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■1121 / inTopicNo.1)  SHE IS NO.1(自覚編)
  
□投稿者/ とむ -(2006/06/06(Tue) 23:30:22)
    15th MARCH(8日目)

    「はあ・・・。やっと一息つけたね」
    ミネルバのリビングルーム。リッキーがソファにあぐらをかき、リビングの壁に埋め込んである38インチモニタ画面のスイッチを入れた。
    アラミスからの要請で請け負ったプルトニウム輸送が予定より早く終わり、クラッシャージョウのチームはゆったりとした時間を過ごしていた。

    大犬座宙域の第5惑星フルドから、くじら座宙域の惑星ロスまでの長い航路。予定では10日かかるはずだったが、多少無理なワープを入れて7日間の旅に短縮することができた。
    ジョウのチームにとってはいつものことであるが、超の付く売れっ子である彼のチームには、次から次へと仕事の依頼が舞い込んでくる。比較的簡単な物資の輸送・著名人の護衛、面倒なものでは惑星改造・宇宙ステーションの建設・小惑星の爆破など多種多様だ。命の危険に晒されることも多く、常に身体・精神ともに極度の緊張を強いられる。
    今回は、プルトニウム輸送のみだったから、ジョウ達にとっては朝飯前の仕事といってもよい。しかし、ここ半年の間ろくに休みをとっていないジョウ達にとっては、かろうじて残しておいた精気を奪い去っていくには充分であった。
    ジョウ自身、かなりの疲労が溜まっており、断りたいのは山々だったがアラミスの上層部からの直々の依頼となれば、当然断れるはずもない。鬼のように荒れるアルフィンとリッキーを散々なだめすかし、やっと引き受けることにしたのである。

    が。
    ジョウはさすがに条件をつけた。
    ”この仕事のあと10日間の休暇を確約すること”
    この条件を呑まなければこの依頼は受けない。ジョウにしては珍しく強固なまでの態度でアラミスに要請を出し、果たしてアラミスはその条件を呑んだのだった。

    そして現在、休暇までの静かなひと時を、ミネルバは白鳥座宙域を目指し自動制御航行している。ジョウ・タロス・リッキーはリビングで思い思いの時間を過ごしていた。
    ジョウは、ノート型パソコンをリビングまで持ち込み、終了したばかりの仕事内容をレポートにまとめ始めた。パソコンの右横には豆から挽いたブルーマウンテン。いつもは時間短縮のため、簡単にインスタントコーヒーで我慢しているが、なにせ明日からは久し振りのまとまった休暇だ。多少贅沢な時間を過ごしても罰は当たらない。そして、リビングのセンターテーブル横にはドンゴが控え、ジョウの指示するデータをあれこれピックアップしている。次々と出されるジョウの要求に的確に応え、データ表やグラフを作成しジョウに渡す。いつもなら決まってアルフィンが邪魔に入るため自室で行う作業だが、彼女が留守の今は心置きなくリビングに居座ることができる。
    明日からは仕事を早く片付けた分、約2週間の長期休暇が待っている。1日たりとも無駄にはしない。何が何でも今日中にアラミスへレポートを送り付け、休暇中は死ぬほど惰眠を貪ってやる。
    面白いようにレポートが片付いていく状況に、ジョウは心の底からニンマリした。

    一方、タロスはミネルバを自動航行に切り替えたあとリビングへやってきて、先にきていたリッキーと仲良くソファに腰掛けギャラクティカル・ニュースを見ていた。ちょうどモニタにはスポーツニュースが流れている。なんと言うこともなくリッキーがリモコンでチャンネルを切り替えようとした時、
    「あ、バカ!チャンネルを元に戻しやがれ」とタロスがリッキーにすかさず拳骨を振り下ろした。
    「・・・ってええ」
    リッキーは両手で頭を抱える。
    タロスはりっきーからリモコンを奪い取り1つ前のチャンネルに切り替え、食い入るようにモニタを見つめる。どうやら贔屓のフットボールチームの試合結果が流れていたようだ。モニタの中で試合を見ていた観客の大歓声が響き渡る。それを見たタロスは、大きくガッツポーズを作ったあと、満足そうにコーヒーをすすりながら
    「よーし、レッドフォックス2連勝か。これで単独首位だ。今シーズンはいただきだぜ」
    と上機嫌でリッキーに向き直ろうとした。
    が、その時。
    「痛えじゃねえかよ。おいらのデリケートな脳みそが破壊されたらどうすんだ」
    リッキーが手元にあったチャンネル表を掴み取り、それを手の中でくるっと丸めたかと思うと迷わずタロスの頭めがけて振り下ろした。
    バキ!!
    鈍い音とともに、タロスは頭を直撃されて蹲った。全身の8割がサイボーグ化されたタロスといえども、頭は数少ない生身の部分。じんじんと鈍い痛みが頭全体に響き渡る。
    「・・・ってええ。テメエ!何しやがる!!
    何がデリケートな脳みそだ。お前の脳みそなんかせいぜいサイコロ大くらいしかないだろうが。ねずみ程度のおつむのくせにデカイ口叩くんじゃねえ!!」
    涙目になりながらタロスが吠える。
    「ペッペッペ、バカ言ってんじゃねえよ!ミネルバで待機しかできないジーさんに言われたかねえや。おいらは兄貴のコパイと宇宙での船外修理と大変だったんだ。頭も体もタロスの100倍は使ってらあ!貢献度ってもんが全然違うんだよ!!」
    「あんだとお!?」
    (また始まった・・)
    ジョウは不毛な二人の会話を聞きつつ、軽くため息をついた。
    いつもなら、この二人の争いに「いいかげんにしなさいよ!!」とアルフィンが割ってはいるところだ。自分がジョウに構って欲しい時には、どれだけジョウが忙しかろうが、眠かろうが猫のようにしつこく纏わりついてくるくせに、自分以外の人間がジョウに不利益になるとみなすや怒りの鉄拳を振り下ろす。タロスとリッキーにしてみれば不条理極まりないのであるが、そのような理屈は通用しない。アルフィンが白といえば白、黒といえば黒、これがミネルバの掟なのだ。
    しかし、幸か不幸か今彼女は不在。

    仕方なくジョウが間に入る。ギャアギャア言い争っている二人に
    「いいかげんにしろ!気が散ってしょうがねえっ!!」
    バン!とテーブルを叩き一喝した。
    一瞬、二人の動きが止まる。
    そお〜っとリッキーがジョウに向き直る。ギラリとした目のジョウと目が合った。
    「だあってさあ、兄貴。このジーさんが・・」
    リッキーがおたつきながらタロスを指差した。
    「誰がジーさんだ、コラ。先輩に向かって口の聞き方ってもんを知らねえのか!」
    「ホントのことだろ。ほとんど生きた化石のジーさんはすっこんでろ!」
    「やかましい!黙れっ!!」
    ブチ切れたジョウが叫んだ。りっきーは飛び上がり、タロスの背後に身を隠す。タロスも小さくなってソファに座り直す。
    その様子を見たジョウは、ため息をつき
    「・・・ったく。こっちはしっかり休みをとるためにレポート必死で作ってんだ。ちったあ気を遣えよ・・」
    ぶつぶつ言いながら再びキーボードを叩き始める。
    「「すいません」」
    タロスとリッキーが小さくなりながら、ソファの上で声を揃えた。




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■1132 / inTopicNo.2)  Re[1]: SHE IS NO.1(自覚編)
□投稿者/ とむ -(2006/06/08(Thu) 12:05:26)
    カタカタカタカタカタ
    リビングには、ジョウの叩くキーボードの音とタロスがコーヒーをすする音、そしてリッキーが雑誌をめくる音しか聞こえない。いつもならば、ここにアルフィンがキッチンであれこれ雑用をしている音が加わるのだが。
    その音がないだけで、リビングの中は何か白けたような、平坦な空気が流れる。別に何ということはない日常の風景。その中にアルフィンがいないだけで、こんなに物足りない気分になる。押しかけで無理やりクラッシャーになった彼女だが、いまやジョウのチームの一員として確固たる位置を確立していることを3人は改めて実感した。
    ペラペラとギャラクティカル・チャンネルの番組表を、なんとなくめくっていただけのリッキーが
    「ねー、アルフィンて、いつになったら帰ってくるのさ」
    と、ジョウに顔を向けた。
    「一応、2週間の予定で帰ったからなあ。フルドで分かれて1週間だからあと6日だろ」
    キーボードを打つ手を止め、ジョウはリッキーに目をやった。
    「久し振りの帰省なんだから我慢してやれよ」
    「・・・だあってさあ。なんかあんまり静か過ぎちゃって落ち付かないっーか、つまんないっつーか・・」
    最後の方はほとんど聞き取れない程の呟きとなり、もぞもぞと両手の指をせわしなく動かしている。

