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■1150 / inTopicNo.1)  MIRACLE
  
□投稿者/ りんご -(2006/06/15(Thu) 23:00:47)
    校舎の奥まった所に、その図書館はあった。
    周りの喧騒から切り離されたその場所は、深い森のように静まり返っている。
    このスクールに入学して半年程だが、図書館は少女の大のお気に入りの場所だ。
    大きな窓から差し込む光が、金色から赤へとその色を変えようとしていた。

    衝立で仕切られた、視聴専用ブースの一画に、少女は座っていた。
    金色に輝く髪が、紺色の制服によく映える。
    椅子が高いのか、小さな足が床に届かず、ぶらぶらしている。
    少女は、目の前に浮かび上がる3D画像を、熱心に見入っていた。

    「そこに、いらしたのですか」凛として、それでいて温かみのある声がした。
    振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
    「シスターマリベル!」
    少女が、その女性の名を呼んだ。
    シスターマリベルは、このスクールの校長だ。齢は、とうに70は超えている。
    顔には幾筋もの深い皺が刻まれているが、それは彼女が歩んできた人生の深さを表すかのように、自愛に満ちた輝きを放っている。

    「お迎えの方が、必死で探しておられましたよ」
    シスターマリベルは、怒るでもなく、微笑みながらそう告げた。
    少女は、慌てて、壁にかかっている時計を見た。
    下校時間は、ゆうに1時間は過ぎている。
    「すみません。すぐ、帰ります」
    すばやく手元のスイッチを切ると、映像が、ふっと消えた。

    「何を熱心に、見ていたのですか?」
    「宇宙です」
    少女は、嬉しそうに答えた。
    「宇宙?」
    意外な答えに、シスターマリベルの目が大きく見開かれた。
    「はい。ずっとずっと遥か彼方の宇宙です。宇宙には、たくさんの惑星があって、たくさんの人が住んでます」
    頬をばら色に染め、大きな青い瞳をキラキラさせながら少女が言った。
    「そこでは、きっと色んな出会いがあって・・」
    「それは、昨日放送されたドラマの影響かしら?」
    シスターマリベルが可笑しそうに、口を挟んだ。
    「シスターもご覧になったんですか?」
    びっくりしたように、少女が訊いた。
    「いえ。残念ながら、私は見てませんが・・・すごく面白いお話だったとは、聞いてますよ」

    それは昨夜の晩、ギャラクシーTVで放送されたものだった。
    宇宙の片隅で、偶然出会った二人の恋物語。育った環境も、性格も違う二人が、衝突しながらも愛を深めていく。
    とても、ロマンチックなドラマで、少女もすっかり虜になっていた。

    「さて、今のあなたに必要なことは、速やかに下校することですよ。もうお帰りなさい」
    シスターに優しく即され、少女は席を立った。
    「御機嫌よう。シスターマリベル」
    そう言って、出口に向かう。が、思い出したように、足を止めて振り返った。
    「シスターマリベル」
    「なんですか?」
    「いつの日か、私もそんな出会いがあるんでしょうか?」
    小さな少女は、真剣な眼差しで、シスターを見つめた。

    「人に限らず、出会いは偶然ではありません。神さまのお導きによるものです。出会うものは、出会うべくして出会う。出会いとは、神の奇跡なのです。
    あなたにとって必要な方なら、きっとめぐり合えますよ」
    そう言って、シスターマリベルは、にっこり笑った。


    空間表示立体スクリーンのシートに座るアルフィンは、ふと幼い日のシスターの言葉を思い出していた。
    『人の出会いは偶然ではありません。出会いとは、神の奇跡なのです』
    アルフィンは、副操縦席に座るジョウを見た。
    そう、あたしは出会った。
    この広い宇宙で・・・たった一人の人に。

    「よし、もうすぐアラミスだ」
    ジョウの声がした。
    スクリーンに、惑星アラミスが広がっている。ここで、明日から大きな競技会が行われるのだ。
    まだ、クラッシャーアルフィンとしての記憶は、戻っていない。
    不安と緊張が、アルフィンの胸いっぱいに広がった。

    不意に、ジョウが振り向いて、目が合った。
    その瞳には、強い光が宿っていた。
    何も心配するな。アルフィンのそばには、俺がいる。
    口には出さなくても、ジョウの目がそう言っている。
    アルフィンが、小さくうなずくと、ジョウは正面に向き直った。

    不安と緊張はどこかへ吹っ飛んだ。代わりに、アルフィンの胸に、暖かい思いが満ちていく。
    もう・・・迷わない。あなたを信じてついていく。
    だって、あたし達は会えたから。
    この広い宇宙の片隅で・・・。
    それは、出会いという名の奇跡<MIRACLE>。

    「降下しますぜ」主操縦席のタロスが言った。
    <ミネルバ>がアラミスに向けて、降下を始めた。


    <END>

引用投稿 削除キー/
■1151 / inTopicNo.2)  Re[1]: MIRACLE
□投稿者/ りんご -(2006/06/15(Thu) 23:24:07)
    <あとがき>

    お読み頂き、ありがとうございました。

fin.
引用投稿 削除キー/



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