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■14 / inTopicNo.1)  シバの女王
  
□投稿者/ う〜ろん -(2002/01/27(Sun) 21:27:00)
    「宇宙は、探すのには広すぎるが、偶然会えるくらいには、狭いところなんじゃよ」って言ってたのは、確か…ガンビーノだっけ?


    ココはドルロイの宇宙中継ステーション。
    この間のヤバイ仕事で、ちょいとくたびれちまったミネルバをドックに入れるんで、おいら達は、はるばるドルロイへやってきた。
    ドルロイはご存知クラッシャーご用達の星で、おいら達が使う宇宙船や商売道具の調達や整備は、ほとんどこの星でまかなってる。そんな訳で、工業惑星として知られるドルロイの宇宙港には、圧倒的に船乗りやクラッシャーが多いんだ。タロスやジョウは、昔からの知り合いや仕事先の人に、ここでバッタリで会う事も多い。特にタロスはドルロイじゃ有名人らしい。ま、あの面構えじゃ、無理もないけどね〜


     ジョウとおいらは、人でごったがえしてるステーションのロビーにある、カフェに座っている。ロビーの端っこにあるから、さして大きい店じゃないんだけど、美味いコーヒーを出すんで、結構有名な店なんだ。アルフィンは、ずらっと並んだコーヒー豆のケースの前で、ミネルバへ買って帰るやつを物色してる。いつの間にか、ドルロイにやって来たら、この店でコーヒーを買うのがチームの習慣になってるんだ。
    店内とロビーの間には仕切りがないので、コーヒーの香ばしい香りがロビーにも漂っていく。おいら達は、なんとなく人波を眺めながらコーヒーを飲んだ。
    「兄貴、ミネルバのメンテナンス、何時までかかるんだろ?」
    「そうだな、見積もりの話では4日くらいって言ってたんだが…」
    「修理が終るまでどうすんの?」
    ドルロイには、娯楽施設とか観光できるようなスポットがあまりないんだ。
    「ぼけっとしてるのはイヤなんだろ? 休暇にするよ」
    兄貴はニヤっと笑った。そうこなくっちゃ!
    「ね、ね、明日サイラスでシルヴァヘッドのライブがあるんだ! おいら前から観たかったんだ! 観に行こうよ!」
    「サイラスならこっから近いな。観に行くか」
    「やりぃ! 決まりだね!」
    おいらはシルヴァヘッドの大ファン(兄貴やアルフィンも好きなんだけど)なんだ。すっげえカッコいいロックバンドで、もうすぐドルロイから程近いサイラスからツアーが始まることになっている。あっちこっち飛び回ってるおいら達が、ライブを見にいけるチャンスはなかなかないから、これは外せないぜ!

     その時、誰かのデカイ声が、カフェにジョウの名前を響かせた。
    「あら〜〜〜っ!! ジョウじゃないの! リッキーも! ひっさしぶりじゃない! 元気だった? こんなとこで会うなんて、めちゃ嬉しいわぁ〜〜!」
     妙にテンションが高くって、まとわりついてくるような、それでもって色っぽいハスキーな、特徴のある声。こんな喋り方をするのは、もしかして…? いや〜な予感がしたけど、首をめぐらして声の主を探した。兄貴は、声を聞いたとたんに両腕で頭を抱えて、テーブルにつっぷしてしまった。
    「や、やべぇ…。出た…」
    「あ、兄貴! こっち来るぜ」
     何事かと店内のお客さんの目が集まる。いくつもの視線をまったく気にしない様子で、声の主はつかつかと大またで歩いてきて、おいら達のテーブルへやって来た。
    「いや〜ん! 元気だった? ジョウ!」
    「あ、あぁ…」
     いきなりジョウの背中から腕を首に絡めて抱きついた。兄貴は苦虫を噛み潰したような顔でなんとか耐えているけど、かーなーりー、気の毒な光景としか言えない。
    「リッキーも相変わらずねぇ〜 ちょっとは背が伸びた?」
     からからと笑って、ウインクをよこす。うへぇ…ι おいらは、なんとか無理やり笑顔をこしらえて言った。
    「ひ、久しぶりじゃん、フランキー」
     この超ド派手なピンクのクラッシュジャケットを着た、セクシーな声の持ち主。彼は、銀河にその名を轟かせる「オカマのクラッシャー」フランキー、その人だった。


