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■346 / inTopicNo.1)  墜落
  
□投稿者/ めばる -(2002/12/06(Fri) 20:16:17)
    <苦しい前書き>

    先月CJのDVDをゲットし久しぶりに観てしまったらば何となく書いてみたくなってしまったのでアリマス。(汗)

    だけど、私のSSは素敵な展開にはどうにもなりそうにありませんが(泣)
    ちょこっとだけ皆様の目に触れられれば嬉しゅうゴザイマス。

    どうぞ期待はなさらずに……

引用投稿 削除キー/
■347 / inTopicNo.2)  Re[1]: 墜落
□投稿者/ めばる -(2002/12/06(Fri) 20:16:52)

     今まさに<ファイターT>のエンジンが火を吹いた。
    「ジョウ!」
    「分かってる。騒ぐな」
     敵戦闘機の最後の1機を撃ち抜き、その脇を無理やり通過した際<ファイター>が残骸破片を吸い込んでしまった。エンジンからの火は直ぐに煙に変わったが、ついでに動力もゼロに変わってくれた。
     動力パワースイッチを押し続けることにより時たまバスッっとエンジンが息を吹き帰すものの長続きはしてくれない。水平飛行がままならなくなってきた。
     ジョウが操縦レバーを思いきり引き上げているものの急速に降下は止めることは出来ず、あっという間に地上が目の前に迫っていた。たまらずアルフィンが悲鳴を上げる。
    「なんでいつもこうなるのよぅ」
    「知るもんかっ」
    「もう!無責任っ!」
    「頭を低くして抱え込め!」
     ジョウが叫ぶと同時に<ファイターT>は紅葉の広がる自然豊かな森の中に消えて行った。



    「う…ん…」
     頭がずきずきする。なんでだっけ。アルフィンは頭に手を当てながらゆっくりと目を開けた。ぼやけていた記憶はすぐに戻ってくる。身体中痛み軋むが無理やり起きあがった。
    「大丈夫か?」
     ジョウが隣に座っていた。燃えている<ファイターT>を眺めているようだ。
    「どうにか」
     フンと鼻を鳴らしながらアルフィンはジョウを睨みつけた。ちっとも心配そうな顔をしていないじゃないのと。そんな彼をよく見れば額には血の流れた後があった。どこかを切ったのか。それともぶつけたのだろうか。アルフィンの方がジョウを心配するように近づいていく。
    「ジョウは大丈夫?」
     そっと指先をその跡に這わせた。ジョウはちょっと渋い顔をする。
    「大丈夫でもない」
     渋面のままそう言った。えっとアルフィンがつい訊き返す。思いもかけない返事だった。
    「目が見えない。まったく」
     碧眼を大きく開き、そんなあとでも言いたげに、アルフィンが口に手を当てた。
     そしてジョウの目をじっと見つめた。ジョウは険しく睨みつけるように目を細めたりしながら<ファイターT>の燃える炎をその漆黒の瞳に映していた。
    「じゃあどうやってあたしを外に連れ出したの?」
    「そのぐらいは何とかなるさ。いつもやってる」
     苦笑ともいえる引きつった微笑みを浮かべながらジョウはアルフィンを見た。いや見ようとした。声のする方に目を動かしただけかもしれない。
    「参ったな」
     ジョウの瞳にやっとアルフィンが映った。アルフィンは咄嗟にジョウの頬を両手で押さえ覗きこんだ。
    「本当に見えないの? 私も? なんにも?」
    「ああ」
    「どうするのよぉ」
     アルフィンの声は落胆を超えた絶望の声だった。


引用投稿 削除キー/
■348 / inTopicNo.3)  Re[2]: 墜落
□投稿者/ めばる -(2002/12/06(Fri) 20:17:54)

