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■108 / inTopicNo.1)  Hot vacation
  
□投稿者/ りこ -(2002/06/07(Fri) 18:24:23)
    「みてよこの荷物!だからジョウにもついてきて欲しかったのに!!」
    手に大荷物を抱え部屋に帰ってきたアルフィンが、デッキテラスのチェアーでウトウトとまどろんでいたジョウの眠りを妨げた。

    3ヶ月ぶりの久々のオフになったクラッシャージョウのチームは、海洋リゾート惑星でオフを楽しむために昨夜からこのホテルに宿泊していた。
    しかし手頃なホテルが見つからなかった為、なんだか思ったよりもゴージャスなホテルに泊まることになってしまった。
    世界中のセレブなどが好んでお忍びで泊まりに来るというこのホテルのコンセプトは「隠れ家的な大人のリゾート空間」
    建物はこの地方独特のバンブーを使い自然に溶け込むように建てられており、室内はテラのアジアという地域の調度品などで整えられていた。
    ホテルといっても大型ホテルではなく、コテージ形式で一棟づつが独立している。
    ジョウ達が宿泊しているこの部屋は水上コテージ形式、そのコテージも隣とはかなりの距離を持って立てられており、本当にちょっとしたお忍びで別荘にでも来たような気分になってくる。
    水上コテージのため、海から直接吹く風がバンブーで建てられたコテージの中をやさしく吹き抜け、とても涼しく心地良い。
    二階建てになっており、一階は広いリビングと2つのシャワールーム。
    デッキテラスからは直接海へ入れる階段がついており、熱帯魚が泳ぐ透明度の高いコバルトブルーの海を思う存分楽しめるようになっている。
    二階は2つのベッドルームになっており、1つは天蓋のついたクイーンサイズの大型ベッドが入った部屋、もうひとつはツインの部屋になっていた。
    いつものカジュアルな大型ホテルとは違ったこの大人の雰囲気のホテルに、ジョウ・タロス・リッキーの男三人は居心地の悪い雰囲気を感じたようだが、アルフィンは大満足だった。
    「まあ、素敵!!本当に大人の隠れ家のようねっ!!」と部屋に入るとすぐに歓声を上げ、当然のように自分は天蓋のついたクイーンサイズのベッドルームを占領した。
    男達三人はツインルームを使うことにし、一番小柄なリッキーはソファーで寝ることになったのだ。

    「あら?タロスとリッキーは?」大荷物を持って暑い中ヒーヒーいいながら帰って来たアルフィンは、帰って来たなり不機嫌に荷物をドサッっとソファーの上に投げ出し、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し一気に飲んで一息つくと、ようやくジョウ一人しかいないことに気が付いた。
    「ああ、二人とも出かけたよ」心地良い眠りからアルフィンの声によって現実に引き戻されたジョウは軽い伸びをした。
    ミネラルウォーターを片手に隣のデッキチェアーに腰掛けたアルフィンを見ると、南国の日差しを浴びた金色の髪がキラキラと光り、海からの心地良い風になびいていた。
    太陽よりもまぶしいものを感じ、ジョウは意味も無くサングラスをかけなおした。
    「ミネルバを修理に出しただろ。思ってたより損傷があったらしく、タロスはメンテナンスに呼ばれて空港に行ったんだ。リッキーはなんだかこの部屋は居心地が悪いと言って、一緒について行ったよ。」と言うと、ジョウはアルフィンが差し出したミネラルウォーターを一飲みした。
    「ふーん。で、ジョウは一人でお昼寝ってわけ?もう、おじさんじゃないんだから、もっとアクティブに遊ぼうよっ!せっかくこんなに素敵な水上コテージなんだし、すぐ下には熱帯魚がいっぱいいるのよっ!ねぇ、泳ごうよお〜」
    「泳ごうって、もう朝から十分泳いだじゃないか、午後からは昼寝だよ」
    朝食が終わるとすぐに、アルフィンはジョウを強引に連れ出し、海に泳ぎに行ったのであった。
    「泳ぐ度に日焼け止めを塗るもんだからすぐに日焼け止めがなくなるんだろ?それにしてもそんなにたくさん日やけ止めを買ってきたのか?」
    アルフィンは無くなった日焼け止めを買うために、ホテルの売店に行っていたのだった。
    「それに日焼け止めを買うだけにしては思ったより時間がかかったじゃないか」
    「日焼け止めだけでこんな荷物になるわけないじゃないっ!ねね、見てよ??」
    大荷物だったため不機嫌だったアルフィンだが、急にうれしそうな顔になり、ジョウの腕をつかみ無理やりデッキチェアから部屋の中へ引きづり込むと、袋からガサガサといろんな物を出して披露しはじめた。
    「ホテルの売店だし、日焼け止めを買うだけだからジョウ達が部屋にいるって言っても、まあいっか、と思って私一人で行ったけど、ここのホテル大きなショッピングモールみたいのがあるのよ!着いたのは昨日の夜だったから暗くて見えなかったのね、きっと。」

