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■1815 / inTopicNo.1)  腹を括ってやるしかねぇ(二篇)
  
□投稿者/ plum koufuu -(2009/06/15(Mon) 17:10:35)
http://shimateresa.blog.shinobi.jp/
    ■VS ジョウ■

    「・・・・・・恨むぜ、タロス」

    吐息交じりに紡ぎだした言葉の端々に潜む、諦観の念。
    他人が聞けば、不満がありありと滲んでいる筈の言葉にしか聞こえないのだが・・・・・・
    恨み言を一方的に吐露された当の本人は、その言葉を吐き出した人物が照れ隠しをする為に、わざと精一杯の強がりを放っているだけだと、既に見切っていた。

    タロスの胸の奥で、僅かに歪んだ心の羅針盤。

    きっとそれは、まだわずか10歳の子どもでしかなかったジョウを、敬愛するダンの要請で大人と同等の世界へと導き、招き入れなければならなかった背景があるにしても・・・・・・
    割り切れない想いが未だに胸の奥に蔓延っているのは、タロスがミネルバにいる最大の理由に他ならなかった。

    年を重ねても、常に変わらない精神(ココロ)の持ち主だからこそ・・・・・・

    ダンもそれを見越して、息子から反発を食らうとは百も承知で、タロスという人間をョウの補佐役として任命したのであった。

    「アルフィンの密航に関して、クラッシャーという仕事を知り尽くしてるお前が絶対反対してくれるはずだと、俺は踏んでたのに・・・・・・・逆に試験採用を提案しちまうなんて、正直ありえねぇ;;;」

    言いながら髪をグシャグシャに掻き毟るジョウの表情には、微かだがほんの少し赤みが差したように見受けられた。

    世間一般の人間関係から、ある種断絶されたような日常を送るクラッシャーにとって、妙齢の女性がまさに今、この瞬間から寝食を共にするという在り得ない事態は、
    言い方は悪いが降って湧いたような災難に見舞われたとしか言いようがなかった。
    第一今まで学校を除けば、ほとんど女性と接する機会が皆無に近かったジョウに至っては、アルフィンが密航し、今後一緒にクラッシャーとして生活していくという事実は、
    それこそ驚天動地の心境そのものと言えた。

    今までの人生の中で、物心ついた時から女性と一緒に居る時間が極端に少なかったという言い逃れは出来ても、こうなってしまった以上、腹を括らねばならぬ覚悟に対して、
    まだジョウは躊躇しているように思えた。


    逃げるのは簡単だった。


    ・・・・・・だが逃げるより前に、ジョウの心の中に引っ掛かっている物の気配を、薄々感じ取ってしまったからには、逃げ出すことなど到底無理だった。

    失ってはじめて、その存在の大きさに気付かされる苦しみが、どれほどまでに辛いことなのか・・・

    自分とダンには、その痛みが分かり過ぎるほど分かっていたから・・・
    ジョウにはその苦しみを味あわせたくない。

    エゴと言われればそれまでなのかもしれないが、ジョウの心の内に無意識に芽生え始めた気持ちに僅かながらも気付いてしまった以上、己の取るべき道は自ずと一つに決まっていた。
    たとえジョウ自身が、その気持ちに今現在、一切気付いていなくとも。


    アルフィンの密航が露見した瞬間、タロスの腹は決まった。


    ・・・ジョウがどんな屁理屈で応戦しようとしても、やらねばなるまい。
    たとえ恨まれ、暴言を吐かれようとも・・・ジョウの無意識の想いを無下に出来ない。出来る筈がない。

    「大変なのは最初だけですぜ。慣れりゃ、どうってことなくなりますよ」

    ジョウからの反論を予期して、これ以上ない突き放した言い方で封殺したタロスは右の口の端を上げつつ、目を細める。
    目尻に刻み込まれた皺から、柔和な想いが滲む。

