内なる願い。
     そして。
     ここまでにジョウを溺れさせたアルフィンにも、少しは責任があるというものだ。


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■72 / inTopicNo.8)  Re[7]: グッドラックをもう一度
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/25(Fri) 11:18:41)
    「わあ、綺麗!」
     タクシーを降りて早々、アルフィンはジョウを置いて、一人で海側へと小走りした。レストランと化した豪華客船が美しい電飾を纏い、海の傍らには、高層ビルが連なるイルミネーションが見事だった。
     星が地上に舞い降りた。そう見間違えても不思議はない。
     海をなぞるように柵が仕切られ、足元はウッドデッキになっている。陸地は短い芝が生い茂り、等間隔で木立が並んでいた。木のそばにベンチも置かれ、すでに多くのカップルが甘い囁きを交わし合っている。
     少し潮風があるのに、ジョウには熱っぽく感じた。
     恋人達の濃密な空気のせいだ。気配に敏感なジョウにとって、かなり照れ臭い場ではある。
     しかしながら、アルフィンは上機嫌だった。柵に身体を預け、アルフィンはその夜景を見入っていた。ジョウはゆっくりとその背後に立ち、軽く咳払いをする。
     このまま横に並ぶ拍子に、アルフィンの肩でも抱いてみようか。そんな想いが過ぎる。
     とはいえ、それをスマートにできるほど、ジョウは手慣れてもいなかった。だから諦めた。
     何よりもまず、アルフィンの存在を最も近くで感じることが先決。結局ジョウは、そのまま柵に腕を掛け、アルフィンと並んだ。
    「ここがコロニーだなんて思えないわね」
    「そうだな。大地も重力も人工だってのに、違和感がない」
    「やっぱり惑星改造とコロニーって違うもの?」
    「俺達のやってることは地均しだからな。全然違うだろ」
     2人の会話。
     何故か上手く、矛先が甘い方向に向かない。
     ここからどうやって、アルフィンとの接触へと流れを変えていけばいいのだろう。ジョウは困惑していた。
     タクシーを降りた時に、ベイエリアに立ち並ぶホテルも確認している。週末ではないのだ。一部屋くらいは楽に空いている筈。できれば部屋からの眺めがいい方が、アルフィンの気も上々のまま持っていける。
     色気のない会話の中で、ジョウの気だけは急いていく。
     もうここまでくると。哀しいくらいにジョウの頭の中には“それ”しかなかった。
    「あら、あれ何かしら」
     アルフィンが右方を見る。ウッドデッキの上を、一台のワゴンがのろのろと動いていた。照明に照らされた看板から、ジャンクフードの類に見えた。
    「きっとここで、あれを食べるのが定番なのね」
    「俺はいい。飯を食ってきたばかりだ」
    「じゃ、ちょっと待ってて」
     そう言い残すと、アルフィンはワゴンに向かっていった。
     ベイエリアの誘い出しは、大当たりもいいところだ。おかげでアルフィンがはしゃぎすぎて、なかなかそういうムードになりにくい。
     ジョウは一人考えた。こんなことなら、少しは羽目を外して遊んでおけばよかった。男の処世術も学んでおけば。タロスの言う、刈り取られた青春。それはこのことかもしれない。まだ19才の癖に、少し年寄りじみた気分にもなった。
     やがてアルフィンが、片手にバーのような物を手にして戻る。そしてジョウの目の前にそれをかざした。
    「マシマロにチョコレートがかかったお菓子みたいよ」
    「へえ」
     アルフィンの小さな唇が、それにかぶりついた。
     マシマロが暖かいのか、とろりと糸を伸ばす。
    「あん……」
     アルフィンは唇と舌先を器用に使い、伸びた糸をうまく引き入れた。ジョウはついその口元を凝視してしまう。熱いうねりが身体の中で起こった。飲み込まれそうにもなる。たまらない、その唇が。刺激が強すぎて、ジョウは顔を横に向けた。
     荒れ狂う衝動を抑えるため、柵に身体を乗り出す。潮風に身体を冷まして欲しかった。そしてアルフィンに見えないよう、深いため息もついた。
    「なかなか、いけるわよ、これ」
     アルフィンは食べかけのスティックをジョウに差し出した。しかしジョウが欲しい物はそれではない。この歯形を残したものだ。
    「いや、俺はいい」
    「そう」