    「で、どうしたらいい?」
     暫らく途方に暮れて言葉を失っていたアルフィンが動き出した。ジョウはアルフィンの動揺が収まるまで一言も発せずただじっと彼女が行動を起こしだすを待っていた。
    「すぐに治ると思うが…。その間はアルフィンが頼りだ。クラッシュパックは一つだけだし、今は救助信号も出せない。作戦が上手く終了しないかぎりタロス達だってそう易々とは見つけてはくれないだろうからなあ」
     そう、<ファイター>で迎撃に出たのは囮になる為だった。まんまと敵は餌に喰い付いてくれたところまではよかった。
     が、その餌がつられて一緒に落ちてしまったということ……。 仕事や作戦内容は語ると長くなるので省かせてもらう。
     アルフィンはいつになく精悍な面でうんうんと頷きながらジョウの話を聞き入る。
    「ビバークする場所を探して欲しい。木に登ってもこれじゃ落ちちまうかもしれない」
    「そうね。じゃあすぐに始めましょう」
     すくっと立ち上がる。辺りを眺めた。ビバークする場所、いつもなら見晴らしがいい木の上にする。でも今回はジョウを配慮して岩穴や洞窟がいいだろう。広葉樹の広がる深い森の中、暗くなる前に移動し場所を確保したい。
     アルフィンはジョウに手を差し出した。ジョウは困ったように笑った。一人で立ち上がる。
    「なんで?」
     行き場の無くなった手を引っ込めて訝しげにアルフィンは小首を傾げた。
    「気配さ。その位はなんとかな」
    「そう。でも一人で歩けないでしょ。だからちゃんと捉まっててよね」
     ちょっと頬を赤らめながらアルフィンはジョウの手を強引に掴んだ。そのままずんずんと歩き出す。
    「おい。ちょっと待て。方角はいいのか?」
    「うっさいわね。気になる方角でもあるの?」
     柳眉が跳ね上がる。任せる気があるのなら黙れとでも言いたそうな顔をする。否声がする。
     だが見えなくてもジョウには経験が教えてくれる。こういう時は勘に頼る方がいい。多少アルフィンの機嫌を損ねても仕方が無い。自分で上手く行動できない分口でアルフィンを誘導しなければならないのだ。
    「山だ。山の方向に進め」
    「山?どっちにあるの?」
    「東…」
    落ちる前にコクピットからみた風景。見間違えは無い。
     うーんとアルフィンが唸った。両の腕を組み考えるポーズをしている。ややすると胸ポケットの中からPDAカードを出し操作を始めた。方位を確かめて方向を定める。
    「分かった。じゃあこっち」
     再度ジョウの腕を掴むとまたもや強引に歩き出した。間違い無く臍を曲げた。ジョウは苦笑しながら後を引っ張られるように続いた。
     途中でジョウが木根に足を引っ掛けて転びそうになったり、低い枝に頭をぶつけたりしながらどのぐらい歩いただろうか。アルフィンはまったく口を開かない。気味が悪い程無言のままである。いつもなら鬱陶しい位介抱役に徹して来るところだがその素振りさえ全く無い。
     ジョウもそれを良しとしていた。
     見えない分気配に集中せねばならない。何が潜んでいるかわからない森の中である。また、ハンター達が放たれているやもしれない。
     無言なのは寧ろ好都合だった。

     アルフィンは不安と心細さで一杯になっていた。こんな時こそしっかりしなければと思う反面、本当は怖くて仕方が無かった。ジョウの目が見えないままになってしまったらと考えれば不安になり、自分がどれだけ何時もジョウに頼り切っているか、そう、無知と無能さを実感していた。
     しかしアルフィンには生まれたときからか培われた特別の気の強さがあった。プレッシャーに強いとは言いがたいが、そんなに柔でもない。内面をかくしたまま平然とした顔など幾らでもできる。王女時代に随分そうしてきた。
     だが相手はジョウだ。ウソなど直ぐに観抜かれる。それに声は正直だ。
     気づかれたくなかった。そんな今の弱い自分を。だから黙って進んだ。


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■349 / inTopicNo.4)  Re[3]: 墜落
□投稿者/ めばる -(2002/12/06(Fri) 20:22:46)