    「チッ!・・・・・・お前からそう言われりゃ、俺がスゴスゴと引き下がる事しか出来ないの分かってて、わざとそう言ってンだろ!?オヤジといい、お前といい、俺の性格を知り尽くしてる奴は、ろくでもない連中ばかりだぜ、全く」

    毒づくジョウの声が徐々にトーンダウンしていく。
    自分相手に観念したと見受けられるジョウが、半ば諦めにも似た気持ちで少しずつ事態を前向きに捉え始めたと分かって、タロスはジョウに悟られぬようホッと胸を撫で下ろした。

    アルフィンの密航という突然の事態で、混迷しかけたジョウの意識が、前向きに一歩前進した手応えを肌で感じつつ、タロスは操縦桿を握る手に力を込めた。

    「これから色々と忙しくなりますぜ。頼ンますよ、ジョウ!」

    タロスの口調から滲む、自分へのさりげないエールに感謝しつつ、ジョウはわざと大声で反応するのだった。

    「ピザンで足止め喰らった分、これから取り戻すぞ、タロス!」
引用投稿 削除キー/
■1816 / inTopicNo.2)  腹を括ってやるしかねぇ(VSジョウ、アルフィン)
□投稿者/ plum koufuu -(2009/06/15(Mon) 17:14:53)
http://shimateresa.blog.shinobi.jp/
    ■VS アルフィン■

    「タロス、ありがと・・・・・・」

    背後から聞こえる、か細い声がタロスの耳を擽る。
    ジョウとリッキーが夕食を取りにコックピットを去った瞬間を見計らって届いた声は、心なしか震えているように思えた。

    タロスは弱弱しく響く声を、そのどっしりとした背中で受け止めながら、操縦桿を握る手を少し弱めた。
    操縦をオートコントロールにして、声の主と向き合いながら話を聞く事も出来たのだが長年の勘が、そうする事を制した。


    面と向かって話しづらい事があるんだな・・・・・・


    アルフィンの緊張した姿を背後から感じ取ったタロスは、そのままの姿勢を崩さずにいた。
    黙ったままでいる事が即ち、アルフィンの話を聞き入れる体勢が整っている何よりの仕草であると、タロスは彼女に無言の檄を飛ばす。
    どんな話でも受け容れようとする、タロスなりの覚悟を宿した背中が、アルフィンの目に映る。
    彼らしいぶっきらぼうな優しさに触れて、アルフィンは小さく溜息を零す。
    それは投げやりな気持ちから発せられたものではなく、自分自身の気持ちにケジメをつける為の、決意の表れでもあった。

    「アタシね、密航してクラッシャーになる事を一番反対するのは、タロス、貴方だと想ってた。ジョウが反対するのは当然だと想ってたけど、
    クラッシャーの世界を一番よく分かってる貴方が、一番強硬に反対すると想ってた」

    「・・・・・・」

    背中越しに伝わる気配で、アルフィンが相当動揺しつつも言葉を紡いでいるのが分かる。
    このまま言うに任せれば、アルフィンをかなり追い詰めてしまう危険性も承知していたが、敢えてそれを無視する事にした。
    ここがアルフィンがクラッシャーになれるか、そうではないかの正念場だという認識が、タロスの脳裏を過ぎる。
    助け舟を出すのは簡単だったが、そうする事で彼女の可能性を失ってしまう事を恐れ、彼女の言うがままに任せる。

    「貴方が試験採用にしようと提案してくれた時、正直・・・・・・信じられなかった。だけど、その反面凄く嬉しかった。・・・・・・本当に嬉しかったの」

    ところどころ言葉が詰まりながらも、嘘偽りない気持ちを吐露しているアルフィンの声が震える。
    まだ動揺から脱しきれないまま、言葉を紡ぐアルフィンの心中は未だ不安で塗り固められていると、タロスは察した。
    スカウトという、望まれた形でのクラッシャー登用ではなく、
    密航で押し切ったという、反則的な経緯がアルフィンの不安を更に増長していることも。