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■73 / inTopicNo.9)  Re[8]: グッドラックをもう一度
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/25(Fri) 11:19:40)
     黒い欲望を抑えるのに必死で、徐々にジョウの態度が堅くなってきた。無言の時間が増えていく。アルフィンはそんなジョウの気を、知ってか知らずか。一人で菓子を食べ尽くした。
    「えっと、ダストボックスは……」
     アルフィンが芝生の方を見回した。スティックを捨てるために。するとダストボックスは、空いたベンチ脇に置かれていた。
     また小走りにジョウの元から離れる。
     しかし今度は。
     ジョウもそれを追った。大股で、少し足早にして。
     アルフィンがダストボックスにスティックを捨てると、くるりとむき直す。そこは丁度立ち木の陰で、だから影が濃いのかと思った。
     しかし違った。
     影の主はジョウだった。無表情のままアルフィンを見下ろしている。
    「……ど、どうしたの? 怖い顔して」
     何も応えず、ジョウの両腕がアルフィンの肩を掴んだ。
    「えっ……」
     そしてそのまま、木立にまで一気に圧していく。アルフィンの背に、どすんと木の感触が伝わった。
    「ジョ……ジョウ?」
     アルフィンは何度も瞬きをし、面もちを上げた。
     ジョウはその細い身体を抑えつけながら、軽くかぶりを振り、俯く。激流のように流れる血液が、動悸が、ジョウの耳朶をうるさいくらいに打つ。

     一呼吸をすると、ジョウは言葉を発した。抑揚の消えた、低い声で。
    「……泊まらないか」
    「え?」
    「今夜は、2人でここに泊まらないか」
     アルフィンは何も応えない。その視線をジョウの胸元へと降ろす。
     怯えているというよりは、返答に困っている様子だった。だがジョウはもう待ちきれない。アルフィンの肩を掴む手にも、一層力がこもった。
    「……パンドーラ以来何もないってのは、不安になるもんだな」
    「ジョウ……」
    「あの日アルフィンは結局、流されただけなのか。そんな余計なことを勘ぐっちまう」
     アルフィンは伏し目がちながらも、目線を少し泳がせた。
    「そんな……」
     うっすらと頬が上気しはじめていることを、アルフィンは感じた。
    「何とも思ってなくて、あんなこと。できる訳……ないじゃない」
     あの熱く、めくるめく夜を思い出した。
     言葉の端々に恥じらいが見え隠れしている。
    「けど俺には避けられてる気がする。……今ここでも」
    「それは……」
     アルフィンは口ごもった。
     だんだんとジョウは、感情の歯車がおかしくなってきた。じらされすぎたせいで、アルフィンを理解する気持ちより、苛立ちが募っていく。
     最初は、久しぶりの誘いかけに、アルフィンは照れているだけかと思った。一度は関係を持った間柄である。これだけジョウがはっきりと告げているのだから、飛び込んできてくれてもいい筈だ。
     それがない。だから余計におかしい。
     言葉では拒否せずとも、何かが違う。ジョウはしっかりとそれを嗅ぎ取った。関係を持つ前でも、アルフィンはよく自分にしがみついて来ていたのだ。うやむやな目の前の態度は妙でもある。
     だが、思い当たるとすれば。
     ジョウは勇気を振り絞って問いかけた。
    「抱かれて、俺が嫌になったとか……」
     そしてジョウは、アルフィンの身体により身を密着させた。木とジョウに挟まれた状態で、アルフィンはもう身動きがとれないでいる。
     小さな肩が、小刻みに上下し始めた。アルフィンの緊張がジョウの胸元に伝わる。それがまた、ジョウの胸を疼かせた。
     そしてアルフィンは、ゆっくりと顎を上げた。
     少し困った表情ながらも、首を横に振った。
    「嫌になんてなる訳ないわ。……もっともっと好きよ。ジョウ」
     その言葉に、ジョウの不安は吹き飛んだ。
     両の腕がアルフィンの肩から滑り、そのまま細い上体をきつく抱きしめた。自分の頬に痛いくらい、アルフィンの額を押しつけながら。
     久しぶりの華奢な感触。ジョウの腕の中にやっと戻ってきてくれた。その感激が黒い衝動を突き上げていく。
     もう止まらない。止められない。
     そしてジョウはそのまま、熱にでもうかされたようにアルフィンの唇を奪った。