    このホテルは一つの島を丸々ホテルにしていた。
    エアカーに乗って30分ほどで一周出来るこの島は、ホテルだけしかない島なのだ。
    目の前にはすぐに海が広がっており、この島の外周をぐるっと囲むようにホテルが立ち並んでいる。
    島の中央には小高い山がそびえ立っている。
    この島に来るにはメインランドから高速ボートに乗ってくるしかない。
    宿泊客に静かな生活をしてもらうため、航空機類の発着は禁止されているのだ。
    そこで、客が不便を感じないように、小さな売店だけでなく、ショッピングモールも併設して建てられたのであった。
    それぞれの部屋からレストラン棟やショッピングモール、フロントへ行く際には専用の小型カートを利用して移動するようになっている。
    アルフィンも当然そのカートを使ってショッピングモールに行ってきた。
    このカートがあったからこそこれだけの大荷物を持って帰ってこられたのだが・・・
    (そうでなければ三人のうちの誰かを必ず呼びつけていたはずである)

    そのショッピングモールもホテルの雰囲気を壊さないように、自然素材をふんだんに生かした作りになっており、人口大理石などでできた、カジュアルなショッピングモールしか見たことのないアルフィンの目には新鮮に映ったったようだ。
    「今回のお休みは長いから、とりあえず日焼け止めは10個買ってきたわ。また足りなくなったら買いに行かなくっちゃ。あとね、お部屋に何もなかったからお菓子もたくさん買ってきたし。それに、なんだかここのホテルすっごく素敵な雰囲気だったから、それに合うように水着も新調しちゃった。お揃いのパレオもいっしょにね。夕食もこのホテルのレストランで食べたいから、その時着ていけるようなリゾート用のワンピースもねっ!その他に新しくビーチ用のサンダルとか・・・」といいながらアルフィンはどんどんショッピングバックの中の物を出して床に広げていく。
    色とりどりの水着(1着どころではなかった!)、パレオ、たくさんのスナック菓子、雑誌、服、サンダル、アクセサリーなどを広げながら説明を続けるアルフィンだったが、そのたくさんの荷物を見て頭がクラクラしてきたジョウは、それ以降のアルフィンの言葉が耳に入ってこなかった。
    「まだまだ見てないお店がいっぱいあるわ。ジョウ、あとで一緒に行こうねっ!」
    「む〜ん...」このコテージの高級な感じには馴染めないながらも、波音しか聞こえない静かな自然環境には心地良さを感じていたジョウは、せっかくのんびり出来るかと思っていたところまたアルフィンの買い物に付き合わなくてはならないのかと思うとゾっとした。
    「ね。ね。新しい水着に着替えてくるから一緒に泳ごう!ねえ、どれがいいかしら?」
    アルフィンは買ってきた数種類の水着を見ながら真剣に悩んでいた。
    「うーん、この赤いのどうかしら?かわいくない??」
    「い、いいんじゃないか・・・」
    「じゃあこれにしよう!日焼け止めを塗って着替えてくるねっ!」
    ジョウがウンと言わないうちに勝手に決めると、アルフィンは二階の部屋へ日焼け止めと選んだ赤い水着を持って駆け上がっていった。
    しばらくジョウは、散乱したアルフィンの荷物の中に埋もれていた。はぁっとため息を着く。
    (それにしてもどうしていつもいつも買い物をして飽きないんだ?女ってみんなこうなのか?)
    と思いつつ、周りのものを見回してみる。
    アルフィンの買ってきた、マイクロビキニタイプやきわどいハイレグカットのワンピースなどさまざまな水着。
    (それにしてもいつも思うんだが、なんで女性用の水着はこんなに小さいんだ!?)
    女性用水着に囲まれ、さらに頭がボーっとしたところに、着替え終わったアルフィンが降りてきた。
    「ねえ?どお?この水着!?」金髪に抜けるように白い肌のアルフィンに、その赤いマイクロビキニが良く似合っていた。
    「どう?似合う?」「う、うん、似合ってるよ」
    テレながらもジョウは不器用にそう言った。
    「良かったぁ。さあ、いこっ!」ニコッっと笑ったアルフィンはジョウの手をつかんだ。
    そんなうれしそうに笑顔を見せるアルフィンを見たジョウも、思わず彼女に笑い返した。
    (もう少しゆっくりしたかったけど、まあいいか)
    デッキテラスに出た二人は、そのままジャンプしてアルフィンの蒼い目と同じように澄んだコバルトブルーの海に飛び込んだ。

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■114 / inTopicNo.2)  Re[1]: Hot vacation
□投稿者/ りこ -(2002/06/09(Sun) 22:00:24)
    コテージから少し泳いでいくともう、そこはサンゴ礁になっていた。
    アルフィンはそこが気に入ったらしく、サンゴ礁の回りで熱帯魚を見るのに夢中だ。
    「お部屋から残ったパンを持ってきちゃった!」そう言うとアルフィンは、熱帯魚に細かくちぎったパンを与え始めた。
    「きゃー、みてみてっ!こんなにいっぱい集まってきた!」もう大興奮だ。

