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■1211 / inTopicNo.1)  やさしい檻
  
□投稿者/ とむ -(2006/08/17(Thu) 11:54:55)
    ふと目が覚めた。
    吸い込まれるように深い眠りの淵に落ちてからもうどれくらい経ったのだろうか。


    ぼんやりしながら頭の位置を変える。
    隣で静かな寝息をたてている愛しい人を起こさないように。
    ゆっくり、ゆっくり、そろそろと。

    左腕をベッドサイドのローボードに伸ばし、ダイバーズウォッチを掴み時刻を確かめる。
    眠りについてからまだ3時間。
    朝までにはまだまだ時間がある。


    視界のほとんどが、この宇宙と同じ漆黒の闇。唯一、ベットに埋め込まれたクロノメータの光だけが俺たち二人の周りを薄く照らしている。
    あとは何も見えない。
    真っ暗な闇だ。

    隣から、小さな静かな寝息だけが同じ間隔で聞こえてくる。

    不思議な感覚。

    まるで時間など存在していないかのようだ。


    左腕をゆっくり空に挙げ、拳を握り力を込める。そしてまたゆっくり掌を広げてみる。そのまま掌をじっと見つめると暗闇の中、自分の掌の輪郭だけが弱い青白い光を放っているかのように見えた。


    不意に。
    二人の体温で温かくなっていたブランケットが、もそり・・と動いた。
    右腕に乗っていた金色の頭が、小さく起き上がり寝ぼけ眼で俺の顔を見上げる。

    「・・・ジョウ?」
    「悪い。起こしちまったか?」
    「眠れないの?」
    「いや。なんか目が覚めちまったんだ。でも、まだ早いからまた寝る」

    そう言って俺は左手を空から下ろし、アルフィンの金色の髪に指を滑り込ませた。そのままアルフィンの顔を自分の体に引き寄せる。ちょうど俺の鎖骨の辺りにアルフィンの顔がくる格好になる。アルフィンの息がかかり、俺の体は少し湿った熱を帯び始めた。

    「・・・くるしい」
    とアルフィンが小さく呟く。
    「ウソつけ」
    「キレイな空気が欲しい」
    「キレイだろ」
    「汗くさい」
    「コイツ」
    フフ、とアルフィンが小さく笑い、俺の腕の中で体の位置を変えた。

    シーツの擦れる音。

    「コラ、どこ行くんだよ」
    「だって狭くて眠れないもん」
    「枕が動くと俺が眠れないだろ」
    「枕?−−−ってあたしのこと?」
    「そう。抱き枕。−−−ってェ!!」
    思いっきり足を蹴飛ばされた。
    クスクス笑いながらアルフィンがベットの端で俺を見る。


    クロノメータの幽かな明かりがアルフィンの笑顔をぼんやりと闇の中に浮かび上がらせる。俺は一瞬息を止め、吸い寄せられるように彼女の肩に腕を伸ばし再び胸の内側にその細い体を閉じ込めた。そして彼女の黄金の髪にそっと唇を押し当てる。

    「ジョウ、ちゃんと寝ておかないと明日からの仕事で泣くわよ?」
    「だったら、おとなしくしてろよ。寝不足の航法士だって御免被る」
    「今、何時なの?」
    「朝の4時前」
    「やだ、早く寝なくちゃ。ジョウ」
    「だからそう言ってるだろ」
    自分の声が掠れているのが分かる。
    体の奥でくすぶり始めた欲望の火を宥めるように、俺は彼女の豊かな髪に顔を埋めて目を閉じた。
    アルフィンは今の体勢が余程窮屈らしく、しばらくあの手この手で俺の手を外そうと頑張ったが、しまいには
    「もお!」
    と諦めたように呟き、その小さな頭で俺の顎を突いた。
    「・・・・っ!!」
    「自業自得」
    とどめに右手で俺の左頬を軽く叩き、そこに口付けを落とした後、その碧眼を閉じた。




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■1212 / inTopicNo.2)  Re[1]: やさしい檻
□投稿者/ とむ -(2006/08/17(Thu) 12:28:53)
    しばらくすると、ベットに身を預けた彼女の体からは完全に力が抜け、その胸はまた規則的な拍動をうち始める。
    俺はアルフィンが逃げないようにロックしていた腕をゆっくり解いた。


    もういい加減に、この暗闇に目が慣れて部屋の中が見回せるようになった。
    アルフィンの流れる髪を撫で、彼女の閉じられた瞼、薄桃色の頬、丸みのある唇を親指でなぞる。


    アルフィンがミネルバに押しかけてきて、もうじき3年になろうとしている。
    二人で互いの体温を混ぜ合わせるようになってからは半年。
    仕事と仕事の間のつかの間のオフは、お互いの部屋で過ごすことが当たり前になってきた。


    初めはお互いしか見えなかった。
    長いこと自分の気持ちを抑え隠していた分、互いの気持ちを確認し合ってからはただ二人で時間を共有できることが至上の喜びだった。
    二人でお互いの存在を確かめることができる幸福は、今まで生きてきた中で最大のもの。
    自分達以外が目に入らないとは、こういうことを言うのかと思ったりもした。


    でも。


    暗闇に目が慣れるにつれて、本当はすぐ近くに存在していても見えなかったものが次第に形を成してくるのと同じように、二人きりで過ごす時間が増えるほど、この先俺達の前には考えなければならないことが山のようにやってくる、ということも思い知る。


    今は二人で互いを当たり前のように抱きしめあっているけれど、どちらかが欠けてしまったらどうなるだろう?

    この先、アルフィンは本当にピザンに戻ることがないと言い切れるか?


    国王達が彼女を引き戻さないと、本当に言い切れるか?


    もし結婚なんてすることになったら、俺はアルフィンをミネルバから降ろすだろうか?


    そうなったらチームはどうなる?


    これ以上のチームなんて作れるのか?


    そもそも、ずっと二人が無事にいれるかさえ分からないのに。



    アルフィンの金髪を撫で付ける。指の間を黄金の糸のような髪がサラサラと音をたてて流れていく。
    (アルフィンに自由を奪われちまったな)
    苦笑しながら目を閉じる。



    そう。
    俺は自分が一番安らげる場所を見つけてしまった。
    もう、アルフィンがいなかった頃のミネルバは思い出せない。
    この先、アルフィンをミネルバから降ろすことも考えられない。
    そして、彼女と今のメンバー以外で仕事をするなど想像できない。



    だから。

    もう少しこのままでいさせてくれ。

    この優しく自分達だけを包み込んでくれる暗闇の中で、今は互いの鼓動だけを感じて眠っていたい。

    未来のことは考えず、今だけを抱きしめる。

    あともう少しだけ。

    この温かくやさしい檻の中では。
     




fin.
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