| 銀河標準時間で1400時間が経過した。 <ミネルバ>は、第十七惑星メランコリでの護衛任務を終え、とっくにおおいぬ座宙域を去っていた。ワープ飛行を続け、次の仕事先まで3分の1の距離を残したポイントで停泊する。時間調整のためだ。 丁度その頃、アルフィンからレター映像が届いていた。ブリッジのメインスクリーンいっぱいに、腕白に磨きがかかったジルの姿と、アルフィンの姿が投じられていた。 この時期の子供の成長は早い。毎日が変化の連続。その意味がありありと伝わってくる。 「ジルがいると、アルフィンも退屈しなさそうね」 空間表示立体スクリーンのボックスシートから、ミミーが微笑みながら言った。 「仕事の疲れも吹っ飛びますな」 タロスも満足げだ。年齢的にいえば、これくらいの孫がいてもおかしくはない。すでにタロスにとってジルは、もうそういう存在に近い。 ジョウも優しい眼差しでスクリーンの映像に見入っていた。 「あら?」 ジョウの背後でミミーが呟く。 「どうした」 「追伸があるみたい。メッセージだったら映像で送れるのにね」 コンソールのキーを叩くと、メインスクリーンがブラックアウトする。文字がタイピングされた。 短い。 しかし衝撃のメッセージだった。 「うっ?」 「おおっ!」 「ほえっ!」 「まあ!」 4人それぞれの感嘆が一斉に上がった。 「こりゃすげえや!」 タロスがぱちんと指を鳴らす。 「兄貴って分かりやすいなあ……」 ジョウの顔面が沸騰したように赤くなる。 「ミミー! 映像を消せ」 ジョウが狼狽えながら怒鳴った。 「やだあ照れちゃって。……うちのリーダーったら可愛いんだから」 「ちぇっ!」 ジョウは居たたまれなくなり、副操縦席から立ち上がった。 「どこへいくんでさあ」 「放っとけ!」 ぴりぴりしたオーラを露わにしながら、ブリッジを出ていった。ドアが閉じると、残された3人は肩をそびやかす。実に嬉しそうな顔で。 ジョウは、足音を必要以上にたてながら一路キッチンへ出向く。そして気持ちを落ち着かせるためにコーヒーを煎れる。しかし手が震えて、粉は飛び散り、熱湯を自分の足にかけてしまう始末だった。 「私ガ煎レ直シマショウカ。キャハハ」 キャタピラの音が近づく。 見かねたドンゴがジョウの元にやってきたのだ。 「俺に構うな!」 「キャハ? じょうノ心拍数ニ異常」 「やかましい!」 ドンゴのボディを蹴った。案の定、痛みを負ったのはジョウだけだった。あまりの剣幕に、ドンゴは過去のデータから、退散、という最善の答えを弾き出した。 キッチンに一人残されたジョウは、ゆっくりと息を吐く。そして熱いコーヒーをすすった。強い苦みが、血の上った頭を少しずつ冴えさせていった。 カップから半分ほどコーヒーが減った頃。 ようやくジョウの胸にひしひしと喜びが広がった。抑えても、抑えても、口元から笑みがこぼれてしまう。 「……そっか」 小さく呟いた。 追伸で送られてきたメッセージが、鮮やかに脳裏に映し出される。 “ジョウ、二人目ができたわ” その文字から、アルフィンの輝く笑顔までもが浮かんでくるようだった。
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