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■1190 / inTopicNo.1)  黒豹の休日と仔猫の野望
  
□投稿者/ とむ -(2006/07/20(Thu) 18:41:16)
    ・・・・ザワザワザワ

    とある春の昼下がり。
    聞こえてくるのは見渡す限りに広がる草原の音と、遠い雲の上で鳴いているヒバリの声。

    頭の上に生茂る黄緑色の葉っぱの間からは、春の木漏れ日がキラキラと反射している。



    次の仕事までに空いた一日だけのオフ。



    ミネルバの調整のために立ち寄ったこの惑星でエアカーをレンタルし、あたし達は行き先を決めないドライブに出た。エアカーから見える景色は、ぴかぴかに煌く春の空気の粒、横長に広がる緑の草原、そしてそのところどころに滲んだように見える黄色の花畑。
    草原の上は、真っ青な空がこれでもかというくらい広がって、昔見たパノラマ写真のようだ。

    エアカーは、そんなパノラマ写真のような風景をぬって、焦らず急がずのんびりと、悠々気ままにハイウェイを滑っていったーーー。


    そして。


    もうすぐお昼にさしかかろうかという頃に、あたし達はまるで天まで届きそうな枝を目いっぱい広げている大木を見つけた。

    樹齢はどれくらいだろう。

    まるで空に向かって腕を広げ、ありったけの太陽の光をかき集めようとしているかのように、その枝にはたくさんの新芽が芽吹き、それらは光に向かって大きく葉を広げていた。そして、その小さな葉っぱ達が春の風に撫でられて、さわさわと音を立てあたし達をその木陰に誘ってきた。




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■1191 / inTopicNo.2)  Re[1]: 黒豹の休日と仔猫の野望
□投稿者/ とむ -(2006/07/20(Thu) 19:15:58)
    エアカーのハンドルを握りその木陰を見ながら

    ーーーーあそこ、気持ちよさそうだな

    とジョウが呟いた。そちらの方にハンドルを切りながら

    ーーーー降りてみるか?

    とあたしに聞いた。

    ーーーーもう降りるつもりでいるくせに

    と笑いながら答えると

    ーーーーまあな

    とジョウも笑った。

    ハイウェイの脇にゆっくりとエアカーを停めて、ジョウはあたしの少し前を歩き出す。
    あたしは昼食の入ったバスケットを車から引っ張り出し、ジョウに続いて歩く。
    目指す木陰までは、なだらかな斜面の丘になっていてサンダルを履いたあたしには少し歩きづらい。ジョウは、あたしを振り返って右手にバスケットを受け取り左手であたしの手を取った。


    ーーーーたまにはこういうのもいいだろ?

    ーーーーこういうのって?

    ーーーー物欲が絡まない若者らしい休日

    ーーーー・・・素直にショッピングに付き合うのは嫌だって言えばいいじゃない

    ーーーーアルフィンの”お願い”は、”お願い”という名の”脅迫”だからなあ・・

    ーーーー・・・悪かったわね


    他愛のないことを話しながら、いつのまにかあたし達はこの木陰にたどり着いた。


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■1192 / inTopicNo.3)  Re[2]: 黒豹の休日と仔猫の野望
□投稿者/ とむ -(2006/07/20(Thu) 20:23:11)
    ・・・サワサワサワ

    頭の上から風の音が降ってきて、あたし達を包んでくれる。

    隣に座っていたジョウは、一度グン、と腕を伸ばしそのままごろんと仰向けになる。そしてそのまま頭の後ろで両手を組み目を閉じた。

    あたしはバスケットの中身を周りに並べながらジョウに問い掛ける。

    ーーーーねえ、やっぱり疲れてたんじゃない?

    ーーーーん?

    ジョウは目を閉じたまま答える。

    ーーーーあたし、ジョウが疲れてるの分かってたのについショッピングに行きたい、なんて言っちゃって。ドライブならいい、っていうから来ちゃったけど、一日寝てた方がよかったんじゃないの?

