| まったく、バカみたいだ。 ずっと、アルフィンの態度が気になって緊張していた。おまけに長いこと自分を抑えてきたのはチーム内のバランスを保つためだとか、公私の区別をつけるためだとか理屈を並べておきながら、結局のところはアルフィンが俺に対してどんな反応をするのか怖かっただけだ。 アルフィンが俺と同じようにむちゃくちゃ照れているのが分かって、ホッとすると同時に嬉しくて堪らない。 憤死寸前になりながら、そんなことを考えた。 と、 「・・・・ジ、ジョウ?」 気が付くと、ボーゼンとしながら俺を見下ろしているアルフィンと目が合った。卵をみんなにシェアしに行くつもりだろう。トレーを持って立ちすくんでいる。 マズい。 ヘタするとまた、厄介な誤解をされる。 別に楽しんでるわけじゃない。ただ、すごく嬉しかっただけだ。
俺はその場で立ち上がりアルフィンを抱きしめる代りに、彼女の金髪をクシャクシャと掻いた。 「やだあ。なによお」 アルフィンがすねたように抗議をする。 「・・安心した」 そう、ホッとした。アルフィンが俺と同じ気持ちで。 そしていつも通りで。 「なにが?」 小首をかしげながら不思議そうにアルフィンが問い掛ける。 そのしぐさを見て、顔が上気したのがわかった。どうしようもなく愛しくて、もっと触れたくて、彼女の流れる金髪を撫で付ける。昨夜、何度もそうしたように。 「・・秘密」 「なあによう」 口を尖らせながら俺に食って掛かるアルフィンを笑いながら押し戻そうとしている時、リビングにいたリッキーが 「ねー、お二人さん、いつまでイチャついてんのさ。メシはまだですかー?」 と笑いながら声をかけてきた。アイツ、さっきから楽しそうにこっちの様子を伺ってたんだよな。アイツにだけはバレたくない。絶対に。 「今行くってさ。ホラ」 アルフィンの肩をつかみ、リビングへ方向転換させる。 「あん」 と不満げな声を小さく上げて、リビングテーブルに向かい歩き出したものの、すぐに振り向いて 「あとで教えて」 と、いつもの負けず嫌いのアルフィンに戻って俺に挑んできた。目が笑ってない。 笑いを押し殺しながら答える。 「だーめ」 「えーーーーーー!!」 両手を前後に振りながら、行け行けとばかりにリビングへ追い払う。 全く、退屈しない。アルフィンといるだけで毎日がジェットコースターだ。くるくるよく変わる表情、予想もしない行動に休む暇もない。でも、いつもそんな彼女に癒され力を貰う。
ふと見ると、コーヒーサイフォンに入れたてのコーヒーが出来ている。 いつもと違う香りだな。 甘くて体の芯まで染み渡りそうな香り。 「お、いい香りがしますなあ」 タロスだ。ドンゴと交代して戻ってきたか。 俺は食器棚から4人分のコーヒーカップを取り出し、香りをかぎながら一つ一つサーブする。 「いいでしょ。昨日仕入れたモカ。焙煎するの難しいんだから。タロスはブルーマウンテンの方が好きだろうけど、試してみて」 得意げなアルフィンの声が聞こえる。こいつを淹れるために朝早くから頑張っていたんだろう。自然に笑みがこぼれ、体中が温かい気持ちで満たされるのが分かった。 「へえ、そいつあ楽しみだ」 タロスの嬉しそうな声が聞こえる。 全てのカップにコーヒーを入れ終わり、両手に2つずつ持つ。そのまま、ゆっくりリビングテーブルに近づき、それぞれの席に置いていく。 タロス、リッキー、俺、そしてアルフィン。 嬉しそうに俺を見上げるアルフィンがここにいる。 コーヒーを置いて自分の席に戻る直前、アルフィンの髪を少しだけ撫で付けて俺は自分の席につく。
「・・それでは」 全員の声が重なった。 「「「「いただきます」」」」
今日も一日が始まる。 でも悪いな、アルフィン。俺が笑ってた理由は、当分の間秘密のままだ。 俺が仕事以外でアルフィンの上に立てることなんてそうそうないんだぜ。 暫くは、このシチュエーションのままいかせてもらう。どうせ、またすぐに逆転されちまうんだからな。
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