    ただアルフィンが生半可な気持ちでクラッシャーになったのではないと、薄々は察してはいるが、そういう経緯での登用が、逆に彼女の逃げ道になってしまいかねない懸念を同時に覚えた。


    ・・・・・・少し荒療治でいくしかねぇな・・・・・


    腹を決めたタロスは、一瞬だけ瞼を閉じると、操縦桿を握る手に少し力を込めつつ
    言葉を放った。


    「嬉しがっているところ、申し訳ねぇが・・・・・・クラッシャーになれたという事は、逆にいつ何時、クラッシャーの資格を剥奪されてもおかしくねぇって事だ。・・・・・・俺の言っている意味が分かるな?」


    本心とは裏腹な気持ちを言葉に載せるのは、心が荒む。
    しかし、ここで甘い顔をしていれば、いつか必ず取り返しがつかない事になる。
    早い段階で自分の限界を知ってクラッシャーを諦めてくれるのであれば、傷は浅くて済む。
    一時の感情でクラッシャーに憧れ、運よくクラッシャーになれたとしても、
    想像以上に過酷で辛らつな日々が、すぐに待ち構えている。
    それに打ち勝つ精神と肉体を持ち合わせない限り、
    クラッシャー失格の烙印は常に付き纏い、脱落者は容赦なく切り捨てられる。
    クラッシャーの世界に入った以上、それは避けて通れない運命(さだめ)なのだ。


    ・・・・・・やはり・・・・・・無理か?


    沈黙したままの世界を切り崩す声が、突如タロスの背中に突き刺さる。


    「クラッシャーとしての能力はゼロに等しいって、一番よく分かってるのはアタシ自身よ!クラッシャーとして、たぶん一番ふさわしくない経歴のアタシが、どれだけ頑張ってクラッシャーをやり続けられるか、見ていてちょうだい!いつか必ず、クラッシャージョウチームに、なくてはならない存在って思われる様に、アタシ頑張るンだからっ」


    さっきまでの動揺がまるで嘘のように、一転して快活な声がコックピット内に反響する。
    決意に裏づけされた言葉の端々に漂う、負けん気の強さと強かな心情。
    『逆境を跳ね返す、強い意志と前向きな心意気はクラッシャーに打ってつけだ』と、以前ダンが零した言葉がふと胸の奥に蘇る。
    そしてこの切り返しの早さは、ジョウにそっくりだと気付いて、思わず噴出しそうになるのを必死に堪えるタロスだった。


    「威勢がいいのは分かるが、初っ端からハリキリ過ぎると痛い目に遭うって事だけ忠告しておくぜ、お嬢さん!」


    言葉を投げたと同時に振り向いた瞬間、キラキラ眩しい眸がタロスの視線を受け止めた。


    「憧れのクラッシャーになったんですもの!ちょっとやそっとじゃ逃げ出したりなんかしないわよっ!」


    澄んだ瞳の奥に宿る、計り知れない希望の欠片は、今まさに飛び立つ瞬間を迎えていた。

    ひとりのクラッシャーがいま、まさに誕生した瞬間を目に焼き付けながら、
    タロスは思うのだった。


    ガンビーノ・・・・・・。
    あんたの後釜は、どうやら本決まりになったらしいぜ!


    フッと笑みを零すタロスの目尻に、暖かな想いが滲んだ皺がまた一つ刻み込まれた。

fin.
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■1817 / inTopicNo.3)  NO TITLE
□投稿者/ 光風ぷらむ -(2009/06/15(Mon) 17:20:56)
http://shimateresa.blog.shinobi.jp/
    お世話になっております。光風ぷらむです。

    アルフィン密航発覚時のジョウ、アルフィンの二人に対する
    タロス氏の想いを綴ってみました。

    今後もよろしくお願い致します。
fin.
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