    アルフィンは現在ピザンに帰省している。
    父親であるハルマン三世の具合が悪いとの連絡が、プルトニウム輸送の依頼を引き受けた直後に入ったのである。すぐにピザンに連絡をいれ、たいしたことはないと確認は取れたものの、なにせ押しかけクラッシャーになってから一度も連絡を入れていなかったらしく近況報告の長いこと長いこと。かれこれ2時間になろうかというところでジョウが提案を出した。アルフィンはプルトニウムの輸送の仕事には参加せず、一度ピザンに帰省したらどうかと。
    仕事自体は難しい内容ではない。アルフィンの代わりにドンゴに航法席に座ってもらえば問題ないだろう。この半年ろくな休みもなく頑張っていた。彼女の体力はかなり落ちている。
    「ちょいと早い休暇と思ってさ。先にピザンに帰ってろよ。この仕事は俺達だけでも大丈夫だ」
    「嬉しいけど・・・。あたしがいなくてもみんな食事とか大丈夫?その辺のジャンクフードで済ませちゃうなんてだめよ」
    「大丈夫だって。食事はちゃんと当番制でつくる(ように努力する)からさ。それより、ご両親に元気な顔を見せてやれよ。立派にクラッシャーやってますってな」
    アルフィンの黄金の髪を優しく撫で付けながらジョウは笑った。
    「それに、それだけ休めればお肌のお手入れも完璧だろ?」

    かくして、彼女はいち早くフルドの宇宙港からピザン行き定期便に乗り、懐かしい故郷へ向かったのである。

    それから1週間。アルフィンのいない生活に、男3人はほとほと退屈していた。何をするにも今ひとつ気合が入らない。本来なら爆弾娘がいない間を、存分に満喫すればよいのだがそれも3日と続かなかった。危険を予知する動物同様、生活にはある程度の緊張感が必要なのだ。

    「アルフィンのつくったカレーが食べたい・・」
    天井を見上げながらリッキーがぼやく。ちなみに今日の夕食はレトルトカレーだ。腹の足しにはなるが決しておいしいものではない。当番制にしたものの手作りの食事など出るはずがないのだ。
    するとタロスが
    「あー、あー、お守りがいねえとお子様は留守番の一つもできねえってか」
    と、大げさに首を左右に振りながら呆れたように言った。
    「なんだよ、お子様って」
    ギロリとタロスを睨みながらリッキーが呟く。
    「あなたのことですよ。お坊ちゃま。まさか、毎晩アルフィンに抱っこしてもらって、ねんねしてたんじゃないでしょうねえ」
    「ぶっ・・」
    ジョウが吹いた。
    「な・・・な、何言ってんだ!タロス、んなわけねーだろ!!」
    リッキーはわたわたしながらジョウにぶるぶると首を振るしぐさをした。
    ジョウは苦笑したように(気にするな)という合図を送る。しかしタロスはしつこかった。ニヤニヤしながら身を屈め上目遣いにリッキーを見る。
    「そーですかねえ。案外、アルフィンがいなくなってから毎晩寂しくて眠れなくなってんじゃねえのか?いつも苛められすぎて、ついにそれが快感になったか、このマゾ!」
    「ば・・・・!い、いいかげんにしろよ、バカタロス!!おいらはそんな変態じゃねーぞ!あ、兄貴、誤解しないでくれよ。おいらは兄貴にやましいことなんかしてないぜ!」
    必死に弁解する。
    「はあ?
    タロス、いいかげんにしてやれよ。せっかくアルフィンがいないうちに細かい仕事をやっつけようとしてるんだ。これじゃ、いつもと同じだぜ」
    いまや、レポート作成が完全にお留守になってしまったジョウが、タロスに文句を言った。
    「へいへい、この辺で勘弁してやりますか」
    実に楽しそうに笑いながらタロスは飲みかけのコーヒーに口をつけた。
    「・・でもさあ、あと6日かあ・・」
    リッキーがソファの肘掛に置いてあったリモコンに手を伸ばし、再度モニタ画面をオンにした。気に入ったチャンネルを探すべくせわしげにチャンネルを切り替える。
    「・・・アルフィン、元気なのかなあ」
    小さくぽつりと呟いた。
    ジョウは、リッキーが本当に寂しがったいることが分かっていた。いつもアルフィンにいいようにからかわれ、苛められ、使われていようともーーーーーーー。ローデスの浮浪児だった彼が、初めて家族のようなものに触れたのだ。アルフィンがミネルバで食事の担当を勤めるようになってからはなおさら。口が悪かろうが、手が早かろうが、酒乱であろうが、彼女が内面ではどれほど自分達の体を気遣い、注意を払ってくれているかリッキーは理解していた。リッキーは、ミネルバで初めて家族の温かさのようなものを知ることができたのである。
    そして、タロスもそんなリッキーの心のうちを、良く理解していた。いつも、いい様にアルフィンにこき使われていても、リッキーはそれを楽しんでいる。それが、ここ1週間構ってくれる相手もなく、物足りない気分になってくる頃だ。だから、あえて余計なちょっかいを出し、気分が落ち込まないようにしていたのだが。
    「多分、そろそろピザンから連絡が入る頃だろうさ。親父さんもたいしたことないみたいだし、心配要らないぜ。アルフィンだって大丈夫だって言ってただろ?」
    実際のところ、ジョウもアルフィンがいない状況にかなりの物足りなさを感じていた。いつもなら、嵐のように自分に纏わりつき、それが原因でつまらない喧嘩をすることも多い。ジョウがちょっとでも女性と接触しようものなら狂犬のような勢いで、ターゲットを排斥しようとする。やれやれと思いながら、どっと疲労が溜まることもある。
    が、いざその嵐が全くなくなると。

    ーーーーーーつまらないと思ってしまうこの矛盾。

    仕事中はそんなことを考える暇もなかったが、ジョウもこれだけ長い間アルフィンの姿を見ないのは初めてなのだ。彼女のことをこんな風に改めて考えることも初めてかもしれない。
    つい、いないと分かっているのに彼女の姿をミネルバの中に探し、夜眠りにつく前に彼女の微笑む姿をまぶたに浮かべてしまう。彼女のくるくるとよく変わるその表情。何度も何度も頭の中で反芻してしまう。
    (なんだか、調子が狂う・・)
    ジョウは、初めて味わうよくわからないモヤモヤとした感情に戸惑っていた。
    とりあえず、自分はさておきリッキーの不安を解消すべく彼に話し掛ける。
    「今回アルフィンがピザンに戻ったのは、クラッシャーになってから一度も里帰りしてなかったからさ。ハルマン国王や王妃だってアルフィンに会いたかったに違いない。久し振りに親子水入らずで楽しくやってるさ。心配要らないぜ」
    「うん・・。そうだね、でも・・・」
    リッキーは、まだ何か心配している。
    「どうした?」
    「・・・このまま、ピザンに帰っちまうなんてことないよね?」
    思いがけないリッキーの言葉に、ジョウは息を呑んだまま固まった。





