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■1185 / inTopicNo.1)  想定外
  
□投稿者/ とむ -(2006/07/14(Fri) 16:53:18)
    世の中には、計算どおりにいかない事がある。

    どんなに綿密な計画を立て、問題など起きないように細心の注意を払っても、どうしても予期できない、想定できないことはこの宇宙に存在する。

    例えるならば天災のようなものだ。

    まったく自分には非がないにも関わらず、甚大な被害を被る。そうなってみて、人ははじめて”あの時ああやっておけば”とか”ここまで備えておけばよかった”などと後悔するのだが、普段の生活の中では目の前の事象を最優先してしまい、その備えのプライオリティは限りなく下位にあることが多い。
    そして大抵一度発生した突発的なトラブルは、芋づる式に不幸な連鎖を引き起こし周囲の人間まで巻き込んでいくものである。
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■1186 / inTopicNo.2)  Re[1]: 想定外
□投稿者/ とむ -(2006/07/15(Sat) 00:01:19)
    〔想定外 その1〕

    「うわあああああ!!!!」

    ミネルバのブリッジ。副操縦席で、アラミスへの仕事の報告書をレポートにまとめていたジョウが叫び声をあげた。信じられないものを見るかのようにその目は大きく見開かれ、叫び声をあげたその口はあんぐりと開いたまま閉じることができない。思わず席から立ち上がり、コンソールパネルのキーボードを物凄い勢いで操作し始めた。

    「なに!?どうしたの??」
    「兄貴!?」

    アルフィンとリッキーが尋常ではないジョウの様子に驚いて、自分の席を飛び越えるように駆け寄ってきた。
    「うわ〜〜、ウソだろ〜〜〜!!」
    ひとしきりキーボードを操作したあと、ジョウはしばらく呆けてつぶやき、ヨロヨロと脱力したように副操縦席に倒れこむ。
    「なによ、ジョウったら。もう、コレを保存しちゃえば完成でしょ。アラミスへのレポート」
    「・・・なんだよ。まさか、データ消しちゃったわけじゃないだろ、兄貴」
    レポート作成を手伝ってくれていたアルフィンとリッキーが矢継ぎ早に口を開く。リッキーは、なにか嫌な予感があるのか恐る恐るジョウを覗き込みながら聞いてくる。
    副操縦席に倒れこんで両手で顔を覆っていたジョウは、しばらく沈黙した後低くくぐもった声で
    「・・そのまさか」
    と答えた。
    「え”・・・・」
    と、アルフィンは鳩が豆鉄砲を喰らったように棒立ちになり、リッキーは
    「・・げーーー」
    と、うんざりしたようにフロアに倒れこみ大の字になった。
    「うっそでしょう!?あと保存しちゃえばアラミスへ送信するだけだったじゃない。全部消えちゃったの?」
    アルフィンは副操縦席のコンソールパネルに身を乗り出し、消えたデータを呼び出しできないか操作すべくキーボードを叩き始めた。いつもならばアルフィンに身を寄せられたりしたら、一気に血液が逆流し顔が真っ赤になってしまうところだが今はそれどころではない。ぐったりと副操縦席に身を預け右側の肘掛に腕をついて、こめかみの辺りを人差し指と中指で支える。
    何せ夕食の後3人がかりでやっと完成させたレポートだ。完成させるまで2時間かかった。もともとノート型パソコンで途中までのデータを作成していたため全滅は免れたものの、メインコンピュータに取り込もうとしていた今回の仕事内容への考察と反省の弁は、見事に吹っ飛んだ。
    だいたい、文章を書くことなど性に合わない。
    それだけにあれやこれやと試行錯誤してやっと搾り出した文章のうち、一番無くしたくない箇所が消失したのだった。

