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■216 / inTopicNo.1)  どうなってんだ
  
□投稿者/ うーろん -(2002/10/10(Thu) 23:38:55)
http://isweb45.infoseek.co.jp/play/woopeace/
    青天の霹靂だった。
    40年に及ぶ長いクラッシャー生活で、かつてこれほどまでに動揺したことは無かったかもしれない。
    クラッシャータロス、53歳。
    いきなり降って湧いたこの事態に、ベテランクラッシャーの胸中は果てしなく翻弄されていた。



    ミネルバは、現在ドルロイのトルドー・ドックに停泊している。
    クラッシャーの使用する宇宙船は、故障個所が無い場合でも、3年に一回の割合で必ず集中的にメンテナンスを行うことを、アラミスから義務付けられている。クラッシャーにとっておのれの宇宙船は、仕事道具であると同時に家でもある。手入れを怠ることは命取りと言っていい。
    ジョウは、親父の時代から贔屓にしているトルドー・ドックにメンテナンスを依頼し、終了するまでの間を、こまごまとした部品の調達と短い休暇にすることに決めた。
    しかし。
    最近スケジュールが詰まっていたチームにとって、息抜きになる筈だった小さなホリディだったが、なにやら妖しい雲が立ち込めてきていたのである。



    トルドー・ドックの事務所で、エンジニアと打ち合わせをしていたジョウの背後から、突然、よく通るハスキーボイスが響き渡った。
    「あらぁ! ジョウ!! 」
    エンジニアと話し込んでいたジョウが、緩慢な仕草で振り返る。
    ―――― げ。・・・またかよ。
    声の主はずけずけと室内に入ってきて、勝手にジョウの隣にするりと腰を下ろし、輝くばかりのハリウッドスマイルで微笑んだ。長身、ド派手なピンクのクラッシュジャケット、ばっちりとメイクされた顔。
    「また会っちゃったわねぇ。ほんっとに縁があるわね、あたし達って」
    「ったく、どっかの占い師にでも、縁切りの祈祷をしてもらいたいぜ」
    ぶすっとしてジョウが言った。
    「ちょっとぉ、そんな言い方は無いんじゃないの!」
    笑みを浮かべて、ジョウの左脇にぐいぐいと肘鉄をくらわす。
    「ねぇ、酷いと思わない?」
    軽くしなを作りながら正面に座るエンジニアに同意を求めると、彼は少し動揺して答えた。
    「お、お久しぶりです、フランキーさん」
    「うふ。今回も頼むわね」
    『よろしくね』とウインクを飛ばす彼女は、ジョウチームの腐れ縁、銀河系にその名も轟くオカマのクラッシャー・フランキー。クラッシャーご用達のドルロイでも、当然ながら有名人なのである。



    早くもジョウは、今日から始まるせっかくの休日が、どんな展開になっていくのか予想がついて、うんざりとなってしまった。
    ――――ここんとこ忙しかったから、2、3日でもゆっくりできると思ったんだが・・・。
    「はぁ〜」
    らしくないため息がもれる。
    フランキーが突然現われた理由は簡単である。このドックをフランキーもよく利用しているからだ。ドルロイでも指折りのドックであるトルドーは、昔からの得意先を大切にしており、フランキーも長く修理やメンテナンスを依頼している。
    「ミネルバは今日ドック入りしたの?」
    「そうだ」
    「じゃ、2〜3日はここにいるのね」
    「・・・・」
    「あたしも船を持ってきたのよ。後で遊びに行くわ」
    嬉々とするフランキーに、ジョウはへきへきとして頭を抱えこんだ。
    本来なら船がドック入りしている場合は、クルーは下船しなくてはならないが、クラッシャーにとって船が家であることを熟知しているトルドー・ドックでは、最小限の居住区域に関してのみ、滞在を許可している。
    ミネルバに来るなと言っても、フランキーが無理やり押しかけてくるのは明らかだ。諦めて見を低くし、嵐が去るのを待つ方がいいのかも知れない。
    今はとりあえず切り上げて、この場から去るのが得策だ。いつまでもフランキーに構っていられん。
    「それじゃ、船へ」
    ジョウは立ち上がりエンジニアを促した。
    「そ、そうですね」
    ジョウの提案にエンジニアも胸を撫で下ろし、携帯端末を手に立ち上がった。はやくこの状況から逃れたい。このオカマのお客さんは、注文が色々と五月蝿いのだ。
    「フランキーさん、すぐに担当の者を呼びますので」
    「またな、フランキー」
    エンジニアはインターフォンでフランキーの担当を呼び出し、二人はとっとと事務所を後にした。
    「遊びに行くから待っててね〜!」
    二人の背中に、フランキーは蝶のようにひらひらと手を振って見送った。



