| リッキーが落ち着いたところでアルフィンが事情を説明した。
ジョウの当直の日、チェックしたメールの中にミミーからのメールがあった。 そのメールはジョウのチーム宛で来ていたが、内容はまるっきりリッキー個人当てのものであった。ミミーはリッキー個人にメールを送りたかったがチーム宛のアドレスまでしか調べがつかなかったので、しかたなくチーム宛に送ったということだった。本来ならば、内容を読んでしまった事を詫びてリッキーに転送するべきものであったが、ジョウとアルフィンはそれをしなかった。 リッキーは隠しているつもりだったが、リッキーがサラチナ・ポートで別れたミミーを忘れられないでいるのはチーム全員の知るところであった。そこに届いたミミーからのメール。ミミーはリッキーと連絡が取りたいと言っていた。できればもう1度会いたいとも。誕生日の件でリッキーに負い目を感じてしまったアルフィンはどうにかしてそれを詫びたいと思っていた。これを利用しない手は無かった。そして一計を案じた。 ジョウとアルフィンはタロスを巻き込み、あれやこれやと段取りを組んだ。 リッキーに知られることなく、計画は順調に進んだ。 そして、今日。計画は実行された。 結果、リッキーは皆の期待通りのリアクションを取り、3人を満足させた。
「でも、なんでミミーに会う事が誕生日のプレゼントなんだい?俺らの誕生日はまだまだ先だぜ」 すっかり平静を取り戻したリッキーが3人に訊いた。 ジョウ、タロス、アルフィンは一瞬顔を見合わせた。 「あたし、リッキーに謝らなきゃいけないことがあるの」 ややあってアルフィンが口を開いた。 「なんだい改まって。俺ら謝ってもらう事なんかひとつも無いぜ」 リッキーがきょとんとした表情で言った。そんなリッキーにかぶりを振ってアルフィンは言った。 「あのね、あたしすっごく無神経だったなって反省したの」 アルフィンはゆっくりと話し始めた。 「あたし、リッキーの誕生日が本当の誕生日じゃないって最近になって知ったの。なのにあたしったらバカみたいにパーティだなんだって騒いじゃって。だから、お詫びって言うんじゃないんだけど、リッキーになにか喜んでもらえることをしたかったの。誕生日っていうのは単なるこじつけなのよ…」 最後の方は少し涙声になってしまっていた。 「なぁんだ、そんなことか」 泣き出しそうな顔のアルフィンに、リッキーは大げさに笑って言った。 「アルフィンって変なこと気にするんだね。俺らそんなこと全然気にしてなんかなかったよ」 「俺もそう言ったんだけどな」 横からジョウが口を挟んだ。 「まぁ、でもアルフィンの気持も分からなくは無いから今回は協力したんだ」 「面白いものも見せてもらったしな」 タロスがまぜっかえす。 「なんだよ、面白いものって!」 「そりゃ、決ってるじゃないか。リッキーのダンナのことですぜ」 リッキーとタロスのいつものレクリエーションが始まった。湿っぽかった空気が一気にいつものジョウのチームのそれに戻った。
「あのね、お楽しみのところ悪いんだけど」 今にも取っ組み合いを始めそうになる二人にアルフィンが制止をかけた。 「リッキー、あたし、相手が違うと思うの」 そう言って、ミミーをリッキーの目の前に立たせた。 「あう」 二人の動作がピタリと止まった。 「おっと、いけねぇ。ついいつものクセが出ちまった。気がきかなくて悪かったな」 ぽりぽりと後頭を掻きながらタロスがミミーに向って笑って言った。
リッキーとミミーはジョウ達とわかれて近くのゲームセンターに行く事にした。 別れ際にリッキーがアルフィンのところに駆け寄ってきた。 「ありがとう」 少し照れたように言った。 「でも、俺らアルフィンが開いてくれる誕生日のパーティ、すっごく嬉しいんだぜ」 鼻の頭を指で擦りながら、リッキーは続けた。 「俺ら家族ってのを知らないから、誕生日にパーティなんて考えた事もなかったんだ。それをアルフィンに教えてもらったんだ。家族って良いもんだって本気で思ったんだぜ」 アルフィンの顔にパッと笑顔が浮かんだ。 「それに俺らの誕生日はクラッシャーリッキーが生まれた日なんだ。誕生日には変わりないさ。だから、今度の俺らの誕生日、またパーティしてくれよな!」 そう言うと、さっさと踵を返してミミーのところに戻った。 「もちろんよ!」 走るリッキーの背中にアルフィンが言った。リッキーは振りかえり、拳に親指をたててそれに答えた。 リッキーとミミーは何事か笑いながら人ごみの中に消えて行った。 それを見ながらタロスが言った。 「そんときゃまたミミーにも出向いてもらわなきゃ、ですな」
<おしまい>
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