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■281 / inTopicNo.1)  Birthday Surprise!!
  
□投稿者/ ぴぃすけ -(2002/11/08(Fri) 01:56:59)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~precious/marutto.htm
    聞くつもりなんて、なかった。

    久々の休暇・・・久々のホテル。
    いつもミネルバでしているのと同じように、リビングで寛ぐつもりだった。
    だが、そこには先客が居て。
    そして、ただならぬ気配を発していて。

    そんな理由で。

    ジョウは手前で入るのを躊躇した。
    その代わり、耳をじっと傾ける。

    半開きのドアから、漏れてくる声の主は、リッキーとアルフィンだった。


    「アルフィン、それ、ちゃんと確かめた方がいいよ、やっぱり」
    「うん・・・」

    なにやらアルフィンの元気がない。
    消え入りそうな返事をしている。
    それを励ましているリッキーは、いつになく真剣そうだ。

    聞いたら不味いのだろうか。

    一瞬そう思ったものの、好奇心が勝った。
    ジョウはそっと一歩ドアに近づき、聞き耳を立てる。

    「だってさ、間に合いませんでした、ってなったらさぁ・・・」
    「うん。それは・・・わかってる。」
    「まぁ、別にオイラは全然恥ずかしいことじゃないと思うけどね。だって話を聞く限りじゃ、別にアルフィンにぬかりはなかったんだし。アルフィンは悪くないよ」
    「ありがとう。そう言ってもらえると、少し気が楽になる」
    「それに今だったら、まだ何とかなるんでしょ?」」
    「うん・・・多分。でも、私は、そういうのってイヤなの。」
    「意外に神経質だよなぁ」
    「やだ。繊細って言ってよ。それにコトがコトなんだから。私にとっては大問題なの!」
    「うわぁ、ごめんごめん!・・・で、話は戻るけれど、予定よりどのぐらい遅れているわけ?」
    「・・・10日くらいかな。待っても待っても来る気配がないのよね」

    え?

    ジョウの思考が止まる。

    この会話の内容が意味するところは。
    予定とか遅れているとか。

    ・・・まさか。

    ジョウがとある推測に凍りついた瞬間、ドアが大きく開いた。

    「うわああ!」
    「わっ!!!」
    「きゃあっ!」

    3人が三様に叫び声をあげた。

    「じょ、ジョウ・・・どうしてこんなとこに居るのよ・・・」
    「いや・・・その・・・」
    「兄貴・・・もしかして俺とアルフィンの話していたこと、聞いてた?」
    「え・・・あ・・・う」
    「聞いてたの??」
    「う・・・」

    青ざめるアルフィン。
    ひきつるリッキー。
    なすすべのないジョウは三竦みの如く、その場に立ち尽くす。

    その緊張を解いたのは、意外というか当然というか、リッキーだった。
    アルフィンに”兄貴は絶対怒らないから、正直に言ったほうがいいよ”と小声で囁くと、体よくその場を去っていったのだ。