    ジョウがドックへ打ち合わせに行っている間に、アルフィンとリッキーは、市街でミネルバの備品の買い付けをしていた。クラッシュパックや武器の補充、食料品の調達などだ。タロスは船を引き渡すための最終チェックを、ミネルバに残って行っている。
    一通りの買い付けをし、配達の手続きを終えて、アルフィンとリッキーは、ドックからほど近い宇宙港にエアカーで乗りつけた。大抵のドックは宇宙港に隣接している。
    「足らないものは、もう無いよね」
    忘れ物がないかリッキーは気にかかるらしい。前回買い付けをした折に、購入し忘れた物があって、こっぴどくタロスに怒られたのだ。
    「うん。大丈夫だと思うわ」
    アルフィンは歩きながら、プリントアウトした備品のリストアップを見て、確認した。
    ミネルバに戻って船を業者に引き渡したら、久しぶりのオフだ。たった3日間だが、仕事から解放されて息抜きができる。二人の足取りも心なしか弾んでいた。
    「あ、おいらちょっとトイレ行ってくる」
    ロビーの隅にあるトイレの表示を見て、リッキーは小走りに駆け込んで行った。
    「ここで待ってるわ」
    アルフィンは、近くにあったソファに腰をおろした。


    用を足したあと、リッキーは手を洗いながら、なんとなく備え付けのゴミ箱の中へ目をやった。
    「あれ?」
    リッキーにも見慣れたカードが捨てられている。
    「これは・・・」
    驚いて手にとってみると、やはりクラッシャーのIDカードであった。
    カードには、アラミス本部が認めたクラッシャーであることの証明と、顔写真、名前や生年月日、クラッシャーランクなどの情報が記載されている。
    「クラッシャーロッド。2139年生まれ。クラッシャーランクBか・・・」
    IDカードは紛失すると、再発行までに多少時間がかかる。この男はきっと困っているだろう。このまま放置しておけば、誰かに悪用される恐れもある。
    「届けてやろっと」
    リッキーは、IDカードを空港のポリスボックスへ届けてやることにした。
引用投稿 削除キー/
■444 / inTopicNo.2)  Re[2]: どうなってんだ
□投稿者/ う〜ろん -(2003/02/06(Thu) 22:18:26)
http://woopeace.hp.infoseek.co.jp/
    リッキーが<ミネルバ>の登場ハッチから顔を覗かせて外の様子をうかがうと、クラッシャー・ロッドが右手を挙げ、笑顔で応えた。リッキーの後、ハッチの奥に立っているタロスは、腕を組んでなにやら考え込んでいる。
    「おいら話してくるけど。タロスはどうすんの?」
    「俺はここにいる。お前だけ行ってこい」
    「ふーん」
    わざわざハッチまでやってきて、ロッドに会おうとしないタロスをリッキーは不思議に思ったが、ここでごちゃごちゃ言うと話がややこしくなっていつもの喧嘩が勃発しそうなので、追及しないことにした。とりあえず、訪ねてきたロッドに合うことが先決だ。
    メンテナンス中の<ミネルバ>の周りに組まれている足場をぬけて、リッキーはロッドに近づいた。すらりとして、かなりの長身だ。身長190センチはあるだろう。見上げると、ロッドは、IDカードや<ミネルバ>の船外カメラで見たときよりも、ずっと魅力的な面構えをしていた。クラッシャーというより、俳優かモデルと言ったほうがしっくりくる甘い顔立ち。
    だが、リッキーはすぐに「あること」に感づいた。確かにロッドは俳優なみの男前で、そつなくクラッシュジャケットを着こなしてはいたが、なんとなくぎこちないのだ。クラッシュジャケットは、クラッシャーの作業着であると同時に、命を守る防御服でもある。身につけている人間のスタイル以前に、命がけで仕事をして金を稼ぎ、生活しているクラッシャーは、ジャケット姿が板についているものだ。ジョウやタロスはもちろんのこと、小柄でまだ子供っぽいリッキーや、元王女のアルフィンでさえ、ジャケット姿はさまになり、板にもついている。<ミネルバ>に乗り込んで、数々の仕事をこなしてきた証といってもいい。