     おいらがフランキーに初めて会ったのは、三年くらい前。タロスの古い知り合いらしいんだ。いったい年はいくつなのか、よく分からない。
    「オカマにトシを聞くもんじゃないわよっ!」って怒られるんだ。
     ジョウと同じくらいの背丈なんだけど、鍛えててもスラッとしてる兄貴と違って、フランキーは筋骨隆々で、胸板がめちゃくちゃ厚い。だから結構大柄に見えるんだ。このデカイ図体でシナを作って絡んでくるから、もうすげえのなんのって! 褐色の肌に化粧もバッチリで、大きな黒い目と、ブ厚い唇に真っ赤なルージュ。流れるようにスタイリングされた、銀のメッシュが入った黒髪。物凄いインパクトったらない。
     フランキーはまだジョウの背中にくっ付いたままで、艶然と微笑みながら言った。
    「この広い宇宙で偶然会えるなんて〜 神様が導いてくださるのかしら♪」
    「ううぅ…」
     これは兄貴の声。
    「うふん。ジョウったら、しばらく会わなかったけど、また男っぷりが上がったじゃない♪」
    「げげげ…」
     これも兄貴の声。気の毒…。
    「フランキーはこれからドルロイへ?」
     おいらは見かねて話を変えた。
    「ううん。あたしのお船のメンテは終ったの。これから出国なのよ」
     フランキーの船は「QUEEN・SHIBA」っていうんだ。オカマっぽい名前だよなぁ。ピンクと黄緑でペイントされた、超派手な船。一目見たら忘れらんない。
     ついでに言っちゃうと、フランキーの相棒もその手の方で、「ロッキー」っていうんだ。これまたフランキーに負けないくらいのキャラクターの持ち主。あくまで相棒、チームメイトで「彼氏」ではないらしいけど、どうなんだか…。
    「ねぇ、聞いたんだけど、おじいちゃん亡くなったんですって? 淋しいわ… あたしおじいちゃんの作ってくれるポトフ、大好きだった」
     声が震え、瞳がみるみるうちに涙でいっぱいになる。ピザンで死んじゃった、ガンビーノのことだ。フランキーは感極まって、さらにジョウの首に回した腕に力をこめた。
    「んぐ… フ、フランキー、く、くるし…」
     と、その時、ジョウとフランキーを引き剥がそうと、真っ赤なクラッシュジャケットの腕がふたりの間に伸びてきた。アルフィンだ!
    「ちょ、ちょっとぉ! なにしてんのよっ!」
     ゲットしてきたコーヒー豆が入った紙袋をテーブルに放り投げて、アルフィンは二人の間に割って入った。兄貴に抱きついてるのは大男だけど、そのただならぬ雰囲気に、キケンを感じたようだった。無理もない。なんせクラッシャーいちのオカマだ。漂うオーラが違う。
    「あら、この娘(こ)だあれ?」
     フランキーはやっとジョウに回していた腕をほどいて、憮然とした顔で突っ立ってるアルフィンを見た。
    「一年半位前に、ガンビーノの後釜でチームに入ったアルフィンだよ」
     あわてて、おいらが紹介した。
    「こっちはクラッシャー・フランキー。タロスの古い知り合いなんだ。兄貴もよく知ってる」
     兄貴はまたテーブルにつっぷしちまった。だってホントのことじゃん。
    「ふぅん。そうか、おじいちゃんの後釜ね。あたしフランキー。よろしくね♪」
     真っ赤なマニキュアで彩られた手を、フランキーがアルフィンに差し出した。あのごっつい手にマニキュアかよ…。
    「アルフィンです。よろしく」
     手を握りかえすアルフィンの声は硬い。警戒心バリバリだ。これはちょっとヤバイかも。おっし。
    「そ。兄貴の彼女」
     付け加えた。
     えっ?とアルフィンがおいらの方をチラッと見る。うつむいてたジョウもこっちを見たけど、おいらは無視した。これは助け船だぜ〜、兄貴!
    「あら、そうなの?」
     フランキーがジョウの方に振り向く。
    「あ、あぁ」
     兄貴が素直に乗った。おお〜っ! ちょっと意外なリアクションに、アルフィンも驚いたみたいだけど、とりあえず口をつぐんだ。こりゃ、一歩進歩したかな。まっ、おいらから見たら、アルフィンは兄貴の彼女も同然だからさ。
    「なるほどね〜 どうりで男っぷりが上った訳だわ。こーんな可愛い彼女がいるんですもの。ねぇ?」
     ジョウとアルフィンを見比べながら、ニヤニヤしてフランキーが言った。兄貴は眉間にしわを寄せて、無言でまたテーブルとお友達。あらら。
    「それじゃあ、ジョウにはアタックできないわねぇ。あたしは横取りはしない主義なのよね。昔、つら〜い目に合ってねぇ…。それからはしないの。うふ。」
     バチッとウインクしながら、色っぽい声でフランキーが言った。
    「はぁ…」
     さすがのアルフィンも、オカマパワーに圧倒されているらしい。心当たりがあったようで、小声でおいらに耳打ちしてきた。
    「フランキーって、あのフランキー?」
    「そそそ。あのフランキー」
     おいらよりクラッシャー歴の浅いアルフィンの耳にも、フランキーの悪名は届いていた。まじまじとフランキーを見つめるアルフィンに、彼女(だよな)はまったく動じない。
    「ねぇ、そういえば、タロスはいないの? 会いたいわぁ〜♪」
     実にオカマっぽい仕草で手を組み合わせ、甘い声を響かせて言った。タロスの名前に、ジョウがピクッと反応する。兄貴の目が「やばいぞ」っておいらを見上げる。わあってるって! 
    「タロスはちょっと、クライアントの人と打ち合わせがあって、遅れてるんだ。」
     これはもちろん、テキトーについたウソ。本当は、タロスは入国申請に行ってるんだ。
    「あら〜、残念。タロスが戻って来るまで待ってたいけど、そうもいかないようね。出国時間が来ちゃいそうだわ。よろしく言っといてね、フランキーより愛を込めてって!」
    「う、うん」
     実は驚くべき事に、フランキーの本命はジョウじゃなくて、タロスなんだよ! ここだけの話なんだけど、ずっと昔、タロスがフランキーの「憧れの人」だったらしいんだ。フランキーに言わせると、「タロスは宇宙一『セクシーなクラッシャー』よ!」って言うんだけど、あの「でいだらぼっち」みたいな怪物が、どこをどうしたらそんな風に思えるんだろ?? おいらにはまったく理解不可能。謎だ。宇宙のミステリーだよ! 
     いつもだったら突っ込みのネタにしちゃって、フォローなんてしないんだけど、フランキーのことは別だ。「タロスがフランキーの恋人だ」なんて、クラッシャーじゅうの噂になったら、たまんないじゃんか! 
    「お名残おしいけど、そろそろ行かなくちゃ。会えて嬉しかったわ! ジョウ、リッキー、アルフィンも」
     フランキーが時計を見ながら言った。よ、良かった…。おいら達3人は思わず顔を見合わせた。
    「『宇宙は偶然会うには狭いところだ』って、おじいちゃんがよく言ってたものね。またどっかで会いましょ!」
    「―――またな、フランキー」
     ほうっとジョウが安心したように言った。もうテーブルとお友達しなくても大丈夫だ。
    「その言い方はなによぉ、ジョウったら、つれないわねぇ」
    「いてっ!」
     ぎゅーっと兄貴の腕をツネった。
    「フランキーも元気で」
     おいらも名残惜しそうに声をかけた。いちおーね。
    「さよなら、フランキー」
    「またね、アルフィン」
     その時、ふと思いついたように、フランキーがアルフィンに近づいた。小声で何事か耳打ちする。
    「×××××、××××××××?!」
    「えっ?」
     びっくりしてアルフィンがフランキーを見つめ返す。あっという間に頬が桜色に染まった。なんだろ?
    「うふふ」
     フランキーはジョウにニヤッと視線をくれて、
    「じゃぁね!」
    と右手を上げた。
    「あっ! 今、アルフィンに、何、言ったんだ!?」
     ジョウは弾かれたように立ち上がって、フランキーの肩を掴もうとした。えらく焦ってる。フランキーはするりとかわして、大またでロビーへ歩き出した。
    「おい!フランキー! ちっ」
     舌打ちした。ジョウがこれだけ焦るのも珍しい。
    「みんな、元気でね! 愛してるわ〜! バイバーイ!」
     でっかい手をひらひらさせて、フランキーは大また歩きで、人ごみに消えていった。


