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■1167 / inTopicNo.1)  The day after 〜Jside
  
□投稿者/ とむ -(2006/06/22(Thu) 20:16:52)
    ”・・・・バタン・・”

    シャワールームから出て、部屋の奥にあるクローゼットの中から取り出したクラッシュジャケットを”ばさ”と肩に引っ掛ける。
    頭には洗ったばかりの髪を拭くための大き目のタオルを被り、左手にはフリーザーから出しておいたミネラルウォーターのペットボトル。ペットボトルのキャップを軽くつまみ、ぶらぶらと大きく振りながら、右手で大雑把に髪を拭く。大股でベッドサイドまで来ると、ローボードにペットボトルを置き、そのままベッドに腰を下ろした。
    もう一度、両手で頭のタオルをつかみガシガシと髪を拭いた。


    現在、標準時間の朝6時。
    今日から近くの惑星国家の要人警護の仕事が入ってる。クライアントと会うのは昼過ぎだから、まだまだ余裕だな。ちょいと肌寒い気もするが宇宙空間ではいつものことだ。

    タオルを頭に載せたまま、ベッドサイドのローボードを見る。
    今置いたペットボトルの横に、ちょこんと置いてある小さな白いメッセージカード。
    左手を伸ばしカードを摘んで、何度目かの内容確認。


    「おはよう。朝食の支度があるのでお先に失礼。今朝のコーヒーには期待しててね」


    自然に顔が綻んでくる。
    俺が目を覚ました時には、もうアルフィンは部屋を出た後だったから、このメッセージを書いたのは相当前だ。ちゃんと眠れただろうか。風邪なんかひかなかったよな。
    昨夜は何度も何度も互いの肌を重ね合わせ、何度も彼女の流れる金髪を捕まえて口付けた。ずっと前からこうなることを望んでいながら、なかなか思い切ることが出来なかった。
    でも、一度必死で守ってきた決壊が崩れてしまうと。
    もうどうにも止めようがなくなった。
    アルフィンの全てを俺の中に取り込みたくて何度も何度も抱き合った。夢中になりすぎて、何時ごろに眠ったのかもさっぱり覚えていない。
    シャワーを浴びて体のほてりは冷ましたものの、俺の部屋は。
    まだ昨夜の熱い空気が薄い膜になって、そこら中に張り付いている気がする。
    アルフィンが先に起きていてくれて助かった。まだアルフィンが俺の横に眠っていたら、なんだかんだと理由をつけて、俺はアルフィンを腕の中に閉じ込めていたかもしれない。


    頭に置いてたったタオルをつかみ、ローボードの上に置く。頭を左右に軽く振ると大分髪が乾いてきたのが分かった。右手で前髪を掻きあげる。
    カードを見ながらペットボトルを手にとりキャップを開け、一口、口に含んだ。
    冷たく澄んだミネラルウォーターが、再び猛り出した体の熱をゆっくりクールダウンしていく。


    「・・それにしても」
    アルフィンの残していったメッセージカード。
    文面を見る限り全くいつも通りだ。むしろ余裕まで感じるのは俺だけか?
    肩に引っ掛けておいたクラッシュジャケットを手に取り、黒のタンクトップの上から身に付ける。
    「俺の方が動揺してたりしてな」
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■1168 / inTopicNo.2)  Re[1]: The day after 〜Jside
□投稿者/ とむ -(2006/06/22(Thu) 23:08:19)
    ずっと長い間、アルフィンとはチームメイトとしての距離を保とうと努力してきた。それこそ、彼女への自分の気持ちに気づく前からずっとだ。それはチーム内のバランスを保つためでもあったし、仕事と私情を混同しないためでもあった。
    はっきり言って、拷問以外の何者でもなかった。でもチームのことを考えれば、そうするしか仕方がない。正直、いまだってこうなったことに後悔はしてないが、どうやってアルフィンと接すりゃいいのか迷ってはいる。なのに、当のアルフィンはそんなことはどこ吹く風。
    全くいつも通りで
    「お先に失礼」
    ときたもんだ。
    「敵わないよな、ほんと」
    思わず苦笑してしまう。朝飯で顔を合わせても、いつものペースでどやされそうだ。