    (・・・・こいつはクラッシャーになって、間もない感じだなぁ)
    リッキーは直感した。
    「ちわ。おいらがクラッシャー・リッキーだよ」
    「クラッシャー・ロッドだ。君がIDカードを見つけてくれたリッキーだね」
    二人は握手を交わした。
    「本当にありがとう。エアカーが車上荒らしにやられてしまってね。金や車はどうにかなっても、IDカードがないとしばらくは仕事もできない。感謝する。助かったよ」
    ロッドは笑顔でリッキーを見下ろした。
    「おいらもクラッシャーだから、カードが大事なのはよくわかってるさ。にしても、クラッシャーが車上荒らしに一杯くわされるなんて、ちょっとみっともなくない?」
    初対面だというのに、いきなリッキーはロッドに先制ジャブをくらわせた。こいつがホントに新米クラッシャーかどうか、確かめる為に。
    「・・・・確かに。クラッシャーとしては、ちょっと面目かった」
    ロッドが視線を落として言った。まさに図星といった感じだ。しかも同じクラッシャー仲間に指摘されては、言い訳しようもない。
    「でも良かったよ。悪用させずに捨てられててさ」
    ――――こいつはやっぱし新米だ。リッキーはそう判断した。
    IDカードは高く取引されて、悪用される事が多い。クラッシャーの信用にかかわるようなことになれば、アラミス本部から謹慎処分になる可能性もある。車上荒らしの犯人が、現金だけを抜いてカードを捨てたのもラッキーだったし、それを偶然拾ったのがリッキーだったのは、ロッドにとってかなり幸運だったのだ。
    「ささやかなんだが、カードのお礼だ。受け取って欲しい」
    そう言ってロッドは、抱えていた細長い包みをリッキーに差し出した。紫色のラッピングに金色のリボンがかけられている。
    「そんじゃ遠慮なく。これ、なんだい?」
    「テラ産のワインだ。チームのみんなで飲んでくれ」
    「へぇ」
    リッキーはしげしげと包みを見つめた。テラのワインは品質が高く、人気がある。このワインも上物らしい。
    「ところで君たちのチームの船は、<ミネルバ>っていうそうだが・・・」
    ロッドはかがみこんでリッキーに訪ねた。
    「そうだよ。おいらのチームの船は<ミネルバ>。チームリーダーはクラッシャー・ジョウさ」
    「クラッシャー・ジョウ! やっぱり!」
    大きな瞳をさらに見開いて、ロッドは大きく頷いた。現評議会議長の息子であるジョウのチームとその船<ミネルバ>は、クラッシャーの仲間うちでは有名だ。このパターンのリアクションには慣れっこのリッキーなので、さして照れもせず、誇らしげにロッドを見上げた。
    と。
    「あ゛あぁぁ〜〜っ!!」
    いきなり、さかりのついた猫が叫ぶ、雄たけびのような悲鳴が聞こえてきた。
    何事かとリッキーとロッドが振り返ると、ドックの足場の向こうに大きな紙袋を抱えたフランキーが、呆然として立ちつくしている。ぱくぱくと大口を開け、声を失って先が続かない。マスカラでくまどられた瞳を大袈裟にバチバチと瞬きさせながら、ゆっくりと右手を挙げてロッドを指差した。抱えていた紙袋がどさりと足元に落っこちて、中から野菜や果物がごろごろとあちこちにちらばって転がっていく。
    「・・・あれ? フランキーどうかしたのかい?」
    尋常ではないフランキーの様子を見て、リッキーがけげんそうに声をかけたその時、搭乗ハッチの中で様子をうかがっていたタロスが、脱兎のごとくフランキーに走り寄った。その俊敏な動きは、いつものどっしりとしたタロスとは思えない。フランキーを羽交い絞めにし、グローブのような大きな手で口をふさぐ。タロスに押さえつけられたまま、フランキーは呆然としてロッドを見つめ続けていた。
    「・・・おい、何も喋るなよ」
    フランキーにだけ聞こえる声で、タロスは低く脅しをかけるように囁く。