     じん、と。頭の奥が痺れた。
     ゆっくりと開かれていく柔らかな唇。それを吸い、舌先でまさぐりながらこじ開けていく。
     全身をずきずきと衝動が駆けめぐる。ジョウを狂わせて、陥れていく甘い刺激。そして、アルフィンの唇は本当に甘かった。さっき食べたジャンクフードのせいだ。ジョウはそれが消えるまで、深く差し込んだ舌先で堪能し続けた。
    「……ん」
     ジョウの止めどない愛撫に、アルフィンの声が漏れた。パンドーラ以来の感触。アルフィンの身体も徐々に火照りだした。容赦なくアルフィンを溶かしていく、生々しいジョウの欲求。胸が熱く高鳴りすぎて、呼吸がとてつもなく苦しくなった。
     あがき、自らジョウの唇を剥がす。
    「……は」
     しかしジョウの顔はまだ目と鼻の先にあった。
    「……ジョウ、ちょっと待って」
    「止めるなよ」
     ジョウは、アルフィンの顔中に口づけの雨を降らせる。ホテルに行くのもまどろっこしい。もう周りを構う余裕は消えた。
     だからジョウはその場で、クラッシュジャケットの胸元に右手を重ねる。その隆起した曲線にくらりと目眩を起こし、ジョウは呻いた。
     柔らかな弾力。無骨な感触のアートフラッシュが、酷く邪魔だ。しかしむしり取る訳にもいかない。もっと素肌に近い感触が欲しい。右手を動かしながらジョウは、ベッドの上でなら木っ端微塵にされてもいいのに。と思った。


