| 「・・・そんで?」 リビングテーブルについたジョウがリッキーに話し掛ける。 今日の昼食はパスタだ。3日前に物資の補充で大量に食材を買い込んできたアルフィンが腕を振るっている。豊富な魚介類が入ったペスカトーレ。風味付けのワインが効いていてちょっとしたご馳走だった。 「・・何が?」 リッキーが額にばんそうこうを貼りながら答える。タロスの繰り出した鉄拳は、リッキーのこめかみに見事クリーンヒットした。 (ちょっとふざけただけじゃんか) とぶちぶち小声で呟きながらタロスを睨む。タロスはそ知らぬ振りで壁に埋め込まれたモニタ画面でギャラクティカル・ショッピングを見ている。 「プラモデル、死ぬほど買うってか?」 フォークを器用に使い、パスタを口に運ぶ。コップに注がれたレモンウォーターを一口、口に含みながらジョウはリッキーに目をやった。 「兄貴には分かるだろ!男のロマンってヤツがさー」 リッキーはジョウの隣でぐいっと、上体を詰め寄らせた。目をキラキラさせて同意を求める。ジョウはそんなリッキーを横目で見やりながら 「男のロマンねえ」 フォークを人差し指と中指で挟み、コンコンとリッキーの頭を小突く。 「なーにが男のロマンよ。そんなことに大金を使うなんてバカみたい。無駄金もいいとこ!!」 ジョウ以外の食器を片付け、3Dのショップカタログを見ていたアルフィンが会話に参加してきた。 「ちちち。アルフィンには分からないの。女ってチョー現実的」 リッキーが人差し指を左右に振りながら答える。 「男には、こういう自分だけの世界ってのがあるんだってば。その世界のためには、いくら金をかけても惜しくないんだよねえ」 自分ひとりで勝手に納得しながら、リッキーはうんうん頷いている。 すかさずアルフィンが 「だから、それがバカだって言ってんの。もっと建設的に、有意義に、実りのある使い道があるでしょうが。第一、自分で何の努力もしないでオイシイとこだけ楽しもうって根性が意地汚いってのよ」 と容赦なく言い放つ。 「なーんだよ。じゃあ、アルフィンだったらどういう使い方するってのさ。どうせ塗るだけでヤセるジェルとか、履くだけでナイスバディになるスーツとか買うんだろ?似たような了見じゃん」 「「・・ぶっ・・」」 ジョウとタロスがリッキーの鋭い切り替えしに噴出した。 アルフィンはそんな二人をギロリと睨みつける。 「あのね。私だって一応、元やんごとなき家柄のか弱い女の子なの。こんな男だらけの泥臭い仕事をしながらも、美しいボディラインを保つことは並大抵のことじゃ不可能なのよ。不可能!!宇宙焼けをしないよう気を配り、髪のトリートメントも欠かさない。ジェルやスーツは、それらの努力をより完璧にするためのオマケみたいなものよ。それだけに頼ってるわけじゃないの!!」 「へええ!?!?ホントに〜〜???だって、この前もなんか届いたじゃんか。飲むだけでヤセるっていうサプリメント」 今日のリッキーは冴えている。 「う・う・う・うっさいってば!!アレはただのビタミン剤よ!へんなこと言わないでくれる!?」 かなり上ずった声で応戦するも勢いはない。 ジョウとタロスは声も出せずに笑っている。ジョウに至っては、笑いの変な癖が腹筋についてしまい、上体を上げることすら出来ない。 「ねー、兄貴はさあ、もしロトが当たったら何買う?」 いきなりリッキーが話題をジョウに振ってきた。 「・・・は・・は?お・・俺・・??」 腹筋が痛くて息も絶え絶えのジョウは、うっすらと涙目になりながらリッキーを見た。 「そう。兄貴だったらどうすんの?」 ジョウは体中で、新鮮な空気を求めながらなんとか呼吸を整える。 (俺だったら・・) 顎に手を当てて考える。 「んーー・・・」 暫く唸った後、ポンと手を叩き 「ファイター、もう一機入れよっかな」 と、嬉々とした表情で言った。
(・・・フ・ファイター・・?) (・・っかーー!!) (夢も何もないやなあ)
3人がげんなりとした表情でジョウを見る。 ジョウは、そんな3人の視線に気づき 「ん?」 と答えた。
そんなジョウから目をそらし 「さぁ、じゃあ、あたし部屋に戻ってアロマでマッサージしよーっと」 3Dのカタログのスイッチを消しアルフィンがソファから立ち上がる。 「おいらも次当直だからブリッジに行こおっと」 リッキーも椅子からフロアに下りて、スキップをしながらリビングを出る。 「お、これいいですなあ。次の休暇用に注文しますかねえ」 タロスはギャラクティカル・ショッピングの商品のアロハシャツに視線を戻した。
一人、リビングテーブルに取り残されたジョウは 「・・なんなんだよ」 と呟き一人寂しく、冷めてしまったパスタを口に入れた。
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