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■1395 / inTopicNo.1)  噴水前で
  
□投稿者/ 紫音 -(2007/03/24(Sat) 23:27:12)
    ここからは、広場全体が見渡せた。
    広場に面したビルの3階、喫茶店の窓際でオイラはコーラを飲んでいる。
    休日の昼下がり、広場の中央の噴水付近には、多くの人が待ち合わせをしていた。
    いいなぁ。
    天気もいいし。
    みんなこれからデートとかするんだろうなぁ。
    ふと腕時計に目をやって、再び広場を観察する。
    一応、オイラは、これでも観察力を養おうとしてるんだ。
    行き交う人を記憶に留めたり、その人々の行動を予測したり。
    例えば、待ち合わせらしき人は、何時くらいの約束なのか、相手は恋人か、友達か。どういう人か。
    会ったときにどういうアクションをおこすのか、その表情は。
    結構面白いけど、疲れる。


    あ。
    すっと人ごみの中で、道が空く。
    その道を、大柄な人物が歩いた。
    タロスだ。
    すぐに分かる。あの巨体を見間違うはずはないもんな。ついでに、近くの人が、体を引いてしまうのも分かるさ。
    黒い革ジャンを羽織って、どこかのやくざか何かと思われても仕方ないよ。
    しっかし、相変わらず早いなぁ。年を取ると、朝もそうだけど、早め早めの行動になっちゃうのかな。
    まだ集合時間には15分もあるじゃん。
    タロスはそのまま歩いて、噴水の近くにあるベンチに腰を下ろした。
    近くにいた人たちが、ちらっと視線を投げて、距離を置くのが面白い。
    ちょっとおっかないんだと思うよ。
    サングラスなんてしたらなおさらじゃん。
    タロスはそのサングラスを取ってポケットに入れて、新聞を読み始めた。
    でも、あれでも元は二枚目で、かなりモテてたっていうから、わかんないよなぁ。


    しばらくして、風船を持った女の子が隣に座った。
    結構小さい。たぶん3歳くらいだと思う。
    女の子は興味深そうに横を向いて、タロスを見つめていて、タロスはそれに気づいてるけど、どうしたらいいのか分からないんだろう。
    なんか緊張してるみたいに見えて面白いや。
    女の子が何か話しかけた。
    すっごい度胸。
    尊敬するよ。
    タロスは、やっと女の子の方を見て、短く何か答えたみたいだ。
    それから少し会話が続いていた。
    何を話してるんだろ。不思議でしょうがない。
    たぶん、その途中なんだと思う。女の子は母親に呼ばれたらしく、立ち上がって噴水の向こうへ走っていってしまった。
    途中で振り返り、タロスに大きく手を振って。
    なんか楽しかったんだろうな。いい笑顔だもん。
    あーいう子供って、タロスが優しいことをすぐに察するのかな。



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■1399 / inTopicNo.2)  Re[1]: 噴水前で
□投稿者/ 紫音 -(2007/03/25(Sun) 19:26:13)
    公園の花壇の間を、兄貴が横切った。
    すれ違った女の子の二人組みが立ち止まって振り返る。
    そーいうのって、ちょっとうらやましい。
    確かにオイラから見ても、兄貴はいい男だと思うよ。クラッシャーとしても一流だし。
    言うことないよな。
    あ。恋愛絡みのことは別だけど。
    そりゃ、もちろん、これで恋愛の達人なんてことになったら、兄貴が兄貴じゃなくなっちまうけどさ。
    普通にTシャツにGジャンを羽織ってるだけだけど、カッコイイよなぁ。
    体のバランスがいいっていうか。オイラもあれくらいまで背が伸びないかなぁ。

    ふと立ち止まって、兄貴がこっちの方を見た。
    気づいた?
    まさかね。
    結構距離あるし。
    喫茶店のガラスは太陽の光で反射してるんじゃないかな。そしたらオイラは見えないはずだよな。
    兄貴はすぐにまた歩き出した。
    クラッシャーにはいろんなタイプがいるけど、もし平均とかあったとしたら、兄貴やタロスは平均よりは熱いタイプなんじゃないかと思う。
    本人はもう少し冷静沈着だと思っているかもしれないけどさ。
    思いっきり、感情優先タイプ。
    兄貴がアルフィンが絡むとめちゃめちゃな所とかって、いつもヒヤヒヤするけど、すげぇなっていつも思う。
    どっかで、オイラもそうありたいと思ってるのかもしれない。

    その兄貴が、歩みを止めた。
    声をかけたのは女性。ヒールを履いて、兄貴と同じくらいの背の高さ。
    栗色の髪を結い上げて、黒色のパンツスーツを着て、大きめのショルダーバックを持ってる。
    たぶん、30歳前後。
    その女の人は、名刺を兄貴に差し出していた。
    察するに、雑誌の取材か、カメラマンってとこ。
    仕事できそーなタイプ。
    ここからは、兄貴の表情は見えない。見えるのはその背中だけ。
    どうするつもりだろう。
    その女の人は、笑顔だけど必死に何かを伝えてる。だからこそ、兄貴は無視できないんだと思う。
    だいたい、兄貴は年上の女の人にすっごく気に入られるんだ。まぁ、確かにクライアントって、普通は年上の人ばかりなんだけど。

