| 「ジョウ?誰からの電話?」 ジョウの電話が終わったのに気づき、アルフィンが部屋に入ってきた。 「タロスからだよ。思ったよりメンテが長引きそうなんで、2,3日帰れそうにないそうだ。リッキーも..」 「そっか。二人に任せちゃって悪かったわね。でも、ジョウはリーダーとして、いつもみんなより働いてるんだもの。たまにはゆっくりしたらいいわ。ね?」 「ああ...」 二人きりと聞いても、アルフィンは特に戸惑った様子も見せない。 それどころか心なしか、うれしそうな感じもする。 (そっか、しばらくジョウと二人っきり!!ドキドキしちゃうけどなんだかうれしー) 実際、このように思っていた。
「ねえジョウ。そろそろご飯食べに行きましょ。 ここのホテルのレストラン、すっごく素敵だったわよ。 私、さっき買った洋服に着替えてくるから。その間にジョウも着替えてきてよね。」 そう言うとアルフィンは、自分が占領しているダブルベッドの部屋に駆け上がっていった。 (まあ、二人っきりと言っても部屋は別々だし、そんなに気にする必要ないよな。まったく俺は、何をそんなに焦ってるんだ?) ジョウは男三人で使っているツインの部屋で着替えながら、自分の気を落ち着けるように、そう言い聞かせていた。
ホテルにはいくつかレストランがあったが、アルフィンが選んだのは水上に張り出すように建てられた、このホテルの中でも一番高級なレストランだった。 「タロスとリッキーがいたんじゃ、うるさくてこんな雰囲気のところでは食べられないでしょ? せっかく二人きりなんだし、ちょっとは素敵なムードな所でゆっくりとお食事しましょうよ。」 ジョウには有無を言わせず、勝手に決めてしまった。 辺りにはもう、夜の帳が降りていた。 ホテルしかないこの孤島では、夜空の星がとても良く見えた。 「星空って、いつもミネルバから見ているけど、こうやって地上から見ると、なんだかいつもと違うものを見ているみたい。 とってもきれい。」 二人は、海辺の席についていた。 アルフィンは、無数の星が瞬く夜空を見上げてそう言った。 ホテルで一番高級なこのレストランには、富豪らしき老夫婦、ハネムーンにやって来たような若いカップルなど、殆どが男女二人で食事を楽しんでいた。 服装も、みな昼間のような水着にビーチサンダルというような格好ではない。 みな、それなりにドレスアップしていた。 アルフィンも、昼間ショッピングモールで買ってきた白いワンピースを身に付け、髪をアップにし、心なしか薄く化粧もしているようだ。 いつにない、女性らしいアルフィン。 ジョウは、また先ほどのような、心の内から沸きあがってくる思いを感じていた。 それは、今まで感じたことのない感情だった。 それゆえに、ジョウは戸惑っていたのだ。 自分でも経験したことのない、この感情に... それは、この雰囲気のせいなのか? いつもと違う、アルフィンに戸惑っているのだろうか? テーブルには南国の花とキャンドル。 レストラン内も必要以上の明かりはつけておらず、テーブルのキャンドルがよりいっそう輝いて見える。 「私達も、新婚さんに見えるかしらね?」 アルフィンはジョウと二人でいられること、そしてこのレストランの雰囲気に酔いしれているようだった。 「でも、俺はちょっとこういう雰囲気は苦手だな。なんだか緊張するよ。」 「何言ってるのよ!たまにはいいもんじゃない?」 「うー」 (まあ、アルフィンが満足しているならいいか...) そう思うとジョウは、アルフィンに聞こえないように小さな溜息をついた。 そしてその妙に湧き上がる感情、緊張を紛らわすように、アルコールを飲んだ。
レストランから部屋へは、距離があるため通常はカートを利用して移動する。 しかし、二人は歩いて部屋まで戻った。 二人の水上コテージまでたどり着くまで歩いた水上の渡り廊下は、夜には美しくライトアップされていた。 辺りには波音以外、何も聞こえない。 (タロスとリッキーには悪いけど、二人とも2,3日とは言わず、この休暇中帰ってこなければいいのに!) 道すがら、アルフィンはそんなことを考えていた。 しかし、部屋についた頃、あることに気が付いた。 ジョウは日頃からそんなにしゃべる方ではないが、今日はいつにも増して口数が少ない。 「ジョウ?どこか具合でも悪いの?」 「いや、別に・・・」 「だって、さっきからずいぶん無口じゃない?お酒、飲み過ぎたんじゃない?」 「そんなことないさ。もっと飲みたい気分だよ。」 「そうね。たまには二人で飲みましょうよ。お酒なら部屋にたっぷりあるし。」 アルフィンに飲ませるのは、いつもなら何があっても止めるジョウだったが、今日は違った。 何よりも、自分が飲みたいのだ。 ジョウだけが飲んで、アルフィンには我慢しろ、などと言うと、アルフィンが何を言うかわからない。 「じゃあアルフィンは少しだけだぞ?飲みすぎはだめだ。」 「うん。わかってる!」 そして二人は部屋で飲み始めた。
当然のように、アルフィンはソファーに座るジョウの隣に座ってくる。 これはいつものことだ。 しかし、今日はなぜか妙にアルフィンを意識してしまうジョウ。 「ア、アルフィン。せっかく広い部屋なんだから、あっちのソファーに座ったらどうだ?」 「何言ってるのよ。せっかく二人きりなのに、そんなに離れて座ってどうするの!私はいつも、ジョウの隣がいいの!!」 そういうと、アルフィンはジョウの腕を取り、肩にもたれかかった。 「ア、アルフィン!」 アルフィンのこのような行動は、今日が初めてではない。 だが、このような雰囲気のある水上コテージで、アルフィンと二人きり...そう考えるだけでジョウは体温が急上昇してしまうというのに・・・ (二人きりなんて、今日が初めてじゃない。それに、部屋だって別々だ。大丈夫だ。) と訳のわからないことを納得させるように自分自身に言い聞かせ、ジョウは更に酒を煽った。 「あー、なんだか今日のお酒はいつもよりおいしい!」 アルフィンも、ジョウと一緒に更に飲んだ。。。
気がづくと、朝だった。 (うーん。。。えっと、昨日はジョウと一緒に部屋でお酒を飲んで、いつのまにか寝ちゃったのね・・・) アルフィンは、朝の日差しに目を覚ました。 (せっかくジョウと二人っきりだったのに、あんなに飲まずにもっとしっとりと語り合えば良かった。) 気が付くと、ちゃんと自分のベッドで寝ている。 しかし、何か違和感を感じ、ふと自分の隣に目をやると・・・ 「!!!」アルフィンは叫びそうになったのを、両手で口を抑えてこらえた。 ダブルベッドに寝ていたのは、アルフィンだけではなかった。 アルフィンは、ジョウに抱かれるようにして、ベッドの中にいたのである。 (ええっ?!? こ、これって一体どういうこと!?)
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