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■30 / inTopicNo.1)  
  
□投稿者/ ごんた -(2002/02/22(Fri) 18:18:06)
    薬を飲むと全身にひどい倦怠感を感じる。
    抗うことは出来ない。
    俺は素直に目を閉じた。
    ───どこか遠くへ連れて行かれるような・・・・


    俺が目を開けるとそこは何もない真っ暗な空間だった。
    自分がどこにいるのかも確認できないほどの闇。
    漆黒の闇。
    匂いもなく光もない。
    ここはどこだろう?
    首をめぐらしあたりを探る。
    俺ひとりきり。
    闇以外何もない。

    そうだ、これは夢だ。俺は夢を見ている。

    そう思った瞬間から、生ぬるい空気を感じる。
    先から感じる不思議な浮遊感や時間の経過はなんだ?
    立っているような、浮んでいるような、漂っているような。
    ずっとここにいて、もうひどく時間が過ぎているような。
    妙にリアルな感触だ。

    その途端全身から冷たい汗が吹き出る。
    急激に不安の波に浚われる。
    不安はすぐに変化した。
    焦りや、苛立ちに。
    俺は走りだした。
    夢か現実なのか分からない黒い空間を。

    延々と俺は走った。闇はどこまでも続く。
    息が上がる。
    足が攣りそうに痛む。
    もう走れないと観念し、足を止めた。
    ふいに口をついて言葉が出る。

    「アルフィン!」

    なぜ俺は彼女を呼ぶのか。
    彼女の名前を叫んだ瞬間から俺は大きな喪失感に包まれた。
    それから狂ったように彼女を探して何度も呼ぶ。
    足の痛みも喉の渇きもひどくなる。
    それでも彼女の名を呼び続ける。 
    でも彼女の名は闇に吸い込まれ、返事は返らない。
    俺は再び走り出した。
    彼女を求め闇の中を奔走する。
    求めれば求めるほどそれは遠ざかっていく。


    どれくらい俺は走って、叫んでいただろう。
    暗闇が変化した。
    小さな闇の塊が浮き出てきた。
    その塊からまるで砂がこぼれるように闇が落ちてゆく。
    そして最後に残った漆黒の闇から抜け出すように彼女が現れた。
    ゆらり。
    闇から生まれた彼女は僅かな光を放っている。
    金色の髪はさらさらと音を立てて揺れ、瞳はいつもより一層澄んだ蒼。
    彼女を飾る白のドレスはまるで羽のように見える。
    神の使者のように美しかった。

    放心している俺に彼女が言う。

    「こっちよ」
    彼女は手招きする。

    混乱する俺の頭。

    そうだ、ずっと探していたんだ。
    彼女を連れてここを脱出するのだ。
    俺は我に帰った。
    そっちに行ってはいけない、アルフィン。
    彼女の手を掴もうとした。

    するり。

    俺の手から彼女が逃げた。
    どうして?
    あ然とする。

    「ふふふ・・・・」

    彼女が微笑む。
    右に左に。
    彼女は踊るように逃げる。

    「こっち、こっちよ」

    ムキになって彼女を捕まえようとする俺をからかう。
    俺が彼女に一歩近づくと彼女は三歩前に進んだ。
    俺と彼女の距離は少しずつ開いていく。
    じりじりと焦りが積もる。

    ふと闇から一筋の光が射した。
    きらきらと神々しく。
    彼女はそれに見入った。
    その光はやがて形を成してゆく。
    すらりとした腕。
    白い子供の腕だ。
    その手は彼女に差し出された。

    「こちらに・・・・。アルフィン」
    光から高い音色の声が振る。
    その声はアルフィンを闇の世界へ誘う。
    彼女もその腕を取ろうと手を伸ばす。
    俺は全身の血が凍るのを感じた。

    「だめだ、だめだ!アルフィン!その手を取るな!」

    でも俺の声は彼女にまったく届かない。

    「それは魔王の手だ!」

    俺の絶叫を聞かずに彼女は闇に融けていった。


    俺は跳ね起きた。「魔王の手だ!」と叫んだ瞬間に目が覚めた。
    体のすべてがだるい。
    時計は夜中の1時に指しかかったところだった。ため息を吐き出す。
    ・・・・またか。
    たびたびこんな夢を見るのは堪らない。
    俺はぐっしょりと汗を吸い込んだTシャツを脱ぎ捨てた。

