| 次の日の朝。 運命の女神は俺を見放さなかった。 俺は、元の体に戻っていた。 データを持って、タロスとリッキーが、もうすぐホテルに到着する。 だが、それは用無しになってしまった。 教授が、論文発表を断念したのだ。 教授の部屋で、俺達はソファに座って話をしていた。
「本当にいいの、教授?」 アルフィンが、訊いた。 「ああ・・・これで、いいんじゃよ。人は年を取って、老いていく。これは、自然の摂理じゃ。無理やり、若さに取りすがっても、それは幸せなことじゃない」 「教授・・・」 「それを教えてくれたのは、アルフィン。あんたじゃよ」 教授が、おどけてアルフィンにウィンクした。
「そうじゃ、アルフィン。すまんが、仕事を頼まれてやってくれんか」 「はい、はい。資料をもらってくるのね」 立ち上がろうとしたアルフィンを、教授が制した。
「今日は、わしが行って来るから、ハルに・・、じゃなくて、ジョウにおいしいお茶でも入れてやってくれ」 そう言うと、教授は部屋を出て行った。
俺とアルフィン二人きりになった。 「悪かったな、アルフィン。3日間、留守にして」 俺は、今日の朝早くに、戻ってきた事になっている。 「ううん。それより、お父さんの具合はどうだったの?」 「え?あー・・・うん。もう、すっかり、いいみたいだ」 「病気だったの?」 「いや・・・えっと・・・ぎっくり腰だ」 「ぎっくり腰?」 びっくりしたようにアルフィンが言った。 「ああ。親父も、恥ずかしいみたいで、内緒にして欲しいようなんだが・・・・」 「わかった。今回のことは、誰にも言わない。あたしとジョウの秘密ね」 嬉しそうに、アルフィンが言った。 俺は、罪悪感を覚えながらも、内心胸をなでおろした。
「でも、ハルも冷たいわね。お別れも言わないで、行っちゃうなんて・・・」 恨めしそうに、アルフィンが言った。 「すまん・・・ハルの父親の仕事の都合が早まったんだ」 俺は、そうアルフィンに言い訳した。 「でも、ハルがよろしくって言ってた。アルフィンには、とっても世話になったからって」 その言葉に、アルフィンが嬉しそうな表情になった。 「また、会えるかしら?」 その質問に、俺はドキリとした。 「そうだな・・・」 その時、ジョウの通信機にジェイクから連絡が入った。 「インフォメーションセンターの近くで、ロマーノが迷子になってる。保護しといてやるから、受け取りに来い」 二人は、顔を見合わせ笑った。そして、依頼人を迎えに行くため、部屋を後にした。
インフォメーションセンター側、ウエィテングコーナーのソファに、教授とジェイクが座っていた。 「おお、すまん。ジョウ、アルフィン。うっかり、迷ってしまってな」 そう言って、豪快に教授が笑い出した。
俺とアルフィンも、ソファに座った。 「もう、びっくりさせないでよ、教授」 アルフィンが軽く教授を睨んだ。 それを見て、ジェイクが言った。 「おい、アルフィン。お前、目じりに皺が出来てるぞ!」 「えええーー!!」 アルフィンが悲鳴をあげた。 「ちょ・・ちょっと、化粧室で見てくる」 慌てた様子で、駆け出した。
俺は、あっけに取られて、それを見ていた。 「なんだよ・・・皺が出来ても、気にならないんじゃなかったのか?」 とぼけた調子で、ジェイクが言った。 こいつ、アルフィンをひっかけたな。 ジェイクの嘘を間に受け、走っていくアルフィンに、俺は思わず笑い出した。 つられて教授とジェイクも笑い出した。 ウエィティングコーナーに、俺達の笑い声が響いた。
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