| 今まさに<ファイターT>のエンジンが火を吹いた。 「ジョウ!」 「分かってる。騒ぐな」 敵戦闘機の最後の1機を撃ち抜き、その脇を無理やり通過した際<ファイター>が残骸破片を吸い込んでしまった。エンジンからの火は直ぐに煙に変わったが、ついでに動力もゼロに変わってくれた。 動力パワースイッチを押し続けることにより時たまバスッっとエンジンが息を吹き帰すものの長続きはしてくれない。水平飛行がままならなくなってきた。 ジョウが操縦レバーを思いきり引き上げているものの急速に降下は止めることは出来ず、あっという間に地上が目の前に迫っていた。たまらずアルフィンが悲鳴を上げる。 「なんでいつもこうなるのよぅ」 「知るもんかっ」 「もう!無責任っ!」 「頭を低くして抱え込め!」 ジョウが叫ぶと同時に<ファイターT>は紅葉の広がる自然豊かな森の中に消えて行った。
「う…ん…」 頭がずきずきする。なんでだっけ。アルフィンは頭に手を当てながらゆっくりと目を開けた。ぼやけていた記憶はすぐに戻ってくる。身体中痛み軋むが無理やり起きあがった。 「大丈夫か?」 ジョウが隣に座っていた。燃えている<ファイターT>を眺めているようだ。 「どうにか」 フンと鼻を鳴らしながらアルフィンはジョウを睨みつけた。ちっとも心配そうな顔をしていないじゃないのと。そんな彼をよく見れば額には血の流れた後があった。どこかを切ったのか。それともぶつけたのだろうか。アルフィンの方がジョウを心配するように近づいていく。 「ジョウは大丈夫?」 そっと指先をその跡に這わせた。ジョウはちょっと渋い顔をする。 「大丈夫でもない」 渋面のままそう言った。えっとアルフィンがつい訊き返す。思いもかけない返事だった。 「目が見えない。まったく」 碧眼を大きく開き、そんなあとでも言いたげに、アルフィンが口に手を当てた。 そしてジョウの目をじっと見つめた。ジョウは険しく睨みつけるように目を細めたりしながら<ファイターT>の燃える炎をその漆黒の瞳に映していた。 「じゃあどうやってあたしを外に連れ出したの?」 「そのぐらいは何とかなるさ。いつもやってる」 苦笑ともいえる引きつった微笑みを浮かべながらジョウはアルフィンを見た。いや見ようとした。声のする方に目を動かしただけかもしれない。 「参ったな」 ジョウの瞳にやっとアルフィンが映った。アルフィンは咄嗟にジョウの頬を両手で押さえ覗きこんだ。 「本当に見えないの? 私も? なんにも?」 「ああ」 「どうするのよぉ」 アルフィンの声は落胆を超えた絶望の声だった。
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