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Re[1]: Dreams come true
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□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:24:25)
| ■No1154に投稿(舞妓さんの小説)
「…と、言うわけだ。だから、俺だけ行ってくる。休暇はまだ一週間残ってるんだ。ゆっくり休んでてくれ」 3人はどういう反応をしたらいいのか、戸惑っているように顔を見合わせた。 休暇は勿論惜しい。 しかし、病気の少年のたっての願いとあれば、無下に断るわけにもいかないし、何とかしてあげたいという気持にもなってくる。 「タキならここから2回のワープで着きますな」 「そうだ。まあ明日か明後日には、戻ってくるさ」 「おいら、行ってもいいよ、兄貴」 「バカ。お前が行ってもその子の励みになるかよ。クラッシャーに幻滅するだけだ」 タロスがまぜっかえした。 「何だと!タロスこそ…」 「あたし、行くわ」 噛み付こうとしたリッキーの言葉をさえぎって、アルフィンが言った。 「何?」 ジョウが驚いて、アルフィンを見た。 「あたしも、行くわ。って言ったの」 アルフィンは涼しい顔をしている。 「だって、ジョウがいない間つまんないもの。その子がジョウだけに会えればいいんなら、あたしはミネルバで待ってる。とにかく、ここに留守番は、イヤなの。」 愛らしく笑うアルフィンの天使のような言葉に、男三人は固まった。 それぞれが、それぞれの頭の中で、同じことを考える。 (えーと、それは、兄貴とアルフィンが少なくとも一泊は二人きりになるっていうことで…) (まあこういう機会でもないと、ジョウは踏み込まないだろうしな…) (まずい、それだけはまずい、それだけは避けないと…) ジョウ、リッキー、タロスの視線が戦闘中のように瞬時に鋭く交差した。 「じゃあ、皆で行こう」 「あっしは遠慮します」 「おいらやっぱり無理」 三人の言葉が重なった。 タロスとリッキーが以心伝心で同時ににやりと笑い、ジョウは奥歯を噛んだ。 (こ、こいつら…!) 「あっしは腕の到着を待たないといけませんし」 タロスは左腕をドルロイにメンテナンスに出していて、今ついている腕は仮の腕だった。 「おいらはー、今日女の子と会う約束があるんだー」 いつもならタロスが絶対に突っ込むところだが、タロスは明後日の方向を向いて知らん顔をしている。 「あら、リッキーやるじゃない!」 何も知らずにアルフィンはリッキーを誉めた。 ジョウは呆然と、今起こったコントのような一幕を呪った。 「さ、ジョウ、早く行きましょ。」 アルフィンがさっさと立ち上がり、ジョウを引きずるようにして出発の準備をしに、リビングルームから出て行った。 「じゃーねー、兄貴」 「よろしくお願いしますよ」 朗らかに手を振る二人に向かって、ジョウは中指を立てた。
宇宙港に向かうエアカーの中で、アルフィンはご機嫌に鼻歌を歌っていた。 「ずいぶんご機嫌だな」 ジョウは隣のアルフィンに話しかけた。 「だって、ジョウと二人でミネルバでお出かけなんて、始めてじゃない?しかも仕事じゃないのよ!」 アルフィンは無邪気に喜んでいる。 「仕事じゃないが、大事な用がある」 「それも、ジョウだけでしょ。あたしはただのお供!」 気楽に笑い、右に座るアルフィンのミニスカートからすらりと伸びた足が、組み替えられた。ジョウは慌てて目を逸らす。 アルフィンは、日常を自分と普通に過ごしているという環境からか、どうも一般的な感覚が麻痺しているのではないか、とジョウは思った。 こうやって、二人きりで過ごすことになる、と分かっている今でも、アルフィンは全くいつもと変わらず動じない。 それも、態度をうやむやにしている自分の咎か。 本音を言えば、初めて会った時からアルフィンを愛しているし、総て自分のものにしたいと思うことなどそれこそ日常だ。 それなのに、この妙に「信用されている」という現状。 「…」 「あらなあに、ため息なんかついちゃって」 「いや別に」 「何よ。白状しなさいよ」 アルフィンは珍しく腹も立てず、笑いながらジョウのほっぺたを人差し指でつんつんとつついた。ジョウは笑って、そのアルフィンの右手を左手で握った。手をつないだまま、エアカーは宇宙港へと走っていった。
ジョウは「アルフィンと二人」ということばかりに気を取られ、 アルフィンは遠足気分で。 二人とも、この後起こる衝撃のことなど、知る由も無い。
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