    しばらくして泳ぎ疲れた二人は、コテージに帰ってきた。
    もう夕日が沈み始め、あたりは夕焼けに染まっている。
    (うーん、とってもロマンチック。それにジョウと二人だけなんて...まるで新婚旅行みたい。きゃっ)
    シャワーを浴び終えたアルフィンは、テラスから夕焼けを見つめながら、ロマンチックな雰囲気に浸っていた。
    「ほら、アルフィンも飲むか?」ジョウはテラスにやってくると、缶ジュースをアルフィンに差し出した。
    「うん、ありがと」プシュッっと音を立て、アルフィンはジュース、ジョウはビールの缶を空ける。
    波音しか聞こえるものがない分、それはいつもよりも大きな音に聞こえた。
    「ここには、こういう音が似合わないわね。静かな波音だけなのがとても素敵」
    「そうだな、タマにはこういうふうにノンビリするのも悪くないのかもしれない」
    ジョウもアルフィンの隣に来ると、二人でしばらく沈み行く夕日を眺めていた。。。
    いつもの自分達の世界とはかけ離れた、とても穏やかな風景。
    アルフィンは、久しぶりのこのような穏やかな時間を、ジョウと二人きりでいられることが、とても嬉しかった。
    (タロスとリッキーには悪いけど、損傷の大きかったミネルバに感謝だわ。
     そうでなくちゃ、こんなにゆっくりと、ジョウと二人でいられることなんてないもの。)
    そして、そのうれしさから、思わずそっとジョウの腕を取った。
    少し小首を傾げ、ジョウの肩にその小さな頭を持たせかける。
    「ねえ、ジョウ?」恥ずかしげに、つぶやくようにアルフィンが言った。
    「こんな風に、ずっと二人で一緒にいられたらいいな・・・」
    見る見るジョウの顔が赤くなった。
    それは夕日のせいでも、アルコールのせいでもない。
    しかし、いつものジョウなら、すぐに照れてしまい、苦手なこのような雰囲気を変えようとするだろう。
    だが、今はアルフィンがつかんだ腕を解こうとはしなかった。
    いつもとは少し違う、二人の間を流れる空気。
    それは、泳ぎ疲れた体に感じる、少し気だるい感覚がそうさせているのかもしれない。
    波音しか聞こえない、沈む行く夕日...

    知らず知らずのうちに、二人はお互い見詰め合っていた。
    夕日の照り返しで、ほほを染めたようなアルフィンは、いつもよりもきれいに見えた。
    わけも無く、ジョウは胸が高鳴っている自分を感じていた。
    (一体どうしたっていうんだ? だめだ、俺、どうにかなっちまいそうだ)
    体の奥から何か抗いがたいものを感じ、ジョウの思考は停止寸前だった。
    (まさか俺、酔ってるのか?こんな缶ビール一本で?)

    少しづつ、二人の距離が近づいていく。
    まるで、磁石のように吸い寄せられるように。
    それは、自分の意思とは関係なく、無意識のうちに、自然と・・・
    アルフィンは、これから起こるであろう事への淡い期待と、恥ずかしさからゆっくりと目を閉じた。

    ・・ドキドキドキ
    二人の胸は同じくらい高鳴っていた。
    体全体が心臓になったかのように、お互いの心拍音が相手に聞こえてしまうのではないかと思うくらい、ドキドキという音はが止まらなかった。
    あと数cmで二人の唇が出会う・・・その瞬間