    それはそれで、ホッとするような、つまらんような・・・・。

    ふと、ベッドの横にあるクロノメータに目をやった。
    6時34分になっている。
    「やばい」
    このままだと朝飯に遅れる。はりきってコーヒーを淹れているアルフィンに小言を言われるのは、今日ばかりはごめんだ。
    ベッドから立ち上がり、リビングへ向かうべく部屋を出た。



    もうすぐリビングに着こうかという時、俺と反対方向からやってきたリッキーがリビングに入っていくのが見えた。一応クラッシュジャケットは着ているものの、足元がかなりおぼつかない。
    アイツ、ちゃんと起きてんだろうな。朝飯の後、仕事の最終ミーティングの予定だぞ。
    やれやれと思いながら、リビングの中へ足を踏み入れた。
    「・・・昨日、物資補充で買ってみたの。タロスもジョウも好きだから、いつもインスタントじゃつまんないでしょ」
    「へえ、朝から大変だったね」
    「いっつもジュースのお子様にはわかんないかもね。この香りは」
    リッキーとアルフィンの声が聞こえてくる。カウンターの陰で話をしているらしく、アルフィンの姿は見えない。が、声を聞く限りはまるっきりいつも通りなんだよな。昨夜あんな時間を過ごした後とは思えない。
    まったく、なんであんなに冷静なんだ?
    「無駄口叩いてんなら、コレ運んでよ」
    威勢良くリッキーに指示を出すアルフィンの声。
    「は・・・」
    思わず笑いがこぼれた。ホントにまいる。女ってのは、みんなこうも切り替えが早いのか。男の方がよっぽど純情に出来てるぜ。
    いや、それとも舞い上がっているのは俺だけで、アルフィンにとっては昨夜のことなど些細なことなのか。それとも、それほど嬉しいことではなかったのか。昨夜のことはお互いが望んだ結果だと思ってるのは俺だけか?

    そんなことを思いながら顔を上げると、クロワッサンの載ったトレーを持ったリッキーがやってきた。
    「あ、おはよ、兄貴」
    大分目が覚めた様子のリッキーが声をかけてくる。
    「おはよう。お前、ちゃんと目エ覚めてるのか?」
    すれ違いざまに左手でリッキーの寝癖のついた頭をポンポンと叩く。
    「バッチシ!任せとき!!」
    リッキーがウィンクをしながらトレーを軽く持ち上げて答えた。
    「ホントかね」
    軽く笑いながら、俺はキッチンにいるアルフィンに声を掛けるために歩き出す。

    キッチンカウンターの横まで来ると、シンク下の収納棚からフライパンを取り出し、スクランブルエッグを作り始めているアルフィンが目に入った。手際よくフライパンの上で、あらかじめ溶いていた卵をかき回す。一心に料理をしている姿につい見惚れた。