     はぁ〜。
     急にロビーの喧騒が聞こえてきた。とりあえず、タロスが帰ってくるまでに消えてくれて良かった。ったく、お騒がせだよなぁ。あ〜ぁ。コーヒーがすっかり冷めちゃったじゃんか。
    「―――アルフィン、今、なに言われたんだ?」
     ジョウは、まだ、こだわってる。なんかマズイことでもあんのかな? 
    「・・・・・・」
     アルフィンは答えない。
     こっちの件に関しては、おいらは「だんまり」だ。あとで火の粉がかかってくることも、あっからね。冷たいコーヒーをすすりながら、見学することにした。
    「俺のことじゃないのか?」
    「・・・・・。違うわよっ」
     二人の声がだんだん高くなってくる。
    「じゃぁ、フランキー、なに言ってたんだよ?」
    「――――こ、こんなとこで言えないわよっ!」
     アルフィンの頬は、さっきより更に赤くなってる。ふむふむ、『ココで言えないこと』ねぇ。何でしょうねぇ。
    「・・・・・・」
     兄貴はこれ以上つっこめないようだ。ダメじゃん、甘いなぁ…。アルフィンは何も言わず、紙袋からこぼれ落ちたコーヒー豆の袋を、ガサガサと音を立てて拾い集めた。ジョウはそんな様子を黙って見ている。喉まで出かかっている言葉を、飲み込んでいるような顔だ。言っちゃえばいいのにさ。なんだかな〜


    「お待たせでした…」
     おいら達の背中で、タロスの低いバスの声がした。会話が切れてバツが悪かったんで、三人ともタロスの声にホッとした。
    「お疲れさん」
     振り返った瞬間、おいら達三人は目を剥いた。
    「!!!」
     タロスは顔中、真っ赤な口紅のあとでいっぱいだった。頬やおでこや鼻先まで、ブチュブチュと大きなキスマークの嵐。
    「すげぇ…」
    「うわぁぁ!」
    「そ、その口紅の色って…。フランキーの…」
     アルフィンの言うとおり、キスマークの色はフランキーの口紅の色と同じだった。
    「さっき出入国のゲートで、ばったり会ったフランキーに襲われちまった・・・」
     搾り出すような声でタロスが言った。これにはさすがのおいらも、同情を禁じえなかった。
    合掌。

                                        END

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