    ジョウの横では、身を乗り出してキーボードをあれこれ叩いていたアルフィンが
    「何コレ。メインが落ちちゃってるじゃない」
    と悲痛な声をあげた。
    「ジョウ、どっか変なところ押しちゃったんじゃないの?」
    「んなわけあるか。普通にいつもどおり保存しようとしたら、いきなりブチっと切れてブラック・アウト」
    ジョウはうっすらと目を開けたものの、視線は足元に落としたまま抑揚なく答えた。もう精も根も尽き果てたという感じだ。
    「・・なんなんだよ。よっぽどのことがなけりゃあ、メインなんて落ちないぜ」
    ジョウが打ちのめされながらつぶやいた。
    「でもさあ、ミネルバのメインにアクセスできるのってタロスか兄貴だけじゃん」
    リッキーがフロアに横になりながら口をはさむ。ジョウ同様、両手で目の辺りを覆って軽く両瞼を押さえている。
    しかし、タロスは右腕のメンテナンスのため外出しており今は不在だ。タロスが原因ではないことは明白だった。
    「・・俺は何もしてないって。通常の作業をやっただけだ」
    一応反論はしたが、ジョウの声に力はなかった。アルフィンとリッキーの手伝いが入る前から黙々とレポートを作成していたジョウだ。実務が終了してすぐレポート作成に取り掛かったせいで、ほとんど睡眠を取れていない。実際かなりの疲労がたまっていた。もしかしたら無意識に何か誤った操作をしてしまったのかもしれない。自分の行動に自信がもてない状況に心底うんざりしながら、ジョウは隣でメインコンピュータを再起動させようとしているアルフィンに目をやった。

    ーーーーと。

    ”ヴィ・・”
    いきなり真っ黒だったコンソールのモニタ画面に初期画面が戻ってきた。いくつかの画面が瞬時に開き、たくさんの数字の羅列が出現する。そして、その数字の列がすごい勢いで画面の上をすべるように流れていく。
    「何、コレ!?」
    アルフィンが素っ頓狂な声をあげてモニタを食い入るように見つめている。
    すでにジョウが座っていることなど気にも留めず、ジョウの席の左側の肘掛に腰をおろしコンソールの上に覆い被さっている状態だ。
    「なに」
    ジョウは、席に深く体を預け目を閉じたままアルフィンに声をかけた。もはや首を動かすことも億劫だ。
    アルフィンは右手をその小さな顎に当てながら画面をしばらく見つめていたが
    「ジョウ?」
    と、視線をモニタ画面に置いたまま声をかけてきた。
    「・・なんだよ」
    と、ジョウが答える。
    「・・・・いたわよ」
    「なにが」
    「あと一人、メインコンピュータにアクセスできるヤツ」
    低い声でアルフィンがつぶやいた。右手でジョウの右腕をひっぱる。
    「誰」
    「今、格納庫からメインにアクセスしてる」
    「はあ?格納庫??」
    ジョウはアルフィンの体に触れないように、ゆっくりと上体を右側にずらしながら彼女と一緒にコンソールのモニタを覗き込む。
    そして、そんな二人のやり取りを寝転びながら聞いていたリッキーも、のろのろとフロアから身を起こしアルフィンの左横からモニタに目をやった。
    すると。

    「「「!!!!」」」

    そこには、おそらく100%この騒動のキーパーソンであろうものの名前が表示されていた。
    D・O・N・G・O
    と。






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■1187 / inTopicNo.3)  Re[2]: 想定外
□投稿者/ とむ -(2006/07/15(Sat) 23:30:17)
    〔想定外 その2〕

    ミネルバの格納庫。
    現在地上に降りているミネルバでは、船内に待機している3人のために動かしてある動力音だけが”ゴンゴンゴンゴン”と低く響いている。格納庫入り口にある空気圧縮ドアの操作パネルの下には申し訳程度のメインコンピュータ接続口が付いており、ドンゴはそこへ自分の電子頭脳から何本かケーブルを差込み作業をしていた。
    真っ暗な中で、ドンゴのボディのランプだけが目まぐるしくチカチカと点滅する。1つのケーブルを入れてはデータを読み込み、それが終わるとまた次のケーブルを差し込んでいく。
    「マズイ、マズイ。イソゲ、イソゲ。ふぁいと、ふぁいと!」
    ドンゴは小さくつぶやきながら、シャカシャカ、シャ、シャと電子音を響かせ作業を続ける。
    不意に、格納庫にまたたく光が戻ってきた。明るい照明が部屋全体を隅々まで照らす。
    そして同時に
    「なにアヤシイ動きをしてんだよ」
    と、地底の底からはい出してきたようなジョウの声が聞こえ、ドンゴは「キャハ!!」とその場で飛び上がった。
    そして一瞬そのままフリーズすると、やがて恐る恐る頭部をゆっくりとまわし声の主を見た。