    声を掛けようとして、一瞬躊躇う。
    情けねえ。やっぱりかなりビクついてる。アルフィンより俺の方が動揺しているなんざ、出来れば知られたくない。
    おまけに、フツーに”あら。おはよう、ジョウ”なんていわれた日には、へこむどころかかなり落ち込む。
    一度、軽く深呼吸。
    そして、できるだけさりげなく声をかけた。
    「おはよう」
    すると、一瞬アルフィンの全身が”ビク!”と震えたかと思うと
    「ぅきゃあ!!」
    ものすごい叫び声を上げられた。
    ギョっとして、思わず後ずさる。
    は!?
    ちょっと待て。今、そんなに驚くほど変な声の掛け方したか。おたつきながらアルフィンに目をやると、いまにも持っていたフライパンを落っことしそうになっている姿が目に飛び込んできた。
    「うわ!」
    咄嗟にアルフィンの後ろから回り込んで、フライパンを受け止めた。アルフィンに覆い被さるようにして右側から手を伸ばし寸でのところでフライパンをキャッチする。
    「・・・セーフ」
    体中から力が抜ける。勘弁してくれ。朝っぱらから心臓に悪い。
    とりあえず卵は無事だ。アルフィンは・・・?
    フライパンをそろそろとシンクの上に置きながら視線をアルフィンに落とした。ちょうど俺の顔の真下にアルフィンの頭がある格好になっている。この体勢は。
    頭の中に昨夜の出来事がフラッシュバックする。
    まずい・・・。
    全身の血が頭に逆流する。自分の鼓動がやけに近くに聞こえる。このままだと、自分の意思に関係なく体が反応してしまう。それはやばい。さすがにこの場所ではやばすぎる。
    体勢を変えようかどうしようか、凄まじいスピードで考えを巡らせていると、アルフィンがおそるおそる俺を見上げるようにして振り返った。
    アルフィンを覗き込むようにしていた俺の目とアルフィンの青い瞳がかち合った。
    途端に。
    みるみるうちに、アルフィンの顔が真っ赤になるのが分かった。
    (は・・・・?)
    俺は、この反応の意味が呑み込めない。
    すると、すかさずアルフィンは真っ赤な顔を俺から隠すように前に向き直り、こちらを見ないまま
    「ご・・ごめん。考え事してたから・・」
    としどろもどろで話し出した。明らかに動揺している。
    「・・・やけどしてないか?」
    アルフィンの様子を伺いながら、フライパンの取っ手から手を離す。
    すると、何を思ったのかアルフィンがシンクの上に置いてあったフォークをいきなりつかみ、再び火から下ろした卵をかき回し始めた。
    (!?!?)
    ボーゼンとその様子を見ていた俺に
    「だ・だ・大丈夫よ。あ、ありがとう」
    と答えながら、がしがし音を立ててフライパンの上でフォークを空回りさせている。

    これは・・。もしかして・・・。

    不意に。
    アルフィンの薔薇色に染まった耳たぶを見ていたら、なんともいえない可笑しさがこみ上げてきた。
    可笑しさというより、愛しさ。どうしようもなく、愛しい。
    もしかして、俺の方が動揺しているというのは大きな勘違いかもしれない。あのいつもの調子のメッセージも必死で冷静になろうとするアルフィンの演技だったのか。こんなに真っ赤になっておたおたしているのは、俺と同じで照れているからか。

    噴出しそうになるのを必死で堪える。
    正直、かなり嬉しい。というより、むちゃくちゃ嬉しい。どうやら昨夜のことは、俺だけの特別ではなかったらしい。
    「もう、もう出来るから、ジョウも席に着いてて。すぐに持っていくから」
    そう言って、闇雲に卵をかき回すのはやめたものの、アルフィンはそれまで動かしていた手をどこにもっていけばいいのか途方に暮れている。その姿が、また俺の笑いに拍車をかける。
    ダメだ。このまま後ろに立っていたら笑っているのがバレる。かといって移動してもバレるだろうな。それもまずい。だけど、変な緊張が解けてしまって笑いが収まらない。
    「もう、ホントに最後なの。コレで出来上がりだから・・」
    ほとんど懇願されているシチュエーション。アルフィンのうろたえぶりがヒシヒシと伝わってくる。
    堪らなくなって、俺は思わずその場に座り込んだ。



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■1169 / inTopicNo.3)  Re[2]: The day after 〜Jside
□投稿者/ とむ -(2006/06/22(Thu) 23:36:56)
    まったく、バカみたいだ。
    ずっと、アルフィンの態度が気になって緊張していた。おまけに長いこと自分を抑えてきたのはチーム内のバランスを保つためだとか、公私の区別をつけるためだとか理屈を並べておきながら、結局のところはアルフィンが俺に対してどんな反応をするのか怖かっただけだ。
    アルフィンが俺と同じようにむちゃくちゃ照れているのが分かって、ホッとすると同時に嬉しくて堪らない。
    憤死寸前になりながら、そんなことを考えた。
    と、
    「・・・・ジ、ジョウ?」
    気が付くと、ボーゼンとしながら俺を見下ろしているアルフィンと目が合った。卵をみんなにシェアしに行くつもりだろう。トレーを持って立ちすくんでいる。
    マズい。
    ヘタするとまた、厄介な誤解をされる。
    別に楽しんでるわけじゃない。ただ、すごく嬉しかっただけだ。

