| 俺らたちは多分、最初からアルフィンに夢中だったと思う。 エマージェンシー・シップから救出されたアルフィンを見たとき、俺らは本当にドキドキした。 あんなにきれいなヒトを見たのは初めてだった。
それがいまやアルフィンはひどい。 あのときの面影なんてかけらもない。 人一倍気は強いし、ヒステリーはひどいわ、やきもちはやくわ、凶暴で暴力も振るうし、理不尽だし酒乱でもある。
あのときのアルフィンはどっからどうみてもお姫様だったのになあ。もどらねえかなぁ。 まったく、兄貴はアルフィンのどこがそんなにいいのかなぁ。なんてよくタロスと言ってる。
でも。 本当は俺らもタロスもそんなことわかっている。 あの時とは違っても、めちゃくちゃやってても、アルフィンは可愛い。アルフィンは優しい。何より健気で一途で。 本当はわかってるさ。アルフィンを憎めるやつなんていないんだ。
ピザンの一件が終わった後、タロスに聞いてみた。 「お姫様が密航してクラッシャーっての、やっぱありえないよね?」 タロスは本当に変な顔をして、 「そもそもクラッシャーどころか密航も、国をおんでて惚れた男を追っかけるなんてこと自体もありえねえわな。」と言った。 「じゃあ、クラッシャーと一緒にガラモスをやっつけたのは?」というと、 「それもなぁ・・・クラッシャーに頼むのだってアレだが、連合宇宙軍に頼んだってお姫さんが自分では出ていかねえだろうなあ。」 そして一言ぼそりといった。 「すげえよ」
俺らもそう思った。 あの時どこをどうしたって苦労知らずのお姫様だったアルフィンは、ピザンのために戦った。 ポロポロ泣いたり取り乱したこともあったりしたけど、これ以上ないほど勇敢だった。 ただきれいなだけじゃない。あの華奢な体の中には、責任感と、気品と、強い意志が入ってた。 凛として背筋を伸ばすアルフィンは本当に格好いい王女様だった。
ピザンを出るとき、すごく心配になった。 とにかくアルフィンが兄貴にベタ惚れなのはよくわかっていたし、何より兄貴もアルフィンに惚れているのがわかってたから。
俺らたちはクラッシャーで、アルフィンはお姫様だったし、辛いけどここでお別れだなぁってしみじみ思った。 兄貴どう思ってんのかなってそればっか考えて、お別れの式典の最中アルフィンを探したのに見つけられなかった。 だってその頃アルフィンはミネルバにもぐりこんでたんだ。
まったく、ピザンの人たちはびっくりしたろうな。腹立ててなきゃいいけどな。 国を救ってくれた英雄が、やつらの自慢のお姫様をさらっていっちゃったくらいに思っているかもしれない。 ハーレクインばりのラブロマンスだろ。現実はかなり違うけどな。
「リッキー、ここにいたのか」 タロスがナースセンターから戻ってきた。 「うん、なんだって?」 「ああ、もう大事無いから2,3日安静にして退院だと。まだ薬で眠ってるが、もう目が覚めるとよ」 「良かったぁ」
アルフィンは仕事で怪我をして、この病院に入院している。 たいした怪我じゃないと言われたけど、頭を打ってたから精密検査をしてたんだ。 大丈夫で良かった。本当に良かった。
「ジョウはどうしてる?」 「兄貴?昨日とおんなしさ」
アルフィンが怪我をしたときの兄貴はものすごかった。 まあアルフィンが絡んだらいつもといえばいつもなんだけど、なんかすごい乱射で敵を一掃しちゃったし。 でも敵をやっつけて、転がるようにして怪我したアルフィンのところに行ったと思ったらどうにも使えなくて、仕方ないからタロスと俺らで運ぼうとしたら血相変えて取り返しに来た。
昨日、病院へ来てからは、大丈夫といわれて気ぃ抜けたんかな、ぼんやり枕元でアルフィンを見てた。 薬で眠っているアルフィンを、なんか場違いなほどウットリ眺めている感じ。 兄貴のあんな顔見たことなくて、俺らはからかうこともできなくて、その兄貴をぼんやり眺めていた。
面会時間が終わりになって漸く兄貴は我に返ったふうだった。 「じゃ、外でタクシーひろってますわ」 慌てたようなタロスに引きずられて病室を出るとき、兄貴が小さな声でアルフィンを呼ぶのが聞こえた。 振り向くと、兄貴が眠っているアルフィンの頬にそっと触れるのが見えた。
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