    そこには。

    両腕を胸の前でくみ、仁王立ちになって自分を睨んでいるチームリーダーの姿。おまけに、その背後には怒れる碧眼で絶対零度の冷気を撒き散らしているアルフィン、両腕を腰にあてて疑わしそうに自分を見つめるリッキーまで控えていた。
    「・・マズイ」
    ドンゴがもらした台詞に
    「なにが?」
    すかさずアルフィンがツッコミを入れる。
    「キャハハ!!」
    とドンゴは即座にしらばっくれる。
    リッキーがますます疑い度のアップした目でドンゴを見る。
    「今は何の作業中だ?」
    今度はジョウが両眼をスウ・・と細め凄みを利かせながらドンゴに質問した。
    「標準時間ノ21:50ニみねるばノめいんこんぴゅーたハ、しすてむだうんシマシタ。現在ハ、ばっくあっぷでーたノちぇっく中デス。ちぇっく終了後、速ヤカニばっくあっぷヲ行イ、しすてむノ復旧ヲ行イマス。キャハハ!!」
    「結構だ。今ドックに入っているからいいものの、仕事中ならエライことになる。速攻で修復しろ」
    と低いトーンで指示を出した。
    「キャハハ!了解」
    するとドンゴは助かったとばかりに、再びジョウに背を向けメインコンピュータの復旧作業にかかろうとした。

    が。

    世の中そんなに甘くない。すかさず
    「ところで、今回システムがダウンした原因はなんだ」
    ジョウが両腕を組んだままドンゴに質問した。静かではあるが目は据わり怒りのトーンを含んでいる。
    「・・・キャハ?」
    「原因だ。システムダウンの原因。どんなトラブルがあってこうなったんだ」
    「とらぶる・・」
    ドンゴは意味もなくジョウの言葉を復唱する。
    何気に、キャタビラが逃げ場を探しているように見えるのは気のせいか。
    「それになんでこんなトコで作業してんのさ。ブリッジでやればいいじゃん」
    リッキーが近づいてきてドンゴの頭を撫で回す。
    ドンゴのボディの点滅が一層激しくなった。人間だったら明らかに動揺しまくり、冷や汗が吹き出すという、まさにそんな感じ。
    「・・・ドンゴ」
    ジョウがゆらり、とドンゴを見下ろす。右の眉がひくひく痙攣している。
    すると、それまでジョウの後ろでジリジリした思いで話を聞いていたアルフィンが痺れを切らして割り込んできた。
    「ドンゴ!!!アンタ一体ここで何やってたのよ!コトと次第によっちゃあ承知しないわよ!!」
    むんず!とドンゴの頭部を鷲掴みにしガタガタと左右に振り回し始める。
    「キャハハ!!あるふぃん、ヤメテー!!キャハハッハハハハ!!!!!」
    ドンゴのキャタビラ部分が宙に浮き、ザリザリとキャタビラが空回りする音が周囲に響く。
    リッキーは、何十キロもあるドンゴを振り回すという暴挙に出たアルフィンを押さえながら
    「だから、さっさと白状しちゃえよ。何やってたのさ」
    とドンゴを促した。
    「ソ・・・ソレハ・・・」
    「それは?」
    ジョウがさらにプレッシャーをかけ、じわじわとドンゴとの距離を詰めていく。
    ドンゴはジョウに対して後ずさりしながら、小声でつぶやいた。
    「ソレハ、イワユル、思春期ヲ迎エタ青少年ニトッテ、必要不可欠ナ、生理的欲求ノ、対象観察、オヨビ、ソノ考察ト、欲求ノ処理方法ニ関スル・・・・・」

    ドカ!!!!