    後に残されたのは、ジョウとアルフィン。
    二人きりである。

    気まずい沈黙が漂った。





    「「・・・・・・あの」」

    二人同時に、口を開いた。

    「ど、どうぞ、ジョウ」
    「いや、レディーファースト」

    譲り合い、そしてまた沈黙が続く。


    やがて、諦めたように、アルフィンが口を開いた。

    「あの・・・私、ジョウに言わなければいけないことがあるの」
    「!」

    さきほどのリッキーとアルフィンとの会話が脳裏に蘇る。
    もし、アルフィンの相談事がジョウの推測通りだとすれば・・・


    「実は・・・」
    「い、いいんだよ、無理に言わなくても」

    ジョウは必死に空気を吸い込む。
    心臓が異様なほどバクバクと音を立てている。

    「アルフィンが言いたくないなら、別に俺は聞くつもりはないし・・・その」
    「ううん。ジョウにはちゃんと知っておいてほしいから」

    いつになく真剣な顔で、アルフィンは言う。

    「実はね・・・私・・・ジョウの・・・」

    血が、頭に上った。
    ジョウの思考は弾け、自然に台詞が口をついて出てきた。

    「・・・・・・結婚しようっ!!!」
    「・・・・・・は?」

    アルフィンがキョトン、と瞬きをする。
    ジョウは一気に捲くし立てた。

    「その・・・アルフィン、その・・・俺の・・・子供が・・・出来た、んだろう?だったら・・・その・・・きちんと・・・」
    「・・・・・・・・・・・・・」

    アルフィンは呆然とジョウの言葉を聞いていたが、吹き出したかと思うと、すぐにそれは大笑いに変わった。

    「お、おい、アルフィン」
    「・・・やだ。何を勘違いしているのよ」

    アルフィンは笑いすぎて、瞳の淵に涙すら浮かべている。

    「え?だって、リッキーに深刻そうに相談していただろう?来ない、とか、何とか」

    言いながらジョウは真っ赤になる。
    この手の話は大の苦手なのである。
    もっとも、この状況で、そんなことも言っていられないのだが。

    「もう・・・それで誤解したの?」
    「誤解って・・・違うのか?」

    アルフィンは大きく溜息をついた。

    「仕方が無いわ。白状するわね。来ないって言ってたのは、ジョウ、あなたへの誕生日プレゼントよ。最近流行りのギャラクシー・オンラインショッピング。試したのは良かったものの、注文した品物がなかなか来なくって。このままじゃ間に合わないって相談をしてたのよ」
    「・・・・・・へ?」

    ジョウはヘナヘナと座りこんだ。

    「なんだ・・・俺は・・・てっきり」
    「やだ。赤ちゃんでも出来たって思ったの?」
    「う・・・だって余りにも・・・大事のようだったから」
    「大事よ。私にとっては。恋人同士になって初めての誕生日だもの。ミスしたくはないわよ、絶対」

    アルフィンは、くすくすと笑いながら、自分も屈みこむ。

    「でもね・・・もし、本当に子供が出来たとして。確かに結婚してなかったら、びっくりしちゃうだろうけれど・・・でも、やっぱり、嬉しくてたまらない気がする。だって・・・愛する人との大事な結晶だもの・・・」
    「アルフィン・・・」
    「それに。第一、子供は出来ないと思うけど?」

    だって・・・そうでしょ?
    ちゃんと思い出してよ?
    そう呟きながら、アルフィンも耳まで赤くなった。

    「でも・・・責任感だけでの発言かもしれないけど・・・なんか嬉しかった、な。一瞬の間違えとはいえ、一緒になろうって言ってくれて」
    「・・・・・・」
    「ちょっとだけ夢を見せてもらっちゃった。ありがとう、ジョウ。そして、ごめんね。誕生日プレゼント。聞いてはみるけれど、間に合わないかもしれない。だから。先にゴメンナサイだわ。・・・・それじゃ、おやすみなさい」

    アルフィンは、柔らかく微笑むと踵を返した。
    長い金髪がふわりと広がり、細い腕が空を切る。

    ジョウは、反射的にそれを押さえていた。

    「アルフィン・・・」
    「・・・なぁに?」
    「責任感だけじゃ・・・なかったら?」
    「え・・・?」

    脳が空白になったあの一瞬、ジョウもまた、夢を見ていたのだ。
    自分と、アルフィンと、そして・・・まだ見ぬ、我が子。
    幸せな家庭。
    愛する家族。

    咄嗟に結婚、と叫んでしまったけれど、それはジョウの心の奥底にしまってあった、密かな願望の化身であり。

    義務や責任といったものとは別次元にある、己の確かな意思であり。

    ということは、つまり。

    彼の言葉は・・・単なる・・・プロポーズであって・・・。

    「・・・ジョウ?」
    「・・・・・・誕生日プレゼント。俺は・・・アルフィンが、いい。アルフィンとの未来。・・・ダメかな?」

    柄にもない自分の台詞に、ジョウは益々真っ赤になる。
    一方のアルフィンはといえば・・・

    「本当に?後悔しない・・・?」

    上目遣いに、ジョウをじっと見ている。
    穏やかな。静かな。でも、まっすぐな視線。

    「当たり前だろ」

    その言葉にアルフィンはワッと叫んでジョウにすがりつくと、大粒の涙を流し始めた。
    震える肩を優しく抱きしめながら、ジョウは今一度問う。

    「・・・で、俺のリクエストした誕生日プレゼント、もらえるのかな?」

    アルフィンはこくりと頷いた。
    何度も、何度も、頷いた。


    11月8日。
    最高の誕生日は、すぐそこまで来ている。
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