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■74 / inTopicNo.10)  Re[9]: グッドラックをもう一度
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/25(Fri) 17:20:15)
    「ね、待って……」
    「アルフィン……」
    「と、泊まってもいいのよ。泊まってもいいんだけど……」
     ジョウはやっと、しつこいくらいのまとわり方を止める。やっとアルフィンから正式なオッケイが出た。
     あまりの嬉しさに、アルフィンの顔をぎゅっと胸に抱き寄せる。願いが叶うと分かると、性急過ぎた自分の態度に罪悪感が過ぎる。
    「……すまない」
     アルフィンの頭の上で、またジョウの深い吐息が漏れた。
    「……なんか、脅迫めいてたな」
     素直な感想だった。
     そしてアルフィンは戸惑いながら唇を開く。少し距離を置いていた理由を語るためでもあった。
    「あ、あのね」
     ジョウは聞き耳を立てる。
    「……あたし今日、アスピリンを飲んでるのよ」
     アスピリン?
     ジョウはその単語の意味がよく飲み込めず、アルフィンを胸から離した。そして探るような目つきで、碧眼を覗き込む。
    「調子が悪いのか?」
    「鈍いわね……。元気は元気よ。ただ、その……」
     ジョウは、アルフィンが時々アスピリンを飲用しているのを知っていた。その理由も確か、知っていたような気がする。だがジョウの本能が抗っていた。
     思い出したくない事実。
     今この場で理解したくない事実。
     しかし。
     哀しいかな、ジョウは分かってしまった。
    「あ……あれか?」
     アルフィンはもじもじすると、こくんと頷いた。
    「……午後からずっと、お腹が痛かったの」
     落胆。
     大いに落胆。
     ジョウは一気に奈落の底へと突き落とされた。
     どうすればいい。ここまで盛り上がった衝動、抑えきれない欲望。一体何に当たればいいというのだろうか。
     足元がふらつき、ジョウはそのままがっくりと芝生に座り込んだ。
    「大丈夫……? ジョウ」
     アルフィンもしゃがみこむと、ジョウの虚ろな表情を気の毒そうに見つめた。
     きっと今夜あたり、ジョウは迫ってくるだろう。アルフィンも勘づいていた。
     <ミネルバ>では努めていつも通りに接してはいたが、時折ジョウの、我慢を張りつめた気を察していたのだ。そしてアルフィン自身も、一度知ったジョウの温もりを求めてもいた。
     月ものが少し遅れてくれることを願ったものの、空しくも、前回に続き規則正しく訪れた。ジョウと関係を持ってから、ホルモンバランスがいいのか。以前は予定日を前後していたというのに、ここ最近は、指折り通りきっちり来る。
     だからアルフィンは少し距離を置きたかった。
     ジョウをどれだけ悲しませるかを分かっていただけに。
    「ごめんね……。期待させちゃって」
    「いや、それは……」
     ジョウは大きなため息をつく。なんてことだ、と神を呪った。さっきまでは神にあれほど感謝したというのに。しかしこの事実を知って、内心少し安心もしていた。
     なにせパンドーラでは、そのまま放出してしまった。実のところ、ジョウはずっと気になっていた。アルフィンの身体に異変がないかと。しかしあえて聞く勇気も持てず、今日までずるずるしていた。
     それが今日分かった。
     的は外れていた。
     不安が拭えただけでも、良かったと思うしかなさそうだ。そう自分に言い聞かせる。
    「ねえ、それでも今夜泊まる?」
     ジョウを思いやるように、気づかうように、やんわりと切り出した。
     とはいえ。
     抱けないからといって、<ミネルバ>に戻ろうとはジョウには言えなかった。というより、そんな風にアルフィンを扱う自分は許せない。正直、何も手出しできずに2人きりで夜を過ごすのは、とてつもない拷問だ。
     けれどもジョウは。
     自分を痛めつけても、アルフィンが喜ぶ方法を選ぶ。何せそれが一番正しいからだ。
     見晴らしのいい、小洒落たホテルで、アルフィンを喜ばせてやりたいという気もあった。また明日から暫く、仕事が立て続けるのである。気晴らしも必要だ。恋人サービスを渋るようでは、男の風上にも置けないというもの。
    「……俺が、そんなにがっついてるように見えるか」
     ジョウは苦笑いを浮かべながら、アルフィンに訊く。
     しかしアルフィンは応えなかった。うん、ちょっと。とは思っていたとしても。
    「いいさ、折角来たんだ。泊まって羽を伸ばそうぜ」
    「ジョウ……」
     アルフィンは嬉しさがこみ上げた。
     そんなジョウの大きな優しさ、深い思いやりが、嬉しくてたまらない。
    「ありがとうジョウ! 今度ね、今度。きっとよ」
     元王女らしからぬ、誘惑たっぷりの大胆な発言。
     そしてジョウの首に、細い腕を回して抱きついた。
    「……言ってくれるねえ、嬉しいこと」
     ジョウはその身体を抱き留め、金髪を撫でてやった。
     だが内心。ああまたしばらくお預けか。俺はあとどれくらい耐えられるんだろう。とぼやいている。
     ジョウはアルフィンに抱きつかれた状態で、胸の中で悔しさが渦巻いていた。