    顔がぐっと近づいた。あわてて兄貴が仰け反ってる。
    あーあ。最高のクラッシャーの名が泣くな。
    よかったよ、アルフィンがいなくって。
    兄貴が頭を掻きながら何か言ったみたいだ。すると、女の人は、周りを見回した。
    でも、何も見つからなかったらしい。もう一度兄貴をまっすぐに見つめた。
    そしてふっと微笑んだ。
    なんか、母親的っていうか、そんな暖かい微笑み。
    そのまま、その人は振り返って歩き出した。
    一度だけ、手をひらりと振って。
    うーん。ちょっとオイラには、どんな会話があったのか想像できないや。あとで兄貴に聞いてみようかな。
    でも、教えてくれないだろうなぁ。

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■1400 / inTopicNo.3)  Re[2]: 噴水前で
□投稿者/ 紫音 -(2007/03/25(Sun) 19:33:16)
    視界の片隅に、金色が見えた。
    目立つんだなぁ、これが。
    いつもは<ミネルバ>の中だから、全然感じないんだけど。
    こうやって普通の人々が行き交う中にいると、アルフィンは人目を引く。
    さすが、元お姫様って言っちゃうよなぁ。
    なびかせた金髪は、良くわかんないけど、たぶん美容院ですっごい手入れされた後のはずなんだ。
    クライアントに会うまで3時間の空き時間があると知って、アルフィンは「美容院に行って来る!」と嬉しそうに出かけていった。
    デニムのワンピースは、兄貴と並ぶと、ばっちり似合うように計算されてる。
    もちろん、兄貴はそーいうの全然考えてなくって、計算してるのはアルフィンの方。
    女の人ってすごいよ。

    あれ?
    アルフィンの歩みが止まった。
    やばい。
    二人の男に声をかけられてるみたいだ。
    もちろん、やばいのは、その男たちの方。
    あ・・でも、にっこり笑って、二人の間をすり抜けた。あっけに取られた表情で、二人が後姿を見送ってる。
    よかった。何事もなくて。

    ・・・と思ったら、またすぐに他の奴に引き止められてる。
    このまま歩いてたら、何人に声をかけられるんだろう。
    止めたほうがいいよ。ほら。確かに声かけたくなるのも分かるけどさ。
    だけど、見かけからは想像できないんだってば。
    げっ!
    腕を掴まれたアルフィンは、即座に反撃に出た。
    その速さってば、さすがクラッシャーとしか言いようがない。
    持っていたバッグが男の顔面にヒットし、さらに右ひざが相手の腹部に叩き込まれた。
    ひざを地面につけた男に一瞥を投げて、また歩き出す。
    ・・・・・・
    やっぱり、アルフィンとケンカすんのはやめようっと。

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■1402 / inTopicNo.4)  Re[3]: 噴水前で
□投稿者/ 紫音 -(2007/03/25(Sun) 19:50:33)
    噴水に近づいたアルフィンが歩みを速めた。
    きっと兄貴の姿を見つけたから。
    ベンチに座るタロスの前に兄貴は立っていて、二人は話をしていたけど、アルフィンに気づいたのか振り返った。
    その振り返った兄貴に、アルフィンは飛びついて、兄貴は当然のようにその体を抱き止めている。
    いつもの通り金髪がなびいた。
    最近は少し慣れたみたいで、兄貴はあんまり慌ててない。
    でも。
    アルフィンが上を見上げると、その距離の近さにやっぱり赤くなって、そのまま地面に下ろした。
    ちょっと不満そうだったけど、アルフィンは肩にかかった金髪を直してもらって、軽くポンと頭を叩かれた後、極上の微笑を返す。

    実は、最近オイラはこーいう場面を見ると、ドキドキする。
    前はそんなんじゃなかったんだけど。
    まぁ、気づかなかっただけなのかなぁ。
    兄貴がアルフィンの髪に触れるときって、なんか、いいなぁ って思うんだ。
    こっちがドキドキするし。
    それをタロスに言ってみたら、「まぁ、そりゃ、お前もちっとは成長してるってことだ。」って言われた。
    よく分かんないよ。タロスの言うことは。
    いつもは、年長者の言うことは良く聞くもんだとか何とか言ってるくせに、こーいうときには全然わかんないことを言うんだ。
    あったまくるよなぁ。

    おっといけない。
    時間だ。
    遅れたらみんなに何言われるか分かんねぇや。
    オイラは慌てて席を立って、喫茶店を飛び出て、噴水の方へ走り出した。

    オイラの大事な家族が、そこに待っている。

fin.
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