| ホテルではすっかり元気を取り戻したリッキーがソファーで寝転びながら口にスナックを頬張りテレビをぼんやり眺めていた。 「なんだっ?こりゃあ?!」 タロスの頓狂な声にギョッと振りかえる。タロスが大きな顔をへばりつけるようにノートマシンを覗きこんでいる。 「なんだよ。うっさいなぁ。又ビックリエッチサイトでも見つけたのかよ」 その姿をからかう様にそう言った。 「たこ。おめえと一緒にすんな」 「なんだよ。それじゃあ?」 ちぇっと小さく愚痴りながらタロスの座っているデスクまでやってくる。 ノート型マシンを覗いた。 「ほえ?」リッキーの目がタロスの3倍位の大きさに見開いた。 「ほらみろ。驚くだろう」 ニヤニヤとタロスが笑うがその笑いは大きく引きつっている。 「なに?これ?」 「それは、俺がさっき言ったまんまだ」 「ああそう。じゃあ、『なんでしょうか、この請求額は?』でどう?」 「そうそう。それだ」 ウンウンとタロスが両の腕を組んで頷く。 二人が見つめているもの。ノートマシンのLCDモニターに映し出されているメッセージ。 ドルロイからの請求書……。受取人が『<ミネルバ>乗務員の皆様へ』となっている。 内容を開ける。『クラッシャージョウ誕生日祝い品 一式』。リッキーには嫌な予感が脳裏に走った。 「なんだ? この誕生日祝い品ってのは…」 「うん…」 「えれぇ、高額(たけえ)ぞ」 「う…うん…」 「何を買ったんだ?アルフィンは…一体……?」 「う……ん…」 「うん、うんって他に言う事はねえのか!このぼけっ!」 タロスがとうとう怒り出した。リッキーのあやふやな返事が気に食わない。 だがリッキーは困っていた。これは昨日のアルフィンが言ってた件に関わっている。きっと違いない。だけど約束しちゃったんだ。アルフィンと。タロスに言っていいものかどうか……。 「なんか訊いてんだろう!」 タロスの剣幕にリッキーは折れた。約束なんて言っていられない。殺されかねない…このままでは。 「ちょっとだけだよ。ちょっとしか訊いちゃないんだ。俺らだって」 「おう!」鼻息荒くタロスが肩をそびやかした。リッキーは反対に肩を縮めて小さな体を更に小さくしている。 「バイクスクールに行ってるって。そう言ってた」 「バイクだぁ?」 「だからバイクを買ったんじゃないかなって俺ら思う……」 俯いて口篭った。語尾がどんどん小さくなって最後は聞き取れない程小さい。 「スクールに通ってるなんていうからさ不思議に思ってたんだよな。だってバイクなんて運転する必要ないじゃない。<ミネルバ>に乗っけてないんだしさ。それを内緒にしとけって言うんだぜ」 「バイクねえ…」 ふむと鼻をらなす。少し渋い顔をして首を捻らせた。 アルフィンがジョウの誕生日プレゼントを買いたいと相談に来たのは確か半年位前だった。 『たまにはババーンと凄い物をプレゼントしたいと思わない?』 そんな風に切り出された。 『良いものを見つけたのよ。凄く役立つと思うし。絶対喜ぶわ』 物凄いハイテンションでアルフィンが語ってタロスはただハイハイと訊いていただけだった。プレゼントだなんだかんだってのは、男のタロスには全く疎い。任せるに限る。 『皆で割り勘にして』 好きにしろって云った様な気がする。 云ったかもしれないが……。 「高額(たか)過ぎるだろう。こりゃあ……」 請求額のゼロの桁を指で折ってみる。400万クレジット。リッキーは更に÷3をした。 「俺らの小遣いで払えるかな?」 「まず無理だな……無給で働け」 「そんなあ……何とかしてくれよぉ」 がっくりと項垂れ泣き言を言い始める。 「ジョウに相談しとくぜ。リッキーが破産したってな」 タロスはにやりと意地悪そうに笑う。タロスには払えない額ではないがそれでも高い。額を知ったらジョウはどう思うだろうか。リッキーはとにかくやっぱり相談しといたほうが良さそうだ。そう心の中で呟いた。
夜久しぶりに4人そろっての会食となり当然ジョウの誕生日会を催した。アルフィンがプレゼントしたエアバイクの話をタロス達にまた詳しく語り、今日一日ジョウとそのバイクでどんな風に走ったかをも雄弁に語った。 へしょまげているリッキーを余所にアルフィンは終始上機嫌であった。むろんジョウも。
「やっぱりな」 後日、休暇を明けて<ミネルバ>に戻った後タロスは例の件をこっそりジョウに伝えた。バイクの代金をチームの口座から払いたいという相談を。 「申し訳ねえ。プレゼントだっていうのに」 しかしジョウの返事があんまりあっさりしていたので少々戸惑った。 「タロスが謝ることはないだろう。俺もその方がいい」 気を使わないで済むからとそう言った。そして続けてこうも言った。 「もっと良いものを貰ったよ」 と……。
end
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