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■1771 / inTopicNo.1)  ブロークンハート
  
□投稿者/ とむ -(2009/04/27(Mon) 22:22:51)
    …もう、何を喚き散らしていたのかも覚えていない。

    だって、どうやってここにたどり着いたのかさえ分からないのだ。
    ただどうすることも出来なくて、どうにも引っ込みがつかなくて、ふと気づいたら涙が出ていた。部屋に満ちていく自分の嗚咽が、まるで別世界のことのようだった。
    今、あたしの中にある沈黙は、静かすぎて胸にとても痛かった。

    その一方で、傍らから漂ってくる空気は優しく、暖かくあたしを包んでいた。
    静かに優しくあたしを包む(くるむ)。
    これ以上、その優しさに触れてしまったら、枷が外れたように一気に涙が吹き出してくる気がして、あたしはわざとそちらを見ないようにしていた。


    どうか、ほっといて。
    今はあたしに構わないで。
    どっかにいっちゃって。


    でも、そう言いたいのに声が言葉にならない。

    「ルー」

    不意に、ベッドに座っていてこちらを見ていた姉が、そっとこちらを覗きこんできた。そのまま様子を伺うようにして傍らに座り、頬に触れる。

    ありえない。
    ありえないほどの優しい仕草だ。
    「あんたはよくやったよ」
    そのまま、あたしの頭をいい子いい子する。
    「まぁ、相手が悪かったというか、タイミングも悪かったというか。あのアホが後悔する日も、そう遠くないと思うけどね」
    坦々と言葉を紡いで、そっとあたしの肩を叩く。
    「…アホ?」
    「アホだろう。ルーの良さが分からないなんて、その辺の蟻以下だね」
    「…蟻」
    「だから、あんたらしくもなく普通の女と同じようにメソメソ泣くのは、今日一日で終わりにしな」
    「………」
    「地獄の三姉妹の一人とあろうものが、あんなアホな童貞に泣かされるなんて世も末だよ」
    相変わらず、優しい素振りでいい子いい子しながら男前の姉は呟く。


    こういうのはいけない。
    こういうのはとんでもない反則だ。
    こんなありえない仕草をされたら、泣きたくても泣けないではないか。びっくりして。


    「まあ、次の仕事で一緒になった時に容赦なく踏み潰してやるから、あんたも気合を入れるんだよ」
    「……ホントに?」
    「なに?」
    「ほんとに後悔するかな?」
    「は?」
    「ジョウはあたしを振ったことを後悔するかしら」
    「え。…、うん、まぁ。するかもしれない、ね」
    「すると思う?おーねえちゃん」
    「うー、ん。まぁ、うん、そーだね」
    「ホントに?」
    「うん、まー。なんだ。…多分、するんじゃない?かな?」


    ついうっかり見つめ返してしまった姉の顔が、目の前にばっちりとアップになった。その目は泳ぎ、とてもらしくなく動揺の波を湛えている。



    ………ダメだこりゃ。



    言葉にならなかった上に、もう表情を作る気力もなくなったので、あたしはまた俯いて枕に顔を埋めた。
    そして、この失恋の痛みに完全にこの身を晒すべく、ティッシュボックスをサイドボードから引き寄せて、今度こそ思いっきりワンワンと泣いた。

引用投稿 削除キー/
■1772 / inTopicNo.2)  Re[1]: ブロークンハート
□投稿者/ とむ -(2009/04/27(Mon) 22:25:21)
    おーねえちゃんの「フォローのつもりがフォローにならない」不器用さが好き。






                                                                                  「ブロークンハート」
fin.
引用投稿 削除キー/



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