| ポーン インターホンの呼出音が鳴った。 「回診の時間です」 絶妙のタイミングでジョウに助けが入った。 「じゃ、俺はそろそろ行くとするか」 「えー、もう帰っちゃうの?」 案の定アルフィンが不満を口にした。 「急に長い時間人に会うと疲れるだろう?せっかくここまで元気になったのに、それじゃ退院が延びちまう」 「はーい」 ぷくっと頬を膨らませながらもアルフィンは了承した。アルフィンにとって退院が延びるということだけは絶対に避けたい事だった。 ドアがスライドしケペルとナースが入って来た。 「じゃあな、また明日」 アルフィンに短く言い、ジョウは立ちあがった。 「なるべく早くきてね」 アルフィンが小さい声で催促した。ジョウはアルフィンの頭の上に手を置き、子供にするようにぽんぽんと軽くたたいた。 ケペルに軽く会釈をしてジョウはドアに向かった。 ドアの手前で1度を振り返ると、アルフィンが小さく手を振っていた。 ジョウは親指を立ててそれに答えた。 ―お転婆で我侭で気が強くて ジョウの脳裏に王妃の言葉が浮かんだ。 「おまけに言い出したらきかない、か」 ジョウは一人ごちた。 ―だけど、そこがまた可愛い・・・んだろうな
病室をでると廊下のスツールにタロスとリッキーが座っていた。 二人とも口の端が僅かに上がり、目じりがだらしなく緩んでいる。ジョウの赤い顔をみてなにごとか想像しているようだった。 目が合った。 ジョウは気恥ずかしさから思わず目をそらしてしまった。なんとなくばつが悪い。 だがそこでふとジョウは自分が怒っていたことを思い出した。 急激に体温が下がり、顔色が平常のそれへ戻る。 目が据わり、スッと細くなった。 「さっきはずいぶんとシャレたマネをしてくれたじゃねぇか」 ゆっくりと視線を二人に戻し、上から冷たく言い放った。 へらへらと笑っていた二人の顔から一瞬で笑みが消え、冷え固まった。 「ヤベェ、本気だぜ」 「ちょっと調子に乗りすぎた、かな・・・」 「そのようだ」 「なにごちゃごちゃ言ってる」 パン、と右の拳を左の掌にジョウは打ちつけた。ジョウが戦闘態勢に入った。 「なぁ、タロス。こーゆーときは」 「逃げるが勝ちだ!ずらかるぞリッキー」 「ほいきた」 二人同時に立ちあがりくるっと背を向け、脱兎のごとく走り出した。 こういうときの二人のコンビネーションは絶妙だ。ジョウは1歩出遅れた。 「おい、待て。コラッ廊下を走るなッ!」 ジョウが叫びながら後を追う。 「そーゆー兄貴だって走ってるじゃないか」 走りながらリッキーが返す。 「うるさい」 3人はどたどたと病院内を走った。遠くの方でナースが怒り叫んでいるのが聞こえたが、無視した。 病院の正面玄関を出たところでジョウはリッキーに飛びかかった。 「こんちくしょう」 下半身めがけてタックルした。リッキーは堪らずバランスを崩し倒れる。だがタダでは転ばない。しっかりタロスの左足を掴んでいた。タロスは二人分の重さで左足を引っ張られた。さすがのタロスもこれには耐えられずもんどりうった。 3人はもつれ合うようにゴロゴロと転んだ。 回転が止まった。誰からともなく笑いが漏れた。大爆笑になる。 周囲の白い目が3人に向けられたが、気にせずに笑った。
「さあ、ミネルバに帰るぞ」 笑いが収まると、ジョウはタロスとリッキーにそう言いさっさと駐車場に向かって歩き始めた。 その後ろ姿を見ながらタロスとリッキーは同じことを考えていた。 ―いつものジョウじゃない 普段ならジョウはあんなおふざけなどしない。リッキーとタロスを諌めることはあっても参加はしない。どこか変だ。二人は顔を見合わせた。 「なんか、あったな」 「なんか、あったよ。絶対」 ニタリ、と二人の顔がまた歪んだ。 だが、もうジョウに絡んだりはしなかった。 「ま、とにかくアルフィンも元気になったし、チームリーダーもご機嫌だし」 「一件落着てぇことだな」
「おい、なにしてる。早くしろ」 先に行くジョウが立ち止まり、タロスとリッキーを振り返り叫んでいた。 「さ、いくぞ」 タロスがリッキーの背中を叩き走り出した。リッキーもあとに続く。 二人は直ぐにジョウに追いつき、そして三人は歩き始めた。 クラッシャージョウチームが本来の姿に戻りつつあった。
<おしまい>
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