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■1135 / inTopicNo.3)  Re[2]: SHE IS NO.1(自覚編)
□投稿者/ とむ -(2006/06/08(Thu) 15:42:12)
    「・・まったく、何を言い出すか。おめえは」
    タロスがゆっくりとリッキーに近づき、彼の頭をくしゃくしゃと掻いた。ちらりとジョウに目をやる。
    「クラッシャーになるために王家の名誉も家族もなにもかもすてて密航してきた娘だぞ。思い込んだら一直線の火の玉娘だ。クラッシャーを辞めて帰るわけないだろう」
    「そうだけど・・。アルフィンはそうだろうけどさ。でも、アルフィンの親はやっぱり帰ってきて欲しいんじゃないの?」
    ジョウは黙ったままだ。じっとパソコンのモニタを見つめている。アルフィンが密航してクラッシャーになって以来、そばにいるのが当たり前になりすぎて考えたこともなかった。
    そうーーーーーーー。
    王位を返上したとはいえ、紛れもなく彼女はピザン連邦国王ハルマン三世の一人娘・王女なのだ。いくらクーデターにより危機に陥った国を救った英雄でも、いまだに”宇宙の何でも屋””ならず者”などの偏見を受けているクラッシャーに愛娘を託すのは、国王にとっては相当の覚悟だったはずだ。
    当時、国王ともなるとここまで極端な寛容な人物でないと国は治められないのか、などと変な納得の仕方をしたジョウだったのだが。
    今ではわかる。アルフィンと1年以上同じチームで仕事をし、寝食をともにした今であれば。

    何を言っても聞きはしないのだ・・・・。

    一度、これと決めたらひたすら突っ走る。何を言われようとも信念を曲げない。自分で自分の道を切り開き、たとえ困難にブチ当たっても潔くそれを受け入れる。
    そんな娘と知っているからこそ諦めたのだ。諦めざるをえなかった。

    だからこそ。

    久し振りのアルフィンの帰省が、国王にどんな心境の変化をもたらすのか。
    ジョウは、突然体の奥から湧き上がった不安が体全体を瞬く間に覆っていくのを感じていた。
    そんなジョウの心中を察したのか「余計な心配はその辺にしときな」と飲み終えたばかりのコーヒーカップを持ったタロスがリッキーに言った。
    「そんなことは、ここでいくら話したところでアルフィンの気持ちとは関係のない勝手な憶測だ。だとしたら、それで不安になるだけアホみたいな話だぜ。どうせ、そろそろ本人から連絡が入る。その時にしっかり聞けばいいだろが」
    実にもっともな意見を話し、タロスは当直のためブリッジに向かうべく立ち上がった。
    「アルフィンから連絡がきたら、呼びに行きますよ」
    ジョウに一言、声をかけるのも忘れなかった。


    結局タロスがブリッジに引き上げたあと、暫くしてリッキーとジョウは自分の部屋に戻ることにした。リッキーは、タロスの話を聞いて自分なりに気分が落ち着いたらしく、すっきりした表情になっていた。
    「じゃ、おいらファイターの動力チェックをしてから部屋に戻るよ。いろいろ邪魔しちまってごめんな?」
    「いや、いいさ。気にするな。こっちのレポートももう終わるからアラミスの送信次第、俺も部屋に戻る」
    「休暇はどこに行くつもり?」
    「そうだなあ。途中アルフィンを拾わなきゃならんし・・・。ピザンから遠くなくて死ぬほどショッピングができるリゾート惑星だろうな。どこかリクエストがあれば聞いとくぜ」
    「んーーー。考えとくよ。おやすみ!」
    人差し指で小鼻を2、3回こすった後、人懐っこい笑顔をジョウに向けて、リッキーは格納庫に向かって走っていった。
    ジョウはリッキーの後姿を見送った後、ノート型パソコンをたたみ席を立った。ジョウのそばでデータ抽出をしていたドンゴに向かって
    「ドンゴ、悪いがリビングの掃除を頼む。それから、ピザンの近くででかいショピングセンターとアミューズメントパークがある星をピックアップして明日報告しろ」
    と指示を出した。
    「キャハ、了解」
    ドンゴの声を背後に聞きながら、ジョウは完成したレポートをアラミスに送信すべく、リビングを出てブリッジに向かった。


    ブリッジの中では、操縦席正面のメインスクリーンに静かな漆黒の宇宙が映し出され穏やかな空気が漂っていた。操縦席でじっと外を見ていたタロスがジョウに気づき、軽く右手を挙げる。ジョウも右手でそれに応えた。
    「リッキーは部屋に戻りましたかい?」
    「ああ、ファイターを見てから戻るって、今格納庫にいるぜ」
    副操縦席に腰を下ろし、パソコンをコンソールパネルに繋げながらジョウは答えた。通信用回線を開きアラミスのコードを打ち込む。
    ”ピ”
    回線がアラミスに接続され、完成したレポートをどんどんアップロードしていく。
    ブリッジには、ただただ静かな時だけが流れていた−−−−−−。



    ジョウは両腕を組み、メインスクリーンに映し出された宇宙を眺めていた。レポートも完成したし、明日からはゆっくり休暇を楽しむことができる。とりあえず明日一日は体を休めて、明後日には休暇を過ごす場所を決めなければ。休暇明けの仕事の準備は、データ収集をドンゴに指示しておいて、スケジュール組みまでやっておけば上等だろう。アルフィンは6日後にピザンで拾って・・・・。

    では、アルフィンと合流するまではどう過ごすか。
    「・・・・・・」
    考え付かない。
    休暇といえばアルフィンの買い物の荷物持ちやドライブなどに強制的に連行される。否という権利など男3人には与えられていない。
    しかし、今となってはアルフィンがチームに入る前にどのように休暇を過ごしていたのかさえ思い出せない。

    「いーい?合流したら嫌って言うほど付き合ってもらうわよ!この半年ろくな休みもなく頑張ったんだから。こんな仕事漬けの生活で、10代の貴重な若さを吸い取られてたまるもんですか!!」
    アルフィンをピザンに帰すために立ち寄ったフルドの宇宙港で、彼女が言い放った台詞だ。
    アルフィンは薄いピンクのカットソーに白地にピンクの小花が散ったプリントスカートで身を包み、輝く金髪にはパールの飾りの付いたカチューシャを付けていた。すらりと伸びる両足にはビーズの施してあるサンダルを履いている。宇宙港にいた乗客が思わず見惚れる美しさだ。もちろん黙っていればの話だが。
    彼女は、搭乗する直前まで3人に自分が留守にする間の注意事項を凄まじい勢いで申し渡し、ジョウには
    「ジョウ、くれぐれもその辺のつまんない女にひっかからないでね!それから絶対に飛び込みの仕事は受けちゃダメ!!」
    と釘までさしていった。
    ジョウは苦笑いを浮かべて、額の前で右手の人差し指と中指を立て”了解”と合図を送った。アルフィンはジョウに向かって思いっきり
    「イーーーー!!」
    としかめ面を返し、すぐにこぼれんばかりの笑顔になり「行ってくるねー!」とピザン行きの宇宙船に消えていった。流れる金髪をなびかせて。

    (あと6日か・・・)
    なんとなくため息が漏れる。もう何回、宇宙港でのアルフィンを思い出しただろう。
    この1週間、アルフィンの姿どころか声も聞いていない。奇妙な物足りなさが体に纏わりつき、気分がすっきり晴れないのだ。
    「ジョウ」
    低く太い声がジョウの隣の席から聞こえてきた。
    「アラミスへの送信、終わってますぜ」
    「ああ・・・」
    夢から覚めたように、目を瞬きさせジョウはタロスを見た。通信用回線は送信完了の表示が出ており、アラミスへの報告が滞りなく完了したことを示していた。
    副操縦席のクロノメータは現在23時になるところだ。もう遅い。
    (アルフィンはもう眠ったかな)
    ぼんやりとジョウは考える。この時間になるとさすがにもう寝ていると思うのだが、無意識に彼女からの連絡を期待して通信用回線は開いたままだ。今頃、ピザンの夜空にもたくさんの星が瞬いているに違いない。
    不意に、ジョウの頭に先ほどのリッキーが呟いた何気ない一言が蘇った。

    ーーーーーこのまま、ピザンに帰っちまうなんてこと、ないよね?
    (そんなことある訳ない)
    自分に言い聞かせる。彼女の今回の里帰りは、国王の見舞いのためだ。アルフィンもそのつもりだった。実際、今回の帰省で彼女がミネルバから持ち出したものは適当にピックアップした2週間分の着替えだけ。
    (すぐ帰ってくる)
    そのはずだ。彼女はそう言った。
    でも、国王達はどう思っているのか。
    帰したくないと思うはずだ。長年慈しみ手塩にかけて育て上げた大事な一人娘だ。誰が好んでクラッシャーになどさせたいものか。
    あとからあとから泡のように新たな不安が溢れてきて、喉元でぐるぐる渦を巻いている。何とか落ち着こうと思っても、当然入ると思っていたアルフィンの連絡が未だ入らず、それがまた不安を増大させる。
    アルフィンがミネルバを離れて1週間。まさか、こんなに落ち着かなくなるとは夢にも思わなかった。


