| ここからは、広場全体が見渡せた。 広場に面したビルの3階、喫茶店の窓際でオイラはコーラを飲んでいる。 休日の昼下がり、広場の中央の噴水付近には、多くの人が待ち合わせをしていた。 いいなぁ。 天気もいいし。 みんなこれからデートとかするんだろうなぁ。 ふと腕時計に目をやって、再び広場を観察する。 一応、オイラは、これでも観察力を養おうとしてるんだ。 行き交う人を記憶に留めたり、その人々の行動を予測したり。 例えば、待ち合わせらしき人は、何時くらいの約束なのか、相手は恋人か、友達か。どういう人か。 会ったときにどういうアクションをおこすのか、その表情は。 結構面白いけど、疲れる。
あ。 すっと人ごみの中で、道が空く。 その道を、大柄な人物が歩いた。 タロスだ。 すぐに分かる。あの巨体を見間違うはずはないもんな。ついでに、近くの人が、体を引いてしまうのも分かるさ。 黒い革ジャンを羽織って、どこかのやくざか何かと思われても仕方ないよ。 しっかし、相変わらず早いなぁ。年を取ると、朝もそうだけど、早め早めの行動になっちゃうのかな。 まだ集合時間には15分もあるじゃん。 タロスはそのまま歩いて、噴水の近くにあるベンチに腰を下ろした。 近くにいた人たちが、ちらっと視線を投げて、距離を置くのが面白い。 ちょっとおっかないんだと思うよ。 サングラスなんてしたらなおさらじゃん。 タロスはそのサングラスを取ってポケットに入れて、新聞を読み始めた。 でも、あれでも元は二枚目で、かなりモテてたっていうから、わかんないよなぁ。
しばらくして、風船を持った女の子が隣に座った。 結構小さい。たぶん3歳くらいだと思う。 女の子は興味深そうに横を向いて、タロスを見つめていて、タロスはそれに気づいてるけど、どうしたらいいのか分からないんだろう。 なんか緊張してるみたいに見えて面白いや。 女の子が何か話しかけた。 すっごい度胸。 尊敬するよ。 タロスは、やっと女の子の方を見て、短く何か答えたみたいだ。 それから少し会話が続いていた。 何を話してるんだろ。不思議でしょうがない。 たぶん、その途中なんだと思う。女の子は母親に呼ばれたらしく、立ち上がって噴水の向こうへ走っていってしまった。 途中で振り返り、タロスに大きく手を振って。 なんか楽しかったんだろうな。いい笑顔だもん。 あーいう子供って、タロスが優しいことをすぐに察するのかな。
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