| 「何を仏頂面してるんです?」 <ミネルバ>のリビング・ルームで、センターテーブルに突っ伏しながら唸っているジョウに向かって、タロスがコーヒーを差し出した。 「…別に」 タロスが差し出したコーヒーには目もくれず、ジョウはテーブルに転がっていたモニターリモコンに手を伸ばす。そのまま、タロスとは視線を合わせぬままリモコンの電源をオンにした。 モニターに映し出された映像は、古い映画のワンシーン。 まだ若いパイロットが、初めて操縦した大型外洋船に感動し、その瞳を輝かせている場面だ。いつものジョウであれば、少し笑みを浮かべながら、恐らくは己がはじめて<ミネルバ>に乗り込んだときを思い出し感慨に耽るところであろう。 しかし、今日のジョウはその映像を見るや否や、口の中で小さく舌打ちをし、無言のまま再びリモコンをオフにした。そして、まるで拗ねた子供のようにそのままリモコンを傍のソファに放り投げる。 そんな様子をタロスは無言のまま見守っていたが、やがて手にしていたジョウのコーヒーカップを彼の前に置くと、おもむろにこう言った。
「ジョウ。女を自分の腕の中に身動きが出来ないくらいに閉じ込めて、守ったつもりになっているんだったら、それは大きな間違いですぜ」
ジョウは、タロスをギロリと睨み返し 「何のことだ」 と低く抑えた声で呟いた。
「アルフィンは、もう立派なクラッシャーです。2年間<ミネルバ>で経験を重ね、スキルを積んだ。そろそろ、彼女が望む責任のある仕事ってやつを任せてみてもいいんじゃないですか?」
それを聞いたジョウは目を剥いて噛み付くように答えた。 「あの作業は危険すぎる。アルフィンにはまだまだ早い」 「それは過保護ってもんです」 「…うるさい」 「アルフィンは力をつけている。そして仕事をしたがっている。ジョウだってわかっているはずだ」 「うるせえっ!!」
タロスの言葉が言い終わらないうちに、ジョウは椅子から勢いよく立ち上がり、置いてあったコーヒを一気に口の中に流し込んだ。そして、そのままドカドカと足音を響かせながらキッチンに入り、バン!とシンクにカップを叩きつける様に置いて部屋を出た。
そんなジョウを黙って見送ったタロスは、ゆっくりソファからジョウが投げつけたモニターリモコンを拾い上げ、センターテーブルに戻した。そして次には身を屈め、ジョウが勢いあまってひっくり返した彼の椅子を元の位置に戻す。
ふう、と息を吐き出して彼は、クラッシュジャケットの胸ポケットからシガレットを取り出し、それに火を点けて口に咥えた。
「マア…。ジョウはまだまだですかねぇ」
タロスはゆっくり煙を吐きながら、可笑しそうに小さく呟いた。
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