    と鈍い音が響き、ドンゴの声は途絶えた。

    はーはー、と肩で荒い息をつきながらジョウは
    「こ・の・や・ろ・おおおおおおおお!!!!!」
    と大絶叫しドンゴのボディに流し蹴りを喰らわせたのだった。



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■1208 / inTopicNo.4)  Re[3]: 想定外
□投稿者/ とむ -(2006/08/13(Sun) 23:51:22)
    [想定外 その3]

    「・・・まったく、サイテーよね」
    ジョウの部屋でアルフィンが吐き捨てた。
    「あのポンコツ、よりにもよってエロサイトにアクセスするなんて、どういうつもりよ!」
    「・・・言うな。俺も聞かなきゃ良かったと思ってんだから」
    ジョウがこめかみの辺りを押さえながら呟いた。
    頭痛がする。ドンゴに流し蹴りを喰らわせた左足もじんじんと痺れたままだ。
    「復旧にどれくらいかかるって?」
    リッキーがジョウのベットに寝そべりながら、自分の部屋から持ち込んだスナック菓子を口に放り込み聞いてきた。
    「・・・だいたい、1〜2時間だと」
    リッキーをちらりと横目で見ながら、ジョウは答えた。
    自分のデスクにパソコンを持ち込み、それに両肘をついて顎を支える。
    「2時間〜〜〜!?!?だって、もう11時過ぎてるじゃない。夜中の1時まで待てっての?」
    アルフィンはリッキーの横に勢い良く腰を下ろし、リッキーの食べているスナック菓子を取り上げた。そのまま、一掴みして口に入れる。
    「ぉわ!」
    アルフィンの体重を受け止めたベットのスプリングの反動で、リッキーの体がベットマットの上で飛び跳ねた。

    ジョウは、そんな二人の様子を横目で見ていたがおもむろにパソコンのヘッドを開き、無言のままカタカタとキーボードを叩き始めた。
    はああ、と深いため息を吐きながら。

    アルフィンとリッキーはそんなジョウの様子を見て、目を丸くした。
    「・・・ジョウ、もしかしてやり直すつもり?」
    アルフィンが唖然としながら口を開く。
    「一応、途中までのデータは出来上がってるしな」
    ジョウが、パソコンのモニタ画面に視線を合わせたまま答えた。
    ジョウの枕を胸の前で抱え、ジョウを見つめていたリッキーが
    「ドンゴがデータを復旧させたら、消失したレポートも戻ってくるかもしれないぜ?」
    と声をかけた。
    「信用できるか」
    忌々しげにジョウは即答した。
    そして、無言のまま困ったように自分を見つめる二人に顔を向け苦笑しながら
    「・・・悪かったな、せっかく手伝ってもらったのに。でも、おかげで大体の話の流れや文章は頭の中に入ってるし、やり直すとは言ってもそんなに時間はかからないと思うぜ。一人でやってもドンゴの作業が完了する前にはできちまう。だから、二人はもう自分の部屋に戻れよ」
    と言った。
    「・・・でもお」
    「だけどさあ」
    アルフィンとリッキーは互いに顔を見合わせ、声を揃えた。


    ジョウこそ疲れているはずだ。
    5日間の要人護衛の仕事を片付け、そのまま短いオフを楽しむ為に、休むまもなくアラミスへの提出用にレポートを作り始めた。端から見ても疲労が溜まっていることは明白で、さすがに見かねたアルフィンとリッキーが夕方から手伝いに入った。
    やっとのことで、あとはアラミスにレポートを送信するだけのところまで漕ぎ着けていたのだ。何事もなくあのままレポートの送信が完了していれば、今ごろはこのベットの上で久しぶりにまとまった睡眠が摂れていた筈だった。
    (それなのに、あのエロロボット・・・・!!!!)
    アルフィンは奥歯をギリリと噛み締めながら、黙々と作業に没頭するジョウに視線を戻した。
    ジョウは、やり直すと決めるが早いか物凄い集中力でキーボードを叩いている。ブリッジでドンゴが行っているメインコンピュータの復旧が完了次第、すぐにレポートを送りつけるつもりだろう。その気迫は凄まじい。

    アルフィンはベッドサイドにあるクロノメータに目をやった。
    現在、標準時間の23時30分。

    このまま、うまくいってレポートが完成すればジョウは眠りにつけるだろうか?
    いや、早めにレポートが完成したとしてもドンゴの作業が終わってなければ、それを待たなければならない。なにかトラブルが発生した場合も考えて、時間を遅く見積もると少なくとも深夜の2時過ぎまで彼は眠りには就けないことになる。