    夢のせいで終わったはずの事件が脳裏に浮ぶ。
    クリスの事件が一通りの決着を見せたのはほんの数日前だ。連合宇宙軍とクラッシャー評議会の追及、いや事情聴取は比較的簡単に終わったと言ってもいい。事件には大きく連合宇宙軍が関わっていたし、バードもいた。話は早かった。評議会のほうは大まかに俺が報告し、あとはタロスが引き受けてくれた。だから俺は次の仕事が決まるまでという期限付きで完全休養を決め込むことが出来たのだ。

    この休養を決めたのは俺自身だった。身体が弱りきっている。もともと病みあがりの体には今回の仕事はきつ過ぎた。弱音は吐きたくないが、これが本音だった。完全にとはいかないまでも体が多少回復しないかぎり、次に受ける仕事の完遂はまるっきり自信がない。体力の低下とストレス。体はあちこち悲鳴を上げていた。
    俺はおそろしく眠くなる薬の服用を決めた。体が回復するまで、あるいは仕事の決定まで。お陰で体は幾分落ち着いたように思う。でもまさか副作用があるとは思わなかった。
    いや、副作用という言葉は見当違いなのかもしれない。

    副作用は勝手に俺が見る夢。

    薬を飲むとうつらうつら眠りの泥沼のようなところへ引っ張られる。
    俺は眠っているのだろうか。起きているのかもしれない。
    そんな意識の中を行ったり来たりして、
    夢を見る。
    アルフィンを探す夢。
    彼女はいつもすぐそばにいる。
    でも俺はいつもアルフィンを連れ戻すことができない。

    現実には戻ってきているのに。

    俺はもう一度時計を見た。先よりほんの少し進んでいる。
    適当に服を着て、自室を出た。
    安心したかったのだ。あの夢を見た後必ず俺はアルフィンの姿を確認する。でも時間が時間だけに彼女の部屋へ直接行くのは躊躇われた。リビングかブリッジにいなければ帰ればいい。ミネルバにいるのは間違いないのだから。
     
    俺は急いだ。最初はブリッジ。扉を開く時間すらもどかしい。かすかに計器から漏れる音がするだけでやはりアルフィンはいない。きびすを返し、ブリッジを出る。次はリビング。入ると同時にいつもと同じ匂いを嗅ぐ。

    そこにアルフィンはいた。

    「どうしたの?こんな時間に」

    淡いブルーの部屋着の彼女は俺を見つけて大きく目を見開いた。なにか飲み物を入れようとしていたのか、カップが手に握られていた。その様子を見て心底俺はほっとした。

    「いや、ちょっと・・・」

    言葉を濁した。不安で堪らないから顔を見たかったんだ、とは言えない。
    やはり様子が変だと感じるのだろうか。彼女は少しだけ怪訝な顔を覗かせた。
    適当な言葉が出せない俺はソファに腰を下ろした。それを見てアルフィンがゆっくりとした動作でミネラルウォーターを持ってきた。そして俺の隣に座る。
    彼女の顔をまっすぐ見れないまま、無言で水を受け取って飲み干した。
     
    静かだった。本来なら聴こえないような小さな音ですら耳が拾ってしまうくらい。そしてこのまま無言で時間が過ぎていくのだろうか、そんなふうに思い始めていた。今のこの状態や夢をどう対処したらいいのか。俺には皆目見当がつかない。誰かに心のうちを話すというのは苦手だ。俺は途方に暮れた。

    「ねえ、ジョウ。何か思うところがあるなら話して」

    長い沈黙をアルフィンが破った。
    まっすぐ俺を見据える。瞳は俺を捕らえて離そうとしなかった。

    「このところのジョウ、少しおかしいわ。クリスの事件も終わったのに。
     どうしてそんな不安そうな顔してるの?」

    俺は虚を突かれた。心臓が止まってしまったみたいだ。動けない。どこをどうしたら体や口が動くのか。忘れてしまったようだ。俺は俺の血が体全身にめぐるのを待った。
    ゆっくりと体が機能を取り戻していくのが分かる。何か言葉を発しようとした。
    その時俺の中でなにかが飛んで弾けた。
    体が俺に語りかける。

    「もういいんだ。我慢しなくても」

    なんだ、我慢って?
    しかし心とは裏腹に俺の言葉は堰を切ったように流れ出ていった。
    そして微妙に震えていた。

    「薬を飲むと夢を見るんだ。いつも同じ夢だ。・・・・・・アルフィンが小さな魔王に連れてかれる夢。俺は追いかける。でも一度もアルフィンを捕まえることができない。どうしてだ?必死でもがく。闇にアルフィンが吸い込まれる。俺が絶望の悲鳴をあげる、そして夢は終わる」

