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No1156 の記事


■1156 / )  Re[2]: Dreams come true
□投稿者/ 舞妓 -(2006/06/17(Sat) 23:26:27)
    No1155に投稿(舞妓さんの小説)

    ディロンの首都タキの宇宙港に着き、とりあえずアルフィンはミネルバに残して、ジョウは一人で入国手続きをしてそのまま港内のカフェに行った。約束どおり「ドリームズ・カム・トゥルー」のコーディネーターが待っていた。
    「始めまして、クラッシャージョウさんですね。私はジョーンズと申します」
    40代と思しき、恰幅のいい女性が挨拶をした。隣に、30代くらいの物腰の柔らかそうな男性が座っている。
    「お忙しい中、ご協力いただきまして感謝いたします。早速ですが、お話は、聞かれていますか」
    「ええ、大体は。評議会から送られたデータを見ました。少年は、ジミー・グラント君ですね。10歳」
    ジョウはコーヒーを飲みながら答えた。
    「はい。そしてこちらは、今回会っていただく少年のお父様、アーサー・グラント氏です」
    ジョウは、はっとしてその男性を見た。
    父親。
    「ジョウさん、お忙しい中、時間を割いていただいて本当にありがとうございます」
    グラントは真摯な目でジョウを見て、握手を求めた。
    ジョウは気を入れ替えて、しっかりとグラントと握手をした。
    死を目の前にした少年の父親。
    浮ついてなどいられなかった。
    グラントは、ブロンドにグレーの目をした、紳士だった。が、心労が顔ににじんでいる。
    「ジミーは、ロイス骨腫です」
    グラントは静かに言った。
    「ロイス骨腫…」
    聞いたことがない。
    「極めて稀な難病です。全身の骨が一斉に、悪性のいわゆるガンに侵されます。人工臓器と入れ替えれば、とお思いになるかもしれませんね。ガンなんてもう死の病ではないと。しかし、そうではありません。成長期の少年の骨格を総て改造など、不可能です。若年で発病した場合特に進行が早く、すでに内臓にも転移していました。手は尽くしました。できる手術も全てやりました。しかし、もう彼に残された時間は数ヶ月です。どうか、ジミーの願いを叶えてやって下さい」
    あまりにも静かな言葉だった。静かな故に、グラントの悲しみと覚悟が痛いほどに分かる。
    「わかりました。俺にできることなら、何でもしましょう」
    ジョウも静かに言った。

    「それでは」
    ジョーンズが言った。
    「クラッシャー評議会からご説明があったとは思いますが、確認の意味でもう一度。この件について、全ての行動はグラント氏の承諾の元に行ってください。故意で無く万が一ジミーの生命が危険にさらされるまたは生命が失われる事態に陥ったとしても、グラント氏はジョウさんに損害賠償など請求することはできません。そして、グラント氏は緊急の事態に備えて、緊急医療を施すことの出来る環境を常に保持して下さい。」
    「分かりました」
    「了解」
    「双方でご承諾いただければ、こちらにサインを。」
    ジョウとグラントは書類にサインし、分厚いファイルを双方が受け取った。
    「では、私はこれで。大体のスケジュールなどはグラント氏からうかがっています。もし、大幅に変更がありましたら、ご連絡下さい。」
    ジョーンズは去っていった。
    「さて…」
    グラントが立ち上がった。
    「よろしいですか。ジミーは、家にいます。」

    グラントのエアカーに乗って、宇宙港から市内へ向かった。
    「ジミーの体調次第なのですが、一応今日、明日の二日間ほど、ジミーに付き合っていただけると嬉しいのですが」
    「ええ。我々は、標準時間で一週間後に次の仕事が入ってるんで、時間的にもそれが限度ですね」
    「はい。本当に、あなたに会えるなんて奇跡ですよ。クラッシャージョウのチームは、クラッシャーの中で最も忙しいとか。ジミーは、本当に喜んでいます。本当に会えるなんて、思わなかったって」
    グラントは、控えめに喜びを表した。
    「そんなに有難がっていただけるほどの人間じゃないですよ」
    ジョウは、こうやって持ち上げられるのが苦手だが、グラントの言い方は全く嫌味がなく、かえってわが身を素に戻って振り返ってしまうような気になった。不思議な魅力のある男性だった。
    「ジョウさんは、19歳と聞いてますが、本当ですか」
    ジョウは思わず笑ってしまった。通常なら、ジョウは年のことを言われるのはもっとも嫌うことの一つだ。
    「19ですよ。何でですか」
    「いや、とても19歳とは思えなくて…なんというか、経験に裏づけされた自信というか貫禄というか…。自分が19のときなんて何をやっていたんだか」
    グラントは恥じ入るように笑った。
    「あなたはきっと、我々には考えも及ばないような経験を…そう、生か死かが紙一重で入り混じるところを、生き抜いてこられたのでしょうね。その若さで」
    生か死か。
    グラントはその時、ふと「悲しくてたまらない」という表情をした。その横顔を見てしまったジョウは、何を言えばいいのか分からなくなり、口をつぐんだ。
    「すいません」
    グラントは、そのジョウの気持を察して明るく言った。
    「あなたに会えて本当によかった。あなたのように強くて…そして優しい方に会えれば、ジミーも必ず元気が出るでしょう。あと10分で家に着きますよ」

    ジョウは流れる景色を見ながら、ジミーという少年のことを考えた。わずか10歳で、死に直面している少年。
    10歳、自分はクラッシャーになって最初の頃だ。希望でいっぱいだった。無限の宇宙に、無限の未来があるとさえ思えた。死は、常に身近にあったけれど、自分の力で遠ざけることができるものだった。
    しかし、ジミーは違う。病は、ジミーの意思とは関係なしに身体を蝕む。10歳という年齢で、死を前にして生きていく事を考えると、それだけで胸の奥が苦しくなった。
    しかし、ジミーが頑張って生きていけるのは、きっとこの父親のおかげだろう、とジョウは思った。温かく、愛情に溢れた父親であろうことが、すぐに分かる。
    ジョウは、ふと、ダンのことを考えた。
    そして、ジミーのことを少しだけ、羨ましく思った。

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