| 子供の頃から何でも一人でカタをつける性質(タチ)だった。 スクールの勉強、同級生との喧嘩、親父に纏わるあれやこれや、仕事に関わるもろもろのこと。 別に好んで抱え込もうとした訳じゃない。 気がつけば母親はもういなかったし、生きている父親なんざそれ以上。 仕方ないというか、周りがそういう状態だったモンだからこれは「不可抗力」ってヤツなのだ多分。
なのに、それを責め立てられている今の状況は言ってみれば「理不尽」という一言に尽きるのではないか。 ジョウは、熱に浮かされながら少しばかり温くなってしまった額のタオルを、疲れた腕で身体を支えつつ洗面器に戻す。そして、目の前で小さな椅子に腰掛けながら船を漕ぐ彼女を起こさぬよう、そろそろとベッドにもぐりこもうとして、気配を察知して目覚めた彼女と目が合って顔を歪めた。 ヤバイ、と思ったが、残念ながら時は既に遅い。 みるみるうちに怒りで一杯になった青い瞳がこちらをねめつけた。
「…ジョォオオオオオオ!!」 「いや。ごめん。その、なんだ、よく眠ってたか ら、」 「なんかして欲しいことがあったら、ちゃんとあたしに言って、って言ったでしょ??」 「いや、でも、気持ちよさそうに寝てたから、」 起こしちゃ気の毒だと思ってさ、とジョウは言いかけたがそれは言葉にはならず。 いきなり胸倉をつかまれたかと思った途端、右の頬に軽いパンチ。 目の前を星が瞬く。 と、次の瞬間には腕を捻りあげられ背後に回りこまれヘッドロックにくる。
…ちょっ、 オイコラちょっと待てコレはいったい何の真似だ。 新手のギャグかなにかか。
頭の中でバカな突込みをしつつアルフィンの攻撃をかわそうとするも、哀しいかな39℃の高熱ではそれも無理というものだった。空しく宙を切るその両手はアルフィンに叩き落され、ジョウはなんなく首をとられた。
「どぉ?しっかり入ってるでしょ。こっから抜けられるかしらね?ジョウ?」 なんってったってチームリーダー直伝だもんね、とその細腕でぎりぎりと容赦なく首を締め上げつつ悠然と微笑むアルフィンに(見なくても分かる。絶対ほくそえんでいるはずだ、この声は)、ジョウは息も絶え絶えになりながら目の前の白い壁に向かってギブギブ、と掠れた声で呟いた。 アルフィンの右腕が熱で乾ききった喉に当たって気管を締め上げる。 ゴホ、と咳をしながら 「ぉぃ…。いいかげん、に、しろ、よ…。ア、ルフィ、ン」 と、やっとのことで声を絞り出した。 「はいー?」 「…手、を、」 「手をー?」 「は、なせ…!」 「離してください、でしょ」 勝ち誇った声が頭の上から落ちてくる。 バカヤロウふざけんな と思いつつ、振り絞るように 「…は、なして、くださぃ…」 とジョウはどうにかこうにか言葉を乗せた。
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