    俺はその場で立ち上がりアルフィンを抱きしめる代りに、彼女の金髪をクシャクシャと掻いた。
    「やだあ。なによお」
    アルフィンがすねたように抗議をする。
    「・・安心した」
    そう、ホッとした。アルフィンが俺と同じ気持ちで。
    そしていつも通りで。
    「なにが?」
    小首をかしげながら不思議そうにアルフィンが問い掛ける。
    そのしぐさを見て、顔が上気したのがわかった。どうしようもなく愛しくて、もっと触れたくて、彼女の流れる金髪を撫で付ける。昨夜、何度もそうしたように。
    「・・秘密」
    「なあによう」
    口を尖らせながら俺に食って掛かるアルフィンを笑いながら押し戻そうとしている時、リビングにいたリッキーが
    「ねー、お二人さん、いつまでイチャついてんのさ。メシはまだですかー?」
    と笑いながら声をかけてきた。アイツ、さっきから楽しそうにこっちの様子を伺ってたんだよな。アイツにだけはバレたくない。絶対に。
    「今行くってさ。ホラ」
    アルフィンの肩をつかみ、リビングへ方向転換させる。
    「あん」
    と不満げな声を小さく上げて、リビングテーブルに向かい歩き出したものの、すぐに振り向いて
    「あとで教えて」
    と、いつもの負けず嫌いのアルフィンに戻って俺に挑んできた。目が笑ってない。
    笑いを押し殺しながら答える。
    「だーめ」
    「えーーーーーー!!」
    両手を前後に振りながら、行け行けとばかりにリビングへ追い払う。
    全く、退屈しない。アルフィンといるだけで毎日がジェットコースターだ。くるくるよく変わる表情、予想もしない行動に休む暇もない。でも、いつもそんな彼女に癒され力を貰う。

    ふと見ると、コーヒーサイフォンに入れたてのコーヒーが出来ている。
    いつもと違う香りだな。
    甘くて体の芯まで染み渡りそうな香り。
    「お、いい香りがしますなあ」
    タロスだ。ドンゴと交代して戻ってきたか。
    俺は食器棚から4人分のコーヒーカップを取り出し、香りをかぎながら一つ一つサーブする。
    「いいでしょ。昨日仕入れたモカ。焙煎するの難しいんだから。タロスはブルーマウンテンの方が好きだろうけど、試してみて」
    得意げなアルフィンの声が聞こえる。こいつを淹れるために朝早くから頑張っていたんだろう。自然に笑みがこぼれ、体中が温かい気持ちで満たされるのが分かった。
    「へえ、そいつあ楽しみだ」
    タロスの嬉しそうな声が聞こえる。
    全てのカップにコーヒーを入れ終わり、両手に2つずつ持つ。そのまま、ゆっくりリビングテーブルに近づき、それぞれの席に置いていく。
    タロス、リッキー、俺、そしてアルフィン。
    嬉しそうに俺を見上げるアルフィンがここにいる。
    コーヒーを置いて自分の席に戻る直前、アルフィンの髪を少しだけ撫で付けて俺は自分の席につく。

    「・・それでは」
    全員の声が重なった。
    「「「「いただきます」」」」


    今日も一日が始まる。
    でも悪いな、アルフィン。俺が笑ってた理由は、当分の間秘密のままだ。
    俺が仕事以外でアルフィンの上に立てることなんてそうそうないんだぜ。
    暫くは、このシチュエーションのままいかせてもらう。どうせ、またすぐに逆転されちまうんだからな。

fin.
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