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■75 / inTopicNo.11)  Re[10]: グッドラックをもう一度
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/25(Fri) 17:21:18)
    「うー……、いてててて」
     <ミネルバ>に戻った早々、タロスはすぐにキッチンへと向かう。調子に乗りすぎて、飲み過ぎた。 リッキーが賭ダーツに結局負けて、3人の女の子にたかられたのだ。まだ若いというのに、いや若いせいか、地酒のペル酒に慣れた小娘達は、しこたま強かった。
     リッキーも競って飲んだが、もともとまだアルコールに慣れていない子供である。結局朝まで飲みにつき合ったのはタロス一人。
     明け方早々、潰れたリッキーを担いでカプセルホテルへと逃げ込み、仮眠を取った。そして猛烈な頭痛と酔い戻しを抱えたまま、昼頃に<ミネルバ>へとよたよた辿り着いたのだった。
     リッキーも少々二日酔いを煩ってはいるが、新陳代謝がいいせいで抜けるのも早い。早速リビングに直行し、ランチと決め込んでいた。
    「今日は何も食えそうにねえなあ」
     そう一人ごちながら、タロスはキッチンの棚にある薬箱を出した。久しぶりの強烈な頭痛。少しでも早く解放されたかった。
    「……畜生。切れてやがる」
     アスピリンの箱がなかった。
     するとタロスの背後に、アルフィンが現れた。
    「大丈夫? タロス」
     振り返りざまに驚いた。表情がきらきらと輝いているアルフィンの姿に。
     妙に緊張してしまうタロスだった。何せ昨夜、ジョウと一緒に過ごせるよう仕組んだのだ。些か悪趣味とはいえ、若くて愛らしい少女とのお楽しみが脳裏を過ぎってしまうのも無理はない。
     だがタロスはいい大人だった。
     それを顔にも口にも、出しはしない。
    「……ちったあ、年を考えて飲まねえとな。いい教訓になった」
     そう戯けてみせた。
    「何探してるの?」
     アルフィンがタロスの横から、手元を覗き見る。
    「アスピリンだ。参った」
     アルフィンの手が、口元に当てられた。
    「……あ、ごめん。あたし昨日最後の、飲んじゃったの」
    「そうですかい。じゃあ、胃薬で我慢するしかねえか」
    「後であたし、買い足しておくわ」
    「そりゃ、すまねえ。助かる」
    「ううん、あたしもないと不安だし」
     というと、ウインクを残してアルフィンは立ち去っていった。愛らしい仕草。まったくジョウもいい娘を捕まえたもんだ。色々と問題はあるが。と、タロスは満足げだった。