    「・・まったく・・」
    何がちょくちょく連絡を入れるわ、だ。
    ジョウは忌々しげに呟き、思い切るように通信用回線をオフにした。
    副操縦席から立ち上がり、パソコンを小脇に抱えると
    「じゃあ、後は頼むぜ、タロス」
    と、タロスに一言告げゆっくり歩き出した。
    「明日は連絡がきますよ」
    立ち上がったジョウを見ながらタロスが声をかける・
    「・・・・どうだかな」
    肩をすくめながらジョウはブリッジを後にした。






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■1137 / inTopicNo.4)  Re[3]: SHE IS NO.1(自覚編)
□投稿者/ とむ -(2006/06/08(Thu) 16:57:12)
    16th MARCH(9日目)

    眠い。猛烈に眠い。体がシーツに張り付いてしまっているようだ。
    ベッドサイドのローボードに置いてあるダイバーズウォッチを、朦朧としながら手探りする。暫くすると指先にメタリックな感触が触れた。重いまぶたで時間を確かめる。
    標準時間で午前10時20分。
    昨夜はなかなか眠れなかった。不毛だと知りつつも、アルフィンがピザンに戻ってしまうかもしれない可能性を堂堂巡りで考えてしまい、やっと眠りにつけたのは朝の3時過ぎだ。
    おまけに朝方にはドンゴが部屋にやってきて、なにやら騒いでいった。熟睡とは程遠い。
    ゆっくり惰眠を貪るなんて夢のまた夢だ。
    寝ぼけ眼で上体を起こし、ぼんやりと部屋の中を見る。
    (もう少し寝るか・・)
    どうせ今日は何の予定もない。昼までゆっくり体を休めて、午後からジムでトレーニングでもしよう。
    そうと決めたら、腰のあたりでひだを作って溜まっているブランケットを掴み、勢い良く頭からかぶり直した。トロトロと心地よい眠りが再びジョウのまぶたを優しく閉じようとしたその時ーーー。
    ”ピーピーピーピーピー”
    枕もとのインターコムが鳴った。ジョウの眉間に皺が寄る。とりあえず無視することに決め瞳を閉じる。
    ”ピーピーピーピーピー”
    枕で頭を覆い、耳を塞ぐ。
    が。
    ”ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!”
    「あ”ーーーーー!!うるせえ!!」
    インターコムのボタンを叩くようにオンにする。
    「あんだよ!俺はまだ寝るぞ!絶対に起きねえ!!」
    噛み付くようにインターコムに向かって吠える。
    『ご、ごめん、兄貴。おいらもそう言ったんだけどさあ』
    リッキーだ。明らかにジョウの勢いに押されている。タロスの後に交代でブリッジにいるのだが、まさか仕事の依頼か。
    「急用か、仕事は絶対に受けねえぞ」
    『仕事じゃないし、特に急用って訳でもないみたいだけど』
    「じゃあ、俺は寝る。今日一日俺はオフだ。そう言っとけ!」
    『・・・いいの?』
    「なにが」
    『アルフィンだけど』
    「は!?」
    一気に目が覚めた。ベッドの上で飛び起きる。
    『すっごい怒ってるよ。もうずっと待ってる』
    リッキーが小さくなっている様子が伝わってくる。
    「ちょっ、ちょっと待て」
    まさか。こんなに朝早くから(決して早くはないが)連絡をよこすとは思っていなかった。あれほど待っていたアルフィンからの連絡なのに、今の自分の格好は。
    もともと癖のある黒髪は、寝癖がついて目も当てられない。申し訳程度にはいたボトムは黒のスウェットでこれも皺だらけ。とどめに上半身は裸だ。とてもじゃないが、このままではブリッジには出て行けない。オタつきながら、とにかく上半身に何か着るべく必死でクローゼットをあさる。
    「あと5分で行くから、アルフィンにそう伝え・・」
    言い終わらないうちに、大絶叫をしていると思われるアルフィンの声が、インターコムを通じて聞こえてきた。
    『なによ!!あたしがこんなに会えなくて辛い思いをしているっていうのにジョウは平気なの!?ずいぶん連絡を入れられなかったから、朝早くから連絡してるのに。どうせあたしなんか、その程度の存在ってことよね!もういいわよ、一生寝てなさい!ジョウのバカ!!』
    ”・・ブツ”
    通信用回線が切れた音が聞こえ
    『・・切れたよ・・』
    リッキーの途方にくれた声が続く。
    ジョウは、やっとのことで洗濯物の山から見つけ出したTシャツを握り締め、宙を仰いだ。
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■1143 / inTopicNo.5)  Re[4]: SHE IS NO.1(自覚編)
□投稿者/ とむ -(2006/06/11(Sun) 23:31:12)
    標準時間の午前11時。

    シャワーを浴び、黒いトレーニングウェアの上下に身を包んだジョウがブリッジにやってきた。タロスのリッキーもラフな服装で既に自分の席に着いている。
    「おはようございます。ジョウ」
    タロスが意味ありげな笑いを唇に乗せながら、ジョウに挨拶をした。

    「・・・・おはよう」
    先ほどのアルフィンとのやり取りはインターコムを通してブリッジに丸聞こえだ。全く勘弁して欲しい。仏頂面で副操縦席につくものの、タロスとリッキーが楽しげに自分を見ているのが分かる。
    「・・・あんだよ」
    「アルフィンさあ。今日3回も連絡を入れてきたんだよね」
    グリーンのプリントTシャツに穴のあいたジーンズをはいたリッキーが、楽しげにスキップしながら副操縦席にやってくる。ジョウの座席の肘掛に両手をつくように寄りかかった。
    「・・・へえ」
    ジョウは、横目でリッキーを見やり相槌を打つ。
    「最初は、朝の7時だぜ。久し振りだったから嬉しくてさあ。ピザンで友達と会ったりして楽しかったって言ってたよ。30分くらいしゃべっちまったよ」
    「そいつあ、よかったな。それで?」
    軽く皮肉をこめた笑みで続きを促す。
    「アルフィンの親父さんは、ただの風邪だったって。アルフィンがピザンに着いた時には、もう大分よくなってたみたいだよ。なんかあきれちゃったってさ」
    「そうか」
    「親父さんは心配ないみたいだから、早めに戻りたいって言ってたよ」
    (はあ)
    ジョウは心の中で深いため息をつく。
    タロスの言うとおりだった。アルフィンの性格を考えれば、国王がミネルバに戻ることをどんなに反対しようとも聞く耳を持たないだろう。深夜まで思い悩んだ自分がバカのように思えてくる。能天気にはしゃいでいるリッキーも気に入らない。なかなか眠れなくなったのは、リッキーが言い出したあの余計な一言のせいなのに。
    「で、兄貴はまだ寝てるって伝えたら、ゆっくり休ませてあげてって言うからさ。最初はそこで終わり」
    リッキーはハルマン三世が快方に向かっていることが自分で手柄であるかのように話した。
    「2回目は8時半ごろくらいだよ。兄貴は起きたかって」
    からかうようにジョウを見る。
    「よっぽどあんたに会いたかったんでしょうな。アルフィンがジョウの顔を見ずに何日も我慢できるはずがねえ」
    上下グレーのスウェットを着たタロスがしたり顔で話す。
    「会いたそうだったんで、ドンゴにあんたを起こしてくるように言ったんでさあ」
    ジョウは右手で顔を覆う。朝方ドンゴが部屋でけたたましく騒いでいたのはそのためか。しかし、なにぶん熟睡していたジョウにとっては嫌がらせ以外の何者でもない。
    「誰だか知らんがこんな朝早く非常識だ!構わんから待たせとけ!!」
    一喝して追い返してしまった。
    ドンゴにとっては、チームリーダーであるジョウの命令は絶対だ。決して逆らえない。
    かくして、ドンゴはご丁寧にもジョウの捨て台詞まで一言一句逃さずアルフィンに伝達し、このあたりからアルフィンの機嫌は急激に悪化していったのでる。

