| 携帯が鳴った。 それを取ったリッキーは、大きく息を吐いた。 「兄貴ぃぃ・・・・」 情けない声を出してる。二面性がある年頃なのかしら。子供っぽいときと、ちょっと大人びたときがある。それが、なんか不思議。 「遅れるなんて許さないからな。オイラじゃ、ガードしきれないよ。」 電話の向こうでジョウが何を言ってるか、あたしには分からない。 ガードって何よ。どういう意味? あたしは肩に降りかかった髪を振り払った。 不満そうな顔をしてたんだと思う。リッキーは、ちらりとあたしを見て、ぼそぼそと小声で話し始めた。 何を言ってるか、良くわかんない。 「!」 3つほど向こうのテーブルにいた男の人と目が合った。 さわやかな笑顔を作って、片目をつぶってきた。 なんなの、いったい? あたしは、思いっきりそれを無視した。
「ちぇっ・・」 ふてくされたようなリッキー。通話が終わったみたい。 「ジョウ、何だって?」 「別にぃ・・・打ち合わせ場所変更だって。早く来いとか言ってる・・・」 低く呟くように言って、リッキーは席を立った。 その姿をあたしは見上げる。 いつの間にか、見上げるようになった瞳。 「・・?・・なんだよ?・・何かついてる?」 慌ててリッキーは、口元を押さえた。たぶん、アイスが口の周りについてるのかと思ったのね。 こういうとこって、ちょっとかわいいって思う。 「ううん。そうじゃないってば。」 正直には言いたくない。そうあたしは思った。 それに、男の人ってかわいいって言われるの嫌がるじゃない? 姉弟って、こういう感じなのかしら。 あたしはもちろん、リッキーもジョウも兄弟っていないし。タロスの家族のことは知らないし。 でも、“きょうだい”って、一言で言っちゃうと、それもしっくりこない。 なんなのかしらね。 クスクス笑ったあたしを、リッキーは不思議そうに見てた。
「じゃ、行きましょ!」 あたしは、立ち上がってリッキーの腕に自分の腕を絡ませた。 「わ、わぁっっ!!」 この反応は予想してたの。リッキーは慌てて、腕を振りほどいて仰け反った。 「な、な、な、何すんだよぉぉ!」 その顔は、ほんと真っ赤になってる。ほんと、素直だわ。 「んー。たまには、いいかなって。」 「よかないよっ!!」 即答だった。 おもしろーい。 あたしの楽しそうな顔を見て、リッキーは気づいたみたいだった。 「・・・ねぇ、アルフィン・・」 「なぁに?」 「からかってるだろ?オイラのこと。」 「あ・・分かった?」 「う゛―。 もう、仕事のときだって、兄貴と喧嘩したときだって、助けてやんないからな!」 「!!」 やば。 ちょっとやりすぎたかしら。 前者はともかく、後者は非常に困っちゃう。 リッキーは大またでずんずん歩き出した。 「あん!待ってよぉ!悪かったてば―!」 あたしは慌てて、その後を追った。 いつの間にか大きくなった背中。 いつまでこうやってじゃれ合っていられるんだろう。あたしは、ふとそんなことを思った。
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