     しかし。
     ふとアルフィンの発言が、頭の隅に引っ掛かる。
    「昨日……、アスピリン?」
     二日酔いの脳細胞が、ぎしぎしと音を立てて働く。そしてようやく思い当たることに行き着いた。タロスも知っていた。アルフィンがアスピリンを飲用する理由を。
    「おいおい……そりゃねえだろ」
     すぐに胃薬を流し込むと、タロスは即刻リビングへと向かった。歩くたびに頭に響くが、ジョウの様子が気になって仕方がない。
     ややあって、リビングにたどり着いた。リッキーがこちらを向き、ランチのバーガーをむしゃむしゃ頬ばっている。
     むか、と気持ち悪さがこみ上げた。
     人が食べている姿、そして食べ物の匂いだけでも、胸焼けがする。タロスは腹部をその大きな手で撫でつけた。そして視線は、ジョウの姿を捕まえた。
     ジョウはソファに座り、背を向け、テレビモニタを見ているようだった。
     タロスはゆっくりと、横から回り込む。
     そして、その顔を見て、ごくりと息を飲んだ。
    「……タロスか。お疲れ」
    「ジョウ……」
     一目で、まともな睡眠が取れていないことが分かった。くまがかった目元、肌色もいまひとつ冴えない。ぐったりと疲れた様子のジョウである。
    「タイミングがちいっと、悪かったみたいですねえ……」
     そう、ぼそりと訊いた。
     リッキーに聞こえないよう配慮しつつ。
    「駄目だなあ……。気が高ぶっちまって、こっちは朝までテレビ漬けだ」
     はあ、と大きな溜息をつく。
     昨日よりもより一層濃く、重々しい吐息だった。
    「で、外には出られたんですかい?」
    「……ああ、気分転換にな。喜んではくれた」
    「確かに。今日はまたご機嫌がよろしいようで……」
    「ぐっすり寝てたもんなあ」
     寂しいから、折角の機会なんだからと。アルフィンが一緒のベッドで眠ることをせがんだ。ジョウは下手に紳士を装ってしまった状況ゆえ、アルフィンの我が儘を受け入れるしかなかった。
     やはり体調が今ひとつだったせいか。アルフィンは、その細い指達をジョウの指に絡ませながらすぐに寝入った。警戒を一切解いた、無防備な顔で。
     口づけくらいはいいのだろうが、それをベッドの上でやるとなると、完全に歯止めが利かなくなる。さすがにそれは避けたい。だからジョウはただアルフィンの手を握り、弄ぶだけに留めた。
     辛い、一夜だった。
    「お察ししますぜ、ジョウ」
     タロスの表情が、酷く気の毒がっていた。
    「悪夢はまだ、この先続くんだぜ……」
     今後しばらく、仕事詰めの毎日。休暇がどれくらい先なのか。分かっていても思い出したくない。やがて訪れる休暇という名のゴール。けれども先過ぎて、考えたくないのだ。眩暈が起きそうである。
     すでにもうこんな状況で、本当に自分は戒律を守りきれるのだろうか。不安がより大きく広がる。
     けれども、どうにもならない。どうにもできない。
     あとは無心に働き、ひたすら休暇を待つしかなさそうだ。
    「気味悪いなあ。2人でこそこそ話なんかしちゃってさ」
     リッキーの言葉に、タロスがぎろりと睨む。
    「……ろくにねーちゃんもくどけねえガキが、しゃしゃり出てくんじゃねえ」
     押し殺したような口調。
     逆に復活しかけたリッキーの声は、張りがあった。
    「あんだよお! タロスだって一緒に飲めておこぼれ預かったくせに!」
     キーンとタロスの頭を貫通する。
    「あだだだだ………」
     そしてガンガンと、タロスはもんどり打つほど苦みだした。
     珍しくリッキーが言い合いに勝った。鼻息も荒くなる。
    「へん! なっさけねえよなあ」
    「てめえ……後で覚えてやがれ。……くぅ」
     タロスの口調は、そろりそろりと紡がれた。復活した後の、リッキーの身の安全が心配ではあるが。
     そして。
     ソファに身を預けたジョウは、虚ろな瞳でぼんやりと考えていた。
     唇に残された感触を、指先でなぞり思い出す。昨夜のアルフィンの唇が、とてつもなく甘かったことを。自分の唇が溶けてしまうくらいに甘かった。そしてその回想は容赦なく、ジョウの若い身体を皮膚の下で蝕んでいく。
     だが、この溜まりに溜まった欲求は、ただひたすら耐えるしかないのだ。どんなに神に祈ろうと、その事実は変わりはしない。
     そして関係を持つ前も、持った後も、アルフィンに振り回されている。下手に快感を知ってしまったばかりに、今の方が状況としては苦しいかもしれない。とも過ぎった。
     思いきり抱ける日が訪れるまで、ジョウに与えられたもの。アルフィンの柔らかく温かな唇の感触。
     ただそれだけだった。


    <END>
     

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■76 / inTopicNo.12)  Re[11]: グッドラックをもう一度
□投稿者/ まぁじ -(2002/10/25(Fri) 17:26:41)
    <あとがき>

    嗚呼、また聞こえてきそう・・・お叱りの声が(^^;)。
    まあ長い人生、
    「人間、伸びる前には縮むもの」と、どこぞの栄養ドリンクのごとく、
    ぼちぼちやっていこうかしらん、と。
    とはいえ「縮みっぱなし」ではお気の毒なので、次は・・・(ぼそ)。
fin.
引用返信 削除キー/



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