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■1178 / inTopicNo.1)  十人十色
  
□投稿者/ とむ -(2006/06/30(Fri) 17:07:24)
    「2億クレジットねえ」
    「2億クレジットだよ」

    タロスとリッキーが、ミネルバのリビングルームで何か妄想している。
    「・・そうだなあ、もし当たったらテラに一軒、老後の家でも買ってのんびり過ごすってもの悪かねえなあ」
    遠い目になりながら両手でコーヒーカップを包むように持ち、ズズ・・とコーヒーを啜った。
    リッキーは、そんなタロスを見やりながらポツリと一言、
    「じじくさ・・」
    と言った。右手には砂糖とクリームのたっぷり入ったカフェオレを持っている。
    「デカイ犬なんか飼ってなあ。あちこちを旅行してワインたくさん買いあさって。そうだ、ワイナリーなんか開くってもいいよなあ」
    タロスはリビングテーブルにコーヒーを置き、両腕を大きく広げて夢の中へ思いをはせる。彼の顔の周りに小さな妖精が2,3人飛んでいるかのようだ。
    タロスに向かい合わせで座っているリッキーは、興味なさそうに
    「・・・ワイナリーねえ。そんな体力残ってんのかよ。自分をいくつだと思ってんだ」
    と、こちらもズーと音を立ててカフェオレを飲む。
    「実年齢に中身が追いついてこないガキに言われたかねえな。俺は50代だが身体的にはまだまだ30代をキープしてんだ。おめえさんは、ちっとばかり精神年齢を上げた方がいいぞ?」
    バカにしたように片方の目を細めながら、タロスはニヤリと笑みを浮かべる。
    「はあ?30代?この前の仕事でゼイゼイ息を切らしてたのは、どこのジイさんだっけ?」
    リビングルームの天井を仰ぎながらリッキーは右手に持ったフットボール・ロトをひらひらさせる。
    「うるせえよ。じゃあ、お前はどういう使い方するってんだ、クソチビ!!」
    右手をリビングテーブルに乗せ、ぐぐっと上体をリッキーに詰め寄るように乗り出しながらタロスが食って掛かった。
    「聞きたい?」
    リッキーが、そのどんぐり目を大きく見開いてニヤッと笑う。
    ロトは全部で4枚買ってある。ジョウ、タロス、リッキー、アルフィンの全員分だ。万が一、当選くじがでた時には、速やかに全員で協議のうえ全額をきれいに使い切ることになっている。まあ、ほとんどその可能性はゼロに近いが。
    「言ってみな」
    タロスがドスの聞いた声でリッキーを促す。
    「聞いて驚け。まずは1億クレジットでテラのベガスの一番でかいカジノを借り切る。んで、そこでスロットを死ぬほどヤッて、3倍にした資金でどっか辺境の惑星を1つ買う。もちろんテラフォーミングするんだけど、もしそうなったら兄貴達にやってもらうから、普通より安くしてもらって、今度はそこにドデカいアミューズメントパークをおっ建てる。で、じゃんじゃん金をもうけんの。残った金は死ぬほどプラモデルを買って、ひたすら組み立てんだ。う〜〜〜!!!楽しくて死んじゃいそーーー!!!」
    心底楽しそうに笑いながら座っている椅子の上で足をバタつかせている。
    「あんた、バッカじゃないの?」
    それまで黙って聞いていたアルフィンが、キッチンカウンター越しに口を開いた。手元には、もうすぐ当直を終えてやってくるであろうジョウの昼食が用意されている。
    「ベガスでもとの3倍儲けるって、何を根拠にしゃべってんのよ。おまけに、あたし達に安く惑星改造をさせるってどういう了見?」
    手元にあった食器拭きをリッキーに勢いよく投げつける。
    リッキーは、上体でひょいとそれを交わしながら
    「だって、おいらが依頼人になるんだから、値段の交渉をするのなんて当然じゃん?まあ、でも、みんなには色々世話になってるから正規の値段でもいいや。即金で払ってやるよ」
    とカラカラ笑いながら話した瞬間、タロスの鉄拳とアルフィンの投げた雑巾がリッキーに同時に命中し、リッキーは椅子ごと後ろに倒れこんだ。
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■1179 / inTopicNo.2)  Re[1]: 十人十色
□投稿者/ とむ -(2006/06/30(Fri) 17:37:14)
    「・・・そんで?」
    リビングテーブルについたジョウがリッキーに話し掛ける。
    今日の昼食はパスタだ。3日前に物資の補充で大量に食材を買い込んできたアルフィンが腕を振るっている。豊富な魚介類が入ったペスカトーレ。風味付けのワインが効いていてちょっとしたご馳走だった。
    「・・何が?」