    「・・・・だ、だって・・・」
    後から抱きかかえられているフランキーは、タロスの逞しい体に「あら素敵v」と体が勝手に反応しつつも、妄想を無理やり頭の隅っこへおいやって、これまたタロスにだけ聞こえる小さな声で言った。
    「あ、あいつ、誰? 何者?」
    「・・・知るか」
    「アンタの若い頃にうりふたつじゃないの!」
    「・・・・」
    タロスはじろりとフランキーを睨みつけた。これ以上喋るなと小さな目が、どす黒く輝いた。
    「なんだよ、タロスもフランキーも。どうかしたのかい?」
    二人の状況が飲み込めないリッキーは、ひょいと肩をすくめた。どうもさっきから、タロスの様子がおかしいし、突然現われたフランキーまで、天地がひっくり返ったような驚きようだ。この男のことを知っているのだろうか。リッキーは、タロスとフランキー、そしてクラッシャー・ロッドを交互に見比べた。すると今度はロッドが愕然として二人を見つめている。
    「・・・・彼がタロスなのかい? クラッシャー・ジョウチームの」
    ロッドはやっとのことで、喉から声を振り絞った。
    「あぁ、あのデッカイのがタロスだよ」
    「そうか・・・」
    つぶやくと、ロッドはタロスとフランキーに向かって、大股で歩き出した。近づいてくるロッドに、タロスとフランキーの目は釘付けになっている。タロスの額には汗がにじみ始めた。
    「・・・こ、これってマジ? こんなそっくりさんって居るの?」
    口をふさがれたまま、もごもごとフランキーがつぶやいた。
    「いいかフランキー、余計なことは絶対に喋るんじゃねぇぞ」
    「わかったから、いいかげんその手をどけてよ」
    大男二人がぶつぶつと内緒話をしていると、すでにロッドが目の前に立っていた。
    「やっぱ、いい男ねぇ」
    思わず漏れたフランキーの熱っぽい感想に、タロスがわき腹にどすりと肘を打ち込んだ。
    「痛ぁい、んもうっ!」
    大袈裟に痛がってみせるフランキーに、タロスは冷たく一瞥をくれる。
    「クラッシャー・ロッドです。あなたがクラッシャータロス?」
    タロスは慌ててロッドに向き直った。
    「そうだが」
    「なんて偶然だろう。あなたにぜひ会いたかったのです」
    ロッドが両手で握手を求めてきたので、しぶしぶながらタロスが右手を差し出すと、力をこめてぎゅっと握り返してくる。そして満面の笑顔でタロスを見上げた。
    (・・・こいつはいったい、どうなってんだ?)
    黒いクラッシュジャケットなんぞ着やがって、確かにこいつは昔の俺にそっくりだ。自分と同じ顔をした人間が何人かは存在するっていうが・・・。
    事故に遭い、サイボーグになる前の自分の姿。20年近く前に、苦い思い出と一緒に封じ込めた。本人でさえ忘れかかっていたのだ。額の汗が、こめかみをつたって流れていく。
    ロッドはやっとタロスの手を離して言った。
    「20年以上前ですが、キャナリーシティにあった『ウェイフ』という店を覚えていますか?」
    「ウェイフ?」
    「ええ。小さなバーで、アニタという女性がやっていました」
    「・・・」
    記憶を探り出そうと、タロスは目を閉じて考え込んだ。キャナリーシティはドルロイ有数の都市。昔から何度も訪れている街である。
    「どんな女だ、アニタって」
    店の印象よりも、バーテンダーやママのほうが記憶に残るものだ。
    「背の高い、黒髪の女性です。酒が強くて・・・、美人でした」
    タロスは必死でメモリーを検索する。
    「アニタか・・・。そういえば昔、そんな知り合いがいたような・・・」
    「思い出せませんか?」
    ロッドは少し残念そうに顔をゆがめた。
    「俺はアニタに育てられました。あなたが父親だと言い聞かせられてね」


引用投稿 削除キー/



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