    「・・・ドンゴ。アイツわざとじゃないよな・・」
    コンソールパネルに突っ伏し、ジョウは唸った。
    「・・・で、最後のがさっきのアレ」
    リッキーがフロアに座り込み、ジョウを見上げて困ったように肩をすくめた。
    「連絡が入った時点ですっげえ機嫌が悪くてさ。とにかく、兄貴を呼んで来いってきかないんだよね」
    「・・・もういい、分かった。とにかく怒ってんだな」
    突っ伏したまま、くぐもった声でジョウは言った。
    「多分ね」
    「間違いなく」
    タロスとリッキーが仲良く声を揃えて答えた。
    恨めしそうな目を二人に向けながら、ジョウは上体を起こして副操縦席に深く座りなおした。顔をあげて正面にある立体表示スクリーンを見る。映っているのは昨夜と同じ漆黒の宇宙のみだ。

    あと数分早く起きていたら、怒れるアルフィンではなく輝く笑顔の彼女に会えていた。脱力して体が重く感じる。

    (何で俺だけ)

    ひがみたくなっても無理はない。
    昨夜、無責任は心配事を投げたリッキーと、それを全く意に介さなかったタロスは今日彼女の顔を見て話しまでしている。
    一方、眠れないほどの不安を戦った自分は、怒り狂った彼女の怒号を聞かされただけ。
    会いたいと思っていた自分が怒られるのは、どうも腑に落ちない。

    やりきれない思いで
    「今日、また連絡が来ると思うか?」
    一応、二人に聞いてみる。
    「「こない」」
    これまたきれいに揃った返事が返ってきて、
    「・・・そうだろうな」
    と、ジョウはメインスクリーンをぼんやり眺め、諦めたように答えた。先ほど、そこに映し出されていたはずの彼女の残像を探しながら。



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■1144 / inTopicNo.6)  Re[5]: SHE IS NO.1(自覚編)
□投稿者/ とむ -(2006/06/12(Mon) 00:27:16)
    17Th MARCH(10日目)

    案の定、昨日の内にアルフィンからの連絡が再びミネルバに入ることはなかった。当直だったジョウは、夜になってからもミネルバの通信用回線を暫くオンにしていたが、LED信号は点滅することなく沈黙だけがブリッジを支配した。
    ジョウはアルフィンから連絡がきた場合に備え、様々な言い訳を用意し待っていたのだが、”うん”とも”すん”とも言わないコンソールパネルに苛つき、何度か八つあたりのケリを喰らわせた。
    まったくやりきれない。
    どうしてここまで振り回されなければならないのか。ここ数日の自分は、完全に普段のペースを崩されている。不安になったり腹を立てたり、感情の起伏が激しくなりすぎる。
    でも、ジョウにはなぜそうなってしまうのか理由がさっぱりわからない。
    自分でもどうしようもない気持ちに手を焼きながら、ジョウは悶々とした当直の一夜を過ごした。

    明けて、昼過ぎからジョウ・タロス・リッキーの3人はブリッジに集まり休暇をどこで過ごすか協議を行った。
    こうなったら一刻も早くアルフィンの機嫌を直さなければならない。
    せっかく確保した長期休暇だ。嵐のように荒れ狂ったアルフィンを相手にするなど命知らずの男はチームには存在しない。

    結局ドンゴがピックアップしていたデータから、ピザンに程近いリゾート惑星メルクにホテルをリザーブすることに決定した。
    メルクはピザンの移住系民族によって開拓されたまだ新しい惑星で、一年中常夏のリゾート地としてウェザーコントロールされている。惑星の7割が紺碧の海。海上にいくつものコテージ型ホテルが点在する。数少ない陸地には巨大なショッピングセンターとアミューズメントパークを有し、特に巨額な資金を投入して建設されたマリンパークは、沖合い1k先まで海中散歩が楽しめることが売りになっていた。
    ジョウはメルクでも品の高さとサービスの良さでは5本指に入る高級ホテルに予約を入れた。まだオープンしたばかりだが、口コミで多くのリピート客が付いているらしい。
    アルフィン用にスウィートを1室、男3人はダブルを使う。
    アルフィンの部屋のリビングには総大理石のタイルが敷き詰められ、中央には天蓋つきのダブルベッドが鎮座する。ベッドの前の大きく開かれた窓からは遠浅の海を見渡すことができ、凪いだ海からは心地よい風が享受できる。オーナーが美術館のオーナーをしているだけあって、調度品からベッドの布に至るまでこまやかなこだわりのあるホテルだ。
    リビングを抜けるとテラ仕様のヨーロピアン式猫足バスが置かれ、アメニティグッズも趣味のいいものばかり。部屋中に南国の花が飾られて、ちょっとしたお姫様気分を味わうには最高だろう。
    本物の王女様であったアルフィンをどこまで満足させられるかは不明だが、とにかく少しでも楽しんでもらえるよう、普段は絶対利用しないホテルを3人は選び出した。

    「あとは、兄貴がどこまで頑張るかだね」
    リッキーがパソコンでホテルの館内説明を閲覧しつつ、ジョウに励ましの目を向ける。
    貴重な休みだ。二人の喧嘩のブリザードには絶対巻き込まれたくない。
    「やめろ。俺はとにかくアルフィンの機嫌がどうすれば直るのか考えるだけで胃が痛いんだ。余計なプレッシャーはかけるな」
    ジョウは低い声で答え、メルクの観光案内を猛スピードでピックアップしていく。
    (どうすれば、機嫌が直るかって兄貴・・)
    リッキーは、半ば呆れるようにため息をつき、タロスに目を向けた。タロスも”ダメだ、こりゃ”とジェスチャーで応える。
    (兄貴からピザンに連絡を入れれば一発じゃん)
    心の中でリッキーは呟いた。

    通常、ピザン王室の通信用コードは極秘中の極秘である。国王の親族、それもごくごく内輪の近親者と国防軍トップの少数人しか知り得ないトップシークレットだ。
    ジョウ達にそれが明かされたのは、ガラモスの起こしたクーデター鎮圧の功績、すなわちジョウチームに娘を託すまでに至った厚い信頼の証であった。
    だが、実際のところは。

    ーーーーーーアルフィンの近況を知る術が欲しいという親心がそうさせた、というのが本当だろう。


    つまり、ミネルバからピザン王宮に連絡が入っても、全く問題のない環境が出来上がっているのだ。それを使わない手はないし、アルフィンはそれを期待しているかもしれない。
    それなのに。
    問題はジョウだ。本人が無自覚であること自体、信じられないことであるが、本人以外は知っているこの事実。

