| エギルの部屋を一足先に出たダーナとベスは、評議会総本部ビルの地下駐車場へとやってきた。 そこに、レンタル契約してあるエアカーを止めてある。 二人は、これから郊外にある、自分達の家に帰るところだった。 競技会の開催に合わせて、ダーナのチームは三週間の休暇に入る。その間、家に戻り、父のもとで過ごすつもりだった。
長期で休暇をとるため、仕事は分刻みの正確さでこなしてきた。緊張を強いる仕事だった。 それは、ひとえにチームリーダーのダーナに比重がかかった。 ルーに頼ることもできたが、自分は姉でありチームリーダーであるというプライドが、それを許さなかった。 ダーナは疲れきっていた。明日から、始まる競技会のために、少しでも休息を取りたい。 そして、それは、ルーとベスも同じ気持ちだった。
ダーナとベスは、エアカーに乗り込んだ。運転席にダーナ、隣の助手席にベス。 二人を乗せたエアカーは、軽やかに発進すると、地下駐車場を出て、明るい日差しが降り注ぐ、一般道に出た。 目的地をセットし、操縦をオートマティックモードに切り替えた。 「ふー」自然と溜息が、ダーナの口から漏れた。 「大丈夫、おーねえちゃん?」心配そうにベスがダーナを見た。 「ええ。さっき、お父様のところで少し休んだから」 ダーナが、無理やり笑顔を作った。
「そういえば、さっきお父様のところで会った、あのアベルって人、男の割りに気の利く人だったね」 思い出したようにベスが言った。 その言葉に、ダーナは、父エギルの部屋での騒動を思い出した。
父の部屋で、ダーナ、ルー、ベスがくつろいでいたとき、クラッシャーマーカスのチームが、挨拶にやってきた。 お茶を運んできた、職員のマーサがアベルをみて、うっかりカップを割ってしまったのだ。 すかさず、アベルという、あの優男が片づけを手伝い、率先して、自分達にコーヒーを配った。 ダーナは、ああ言うタイプの男は嫌いだった。なんとなく、虫が好かない。
そんなことを、考えているうちに、バイパスに入った。 市内に向かうのとは逆方向に走っているせいか、車の数はそう多くない。 なんだか、瞼が重くなってきた。 ダーナは、あくびを一つすると、目を閉じた。
どれくらい寝ていたのか、顔に当る風を受け、ふっとダーナが目を開けた。 その時、とんでもないものが目に飛び込んできた。 大きなコンクリートの壁だ。ダーナとベスの乗るエアカーがコースを外れ、物凄いスピードで、道路わきの大きなコンクリートの壁に突っ込んでいく。
慌ててブレーキを踏んだ。が、減速しない。操縦レバーもいうことをきかない。 隣の助手席を見ると、ベスがすやすやと寝息を立てて寝ている。 一瞬の猶予もない!ダーナはベスを抱えて、エアカーを飛び出した。 次の瞬間、エアカーがコンクリートの壁に激突し、爆発した。 爆風にふわりと二人の体が浮いた、と思った瞬間、道路に叩きつけられた。 物凄い衝撃が二人の体を貫いた。
「うっ・・」うめき声をあげ、ベスが目を開けた。 割れた額から血が流れ出して、目に入った。 視界が真っ赤になった。 「おーねえちゃん?」 なにがあったの?ベスは、そう言いたかった。
だが、ダーナは、自分の横でぴくりとも動かない。 ベスは震えた。 「お・・・おーねちゃん?」 そして、血溜りの中、あらぬ方向にむいているダーナの右腕をみて、ベスが絶叫した。 遠くから、サイレンの音が響いてきた。
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