| 「あ、いたいた」 夕食後リビングでくつろいでいるところにアルフィンがやって来た。 手にはなにやら、雑誌を数冊かかえている。 「ねぇ、ジョウ。ちょっと相談に乗ってもらいたいんだけど…いい?」 と言って雑誌をテーブルの上に置いた。小首をかしげて訊いてくる、そのしぐさがなんとも愛らしくて、ついつい顔がほころぶ。 「明日、半日オフになるでしょ?その時髪を切りに行こうと思うんだけど、どんな風にしようかなって」 そう言いながら、雑誌をパラパラとめくる。 ほころんだ顔が少し強張るのが自分でも分かった。 「髪、切るのか?」 「うん。私ちいさいころからずーっとこの髪型なのよね。最近さすがに飽きちゃって。毛先も随分痛んできてたし、ちょうど良い機会だから切っちゃおうかなって思ったの」 髪を一房手に取り、弄びながらアルフィンは答えた。そして、更に先を続ける。 「でね、どうせ切るならジョウの好きな髪型にしよっかな〜、なんて/////。いや〜ん」 そう言い片手で顔を覆いながら、逆の手で俺の背中を力一杯平手打ちした。 「痛っ」 ひっぱたかれた背中をわざとらしくさする俺を無視して、アルフィンは続けた。 「ね、どれがいい?」 雑誌には様々な髪型、カラーリングの女性が何人も同じ笑顔で並んでいた。 「どれでも似合うよ、アルフィンなら」 俺は突き放すように言った。 「なーによ、その気の無い言い方。もっと真面目に考えてよ、こっちは真剣なんだからぁ」 もぅ、とむくれる。 その顔がまたいとおしくて、俺は少し機嫌を直した。 「・・・じゃあ、切るなよ」 「え?」 「髪、切るなよ」 もう1度言った。 「切るなって、なんでよ〜」 アルフィンが更にむくれた。 「・・・好きだから」 ぼそっと呟くように言った。 「え?」 アルフィンは豆鉄砲をくらったような顔をしていた。 「その髪が好きなの!だから、切って欲しくない」 ―言っちまった。 口に出したら途端に恥ずかしくなった。鼓動が早くなり顔から火がでそうになる。居たたまれなくなり俺は何も言わずに脱兎のごとくリビングから出ていった。 「ちょ、ちょっと待ってよぉ」 我に返ったアルフィンが慌てて後を追ってきた。俺は逃げるように自分の船室へ向かった。 アルフィンは船室の前でようやく追いつき、俺の腕をつかんだ。 「なんだよ」ぶっきらぼうに答える。 恥ずかしさのあまり、顔を見ることが出来ない。 「あのね・・・、あのね・・・」全力疾走してきたのだろうか、息があがっている。 「切らない!ぜぇ〜ったいに切らない!」 アルフィンが俺の胸に飛び込んできた。 「だから、ね、嫌いになっちゃ、や」 そう言って俺の顔を下から覗き込む。頬がうっすらと赤みを帯び、少し潤んだ蒼い目がキラキラと輝いていた。 ―ノックアウト この目には勝てない。お手上げだ。俺は宙を仰ぎ、ふぅと一息つき、アルフィンの細い肩をぎゅっと抱きしめた。 その柔らかな金髪をなでながら 「約束だぜ―」 そう言った。 そして、そっとキスをした。
<おしまい>
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