| ジョウは暫く唖然としてメインスクリーンを見つめていたが、やがて音もなくその場にへたり込んだ。 フロアにあぐらをかきながら赤く上気した顔を左手で支える。体全体が熱を帯び、息が苦しい。 (はああああ) 深いため息をついて床に頭を落とす。
ーーーーーーーーーーやっとわかった。
この数日間、自分のペースを保てなかった訳。いないとわかっているのにミネルバの中に彼女の姿を探し、眠る時には彼女の面影を何度も呼び起こした訳。不安な気持ちをなだめ、笑顔を見たいと何度も願った訳。どんなに無様な顛末になろうとも、彼女と話がしたいと痛烈に願った訳。
(ピザンにいるわけなんてないのに、ジョウの姿を探しちゃったり) (ミネルバにあたしが戻らなくても平気なのかと不安になっちゃったり)
ジョウは、何度も何度も彼女の言葉を頭の中で反芻する。アルフィンが自分に向けて告げた言葉は、まるっきりここ数日の自分が感じていた気持ちと同じもの。
今まで自分の中でバラバラだったパズルのピースが、ひとつひとつきれいに組み合わさり、ジョウは今感じている気持ちをなんと呼ぶのか、やっと理解したのである。 「〜〜〜〜〜〜〜〜」 アルフィンと出会って、約1年。 ともに仕事をし、寝食を共にしてきた。よくここまで気づかなかったものだ。 「・・・・ホントに鈍いよな・・・」 ジョウは、首まで真っ赤になりながら一人呟いた。顔を支えていた左手で口元を押さえる。うっかりすると自然に顔が緩んでしまう。 「・・・・まいった」 暫く、ジョウは両手で顔を被いフロアに座り込んでいた。
そろそろ、通信用回線が叩き切られて20分が経とうかという時、フロアに蹲っていたジョウは、ゆっくりと体を起こした。だいぶ動悸は治まってきている。もう一度瞳を閉じて、自分の気持ちを確認する。気恥ずかしい反面、ずっとモヤモヤと心を覆っていた霧が晴れ渡り、思いのほか気分も晴れやかだった。 じっと、正面のメインスクリーンを見る。 「二人とも同じ気持ちか・・」 とにかく明日だ。 明日の朝、一番でもう一度アルフィンに連絡をしよう。 面倒なことを言う必要はない。素直に会いたかったと伝えればいいのだ。それで済む。 そして、待ち合わせ時間を決めてファイターで迎えに行こう。きっと、楽しい休暇になる。 ジョウはそう確信して、副操縦席にゆっくりと腰を下ろした。
18th MARCH
現在、標準時間の午前2時30分。ブリッジの中では小さな電子音がカチャカチャと響き、ジョウと当直を交代したドンゴがなにやら作業をしている。 「キャハハハハ!!」 次から次へと抽出したデータと報告文を内蔵の電子頭脳へ保存していく。
7th MARCH* じょう、ふるどノ宇宙港ニテ女性管制官ト約6分間ノ交信アリ。カナリ楽シゲナ状況ト認識シタ。 9th MARCH* くらいあんとヨリ物資補充ノV−TOLガみねるばニ接合。約3時間後、補充完了デ帰還。帰還後、V−TOLノ女性乗組員ヨリじょう宛ノ連絡アリ。 14th MARCH* ぷるとにうむ輸送業務終了。ソノ際、くらいあんとノ娘ト名乗ル女性ヨリ、じょう宛ノ連絡アリ。
15th MARCH* じょう、あるふぃんガ留守ノ間ハ、れぽーとガハカドルトノ発言アリ。 16th MARCH* ・・・・・・・・・
実に軽やかな音を響かせて、作業は進む。 アルフィンは、自分が留守の間の注意事項を男3人のみならず、ドンゴにもしっかり伝えていった。自分が留守の間、ジョウが接触した女性の情報を、ミネルバに戻った際報告するように。 ドンゴは実に忠実にその指示を遂行していく。 カチャカチャカチャカチャカチャ。
そして、ジョウは2日後に待っている愛しい人との再会を心待ちにしながら、何日かぶりの安らかな眠りに身を委ねていた。 きっと、うまくいくさ。半年ぶりの休暇をみんなで楽しく過ごす。そしてできれば、アルフィンと二人でドライブでもできりゃ最高かな。
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