    ジョウはアルフィンに恋している

    なにせ、アルフィンに関することとなると、それまでの緻密な計画や慎重な行動はどこへ行った、というくらい無謀で無茶な行動をとる。以前クリス絡みで彼女がアマゾネスに攫われたときの取り乱し方は尋常ではなかった。アルフィンを守るためなら、自分の命も二の次になるほど、ジョウはアルフィンに捕らわれている。
    それなのに「仲間を心配するのはクラッシャーとして当たり前だ」とか「ピザンにいる国王達への責任がある」などと大真面目で話す彼に、タロスとリッキーは開いた口が塞がらなかった。
    決して女性にもてないわけでもなく、むしろ仕事の依頼人が女性であった場合は、ほとんど場合ジョウに恋していくにもかかわらずそれにもまったく気づかない。この鈍感さはどうすればよいのか。
    複雑な思いでジョウを見つめるリッキーに
    「なんだよ」
    とジョウはマリンパークの案内をプリントアウトしながら声をかけた。既にアルフィンと会えなくなって10日目。本人は気づいていないが機嫌の悪いことは明白だ。
    無駄とは知りつつ、リッキーは
    「兄貴から連絡したら?」
    と口にしてみる。
    「なに?」
    「アルフィンに、兄貴のほうから連絡してみればって言ったの」
    一瞬、ジョウの瞬きが止まったかに見えた。が、すぐに端末のモニタ画面に視線を戻し、再び観光案内をチェックする。
    「アルフィン、待ってるんじゃない?」
    追い討ちをかけるように、リッキーが話し掛ける。
    「・・・なんて言うんだよ」
    ジョウは仏頂面のままだ。
    「そりゃ、あえなくて寂しいとか、早く会いたいとか、なんとかさ」
    「ばっ・・・・!!」
    一気にジョウの顔が上気した。
    (あらら)
    仕事となると一寸の狂いもないほど、プロフェッショナルな立ち回りをするくせに、アルフィンのこととなるとなぜこうもボロボロになるのか。
    「ピザン王室の専用回線だぞ。そんな事言えるか!!」
    首まで真っ赤になっている。
    「だって、仲直りしたいだろ?」
    リッキーも負けていない。なんとしても仲直りをしてもらわなければ、まず100%碧眼の姫の八つ当たりターゲットは自分だ。
    「いやだ、そんなことできるか」
    「兄貴ー、アルフィンの気持ちも考えてやれよー」
    「じゃあ、お前がそう言え」
    「それじゃあ、意味ないってーーーー!!」
    ついにお手上げとなり、リッキーは救いを求めるようにタロスに顔を向けた。
    「ジョウ」
    リッキーに”分かってる”と左手で合図を送った後、至極真面目な顔でタロスはジョウに話し始めた。
    「しかし、実際問題、アルフィンに休暇をメルクで過ごすことを早めに伝えておかないことには、ピザンへ迎えに行くための段取りも決められませんぜ」
    両腕を胸の前で組み、ジョウの横に立つ。
    「早めに戻るようなことも言ってましたしねえ」
    ちらりとジョウを見下ろし、様子を伺いながら言葉を続ける。
    「あたしらも久し振りの休暇です。早いとこ地上に降りて体を休めないと、さすがに辛いもんが・・。あー首が痛え」
    「う・・・」
    ここ半年間、ろくな休みをとってやれなかったのは事実だ。一番痛いところを突かれてジョウは唸った。
    (タロス!ナイス!!)
    リッキーは、小さなガッツポーズをタロスに送った。
    「ピザン王室への連絡をリーダー以外がするっていうのも。一応、王室への礼儀ってもんもありますし」
    じわじわとジョウが逃げられない状況を作っていく。
    「これ以上放っておくと手がつけられませんぜ」
    フーとため息をつきながら駄目押しの一言。
    「あのミネルバの女王さんは」


    「・・・わあったよ!!」
    ジョウはついに降参した。
    「連絡を入れりゃいいんだろ、俺が!!」
    黒髪を両手でぐしゃぐしゃと掻きながら二人に吠えた。
    タロスは満足そうに首から右手を離し、そのまま敬礼の姿勢をとる。
    「よろしくおねがいしまさア!」
    「兄貴、よろしく!」
    「う”−−−−−!!」
    タロスとリッキーは顔を見合わせ、互いに親指を立てた。
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■1149 / inTopicNo.7)  Re[6]: SHE IS NO.1(自覚編)
□投稿者/ とむ -(2006/06/14(Wed) 23:32:17)
    アルフィンに連絡を入れることになったもののーーーーー。
    ジョウは副操縦席の横に立ち、じっと立体正面スクリーンを睨んでいた。
    現在、標準時間で午後7時。かれこれ30分はこの状態でフリーズしている。
    ちょうど、ジョウの当直の時間でブリッジには一人きりだ。ピザンに連絡を入れるなら今しかない。

    リッキーとタロスに押し切られて連絡を入れる格好になっているものの、ジョウ自身、アルフィンに会いたい思いが限界に近かった。10日前に宇宙港で彼女を見送って以来、一度も彼女の姿を見ることができていないのはジョウだけだ。自分でも、今日一日かなり苛立っていたことは自覚している。
    なんとかして話したい、話して昨日の一件の説明をし機嫌を直して欲しい。そして久し振りの休暇をみんなで楽しく過ごしたい。
    そのためにはリッキーに言われるまでもなく、こちらから連絡を入れれば済む話だった。


    しかし。
    いつもはアルフィンの体当たりのアプローチに対し、受身一辺倒で対処してきたジョウには、なんと言って連絡をとればいいのか分からない。
    これがリッキーだったら、何のためらいもなく”アルフィンに会えなくてつまらない・寂しい”と言えるのだろう。だが、自分には無理だ。まずは気恥ずかしくて頭の中が真っ白になり、うまい言葉を探そうとしてパニックになり、そうしてる間に彼女の怒りを増大させるのが関の山。
    だから、理由を探した。クラッシャーのチームリーダーとしてチームメイトに連絡を入れなければならない正当な理由。ジョウは、メルクの情報をパソコンのモニタ画面に引っ張り出しながら、ずっとそんなことを考えていた。

    そして今。
    タロスの助け舟も入り、アルフィンに連絡を入れるための正当な口実もある。
    準備は整った。少なくとも、何を話せばよいのかパニックになることはないだろう。
    ジョウはメインスクリーンを睨んでいた瞳を固く閉じ、今一度頭の中を整理する。そして組んでいた腕を解き、フーーー、と深く深呼吸をした。
    「・・・・・よし、やるか」
    一言気合を入れてコンソールパネルの通信用回線を開く。ピザン王室の通信用コードを入力し、メインスクリーンに目をやった。
    ”ピ”
    回線が繋がりメインスクリーンにピザン王室の交換手が映し出された。長い黒髪を品良くバックでまとめ、シルクだろうか光沢感のある白いスーツで身を包んでいる。両耳にはピアスが上品にはめられ唇には薄いピンクルージュがひかれている。
    『こちらはピザンターナの王室専用回線です。あなたの船籍コードと現在地をお伝えください』
    と応えた。
    「こちらは船籍コードARMS−5W−MV6140 ミネルバ。現在地はとかげ座宙域第二惑星ヘヴェリウス付近。あと数回のワープで白鳥座宙域に入る予定だ」
    『お名前は』
    キーボードを叩きながら彼女は質問をする。
    「クラッシャー・・ジョウ」
    彼女は、ハッとしたようにキーボードに落としていた視線をジョウに戻し、そして嬉しそうに微笑んだ。
    『・・・了解しました。回線はどなたにお繋ぎしますか』
    「アルフィン・・に繋げて欲しい」
    気恥ずかしさを振り切るように、ジョウは彼女の目をまっすぐ見据え答えた。
    『かしこまりました。アルフィン様のお部屋にお繋ぎいたします』
    「頼む」
    回線が切り替わる音がして、正面のスクリーンの交換手が消え、真っ白な画面になった。
    じりじりした時間を過ぎていく。ほんの短い時間のはずなのに、やけに長く感じるのはなぜなのか。
    ーーーーーー自分にはアルフィンに連絡を入れなければならない理由がある
    まるで、それが唯一の拠り所であるかのように、ジョウは何度も何度も同じ言葉を繰り返していた。

    と、その時。
    それまで真っ白だったスクリーンに、突然色彩が戻ってきた。
    『ジョウ!?』
    水色のワンピースを着て、心なしか頬を染めたアルフィンがスクリーンに映し出された。繊細なグラデーションのストライプ地に上品な花柄プリント。襟周りと袖口にはフリル、胸元にはギャザーがあしらわれ、その上にキラキラと流れる金髪がこぼれている。
    そしてその碧眼には、ジョウがわざわざ自分に連絡をくれたという嬉しさが隠しようもなく表われていた。
    アルフィンはジョウの性格を充分に理解している。彼の性格からして、アルフィンからの連絡をひたすら待つことはしても、彼自らが連絡をよこすなどとはあるわけがないと思っていた。いつものごとく自分からミネルバに連絡を入れないことには、彼と話す術などないと諦めていたのだ。
    しかし、目の前には間違いなく彼がいる。この10日間、毎晩夢にまで見た恋する人だ。
    アルフィンは嬉しさのあまり息が止まるかと思った。
    『どうしたの?ジョウから連絡が来るとは思ってなかったわ。何かあったの?』
    嬉しさのあまり興奮しているアルフィンは、呆けているジョウにはなかなか気がつかなかった。


    一方、ジョウは。
    こちらも10日ぶりに見るアルフィンの姿にすっかり目を奪われていた。無意識のうちに姿を求め、声を聞きたいと願い、体中が会いたいと願っていたアルフィンが今、目の前にいる。アルフィンと会えなかった10日間は体の真ん中がぽっかりと空洞になったような空虚感に苛まれ、だましだまし毎日を過ごしてきた。
    それが久し振りに見るせいだろうか、不意に彼女がまぶしく見えてしまい、思わず目を逸らしてしまった。おまけにくすぐったいような照れくさいような、わけのわからない感情が溢れてきて何か話そうと思っても口が動かない。

