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■122 / inTopicNo.1)  そこに君が居るということ
  
□投稿者/ ぴぃすけ -(2002/06/16(Sun) 15:17:58)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~precious
    「もうお時間です」

    そう囁かれ、君は小さく頷くと椅子から立ちあがった。
    寸分の隙もない、優雅な仕草。
    それは最早クラッシャーではなく、プリンセスの立ち居振舞いだ。

    「…本当にお世話になりました。色々とご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」

    深深と、頭を下げる君。

    …世話?迷惑??
    バカな。
    一度だってそんなことをしたり、感じた覚えはない。

    君は仲間で、家族で…そして…

    だが、言葉は喉に貼りついて音声になることを拒否した。

    「……」

    俺の言い知れぬ渇きに気づかぬかのように、君は涼やかな顔を上げた。
    瑠璃色の瞳が、まっすぐに俺を射貫く。

    躊躇いも、後悔も、すべて拭い去られた後の、静かな視線。
    俺とは違う世界へ戻ることの決意が溢れている。

    「ジョウ…今まで…ありがとう…」

    ふと表情を和らげ、君はそっと呟いた。
    そして、微笑を浮かべてみせる。
    それはもう、この手が届かぬところに旅立つひとの、清冽な残像。

    「さようなら」

    何も言えぬまま立ち尽くす俺に、君は最後の言葉を告げると、くるりと背を向けた。



    ……これで、いいのか。
    ……このままで、いいのか。

    彼女の気持ちに、どう応えればいいのか知らなかった俺。
    一言魔法の言葉を口にすればいいだけなのに、照れて切り出せなかった俺。
    しかし、何故か都合良く、無邪気に信じていた。
    君は俺とこの先もずっと一緒に居てくれるものだと。
    君もそれを望んでいるのだと。

    でも今、君は。
    ありきたりの別れの挨拶一つで、遠くに行ってしまおうとしている。

    「は…はは…」

    俺の口から、笑いが漏れた。
    君は驚いたような顔をして、振り向く。

    「…馬鹿だな…俺は…こうならないと気づかないなんて…肝心なことを言えないなんて」

    本当に、馬鹿だ。
    俺の頬を、ためらうこともなく、熱い雫が濡らしている。

    「君が…居なくなってしまったら……俺…は」
    「……その台詞、もっと前に…こうなる前に、聞きたかったわ」

    寂しそうに、君は苦笑した。
    だが、戻ってきてくれようとは、しない。
    促されるままに、また俺に背を向け、歩き出す。
    俺とは決して再び重なり合うことのないであろう、人生を。


    「…嫌…だ…アルフィン。アルフィンっ!!」

    俺は手を伸ばした。
    手を伸ばし、駆け寄ろうとした。
    その瞬間、足元が崩れ、俺は奈落の底へまっさかさまに墜ちていった…





    「!!」

    跳ね起きた。
    全身に、汗が滲んでいる。

    (……今のは、夢?)

    …それとも現実、なのか…


    確かめなくては。
    俺は上着をつかんで、部屋を飛び出した。



    心臓が、早鐘のように鳴る。
    ドアのパネルを操作した。
    パネルはめまぐるしく色を変えてから、グリーンのライトを点灯させた。
    入室可、の合図だ。
    俺は深呼吸を一つすると、ドアをくぐった。


    果たして。
    君は、そこにいた。

    振り向き、俺の姿をみとめると、にこりと微笑んだ。
    金髪がさらさらと音をたてる。

    「どうしたの、ジョウ?」


    「……アルフィン!」
    「!!」

    一気に君の元へと走った。
    そして力任せに抱きしめる。
    君が「本物」なのだと全身で確かめるために。


    「…ジョウ、痛い…よ?」

    腕の中で、困惑した君が呟く。
    でも、構わない。

    「一体どうしたっていうの…?」
    「暫くこうさせていてくれ…」

    君が、こうして。
    俺の傍に居てくれるということ。
    それがどれだけ幸せなことなのか。
    どうして気づかなかったのだろう。
    否、気づかぬふりをしていたのだろう。


    俺の脳裏に、先ほどの去っていこうとした君の姿が蘇った。
    その瞬間の言い知れぬ恐怖感と寂寥感が、俺に今なすべきことを教えてくれた気がする。


    …君を充分に抱きしめ終えたら。
    この気持ちを伝えよう。

    アルフィン、君が俺にとって、どれだけかけがえの無い存在かということを。






fin.
引用投稿 削除キー/
■123 / inTopicNo.2)  Re[1]: そこに君が居るということ / 後書き
□投稿者/ ぴぃすけ -(2002/06/16(Sun) 15:40:42)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~precious
    衝動的に書いてしまいました。
    アルフィンが傍にいることの大事さに、ジョウにちゃんと気づいて欲しくって。
    ベタなネタですがお許しくださいv
fin.
引用投稿 削除キー/



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