    リッキーが額にばんそうこうを貼りながら答える。タロスの繰り出した鉄拳は、リッキーのこめかみに見事クリーンヒットした。
    (ちょっとふざけただけじゃんか)
    とぶちぶち小声で呟きながらタロスを睨む。タロスはそ知らぬ振りで壁に埋め込まれたモニタ画面でギャラクティカル・ショッピングを見ている。
    「プラモデル、死ぬほど買うってか?」
    フォークを器用に使い、パスタを口に運ぶ。コップに注がれたレモンウォーターを一口、口に含みながらジョウはリッキーに目をやった。
    「兄貴には分かるだろ!男のロマンってヤツがさー」
    リッキーはジョウの隣でぐいっと、上体を詰め寄らせた。目をキラキラさせて同意を求める。ジョウはそんなリッキーを横目で見やりながら
    「男のロマンねえ」
    フォークを人差し指と中指で挟み、コンコンとリッキーの頭を小突く。
    「なーにが男のロマンよ。そんなことに大金を使うなんてバカみたい。無駄金もいいとこ!!」
    ジョウ以外の食器を片付け、3Dのショップカタログを見ていたアルフィンが会話に参加してきた。
    「ちちち。アルフィンには分からないの。女ってチョー現実的」
    リッキーが人差し指を左右に振りながら答える。
    「男には、こういう自分だけの世界ってのがあるんだってば。その世界のためには、いくら金をかけても惜しくないんだよねえ」
    自分ひとりで勝手に納得しながら、リッキーはうんうん頷いている。
    すかさずアルフィンが
    「だから、それがバカだって言ってんの。もっと建設的に、有意義に、実りのある使い道があるでしょうが。第一、自分で何の努力もしないでオイシイとこだけ楽しもうって根性が意地汚いってのよ」
    と容赦なく言い放つ。
    「なーんだよ。じゃあ、アルフィンだったらどういう使い方するってのさ。どうせ塗るだけでヤセるジェルとか、履くだけでナイスバディになるスーツとか買うんだろ?似たような了見じゃん」
    「「・・ぶっ・・」」
    ジョウとタロスがリッキーの鋭い切り替えしに噴出した。
    アルフィンはそんな二人をギロリと睨みつける。
    「あのね。私だって一応、元やんごとなき家柄のか弱い女の子なの。こんな男だらけの泥臭い仕事をしながらも、美しいボディラインを保つことは並大抵のことじゃ不可能なのよ。不可能!!宇宙焼けをしないよう気を配り、髪のトリートメントも欠かさない。ジェルやスーツは、それらの努力をより完璧にするためのオマケみたいなものよ。それだけに頼ってるわけじゃないの!!」
    「へええ!?!?ホントに〜〜???だって、この前もなんか届いたじゃんか。飲むだけでヤセるっていうサプリメント」
    今日のリッキーは冴えている。
    「う・う・う・うっさいってば!!アレはただのビタミン剤よ!へんなこと言わないでくれる!?」
    かなり上ずった声で応戦するも勢いはない。
    ジョウとタロスは声も出せずに笑っている。ジョウに至っては、笑いの変な癖が腹筋についてしまい、上体を上げることすら出来ない。
    「ねー、兄貴はさあ、もしロトが当たったら何買う?」
    いきなりリッキーが話題をジョウに振ってきた。
    「・・・は・・は?お・・俺・・??」
    腹筋が痛くて息も絶え絶えのジョウは、うっすらと涙目になりながらリッキーを見た。
    「そう。兄貴だったらどうすんの?」
    ジョウは体中で、新鮮な空気を求めながらなんとか呼吸を整える。
    (俺だったら・・)
    顎に手を当てて考える。
    「んーー・・・」
    暫く唸った後、ポンと手を叩き
    「ファイター、もう一機入れよっかな」
    と、嬉々とした表情で言った。


    (・・・フ・ファイター・・?)
    (・・っかーー!!)
    (夢も何もないやなあ)

    3人がげんなりとした表情でジョウを見る。
    ジョウは、そんな3人の視線に気づき
    「ん?」
    と答えた。


    そんなジョウから目をそらし
    「さぁ、じゃあ、あたし部屋に戻ってアロマでマッサージしよーっと」
    3Dのカタログのスイッチを消しアルフィンがソファから立ち上がる。
    「おいらも次当直だからブリッジに行こおっと」
    リッキーも椅子からフロアに下りて、スキップをしながらリビングを出る。
    「お、これいいですなあ。次の休暇用に注文しますかねえ」
    タロスはギャラクティカル・ショッピングの商品のアロハシャツに視線を戻した。



    一人、リビングテーブルに取り残されたジョウは
    「・・なんなんだよ」
    と呟き一人寂しく、冷めてしまったパスタを口に入れた。 

fin.
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