    自分から話し掛けてこないジョウを不審に思い
    『ジョウ?』
    小首をかしげながらアルフィンが再びジョウに声をかけた。
    「あ・・・・」
    我に返ったジョウは、ふてくされたように視線を自分の足元に落とした。顔が赤くなってやしないか、気になって仕方がない。
    「あの・・・、なんだ。休暇を過ごす場所を決めたから知らせなきゃと思ってさ」
    動きが妙にぎこちなくなっているのが自分でも分かる。
    『そうなの。どこにしたの?ここの近く?』
    嬉しそうにアルフィンはジョウに話し掛ける。どうやら休みは死守したらしい。もうすぐみんなと合流して楽しい休暇を過ごすことができる。それを想像するだけでも嬉しくてたまらない。
    「ああ、メルクにした。明後日から1週間ホテルをリザーブしてある。チェックインの都合もあるからアルフィンの予定が聞きたい」
    ジョウは、気恥ずかしさも手伝って用意していた台詞を一気にしゃべってしまった。相変わらず視線はアルフィンと合わせられない。
    『もうお父様も元気になったし、いつでも戻れるわよ。もともとたいしたことないんだもの。ミネルバは今どこいいるの?ピザンにはいつ来てもらえる?』
    アルフィンは一向に自分を見ようとしないジョウに気づき、探るような視線をジョウに向けた。
    「今、とかげ座宙域にいる。明日、小ワープを1回すればピザンに入れる。アル・ピザンにはあさっての朝につくがそれでいいか?」
    ジョウは早口で用件だけを伝える。
    『・・・・それは、いいけど・・・』
    アルフィンの言葉がとまった。

    おかしい・・・。

    明らかに楽しい休暇の話をしている雰囲気ではない。女の直感とでも言うのだろうか。普段とは全く違う様子のジョウの態度にアルフィンの頭の中で警報が鳴った。アルフィンの目が次第に鋭くなってくる。
    (まさか・・・・女?)
    ザアッと血が逆流する音が聞こえた。先ほどまでジョウから連絡をもらえて嬉しくて輝いていた瞳が、青白い怒りの炎に覆われる。ミネルバを離れて、たった10日だ。いったいいつ、どんな女と知り合ったというのか。
    アルフィンの頬が引きつってピクピク痙攣し始めた。
    「じゃあ、迎えに行くが何時くらいがいい?アルフィンの都合のいい時間を教えて・・」
    ジョウは、待ち合わせの時間を決めるべく、やっと顔をあげてアルフィンに目をやった。

    が。
    (げ・・・・・!!!)
    メインスクリーンには怒りをたたえた碧眼で自分を睨んでいるアルフィンが大映しになっていた。そこら中に冷たいオーラを放っている。
    ジョウは、なぜそういうことになっているのか全く状況を把握できない。
    いったい今まで話した内容のどこに、彼女の怒りの導火線に火をつける箇所があったというのか。
    冷たい汗がひやりとジョウの首筋に流れた。
    「ア・・・、アルフィン?何を怒ってるんだ?」
    おそるおそる口を開く。
    『ジョウ?あたしがフルドでジョウと約束したことを覚えてる?』
    「は?」
    唐突に何を言い出すのか。
    『ひとつ。絶対に飛び込みは受けないこと』
    「・・・・はあ」
    『ひとつ。つまんない女にひっかからないこと』
    「・・・・それが?」
    全く分からない。
    『・・・・なるほどね』
    刺すような視線をジョウに向け、アルフィンは呟いた。
    「何のことだ。さっぱり分からない」
    ジョウは、飛びすぎる会話の内容についていけない。
    『ずっと連絡を入れなくても平気だった訳ね』
    ますます意味不明だ。
    アルフィンは、すぅ・・・と目を細め
    『・・・・どんな女なの』
    突き放すような冷たさでジョウを睨む。
    「なに?女って誰のことだよ?」
    ジョウは、もはや何のために連絡を入れたかさえ分からなくなってきた。
    『とぼけないで!女ができてあたしからの連絡にも出なかったんでしょ?まったくミネルバからピザンに帰ってまだ10日だってのに信じられない!!』
    「なん・・・・!!!」
    思いがけない言いがかりをつけられ、ジョウは絶句した。いったいどこをどのように解釈したらこのような誤解をするのだ。
    「ちょ・・ちょっと待て、アルフィン。何でそういう話になるんだよ」
    『なんでそういうことになったのかを知りたいのはあたしの方よ!』
    「違うって!女なんかできていない」
    『うそつき!』
    「うそじゃない。だいたい今までの話のどこにそんな話があったんだ」
    『女の勘よ』
    「なんだそりゃ」
    『だって、ジョウったら、あたしの方をロクに見ようともしないじゃない!』
    「・・う・・」
    今度はジョウが口ごもる。まさか照れてしまって顔が見れないなどといえる訳がない。
    すかさずアルフィンが
    『ほうらね。やっぱり』
    と軽蔑するように言い放つ。
    「違うって!いいかげんにしろよ、アルフィン。俺をどんな男だと思ってんだ」
    『鈍感で女心がさっぱり分からない唐変木』
    「・・・・・・っ!!」
    少なからず自覚があるため、言い返せない。しかし、見当はずれの言いがかりも事実無根だ。多少怯みながらも
    「変な言いがかりはやめろ。ずっと仕事をしててそんな暇あるか」
    『あら、暇があればどうだっていうの』
    「あげ足を取るな。こっちはアラミスへのレポートをやっつけて、ホテルとって、きっちり休みを確保したんだ。そっちの予定はどうなってんだ、早く教えろ」
    アルフィンの目で怒りの炎が勢いを増す。
    『なーによ、その言い方!大体ジョウの態度が失礼なんじゃない。人と話す時はちゃんと目を見て話すのが礼儀でしょ!!』
    「アルフィンがくだらないこと言うからだろ!せっかく連絡を入れたのになんだってんだ」
    『どうせタロスとリッキーに言われて連絡したくせに』
    見ていたのではあるまいか。内心かなりビビリながらも応戦する。
    「バカ言うな。ピザン王室への専用回線を使うんだぞ。リーダーの俺が連絡を入れるのが礼儀だろ」
    『礼儀〜〜〜!?!?!?』
    この一言もいけなかったらしい。
    『あっそう。そういう礼儀はわきまえてるわけね。それはそれは、嫌々ながらのご連絡、誠にありがとうございました!!』
    ・・・・・・もう、なにがなんだか。
    ジョウは頭が痛くなってきた。とにかく今まで自分が話した言葉が、いちいちアルフィンの逆鱗に触れていたことは間違いない。ジョウは完全なお手上げ状態に陥った。