    「トゥルルルー、トゥルルルー」
    部屋の電話がなった。
    二人はビクッとして、お互いから離れた。
    「あ、で、電話よ。ジョウ」「ああ、そ、そうだな」
    ジョウはいつになく動揺し、少し転びそうになりながら部屋の中にかけ込み、電話を取った。
    「も、もしもし??」
    電話は、タロスからであった。
    「すいません、ジョウ。ミネルバの損傷が思ったより大きくて、一部機関を総入れ替えすることになりましてね。
    それが今日中に終わらなかったんで、今日は帰れそうにないんですわ。」
    「ええ?そ、それは困る・・・なんとかして帰って来れないのか?」
    自分でも思わぬ展開になりかけた、ついさっきの出来事を思い返すと、タロスとリッキーが帰ってこないのはとても困るのだ。
    「そうだっ、タロスがダメならリッキーだけでも!」
    ジョウはすがるように、タロスにそう言った。
    「いや、申し訳ないんですが、一人じゃ人手が足りないんで・・・
     いくらボンクラでも、リッキーに手伝ってもらわないかんのですよ。」
    ジョウの慌てように、訝しさを感じたタロスだったが、機関の一部を入れ替えるには、いくらメンテナンス社の者がやってくれるとはいえ、たった一人の立会いでは無理だった。
    「じゃあ、俺も今からそっちへ行く。チームリーダとして手伝うことがあるだろ!」
    「いや、ありがたいんですが。。。
     アルフィン一人をそこに残してきたら、どうなると思いますか?
     メンテナンスが終わった後の残りの休日が、恐ろしいものになりますぜ・・・
     ジョウには悪いんですが、アルフィンのお守りを頼んます。」
    「そんなこと言ったって、タロス!」
    「それに、今からじゃメインランド行きの船ももう出てないでしょう。
     すいやせんが、まだメンテナンスの立会いをしなくちゃならんので。
     リッキー一人に任せておけませんからね。
     数日掛かりそうなんで、また帰れる時にでも連絡いれますわ。」
    「おいっ!タロスっ!!タロスッ!!」
    ...ツーツーツー
    何度ジョウが叫んでも、聞こえてくるのは電話が切れたことを知らせる、虚しい音だけであった・・・
    (おいおい、俺はどうすればいいんだ?
     さっきあんな妙なことになりそうだったのも、俺の意思とは無関係だ!(いや、無関係じゃないだろ(笑)
     俺自身、どうしてあんな雰囲気になったのかわからんのに、今晩、いやもしかしたら明日も明後日もアルフィンと二人きりだなんて、俺はどうすりゃいいんだ!?)
    ジョウは、自分でも良くわからないこの気持ちの動揺に戸惑い、戦いの場とはまた違った種類の緊張感を覚える自分を感じていた。
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■116 / inTopicNo.3)  Re[2]: Hot vacation
□投稿者/ りこ -(2002/06/12(Wed) 14:15:57)
    「ジョウ?誰からの電話?」
    ジョウの電話が終わったのに気づき、アルフィンが部屋に入ってきた。
    「タロスからだよ。思ったよりメンテが長引きそうなんで、2,3日帰れそうにないそうだ。リッキーも..」
    「そっか。二人に任せちゃって悪かったわね。でも、ジョウはリーダーとして、いつもみんなより働いてるんだもの。たまにはゆっくりしたらいいわ。ね?」
    「ああ...」
    二人きりと聞いても、アルフィンは特に戸惑った様子も見せない。
    それどころか心なしか、うれしそうな感じもする。
    (そっか、しばらくジョウと二人っきり!!ドキドキしちゃうけどなんだかうれしー)
    実際、このように思っていた。

    「ねえジョウ。そろそろご飯食べに行きましょ。
    ここのホテルのレストラン、すっごく素敵だったわよ。
    私、さっき買った洋服に着替えてくるから。その間にジョウも着替えてきてよね。」
    そう言うとアルフィンは、自分が占領しているダブルベッドの部屋に駆け上がっていった。
    (まあ、二人っきりと言っても部屋は別々だし、そんなに気にする必要ないよな。まったく俺は、何をそんなに焦ってるんだ?)
    ジョウは男三人で使っているツインの部屋で着替えながら、自分の気を落ち着けるように、そう言い聞かせていた。

    ホテルにはいくつかレストランがあったが、アルフィンが選んだのは水上に張り出すように建てられた、このホテルの中でも一番高級なレストランだった。
    「タロスとリッキーがいたんじゃ、うるさくてこんな雰囲気のところでは食べられないでしょ?
    せっかく二人きりなんだし、ちょっとは素敵なムードな所でゆっくりとお食事しましょうよ。」
    ジョウには有無を言わせず、勝手に決めてしまった。
    辺りにはもう、夜の帳が降りていた。
    ホテルしかないこの孤島では、夜空の星がとても良く見えた。
    「星空って、いつもミネルバから見ているけど、こうやって地上から見ると、なんだかいつもと違うものを見ているみたい。
    とってもきれい。」
    二人は、海辺の席についていた。
    アルフィンは、無数の星が瞬く夜空を見上げてそう言った。
    ホテルで一番高級なこのレストランには、富豪らしき老夫婦、ハネムーンにやって来たような若いカップルなど、殆どが男女二人で食事を楽しんでいた。
    服装も、みな昼間のような水着にビーチサンダルというような格好ではない。
    みな、それなりにドレスアップしていた。
    アルフィンも、昼間ショッピングモールで買ってきた白いワンピースを身に付け、髪をアップにし、心なしか薄く化粧もしているようだ。
    いつにない、女性らしいアルフィン。
    ジョウは、また先ほどのような、心の内から沸きあがってくる思いを感じていた。
    それは、今まで感じたことのない感情だった。
    それゆえに、ジョウは戸惑っていたのだ。
    自分でも経験したことのない、この感情に...
    それは、この雰囲気のせいなのか?
    いつもと違う、アルフィンに戸惑っているのだろうか?
    テーブルには南国の花とキャンドル。
    レストラン内も必要以上の明かりはつけておらず、テーブルのキャンドルがよりいっそう輝いて見える。
    「私達も、新婚さんに見えるかしらね?」
    アルフィンはジョウと二人でいられること、そしてこのレストランの雰囲気に酔いしれているようだった。
    「でも、俺はちょっとこういう雰囲気は苦手だな。なんだか緊張するよ。」
    「何言ってるのよ!たまにはいいもんじゃない?」
    「うー」
    (まあ、アルフィンが満足しているならいいか...)
    そう思うとジョウは、アルフィンに聞こえないように小さな溜息をついた。
    そしてその妙に湧き上がる感情、緊張を紛らわすように、アルコールを飲んだ。