    ゆっくり、ひとことひとこと区切るように話した。その間アルフィンは言葉を挟まず
    じっと聞いていた。

    「だから、俺は夢を見た後、アルフィンを探さずにはいられない」
    「あたしを探してここに来たの?」
    アルフィンは労わりの眼差しを俺に向けた。
    俺は小さく頷いた。

    「嫌な奴。クリスって。いなくなってもジョウを苦しめて」
    アルフィンは苦笑いした。
    俺も少し笑った。
    それから彼女は少しの間何かを考えるような素振りを見せた。
    そして微笑みを浮かべて言った。
    俺の心に響く、凛とした声。
      
    「ジョウ。あたしはここにいるから」

    アルフィンが寄りかかるように俺に身体を預けた。
    蒼い瞳が強く、やさしく俺を見る。

    「不安ならちゃんと確かめて。あたしがジョウのそばにいる事」

    アルフィンが俺の顔をそっと手を当てた。 
    もう何も考えることは出来ない。
    僅かな緊張が波が引くように消えてゆく。
    俺はアルフィンを抱きしめた。柔らかく、芳しい彼女の身体。
    彼女が俺の背中にそっと手をまわした。その手は夢で俺を拒んだ手じゃない。
    俺のすべてを受け入れる手。
     
    そうだ、最初からこうすれば良かったんだ。
     
    アルフィンがアマゾナスに連れ去られた時から俺は狂っていた。
    たった一人の女が目の前から消えただけで、おかしくなる自分。
    俺は弱い。
    ちっぽけだ。
    すべて放り出して彼女を追った。
    俺はアルフィンをこんなにも求めている。
    でも俺はそれを認めるのが怖かった。
    認めてしまうと俺が俺でいられない、そう思っていたから。
     
    だから相手を抱きしめる、そんな簡単なことができなかった。 

    そして今まで俺は気が付いていなかった。
    クリスを倒しても、自分がまだ狂ったままでいることを。
    彼女を手元に取り戻してもまた失うことを無意識に恐れていた。
    闇に引きこまれそうなのは彼女ではなく俺だった。
    すべての不安は自分の心の中にあったのだ。

    夢は俺に警告した。
    ──すべて認めろ。
    ──自分を解放し、ちっぽけな自分を受け入れろ。

    俺はアルフィンの髪に触れ、キスをした。
    浅く、深く。繰り返し。彼女が消えてしまわないように。
    彼女は夢のように逃げない。
    俺を受け止め、闇から俺を連れ戻してくれる。
     
    「あたしを確かめて」
    アルフィンがうわごとのように何度も言う。
    その言葉は俺を心地よくさせる。
    凍った心を暖める。
    俺を癒す本当の薬だ。
     
    もしかしたら、これも夢なのか?
    俺はふいに思う。
    ───どうでもいい。
    アルフィンは腕の中にいる。
    それだけでもう充分だ。
    もし誰かにまた連れさられても、取り返す。
    そして抱きしめればいい。
    そのたびに俺は思うだろう。
    アルフィンを感じることはこんなにも簡単なことだったんだと。
     
    アルフィンが俺の唇に触れる。
    俺の髪を撫でる。
    それだけで俺の心の闇に光が射す。
    闇は光と溶け合って消えていった。
    長い時間をかけて、ゆっくり、俺の中で。


    ───もうあの夢を二度と見ることはないだろう。

    俺はアルフィンの髪に顔を埋めてそう思った。 
     
                                END 
     

引用投稿 削除キー/
■31 / inTopicNo.2)  Re[1]: 闇
□投稿者/ ごんた -(2002/02/22(Fri) 18:28:28)
    ああ、暴走。
    「あんた今まで書いていたものとキャラ全然違うやん!」という苦情承ります。
    でも書きたかったの。言い訳すまい。

    これのテーマは「弱いジョウ」と「照れないラヴシーン」

    「美しき魔王」のあとのジョウは結構自分のペースを取り戻すのに苦労したんじゃないだろうか?ものすごいダメージを引きずっていたんじゃないだろうか?
    そんな想像がこういう妄想になりました。

    もし気分を害された方いたらごめんなさい。
    またラブコメに戻ります、なんて(笑
引用投稿 削除キー/



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