     急にアルフィンが歩を止めた。
     あまりに急だった為にジョウが軽く彼女に追突する。慌てて弾き飛ばさない様にアルフィンの肩を抱いた。ちょっと謝りいい訳をする。
    「ごめん。急に止まるから…」
    「滝の音がしない?ほら」
     しかし当の本人は気にも留めていなかった。ただ聴いてとでも言いたそうに声を細める。
    「ああ。ほんとうだ」
     耳を澄ませば遠くの方から水声がする。滝と言われればそうかもと思うぐらいだが。
    「行ってみましょう」
     アルフィンの声のトーンも軽くなってきた。ジョウの手を握り走り出そうとする。見えないことを忘れてるんじゃないかと思うほど更に強引に。
    「待てよ。ちょっと…待てって」
     アルフィンは止まらない。
     そのまま無理やり及び腰のジョウを引きずる。
     見えないで走るということがこれ程恐いものとはジョウも初めて知った。
     掌に冷や汗が滲み出てグローブの中を湿らせた。足が縺れる。今に太い枝か何かに頭をぶつける。そんな恐怖が先に立つ。ジョウの恐怖などアルフィンはお構いなしなのかもしれない。
     音が近くなった。水面に水が弾け瀧音を上げている。
    「見えたわ。やっぱり滝よ」
     とうとうジョウの手を離して走り出した。
     置いて行かれたが、これ以上カッコ悪くならなくて済んだと内心ジョウはほっとする。ゆっくり慎重に歩む。音が頼りになる。大丈夫だと思った。
    「ジョウ!」
     ふいにアルフィンが叫んだ。危険を回避させるために……。
     だが間に合わなかった。
     ジョウは思いきり横に張り出した太枝にその頭をクリンヒットさせ、その枝の反動も得て尻餅をついた。
     鈍い唸り声を上げて大の字に仰臥する。
    「もうイヤだ」
     仰臥したままジョウがとうとう音を上げた。
     笑いながらアルフィンが戻って来る。
     脇に屈みジョウを起こそうとするがジョウはそのまま動こうとしない。
    「大丈夫?」
     ジョウのヒステリーが可愛くて可笑しい。アルフィンは肩を震わせて笑っている。
    「可笑しく無い」
     片や仏頂面をしたジョウ。不甲斐無い自分が我慢出来ないでいる。笑われるのも許せない心境だった。
     一頻り笑い納まると、まるでピクニックにでも来ている様にはしゃいだ声でアルフィンが切り出した。
    「ここにしましょう。あたしとっても気に入ったわ」
     気に入る気に入らないは別として、ジョウとて一歩も動きたくない心情だ。
    「滝壷の辺りはとてもいい景色なの。休めそうな岩穴もあるわ」
     なら好都合。拒絶する謂れはない。是非お願いしたい。ジョウは頷いた。
    「連れてってくれ」
     そう言って腕をぐいと前に翳した。やっと起きあがる気になったらしい。まるで駄々子のようだ。そんなジョウの手をアルフィンは掴んだ。
    「大丈夫よ。ジョウ」優い声で言った。
     すっかりアルフィンの気持ちには余裕が生まれていた。ジョウを慈しむ気持ちが不安を消し去ったようだ。
    「分かってる。ただもどかしいんだ」
     ジョウは苦虫を噛み潰したような顔をしている。あやされているようで照れくさい。
     瀧音が大きくなる。足元がごろ石に変わった。バランスが悪くなる。アルフィンは寄り添う様にジョウを導いた。マイナスイオンの清々しい空気に包まれる。心なしか気持ちがいい。
    「けっこう大きな滝よ。水は凄く澄んでるし、辺りの木の紅葉が水に映ってとても綺麗」
     滝壷の間近に来たのだろう。立ち止まりアルフィンが辺りの景色を溜息交じりに語った。
    「綺麗なんだろうな」残念そうにジョウはそう呟いた。
    「大丈夫よ」
    アルフィンがもう一度言った。母親の様な優しい声だった。


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■360 / inTopicNo.5)  Re[4]: 墜落
□投稿者/ めばる -(2002/12/11(Wed) 16:21:21)