    レストランから部屋へは、距離があるため通常はカートを利用して移動する。
    しかし、二人は歩いて部屋まで戻った。
    二人の水上コテージまでたどり着くまで歩いた水上の渡り廊下は、夜には美しくライトアップされていた。
    辺りには波音以外、何も聞こえない。
    (タロスとリッキーには悪いけど、二人とも2,3日とは言わず、この休暇中帰ってこなければいいのに!)
    道すがら、アルフィンはそんなことを考えていた。
    しかし、部屋についた頃、あることに気が付いた。
    ジョウは日頃からそんなにしゃべる方ではないが、今日はいつにも増して口数が少ない。
    「ジョウ?どこか具合でも悪いの?」
    「いや、別に・・・」
    「だって、さっきからずいぶん無口じゃない?お酒、飲み過ぎたんじゃない?」
    「そんなことないさ。もっと飲みたい気分だよ。」
    「そうね。たまには二人で飲みましょうよ。お酒なら部屋にたっぷりあるし。」
    アルフィンに飲ませるのは、いつもなら何があっても止めるジョウだったが、今日は違った。
    何よりも、自分が飲みたいのだ。
    ジョウだけが飲んで、アルフィンには我慢しろ、などと言うと、アルフィンが何を言うかわからない。
    「じゃあアルフィンは少しだけだぞ?飲みすぎはだめだ。」
    「うん。わかってる!」
    そして二人は部屋で飲み始めた。

    当然のように、アルフィンはソファーに座るジョウの隣に座ってくる。
    これはいつものことだ。
    しかし、今日はなぜか妙にアルフィンを意識してしまうジョウ。
    「ア、アルフィン。せっかく広い部屋なんだから、あっちのソファーに座ったらどうだ?」
    「何言ってるのよ。せっかく二人きりなのに、そんなに離れて座ってどうするの!私はいつも、ジョウの隣がいいの!!」
    そういうと、アルフィンはジョウの腕を取り、肩にもたれかかった。
    「ア、アルフィン!」
    アルフィンのこのような行動は、今日が初めてではない。
    だが、このような雰囲気のある水上コテージで、アルフィンと二人きり...そう考えるだけでジョウは体温が急上昇してしまうというのに・・・
    (二人きりなんて、今日が初めてじゃない。それに、部屋だって別々だ。大丈夫だ。)
    と訳のわからないことを納得させるように自分自身に言い聞かせ、ジョウは更に酒を煽った。
    「あー、なんだか今日のお酒はいつもよりおいしい!」
    アルフィンも、ジョウと一緒に更に飲んだ。。。

    気がづくと、朝だった。
    (うーん。。。えっと、昨日はジョウと一緒に部屋でお酒を飲んで、いつのまにか寝ちゃったのね・・・)
    アルフィンは、朝の日差しに目を覚ました。
    (せっかくジョウと二人っきりだったのに、あんなに飲まずにもっとしっとりと語り合えば良かった。)
    気が付くと、ちゃんと自分のベッドで寝ている。
    しかし、何か違和感を感じ、ふと自分の隣に目をやると・・・
    「!!!」アルフィンは叫びそうになったのを、両手で口を抑えてこらえた。
    ダブルベッドに寝ていたのは、アルフィンだけではなかった。
    アルフィンは、ジョウに抱かれるようにして、ベッドの中にいたのである。
    (ええっ?!? こ、これって一体どういうこと!?)
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■117 / inTopicNo.4)  Re[3]: Hot vacation
□投稿者/ りこ -(2002/06/14(Fri) 16:34:29)
    アルフィンは状況を把握しようと、自分を落ち着かせるように、小さく何度か深呼吸してみた。
    取りあえず、二人とも服は着ている...アルフィンは安堵のため息を漏らした。少し残念な気がしないでもなかったが...
    ジョウもいつもの彼らしくなく強か酔っていたようなので、そのまま酔いつぶれて寝てしまったという所だろう。
    しかしなぜ、二人一緒に添い寝するように、それもアルフィンのベッドで寝ているのかは、どうしても思い出せなかった。
    ジョウは良く眠っており、しばらく目を覚ましそうにない。
    こんなに間近に、息のかかる距離でジョウを見たのは初めてだ。
    ドキドキしながらも、アルフィンはそっとジョウの胸に顔を埋めてみた。
    Tシャツ一枚の肌から感じるジョウの体温、心臓の鼓動、良く鍛えられた厚い胸板、たくましい腕。
    (ちょっとくらいいいわよね、こうしていても。目がさめたらジョウ、こんなことさせてくれないもん...)
    高級リゾート、天蓋付のロマンチックなダブルベッド、二人っきり。
    こんな状況だったら、も、もしかしたらキスくらいはしてくれるかもしれない...
    そんな想像に一人顔を赤らめながらも、(ジョウの意識はなかったが)彼の腕に抱かれ、ジョウの体温を感じながらアルフィンは、いつのまにかまた、ウトウトしてしまっていた。

