| まるで嫌いな虫でも見るようなすごい形相でこちらを睨みつけたり、真っ赤な顔をして泣きそうになりながら喚き散らしたり、休む間もなくキーキーキーキー怒鳴り散らしたりと、よくもまあ、顎が疲れないもんだと呆れるよ。 ついさっきまでは、どこへ行っても騒がしい君が俺を追いかけては噛み付いてきて、どうにかして一人にならねばと逃げてはみるが、今度はふとしたきっかけで、君は唐突にその気配を消しちまう。ほんとうに唐突すぎて俺は完全に途方に暮れる。
………オタオタしている俺の姿はそんなに楽しいか?
いないと分かっているのに、あっちにもこっちにも君の金髪がチラついて、おちおち昼寝も出来やしない。キッチンの片隅、ジムの入り口、ホテルのロビー、クローゼットの扉の前、いもしない君の姿を錯覚するのはもう正直うんざりだ。 どうせ今頃は、いつものようにどっか高いところを見つけて暢気に空でも見てるんだぜ。どうせ俺が探しに行ってみれば、それを見越して「タイムを計ってたの」とかふざけたことを言うんだよ。 毎度毎度、腑に落ちないことだらけでこっちもこっちで謝る気なんかサラサラないが、こんな調子でイライラしたまま少ない休みを過ごすってのも真っ平ゴメンだ。
「………ちょっと散歩でもしてくる」 パーカーをひょいと肩に乗せて、サンダルの端を足に引っ掛ける。 「あれ?もうすぐ夕メシですぜ」 「ああ。でもそれまで何もすることないし、風も出てきて気持ち良さそうだから、ちょいとその辺を流してくる」 「…。そうですかい。どうぞごゆっくり」
扉の向こうで何か含んだようなタロスの声を聞きながら、「遅い!」とぷりぷり怒る君の顔を思い浮かべて、知らないうちにダッシュしていた夏の夕暮れ。
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