     視力は依然戻ってはくれない。
     ジョウはアルフィンがくれた濡れたハンカチを目に当て、黙って眠っている振りを続けていた。
     日が暮れ始めたのか辺りの空気がさらに涼やかになった。アルフィンは辺りを見まわってくると言い残して出掛けたきり。
    虫の声が聞こえ始めていた。
     依然ハンター等の現れる気配もなければ捜索する敵VTOLも現れない。ジョウ達は全く無視されているようだった。タロス達が上手くやっている証拠だろう。
     アルフィンの気配が戻ってきた。小走りに近づいて来るのが分かる。ジョウはゆっくりと起きあがった。
    「ねえ。ジョウ。凄く良い物見つけたの」
    「え?」
     ジョウの隣りにアルフィンがストンと腰を下ろす。
     とんでもないものでなければいいがと思案する表情が瞬時に出たらしい。
    「なによぉ。変なものじゃないわよ。失礼ねぇ」
     見逃してはくれなかった。アルフィンが不機嫌そうな声をあげた。
    「ああ。悪い」すなおに詫びる。
    「温泉。温泉見つけたの」
    「温泉って。その……」
     うふふふとアルフィンは楽しそうに笑った。
     やっぱりアルフィンはとんでもないものを見つけて来た。素直にたじろぐ。温泉を見つけてどうしようというのだろうか。
     分からない。
    「なんか、イヤらしいこと考えたりしてない?」
    「いっいやらしい?」
     いったい何を言い出すんだ。そんな事は考えてない。考えてない筈だ。ジョウは再度たじろいだ。
    「そうよ。一緒に入ろうって言うとでも思ったんでしょお」
    「な…な……」
     ジョウが被り振って訂正させようと思った矢先にアルフィンが言葉を続けた。
    「安心して。そんなこと言わないから」
     ジョウは溜息混じりに声を抑えて彼女の名を呼んだ。
    「アルフィン……」
    「俺達は今仕事中なんだ。遊びに来てる訳じゃない」
    「分かってます」
    「じゃあ。なんなんだ」
     ジョウの口調がつい強くなった。アルフィンのからかい言葉を真に受けるなんて、心に余裕がなくなって来た証拠だったが今の彼はそれに気付きもしなかった。
     弾かれたようにアルフィンが立ちあがった。気分を慨した。そんな感じに。
     あわててジョウが手を伸ばす。
     アルフィンの腕を掴みたかった。
     掴んでその次に彼女が起こすであろう行動を阻止したかった。
     だが掴んだものは空気だけ。虚しい空振りであった。
     アルフィンはくるりとジョウに背を向け、そして悲しそうにこう言う。
    「そんな怒った言い方するんだったら言わない。もういい」
     泣きそうな声だった。
    「ちょっと……待てよ」
    「嫌よ」
     ジョウの制止を振りきり、彼女は走り去ってしまう。砂利の上を走る音がどんどん小さくなり消えて行った。
    「……なんだよ」
     またしても一人取り残され、謝ることも許されず、ジョウは落胆の溜息をついた。


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■361 / inTopicNo.6)  Re[5]: 墜落
□投稿者/ めばる -(2002/12/11(Wed) 16:23:08)

     この星には二対の衛星があった。双子の月といったら分かりやすいかもしれない。仲良く二対並んで夜の森を照らしてくれている。そのお陰で暗闇に包まれないで済んでいた。だがそれとは別に、いくら薄明るい夜の帳といえど、すっかり降りると気温は更に低くなる。
     アルフィンはジョウから2〜3メートル離れたところに座り、膝を立て両腕で抱え込むようにして小さく震えていた。
     あれから暫らくして戻っては来たが、ジョウの側までは戻らなかった。まだ話はしたくなくて。否、本当はジョウの隣にへばり付いて居たかったのだが、どう見てもジョウの機嫌が戻ってなさそうで近寄れなかった。
     機嫌が悪い時にぶつかれば間違えなく跳ね除けられる。どんなに甘えても無駄なのだ。アルフィンにはそんな時の彼に見えていた。
     歩き回った後は確かに気持ちの良い涼しさにも感じていたが、夜になると滝の側など寒いだけでだった。火でも起こせば良いのだろうがそれでは敵の目に付きやすくなる為に出来ない。
     あの時、ある場所にただ移動しようと言いたかっただけだった。ジョウの気持ちを和ませて上げたくって、ちょっとふざけた言い方をしすぎたかもしれない。だけどここより暖かい場所を見つけたから。そのほうがいいと思ったから。
     なのに強く言い払われて凹んでしまった。だからこうして今一人で震えている。やや重い空気と寒さのせいで身体が冷え切ってしまっていた。なんだかすごく寂しかった。ただジョウから声をかけてくれること一途に待っていた。

