| ゆっくりとキッチンを覗き込んだ。 すでにコーヒーの香りが立ち込め、準備が万全であることが伺える。 赤いクラッシュジャケットに、オレンジ色のエプロンをしたアルフィンが、手早くサラダを盛り付けているところだった。 「---。」 口を開きかけたが言葉が出ない。 何と言うつもりだったっけ。 さっき練習したばっかりじゃないか。
美しい金髪がさらりと音を立てる。 「あら、リッキー。」 振り返ったアルフィンは、その碧眼を見開いた。 「おはよう。もう大丈夫そうね。」 「あの・・えっと・・」 そっちこそ、 と言おうと思った。 そして、シチューのお礼も。 しかし。 「やだ、リッキー! 寝癖がひどいわよ!」 「ええっ!?」 食器棚のガラスに映る自分を慌てて見た。 確かに。 いつもよりはかなりひどい。 しょうがないじゃないか。 そこまで見ている余裕なんてなかったんだから。 「もうー。レディに対する身だしなみがなってないわね。」 そう言って楽しそうに笑った。 こっちの気も知らないで。 それに誰がレディだよ。 レディは、あんなに酒乱じゃないぞ。 そんなことを思いながら、手ぐしで髪を少しだけ直す。 次の言葉を探しているうちに、再び先手を打たれた。 「これ、運んでくれる?」 サラダボールを差し出される。そして、インターホンに向かって言った。 「ジョウ、タロス、朝食の用意が出来たわよー!」
憎まれ口ならいくらでも言える。 しかし、改めて感謝の言葉を告げようとすると、その難しさを痛感したリッキーだった。 アルフィンのペースに一旦巻き込まれると、それを崩すのは困難である。 さらに、彼女の笑顔の前には言葉を失う。 ちょっとだけアニキの気持ちが分かった気がする。 人のことばかり言ってられないかも。 「リッキー、コーヒーが冷めちゃうわよ。早くしてよね。」 「分かってるよぉ!」 いつものように返すことにした。 オイラにはそれが精一杯だったんだ。
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