| 夢の中のような月明かりの中で、息を詰めながら眠るアルフィンの顔を盗み見る。頭の中には、君の拗ねたように怒った顔、照れたように笑っている顔、途方にくれて困っている顔など、いくつもの眩しい表情が浮かんでは消える。 そして、背すじをピンと伸ばし凛とした空気を纏いながら前を真っ直ぐ見つめる瞳は、どこまでも碧く清らかで、しなやかで力強い君の心そのものだ。恐らくそれは、元王女なんて出自とは無関係の君自身が備え持った自由の翼。どこまでも大きくて、そしてどこまでも澄み渡る永遠の青空。 例えば、俺がもう少しうまく立ち回れていたり、うまい言葉を伝えられていたら、この状況は変わっていたのか、とか。もっと違う関係になった二人が、当の昔にいたのかもしれないとか、たまに思うけれど。それでも。 まだ男として未完成の俺が、この人生に君を巻き込むわけにはいかないと、君の寝顔を見ながら痛烈に思う。俺の身勝手な心の軋みを君に晒すわけにはいかない。俺が超えるべき壁は俺のもので、君に一緒に越えてもらうものじゃないはずだ。 俺と出会ったために、間違いなく平和ではなくなってしまった君の人生。そして俺を好きだと言いながら、実は何も求めてこない君の愛情。 今の俺では、それに似合う何かを君に渡すことはきっとできないと思うから。
晩夏の夜の風に吹かれて、ソファに散らばる黄金の長い髪、銀色の月明かりの美しいコントラストに意識を奪われつつ、俺は滑らかで細い君の髪をそっと撫でる。 体の奥底で狂おしく自分を急き立てるなにかをどうにか宥めて息を吐いた。
それでもいつか。 いつかきっと。 この溢れそうな想いを君に伝える。 きっと、この腕で君の体を抱きしめる。 いつか必ず、この世界と君を自分の力で手に入れる。
だから、もう暫くだけ。 「…ごめんな」 君の気持ちに応えないことを許してくれ。
狂おしいほどに溢れそうな想いをどうにかこうにか抑え込み、黒髪の獅子は今日も一人。
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