     ジョウは見えない目を凝らすのにも嫌気が差してただじっと寝転がっていた。
     一時的ショックであるならばもうそろそろ視力も戻ってきても良い頃なのだが、いまだその兆候が現れない。心に焦りや不安が付きまとうようになってきていた。気持ちが重くなる。そんな態度だからアルフィンには不機嫌に見えていたのかもしれない。
     このままもしかして…そんなことはありえないと自分に言聞かせてみても不安が過ぎる。長いこと一人でこの暗闇に居すぎたせいなのだろうか。それともこの冷えた空気のせいなのだろうか。つまらない仲違いのせいかもしれない。ジョウの気づかないところで彼の心は孤独を耐えかねはじめていた。この不安を消して欲しい。そう願いはじめてもいた。
     だからだろうか、こう寒くなってくると自分の都合のいいように彼女が震えている姿が見えてくる気がした。なんとかしてやりたくなるのは惚れた弱みというやつなのだろうか。それともやはり自分の為だけか。
     理屈をそろえる必要はないと思った。これだけ心も身体も寒いのだ。暖め合ってなにが悪い。意地の張り合い等虚しいだけだ。仕事中だってかまうものか。屁理屈はそろった。
     ジョウはゆっくりと上体を起こし、彼女の名を呼んだ。
    「アルフィン」
     極力優しい声を出す様に心がける。怯えた子猫を捕まえるときと一緒だ。彼女の気配を探った。
    「寒くないか?」
     警戒した子猫は直ぐには寄っては来ない。彼女もまたゆっくり面を上げ、ぼんやりと自分の名を呼んだジョウを見つめていた。

     ジョウが再度彼女の名を口にする。
     ゆっくりと側までやってくる。ジョウの前で跪いた。
    「とっても寒いわ」
     そのまま胸に飛び込んできた。やはりその身体はすっかり冷え切っていた。自分の体温を移すように強く抱きしめてやる。胸の中で小さく鳴く声がした。
    「暖めてやろうか?」
    「えっち」
     アルフィンの答えが面白くてジョウは思わず吹き出した。
    「いやらしいとか、えっちだとか、アルフィンの方がよっぽどエッチだろう」
     急に笑われ、憮然としたアルフィンが彼の胸から己の面を上げジョウを睨みつけた。
    「だってそうだろ?アルフィンが一人で言ってるんだ。そうやって」
    「そういう言い方って無いと思うわ」
     まだ怒っているような拗ねた口調だった。だが本気で怒っている様子ではない。
     だからジョウもそのまま悪ふざけを続けた。
    「どんな想像したんだい?」
     アルフィンが胸の中で突然もがき始めた。人の反応で楽しんでいる。そう思えたからだ。さっきは散々人を怒っておいてと頭に来た。しばらくアルフィンはジョウの腕の中で一人で暴れた。
     だがジョウはそんなに易々とは離してはやらなかった。そのうちアルフィンが肩で息をするようになるのを見計らってから腕を緩めてやった。
    「暖まっただろ」
    「うぅーん!」
     なんとも悔しそうにアルフィンが変な唸り声を放って大人しくなった。
    「本当に酷い人ね」
     アルフィンの指がジョウのわき腹をつねり上げた。ジョウが悲鳴を上げる番になった。
    「痛ってえ」
    「ふふん」
     勝ち誇ったように鼻で笑いながらアルフィンが立ちあがった。
     グイっとジョウも起こされる。
    「さあ、移動しましょう。もうジョウの心配なんかしないわ」
     あれよという間にクラッシュパックを背負わされた。また引きずられる様に歩出す。
    「何処へ行くんだ?」
    「おだまり」
     にべもない。ジョウはただがっくりと頭と垂らしアルフィンの後に従うしかなかった。
     たまにはこんな事があってもいいもの。いつもと立場を逆転させて、アルフィンはちょっと優越感に浸り楽しんでいた。さっきの雰囲気とがらりと変わり、二人の間は和やかな気持ちに包まれている。ジョウもこのミステリアスなツアーを楽しみ始めていた。もう孤独など感じてはいない。アルフィンにすっかり癒されていた。
     

引用投稿 削除キー/
■362 / inTopicNo.7)  Re[6]: 墜落
□投稿者/ めばる -(2002/12/11(Wed) 16:24:29)