    ジョウは右腕に違和感を感じて目を覚ました。
    昨夜のみ過ぎたせいか、どうやら二日酔いのようだ。
    (なんだか重いな、まるで誰かを抱えて眠っているみたいだ)
    とぼんやり思いながら自分の右腕を見てみると、アルフィンがいた。
    まだ半分寝ぼけていたジョウは、無意識のうちにその額に軽く口づけをし、抱きしめた。
    そしてその美しい金髪に顔を埋める。かすかにシャンプーの香りがした。
    そのうちに、少しづつ意識がはっきりしてくる。
    「ア、アルフィン!?!」
    自分の右腕を腕枕にした状態で、アルフィンがジョウのすぐ横で、それもかなりの密着度で眠っていた。そして更に、自分が抱きしめている。
    タンクトップにショートパンツという、かなり露出度の高い服装で。
    ジョウはパニック寸前だった。
    (な、な、なんなんだ?これは!?)
    慌てて自分の腕を、アルフィンの頭の下から引き抜き、半身を起こした。
    「う、うーん」一度は目を覚ましたものの、またウトウトとしていたアルフィンは、その衝撃によって目を覚ましたようだ。
    「あ、ジョウ起きたのね、おはよう。」
    寝ぼけ眼をこすりながら、アルフィンはにっこりと微笑んだ。
    混乱しかけているジョウとは裏腹に、憎らしいほど愛らしい微笑だ。
    「お、おはようってアルフィン、俺、どうしてここに?」
    良く見てみれば、ここはアルフィンが寝室にしているダブルベッドルーム。
    どうして自分がここに、そしてアルフィンと一緒に寝ているのかさっぱりわからなかった。
    そして、アルフィンが眠っていたとはいえ、わけもわからぬうちにとった自分の行動に対して、顔を赤くした。
    「どうしてって、私こそ聞きたいわよ」アルフィンが、同じように頬を染めてそう言った。
    「昨日、下のリビングで一緒にお酒を飲んだでしょ。きっと眠くなって寝ちゃったんだと思うんだけど、どうしてここで一緒に眠っているのかあたし、全然覚えてない...」
    ジョウが寝ていた時は一人で妄想したり、そのままジョウと眠ってしまったり出来たアルフィンだったが、いざその本人が目を覚まし、面と向かってその話題を口にするとさすがに照れてしまい、ボソボソと、そう言を告いだ。
    「そういえば、途中でアルフィンが眠いって言って二階に上がろうとしたけど、酔っ払って階段を踏み外しそうだったから、俺が抱えて部屋まで連れて行ったんだ。」
    「で、どうしてジョウがここに寝てるの...」
    「ご、ごめん..覚えてない...」
    (酔ってたアルフィンをここまで連れて来たはいいけど、力尽きてここで寝ちまったのか?いや、いくらなんでもそんなことはないと思うんだが...)
    そう、ジョウはアルフィンを抱きかかえ、部屋まで連れて来た。
    アルフィンをベッドに降ろそうとしたところ、酔って自分も足元がフラついていたジョウは、首にしがみついていたアルフィン(意識は朦朧としていた)が手を離さなかったので一緒にベッドに倒れ込んでしまい、酔いとその状況に頭に血が上り、情けないことに半ば意識を失うようにそのまま眠ってしまったのだった。
    しかし、二人ともそんなことは覚えていない。
    「と、とにかくごめんっ!俺、シャワー浴びてくる!」
    「え?ジョウ?ジョウったら!!」
    そう言うとジョウは、走って下の階へ降りていった。
    (もう、何なのよ!あの純情少年は!)
    アルフィンは、大きくため息をついた。
    ジョウと添い寝していたことは、自分にもショッキングなことだったが、もしかしてそれ以上の何かが起きるかも!?と淡い期待をしていたのも事実だ。
    しかし、当のジョウがこんな状態では、キスどころの話ではない。
    言葉で言ってもらったことは一度もなかったが、たぶん、ジョウも自分のことを好きでいてくれるだろうと思っていた。
    照れ屋のジョウのことだ、もしかしたら好きだなんて言葉は、一生聞けないかもしれない。
    でも、いつか態度で示してくれるかもしれない、そんな期待をしてもみていたのだが。
    こんな状況で何もしてこないなんて、ジョウはもしかして、自分のことを好きでもなんでもないのではないか?
    そんなに自分には魅力がないのだろうか??
    そんな気がしてきてアルフィンは落ち込んでしまうとともに、怒りを感じずにはいられなかった。
    「なによっ!ジョウの意気地なしっ!」
    やり場のない怒りをぶつけるように、手元にあった枕を壁に投げつけた。

