| 残された部屋は、急にシンと静かになった。 小さなツリーの灯りが、ふわふわと、交わした愛情と言葉の残像を写しているようだった。
いいのよ、ジョウ。 時間が無くても、休暇中でなくても、高級ホテルの部屋でなくても、 そんな時でもあなたが堪えきれずにミネルバの中であたしを抱いたってことが、 あたしにとってどんなに嬉しいことか、 幸せな事か、 あなたに分かる?
アルフィンは、幸せが逃げていかないように、両手で自分を抱きしめた。 そして、寝乱れたベッドの上でしばらくジョウの残り香を辿ってから、ゆっくりと身を起こした。 ジョウと同じく、シャワーも浴びずにそのまま床に落ちた服を着た。髪を直す。部屋の中に立つ。
ドアの前で、振り返って部屋を見渡した。 暗い部屋、小さなツリーの灯りが寝乱れたベッドと、輝くピアス、床のジョウのジーンズとダウンを照らす。
アルフィンは、首のネックレスを外した。 戻ってツリーに近づく。そして、そのツリーに、そっとネックレスをかけた。 ベッドの上のピアスを、一つずつ、ツリーに飾る。 見渡すと、光はダイヤモンドを通してきらきらと、愛し合った部屋中に反射した。
数時間前の出来事が、体中に蘇ってくる。 うっとりと、目を閉じる。「ちょっと出ないか」と言ったジョウの目から、ジョウの唇、ジョウの腕、ジョウの背中、ジョウの声。すべてを、何度でも、思い出してここにこうやってまどろんでいたい。 ピアス、ネックレス。 いつか、ここにないものが、あたしの指を飾る日が来る。 ジョウもそれを想っていると、今は確信できる。その日が来た時、あたしはきっと、あのジョウの目と、今日この日の、この輝きを思い出す。
だから。
メリークリスマス。
アルフィンは心の中で呟くと、背筋を伸ばして、ジョウの部屋を出た。
この先もずっと一緒にいるために、 万に一つの油断もミスも許されない。 あたしを愛したことを、決して後悔させないために。あなたを苦しめないために。
ともすれば、この6時間の出来事を追想していたがる自分を、 甘く身体の奥で疼く、消えない傷が叱咤する。 自室でクラッシュジャケットに着替え、カチリ、とベルトを締めた。
力強いヒールの足音とともに、金髪がなびいてブリッジへと、ドアの向こうに消えた。
誰もいないジョウの部屋では、 ツリーの灯りが乱れたベッドを照らす。 飾られたダイヤモンドが、揺らめく光で、 ひっそりと、奏でている。
永遠を。
Happy Lovers’ Christmas
FIN
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