    そんな過酷なことをジョウ一人にさせられない。
    だいたい、ジョウは何も悪くない。
    悪いのは、あのポンコツロボットだ。

    アルフィンは、ふう、とため息をつきジョウのベッドから反動をつけて飛び降りた。
    そして、そのままスタスタと一直線にジョウの隣に歩いていき、その左肩に右手をぽんと置いた。少し前屈みになり、パソコンのモニタを見つめるジョウの顔を覗き込みながらにっこり笑ってこう言った。
    「もう、仕方がないわねえ。あたしも付き合うわよ、ジョウ」
    真っ赤なクラッシュジャケットに金の糸のような髪がサラサラと流れていく。
    「ここまできたら乗りかかった船だもの。二人でやりましょ。一人で頑張るなんて水臭いこと言わないで」
    その碧眼には強い使命感と決意が漲っている。
    さらに、アルフィンは軽い足取りでジョウの背後に周り、彼を力づけるかのように、その両手を彼の両肩の上で、ポンポンと叩き
    「一緒に頑張りましょ」
    と言った。


    一方。
    ジョウの方は、アルフィンの右手が左肩に乗せられ
    「あたしも付き合うわよ」
    といわれた辺りからキーボードに置いた両手がフリーズしていた。
    なにか、突拍子のないことを言われた気がする。

    ア タ シ モ ツ キ ア ウ ワ ヨ ? ?

    アルフィンの言葉の意味を理解した途端、ジョウの全身から汗がザアッと吹き出した。
    声にならない悲鳴をあげる、まさにそんな感じ。
    昼間に聞くのなら大変ありがたいお申し出ではあるが、この状況では困る。
    真剣に困る。
    もう深夜に差し掛かっている今、男の部屋に居座り続けると言うことがどういうことなのかアルフィンは分かっていない。
    この天然さは、元お姫様という育ちの故か。それとも素か。

    絶対的な信用を置かれていると言うことでもあろうが、その信用を裏切らないためには相当の精神力が必要だ。
    不幸な出来事のため、レポートを書き直すだけでも地獄である。そこにアルフィンが加わった日には、いったい何の我慢大会かと言いたくなってくる。

    全身に汗をかきながらチラリとアルフィンを横目で見れば、ヤル気満々という目でジョウを見ている。

    マズイ・・・。

    このままでは

    @ 深夜の自室(ベッド有)に二人きり
    A 二人きりであることを意識しすぎて挙動不審になり
    B 気が散ってレポートもなかなか進まず
    C うまくレポートを送信できたとしてもアラミスから突っ返されてやり直し

    そして@に戻る。

    汗で背中がびっしょりになるのを感じながら
    「・・・冗談じゃないぜ・・・」
    と、ジョウは小声で呟いた。





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■1209 / inTopicNo.5)  Re[4]: 想定外
□投稿者/ とむ -(2006/08/15(Tue) 00:07:44)
    [想定外 その4]

    リッキーはジョウのベットであぐらをかき、ジョウとアルフィンの様子を見ていた。
    いつもながら、この二人の会話は面白い。

    いいかげんジョウもアルフィンの扱いに慣れてきてもいい頃なのに、彼女がどう行動するかと言う予測が未だ出来ていない。自分達に気を遣って『一人でやる』などと言ってもアルフィンが『ハイ、そうですか』と素直に言うはずがないのだ。
    (俺らにだって、それくらいわかるぜ)
    リッキーは、アルフィンが置きっぱなしにしていったスナックを再び手に取り、目の前で展開される漫才を見ながら食べ始めた。

    だいたい、二人とも見当違いもいいところだ。

    今、ジョウが動揺しまくっているのは、夜アルフィンと二人きりで過ごすには、自分の自制心に自信がないからだ。好きで好きでたまらない娘と、一晩中冷静に”あははおほほ”とお茶でも飲みながら話が出来る男がいたらお会いしてみたい。恐らく、アラミスへ提出用のレポートを抱えている上、アルフィンのありがた迷惑な申し出も加わり軽いパニック状態に陥っていることだろう。