    冷たいシャワーを浴びながら、ジョウは考えていた。
    ジョウは、生まれながらのクラッシャーだ。
    幼い頃から、クラッシャーとして生きてきた。
    母親は物心つく前に亡くなっているし、他の女性と深く関わったことはない。
    今、アルフィンは自分のチームメイトで、<ミネルバ>で家族同然に一緒に生活している。
    そうだ、昨日だけではなく、アルフィンと出会ってからの自分はずっとおかしい。
    タロスとリッキーも同じチームメイトだし、みんな同じように大切な仲間だ。
    しかし、その中でもアルフィンはジョウにとって特別な存在だった。
    何かに行き詰まっている時、悩んでいる時、アルフィンの笑顔を見るだけでホッっとする。勇気が出るような気がする。
    リッキーがいつもからかうように、アルフィンに何かがあると、見境なくなる自分がいる。
    アルフィンが落ち込んでいると、必要以上に心配する。
    そして、何気ないしぐさにドキっとしたり、抱きしめたくなったり、キスしたくなったり...
    しかし、なぜかはわからないが、それはしてはいけないように感じるのだ。そして自制している。理由はわからない。
    ジョウは感じていた。彼女もそれを求めているのを。
    アルフィンはいつもストレートだ。どんな時も真っ直ぐに自分の気持ちを伝えてくる。
    そうできればもっと楽になれるのに、こんなに焦ったり、苦しんだりしなくて済むのに、そうしてはいけないと静止する自分がいるのだ。そしてそれは、何故だか自分でもわからない...
    堂々巡りをはじめたそんな自分の考えを振り払うように、ジョウは冷たいシャワーを浴び続けた。



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■131 / inTopicNo.5)  Re[4]: Hot vacation
□投稿者/ りこ -(2002/06/21(Fri) 14:23:53)
    ジョウが長いシャワーを終え、リビングへ行ってみると、アルフィンの姿が見えなかった。
    テーブルの上にあるフルーツの隣に、書置きがあるのに気づき、それを読む。
    [ちょっと散歩に行ってくるね。]メモにはそう書いてあった。
    (散歩か。アルフィンが帰ってきたら、レストランに朝食を食べに行こう。)
    冷たいシャワーを浴び、少し冷静になったジョウはさっきの慌てようを反省し、そんなことをぼんやり考えながら、ソファーに腰を下ろした。
    しかしそのまま、夜になってもアルフィンは帰ってこなかったのだ・・・

    ホルターネックの白いノースリーブに、デニムのミニスカートというキュートな装いで、アルフィンは気分転換しようと、一人で散歩に出た。
    頭には、スカートとおそろいのデニムの帽子を被っている。 まだ午前中だが、南国の日差しは強かった。
    ただ、なんとなく一人になりたかった。
    さっきから、アルフィンの胸の中に、急に不安な気持ちが湧き上がってきていたのだ。
    (私はジョウが好き)これは、紛れもない事実。
    しかし、肝心のジョウはといえば、彼の気持ちはさっぱり見えない。
    先ほどの出来事が思い出される。
    ジョウも私のこと、好きでいてくれるんだと思ってたのに、やっぱりそうじゃないの?
    本当はどうなの?ジョウの気持ちが知りたい。
    タロスとリッキーがいない今、二人きりのバカンスのような状況になっても何も言わず、何もしないジョウ。
    不安な思いがどんどん大きくなってきて、アルフィンは押し潰されそうになっていた。
    「そういうことは、ちゃんと自分で聞くのね。」今は亡き、ソニアに言われた言葉を時々思い出す。
    しかし、もしジョウに拒絶されたら、その後の自分はどうしたら良いか途方にくれてしまうだろう。
    そう思うと、ジョウの気持ちをはっきりと聞くのが怖かったのだ。
    海辺まで一人で歩き、そこからはサンダルを脱いで砂浜を歩いた。特に目的が有るわけではない。だた一心不乱に歩いた。
    焼けるように熱い砂浜、時々水の中へ足と入れてみる。まだ朝の海は、ひんやりと冷たい。
    素足になり、ぼーっと歩いていたアルフィンは、気づかないうちに小さな崖に出ていた。
    周りより少し高くなっているそこは、辺りの景色が良く見えた。
    朝の太陽に照らされた海は穏やかで、しかしキラキラと輝いていた。
    「ジョウのこと、好きになんてならなければ、こんなに悩んだりしなくてすんだのに・・・」
    ほんの少し、そんな考えが頭をよぎる。
    何も言ってくれないジョウの側にいるのが、だんだんツラくなってきたのだ。そして、ハッキリと自分の気持ちを伝えることのできない、自分自身にも、苛立っていた。
    クラッシャーの仕事は好きだし、できればこの先もずっと続けてい行きたいと思っていたが、こんな生殺しの状態で、ずっとジョウと微妙な関係を保ちながら一緒にいることに、疲れてしまった。
    ジョウのことを忘れることができれば、どんなに楽か。
    しかし、ジョウと一緒にいることで、うれしさも悲しみも倍に感じられる、現在という時間を生きているのだ。
    とりとめのないことを考えながら、アルフィンはしらばらく、その穏やかな海を見つめていた。
    この、アルフィンがいる小さな島以外、周りには何も見えない。
    見渡すその先には地平線があった。
    宇宙へ出る前、人はこの海を越えて大陸を行き来しているだけであった。
    それに比べ、今の自分は宇宙を駆け巡っている。
    世界はこんなに広いのに、出会う人はほんの少し。
    その中で、ジョウ達と出会ったのは奇跡のような偶然だ。
    そんなことを考えているうちに、なんだか自分が考えていることは、とてもちっぽけなことのような気がしてきた。
    自分自身への答えは出なかったが、これだけはハッキリと確認することができた。
    「ジョウがあたしをどう思っていても、あたしはジョウが好き。」
    そして、いつも自分に言い聞かせている言葉をつぶやく。
    ...どんな時も、自分らしく。後悔は決してしない。
    そう自分自身に言い聞かせるように小さく頷くと、アルフィンはジョウの元へ帰ろうと思い、踵を返した。
    その瞬間...
    「あっ!!」
    と思った時にはもう、足を踏み外してしまっていた・・・