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■1152 / inTopicNo.8)  Re[7]: SHE IS NO.1(自覚編)
□投稿者/ とむ -(2006/06/16(Fri) 20:16:36)
    しばらく無言のにらみ合いが続いた後。
    『・・・・大体ジョウは』
    と、アルフィンがゆっくり口を開いた。
    『あたしがどれだけジョウに会いたかったか、わかってないのよ』
    「う・・・・・」
    ジョウは怯んだ。こういう話の展開は、過去の例から言ってジョウには徹底的に不利となる。
    アルフィンは、ジョウを睨みながら目の前にあるスクリーンの画面を軽く指で弾いた。
    『ジョウにとっては、たった10日なんだろうけど、あたしにとっては死ぬほど長い10日だったの。こんなに会えなかったのって初めてなのよ。分かってる?』
    責めるようにジョウを見る。
    「待てって、アルフィン。今は、そういう話じゃなくて待ち合わせの時間をだな・・」
    『ジョウは別にあたしがいなくなったって、ドンゴが代わりをやればいいくらいに思ってるんだろうけど、あたしだってもう一年以上、クラッシャーとしてミネルバでそれなりに努力してきたつもり』
    全く聞いていない。
    『それはつまりミネルバのメンバーとしてみんなのハンデになりたくなかったのと、ここにいるお父様とお母様にクラッシャーとしての生き方を認めさせるためでもあるの』
    「ああ、わかる」
    『わかってないわよ』
    アルフィンがにべもなくジョウの言葉を遮る。
    『それだけが理由のわけないでしょ。それもこれも、ジョウの近くにずっといたいからよ。なのに、何よ。フルドの宇宙港じゃ、行ってこい、ゆっくりして来いだなんて。あたしがいなくても全然平気です、見たいな顔しちゃってさ。どうせあたしはクラッシャーとしてまだまだ半人前で、簡単に入れ替えが利く程度の存在よ』
    「ちょっと、まてよ。実際アルフィンはかなり疲れてただろ。俺は、純粋に休ませてやりたかったから」
    『ジョウにとってもね』
    (・・・・・!!)
    一瞬、ジョウの目が見開かれた。
    小さな棘のようなものが胸の中に刺さり、じわじわと痛みを放つ。その棘がつけた傷の息苦しさで、ジョウは居たたまれない思いになった。
    『あたしがいなくても全然平気なのよ。でも、あたしは大変だった。どこに行くにもみんなを、ジョウを探しちゃって。ピザンになんているわけないって分かってるのにね』
    ジョウは、そんなことはないと訂正しなければいけないのは分かっていても、なんと言っていいのか分からない。じれた思いで何とか自分の気持ちを伝えなければと、言葉を探す。
    『ずっと連絡をいれられなかったのに、ミネルバからは何も言ってこないし、あたしが戻らなくても平気なんじゃないかって不安だったんだから』
    それは、自分も一緒だ。アルフィンがピザンに帰ってしまうかもしれないと、眠れない夜を過ごした。
    『毎晩、ずっとジョウから連絡がもらえるのを待ってたの。夜寝る時だって、ジョウの顔を思い出して寝てたのよ』
    そう。自分も同じ。ずっと会いたかった。
    ミネルバにいるはずのないアルフィンを探し、姿を求め、何度も記憶の底からアルフィンの笑顔を引っ張り出した。せっかくよこしてくれた連絡の時、自分だけが会えなくて歯がゆい思いを味わった。いらいらして、会いたい思いが限界で、やっと口実を見つけて連絡をしたのだ。


    ふと。
    ジョウの中の琴線に何かが触れた。

    『でも、全然眠れなかった。会いたくて』
    「アルフィン」
    ジョウの心の中で先ほど生まれた小さな棘が、突然、甘美な香りを放つ灯火に姿を変えた。
    『バカみたいだけど一人で色々考えちゃって。でも、顔だけでも見たくて、何回も連絡を入れちゃったり。・・・・迷惑だったみたいだけど』
    思わず、ジョウはアルフィンに視線を戻し、彼女の顔を見つめた。
    さっき生まれた小さな灯火は、彼女の顔を見た瞬間、突然風に煽られて大きな炎となって
    甘い香りを放ちながら体中を駆け上がっていく。体中が甘い痺れに包まれて、眩暈がしそうだ。
    アルフィンは目を伏せながら、ジョウに聞こえるか聞こえないかというほどの小声で呟いた。
    『・・・・どうせ、あたしの片想いだけど』
    「・・・!ちが・・・」
    咄嗟にアルフィンの言葉を否定しようとしたその時。
    またもや、少し涙目ではあるもののジョウをギロリと睨むアルフィンと目が合った。
    『なのに人の気持ちも知らないで!何がスケジュールを教えろよ!嫌々そんなこと言われても嬉しいわけないでしょ!少しはあたしの気持ちも考えなさい!バカ!鈍感!大ッキライ!!』
    ”ブツ”
    これまた一方的、かつ盛大に回線を切られてしまった。立体正面スクリーンには、再び漆黒の宇宙だけが映し出されブリッジには静寂が戻った。
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■1153 / inTopicNo.9)  Re[8]: SHE IS NO.1(自覚編)
□投稿者/ とむ -(2006/06/16(Fri) 23:16:45)
    ジョウは暫く唖然としてメインスクリーンを見つめていたが、やがて音もなくその場にへたり込んだ。
    フロアにあぐらをかきながら赤く上気した顔を左手で支える。体全体が熱を帯び、息が苦しい。
    (はああああ)
    深いため息をついて床に頭を落とす。

    ーーーーーーーーーーやっとわかった。

    この数日間、自分のペースを保てなかった訳。いないとわかっているのにミネルバの中に彼女の姿を探し、眠る時には彼女の面影を何度も呼び起こした訳。不安な気持ちをなだめ、笑顔を見たいと何度も願った訳。どんなに無様な顛末になろうとも、彼女と話がしたいと痛烈に願った訳。


    (ピザンにいるわけなんてないのに、ジョウの姿を探しちゃったり)
    (ミネルバにあたしが戻らなくても平気なのかと不安になっちゃったり)

    ジョウは、何度も何度も彼女の言葉を頭の中で反芻する。アルフィンが自分に向けて告げた言葉は、まるっきりここ数日の自分が感じていた気持ちと同じもの。

    今まで自分の中でバラバラだったパズルのピースが、ひとつひとつきれいに組み合わさり、ジョウは今感じている気持ちをなんと呼ぶのか、やっと理解したのである。
    「〜〜〜〜〜〜〜〜」
    アルフィンと出会って、約1年。
    ともに仕事をし、寝食を共にしてきた。よくここまで気づかなかったものだ。
    「・・・・ホントに鈍いよな・・・」
    ジョウは、首まで真っ赤になりながら一人呟いた。顔を支えていた左手で口元を押さえる。うっかりすると自然に顔が緩んでしまう。
    「・・・・まいった」
    暫く、ジョウは両手で顔を被いフロアに座り込んでいた。



    そろそろ、通信用回線が叩き切られて20分が経とうかという時、フロアに蹲っていたジョウは、ゆっくりと体を起こした。だいぶ動悸は治まってきている。もう一度瞳を閉じて、自分の気持ちを確認する。気恥ずかしい反面、ずっとモヤモヤと心を覆っていた霧が晴れ渡り、思いのほか気分も晴れやかだった。
    じっと、正面のメインスクリーンを見る。
    「二人とも同じ気持ちか・・」
    とにかく明日だ。
    明日の朝、一番でもう一度アルフィンに連絡をしよう。
    面倒なことを言う必要はない。素直に会いたかったと伝えればいいのだ。それで済む。
    そして、待ち合わせ時間を決めてファイターで迎えに行こう。きっと、楽しい休暇になる。
    ジョウはそう確信して、副操縦席にゆっくりと腰を下ろした。



    18th MARCH

    現在、標準時間の午前2時30分。ブリッジの中では小さな電子音がカチャカチャと響き、ジョウと当直を交代したドンゴがなにやら作業をしている。
    「キャハハハハ!!」
    次から次へと抽出したデータと報告文を内蔵の電子頭脳へ保存していく。


    7th MARCH*
     じょう、ふるどノ宇宙港ニテ女性管制官ト約6分間ノ交信アリ。カナリ楽シゲナ状況ト認識シタ。
     9th MARCH*
     くらいあんとヨリ物資補充ノV−TOLガみねるばニ接合。約3時間後、補充完了デ帰還。帰還後、V−TOLノ女性乗組員ヨリじょう宛ノ連絡アリ。
     14th MARCH*
     ぷるとにうむ輸送業務終了。ソノ際、くらいあんとノ娘ト名乗ル女性ヨリ、じょう宛ノ連絡アリ。

     15th MARCH*
     じょう、あるふぃんガ留守ノ間ハ、れぽーとガハカドルトノ発言アリ。
     16th MARCH*
     ・・・・・・・・・


    実に軽やかな音を響かせて、作業は進む。
    アルフィンは、自分が留守の間の注意事項を男3人のみならず、ドンゴにもしっかり伝えていった。自分が留守の間、ジョウが接触した女性の情報を、ミネルバに戻った際報告するように。
    ドンゴは実に忠実にその指示を遂行していく。
    カチャカチャカチャカチャカチャ。



    そして、ジョウは2日後に待っている愛しい人との再会を心待ちにしながら、何日かぶりの安らかな眠りに身を委ねていた。
    きっと、うまくいくさ。半年ぶりの休暇をみんなで楽しく過ごす。そしてできれば、アルフィンと二人でドライブでもできりゃ最高かな。








fin.
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