    それに対して、アルフィンの方はいつも果敢にジョウにアタックするものの、いつも返って来るのは煮え切らない返事ばかり。まさか、ジョウが自分に負けないくらいの思いを抱いているなど想像もしていない。
    今回の申し出も、ジョウが自分を女性と意識などしている訳がないという前提の元になされている。まあ、若干の甘い期待をもっているかもしれないが、それは恋する乙女としては致し方のない程度のものだ。
    まさか、自分の好意がジョウを追い詰めることになっているなどとは予想だにしていない。

    リッキーは、お互いを思いながら見事にかみ合ってない二人を見てため息をついた。
    (まあ、ここは早いとこ邪魔者は退散しようっと。ちっとは進展すっかもしれないし)
    ぼんやりそんなことを思いながら、もう一掴みスナックを掴み口に放り込んだ。

    そして当の二人はと言えば実に不毛な会話を延々と続けていた。

    「・・・いや、だからさアルフィン。気持ちは嬉しいがホントに大丈夫だって。データはしっかり保存してあるし、さっさと片付けて俺も寝ちまうからさ」
    「やあね、ジョウったら。そんなに気を遣うことないのよ。コーヒーでも飲みながらのんびりいきましょ。急がば回れって言うじゃない」
    「いや、コーヒーなんて面倒なことする必要ないって。アルフィンだって疲れてるんだし」
    「もう、遠慮なんかしないでよ。どうせインスタントなんだし面倒どころか簡単すぎてかえって悪いくらい」
    「いや、もう十分手伝ってもらったって。アルフィンだってお肌の手入れとかストレッチとかいろいろ忙しいだろ?」
    「ジョウ、責任感が強いのも良し悪しよ。何でも自分ひとりで抱え込もうとしないで頂戴。もっとあたし達に頼ってよ。一日くらいの徹夜なんてどうってコトないわ」
    「・・・そうか」

    (ダメだ、こりゃ)
    リッキーは憐れみの目をジョウに向けつつ、こめかみを人差し指で小さく掻いた。
    必死でアルフィンを追い返そうと頑張った努力は認めるものの、もはやアルフィンのペースに流されるのは時間の問題だ。
    すでにアルフィンはジョウの様子など眼中になくパソコンの周辺に散らばったデータ資料を一つ一つ整理し始めている。なんとなく、鼻歌でも歌いそうな雰囲気であるのが玉にキズだが。
    (まあこういうことがないと、この二人はどうしようもないしなー)
    リッキーは微笑ましい光景を見るような視線を二人に向けつつ、いよいよジョウの部屋を退室すべく腰を上げた。その後の展開が大いに気になるところではあるが、これ以上長居をしたら、アルフィンのヤル気と機嫌が急降下することは請け合いだ。
    なにより、自分の身の安全もしっかり確保しておかなくてはならない。リッキーは、ジョウのベットから飛び降り、ドアに向かって歩き始めた。

    と、その時。
    「あ、リッキー」
    すかさず、その動きを察知したアルフィンが声をかけてきた。
    「ふぁい!?」
    なんとなくビクつきながら返事をする。
    「アンタも遅くまでご苦労だったわね。あとはあたしがジョウに付き合うから、そろそろ部屋に戻っていいわよ。お疲れ」
    見るからに上機嫌で、久しく聞いたことのないような優しい言葉がかけられた。
    「サンキュー」
    リッキーは軽く右手を挙げ、アルフィンに答える。
    これは、なるべく早いうちに引き上げた方が良さそうだ。

    「じゃ、ジョウ、あたしもコーヒー淹れてくるからちょっと待ってて。まずは一息入れてから始めましょ」
    軽やかに髪をなびかせながら、アルフィンはリッキーと一緒に部屋を出ようとした。
    その時。
    「3つだ」
    ジョウが先程とはうって変わってような晴れやかな笑顔を浮かべ、アルフィンに声をかけた。
    「え?」
    アルフィンが聞き返す。
    ギョ、としたようにリッキーの丸い目が大きく見開かれた。
    「悪いが俺、アルフィン、リッキーの3人分のコーヒーをよろしく頼む」

    それを聞いた途端。
    「ええ!?」
    「ひぃえ!!」
    思いっきり不満気なアルフィンの声と、心底おびえているリッキーの声が重なった。

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