    ・・・・・「あの塔にいらっしゃるのはきっと王子様ですよ。」
    侍女が、王女にそういった。
    正確に言うと、このピザン以外で王制を敷いている国はなかったので、王子はいないはずだったが、どこかの良家の子息という意味で侍女は言ったらしい。
    「王子様のように美しい方でした」侍女はそう言い継ぐ。
    王女は、王女という理由から、自由に外に出ることは許されていなかった。
    世襲制の王制ではないとはいえ、それなりの教育は受けさせられており、いつも誰かが側にいたからだ。
    お付きの者がいない限り、一人で外出することなど到底できない。
    しかし、王女には自分だけの抜け穴があった。
    遊んでいる時に偶然見つけたもので、誰にも知られないようにこっそり抜け出しては、外の空気を吸いに行っていた。
    その王子も、何らかの理由で、外に出られないように塔に閉じ込められているらしい。
    「かわいそうな王子様・・・」王女は塔を見つめ、そうつぶやいた。
    いつか一緒に、この自分が見つけた抜け道から外に連れて行ってあげたい。
    そう思っていた・・・・・

    崖から足を踏み外し、意識を失っている間、アルフィンはなぜか幼い頃の夢を見ていた。
    しかし、ほとんどの夢がそうであるように、目を覚ました時にはもう記憶には残っていなかった。
    意識が戻り、少しづつ目を開けてみると、まぶしい日差しに一瞬目が眩んだ。
    もう一度目を閉じてから、目をそっと開けてみる。
    するとそこには、心配そうにアルフィンを覗く青年がいた。
    「だいじょうぶですか?」涼やかな声で、青年が気遣うように尋ねた。年の頃は22、3か。
    背は180cmくらいで細い感じがするが、引き締まった、良く鍛えられた体をしているようだ。
    アルフィンと同じように美しい金髪は、短く刈りそ揃えられており、瞳は深いエメラルドグリーンだった。
    その整った美しい顔立ちは、こんがりと健康的に日焼けしていて、爽やかな逞しさが感じられた。
    しかし、そのエメラルドの瞳は限りなくやさしそうに見えた。
    「あ、あたし、一体・・・」
    「あの上から足を踏み外されたんですよ。でも、そんなに高くなかったから良かった。ケガはないですか?」
    「つぅ・・・」
    青年に心配をかけまいと、立ち上がろうとしたアルフィンは、足の痛みを感じ、うずくまった。
    「足を痛めたようですね。私の泊まっているコテージがすぐそこです。良かったら、そこで手当てしましょう。」
    青年はそういうと、そばに落ちていたアルフィンのサンダルと帽子を拾い上げた。
    「え、でも・・・」
    「失礼」青年はそういうと、アルフィンを横抱きにした。
    「え、あ、あの・・・」
    「せっかくの楽しいバカンスでしょう?こんなことでケガをしては台無しですよ。すぐ終わりますから。」
    青年は、ジェラルドと名乗った。
    ここには一人で、数週間前から滞在していると言う。
    「お名前を聞いていませんでしたね。伺ってもいいですか?」
    慣れた手つきで、アルフィンの痛めた足首を手当てしながらそう言った。
    「え、えーと・・・名前?あたしの名前...」
    「どうしました?」
    アルフィンは、しばらく考え込むように俯き、そして何度か頭を振った。
    「わからない、思い出せない。わたしは誰!?」
    アルフィンの悲痛な叫びが、広い部屋の中に響いた。
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