    ーーーーミネルバでか?

    ーーーーそう

    ジョウは閉じていた瞳をうっすらあけて、顔をあたしの方に巡らせた。

    ーーーーそれは今イチだなあ

    ーーーーなに?

    ーーーー今ひとつのプランだな

    ーーーーじゃあ、ショッピングは?

    ーーーー今サン

    ーーーーなによ。今ニをすっとばして今サンなの?そんなにあたしと出かけるのは嫌だったわけ

    あたしはちょっと憮然としてジョウを見下ろした。
    ジョウは面白そうにあたしを見て

    ーーーーそりゃあ、ミネルバで一日寝てれば体の疲れはとれるだろうし、ショッピングってのも気分転換になるだろうけどな

    頭の後ろに組んでいた腕を解いて、あたしにもそうしろとばかりに右手を引っ張る。

    ーーーーでも、それじゃあ、こうやってゴロ寝なんかできないだろ?

    にやりと笑いながらジョウは言った。
    あたしは、顔が赤くなっているのを感じながら、ためらいつつもジョウの隣で横になり

    ーーーーじゃあ、ドライブの途中に見つけた木陰で昼寝するってプランは?

    と聞いた。

    ーーーーそりゃあ、もう

    手足を目いっぱいのばしてからジョウは言った。

    ーーーースペシャル・プラン

    そしてジョウは大きく欠伸をした後、再びその瞳をゆっくりと閉じた。




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■1193 / inTopicNo.4)  Re[3]: 黒豹の休日と仔猫の野望
□投稿者/ とむ -(2006/07/20(Thu) 23:11:05)
    なんとなくくすぐったい気持ちになりながらも

    ーーーーでも、結局寝るんじゃない

    と、あたしは言った。
    ジョウはすっかり手足を緩めてしまい、安心しきって眠っている。
    ふう、とため息をつきながらあたしはジョウから視線を離した。

    まったく、こうしてると昨日までの仕事にプロフェッショナルな人とは別人格よね。



    そう。
    仕事となるとジョウは一寸の狂いもない完璧ともいえる立ち回りで任務を遂行していく。いつも全身に緊張を張り巡らせ、敵に囲まれても冷静さを崩さない。一瞬の隙を見つけては相手を一撃で倒してしまう。

    まるで豹だ。
    全身がなめらかなビロードのような毛に包まれた黒豹。

    あたしはそんなジョウに憧れて、少しでもジョウに近づきたくてここまで来た。
    ジョウを追いかけて、追いついて彼を助けられるようになりたい。


    でも、まだまだジョウに助けられてばかりのあたし。
    ジョウから見たら手のかかる仔猫みたいなもんよね。
    クラッシャーとしてひとり立ちなんて、夢のまた夢。


    だけど、あたしだって。

    きっと、いつかジョウに追いついて堂々とあなたの隣を走ってみせる。そしてあなたの中で一番の存在になるの。

    いつか、きっと。


    あたしは、ザワザワ鳴る大きな枝を見上げながら

    ーーーー見てらっしゃい

    と呟いた。

    今は心もとない仔猫でも、いつか必ず大きくなるんだから。せいぜい、その時には喉元に噛み付かれないように注意してね。

    ーーーーがお!

    とあたしはジョウに向かって吼えるフリ。そして唇に人差し指をつけて、それをジョウにそっと押し付けた。

    見ててね。

    いつかきっと。




    あたしは、しばらく隣のジョウを見つめていたが、今日のところは仔猫のままあなたのそばで眠ることにした。
    仔猫みたいに丸まって、この気持ちいい木の下で。



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■1194 / inTopicNo.5)  Re[4]: 黒豹の休日と仔猫の野望
□投稿者/ とむ -(2006/07/20(Thu) 23:16:05)
    Fin
fin.
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