| 「なぁ、タロスぅ」 「なんだ」
うつぶせになったまま寝たふりをしていたタロスは顔を上げずに返事した。 動けないのは俺らも同じだ。 パラソルの下、全身真っ黒に日焼けしてビーチに転がっていると、ウトウトと起きているんだか寝てるんだかわからないままあっという間に時間が経っていく。 さっきアルフィンがやってきて兄貴を叩き起こした、その騒動のせいで俺らたちはちょいと目を覚ましてるだけだ。 ビーチは死人になるためにある。と、思う。最高の休暇のすごし方。 しかしそう俺らに教えてくれた張本人の、やたら楽しそうな笑い声が遠くから聞こえる。
「兄貴の好みってさ、アルフィンみたいなタイプだったのかな」 「なんだ、そりゃあ」 「だからさ、俺らは前から兄貴は年上の落ち着いた知的美人が好きなんだと思ってたんだよ」 「ああ」 「だからさ、なんであそこまで兄貴がさぁ。いや、アルフィンが悪いってんじゃないぜ。ずいぶんタイプ違うなと思ってさ」
今もだけど、兄貴は前からよくもてた。 仕事で女の人がからむと十中八九彼女達は兄貴に夢中になっていった。 でも、まぁ兄貴もどんなにせまられたからって、クライアントに手を出すことはなかったと思うんだよね。 仕事第一だから、そこんとこは。
けどさ、こういう休暇の時。所謂逆ナンってやつをされることがあるわけで。 押し切られて一緒に飲むことなんかがある。いや、あった。 兄貴が真っ赤になって断ると「じゃ、そっちの坊やも一緒に」ってことで俺らが引っ張り出されるのがパターンで、何度かお供したことがある。 別に兄貴だって女嫌いってわけじゃない。 勿論俺らもお姉さま方について行くのはやぶさかでなかったし。
そんな時オレンジジュースを啜りながらひそかに観察した結果、兄貴は同じ年くらいの女の子なんかよりも『年上知的美人』に弱いという調査結果が出たのだ(当社比)。 なんだかいい雰囲気になったりもしたそういう人たちとその後どうなったかってのは、まぁ正直よくわからない。 何かあったのかもしれないし、やっぱり・・・まぁ・・・なかっただろな。
「だからそういうことなんだろ?」 俺らがぼんやりそんなことを考えていたら、タロスがいやに真面目な声で言った。うつ伏したままだから表情はわからない。 「ええ?」 「簡単じゃねえか。好みのタイプとか、そういうことじゃなくてアルフィンがいいんだろ」 「ふーん・・・そうか・・・」 「まぁお前には一生わからんだろうけどな」 「うるせぇやい!俺らの青春はこれからだよ!」
遠くから二人の歓声が風にのって流れてくる。
「無邪気なんだねぇ、あの二人は」 タロスが言った。 「無邪気なんですよ、あの二人は」 俺らも返した。
しっかし、今まで兄貴を無邪気だなんて思ったことなかったなぁ。 そう思うとちょっとおかしい。 アルフィンもなんだかんだ言って男ってもんがわかってるのか疑問だし・・・無邪気な二人に当分進展はなさそうだ。
頑張れ、兄貴 もたもたしてっと俺らが先に男になるぜ
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