     あたりの空気が幾分湿気を帯び暖かくなった。ジョウはアルフィンの思惑に見当がついたと一人ほくそ笑んだ。
    「いいえ。ジョウ。あなたの思っている様な事にはならないわよ」
     目が見えないと表情が豊かになってしまうのだろうか。アルフィンはまた気付いていた。
     ジョウは首を捻った。
    「やっぱりジョウの目がいやらしいんだわ。その目つきが凄く」
     まるで確信を得たようにアルフィンが言い放った。酷い言いぐさだ。
    「じゃあ、目を閉じてるよ……」
     肩をそびやかしてジョウは項垂れた。
     この上に洞穴があるのと、背を押されながらちょっとした岩場を登りきった。
     ちょうどその時だった。
     二人の手首に嵌めた通信機が同時に鳴り出した。ジョウがまずスイッチを入れる。タロスからだった。
    「終わりやしたぜ。これから回収にリッキーを向かわせやす」
    「お疲れ。すまないな。問題は?」
    「いや、別にありやせん。ただ<ミネルバ>はちっと修理しねえとならないんで」
     ジョウの隣で二人の通信を聞きながら、アルフィンが居所を知らせるために救助信号のスイッチを押していた。すぐにタロスがキャッチしてくれる。
    「ガキがもたつかなきけりゃあ、そうですな。20分位でしょう」
    「分かった。待ってる」
     それで通信を切った。
    「よかったね。上手く行って」
     アルフィンの口から安堵の言葉がでた。だが次に問い掛けもでる。
    「なんで言わなかったの?」
    「うん?」
    「怪我したって」
    「怪我じゃない。ショックで一時的に失明してるだけだ」
    「ふーん。ただの負け惜しみね」
     ジョウは肩を軽くそびやかせてみせた。
     そんなジョウの仕草をアルフィンは片眉を上げて何か悪知恵を思いついたようにニヤリと品悪く笑った。
    「あと20分あるわね。リッキーが来てくれるまで」
    「ああ」
     ゾクゾクと背に悪感が走る。ジョウは何故か嫌な予感がした。
    「もう仕事中じゃないわよね」
     なんだろう。このアルフィンから出る気は。やけに危険な匂いがした。なんかとてつもなく恐ろしい。
     アルフィンが突然ぴったりと身体を寄せてきた。抱き着いて来たのではない。密着させてきたのだ。思わずジョウが狼狽え後ずさりする。
     しかしアルフィンは離れない。更に腕を巻きつけようとしてきた。
     こんな処で何をするつもりなんだろうと当惑し、慌ててもう半歩下がった。
    「あ…っ」
     一瞬の浮遊感。そして大きな水音。
     ジョウの半歩下がったところには足場が無かった。
     アルフィンに誑かされた。誘惑するような振りをして落とされたのだ。
     ジョウは水を抗いながら上半身を起こした。頭からずぶ濡れである。一瞬何が起こったのか把握出来ず硬直していたが、事態を理解すると、その身体をわずかに震わせた。寒いのではない。誑かされた事に腹を立てたのだ。
    「大丈夫?」
     ジョウを落とした小さな岩場の上でアルフィンがジョウの気持ちも知らずに笑っているのが見えた。
     見えた…? 見える……
     今のショックで視力が戻った。とんだショック療法だったが効果はあった。出し抜かれた悔しさはあるが、怒りはすっかり萎えた。
    「天然温泉のお湯加減はどうかしら?」
     アルフィンは未だ気付いていない。無防備に腹を抱えて笑いながら岩場を降りてこようとしていた。悔しさは悪戯心に火を着ける。
    「最高。上等。申し分ない」
     立ちあがり、湯の中を進んだ。水深はジョウの膝の高さもないのでさほど歩きにくくはなかった。
     アルフィンの前までやってきた。
     ジョウが手を差し伸べる。アルフィンは未だジョウが見えないままだと思っているから、素直にその手を引き寄せ、この天然温泉から引き上げ様とする。
     その手を反対に強く引き寄せた。
    「きゃっ」
     小さな悲鳴と共にアルフィンが湯の友となった。そのまま遠慮なく抱き上げ、高く放り投げてやった。
     今度は彼女が大きな湯飛沫と湯音を上げた。
     長い金髪が濡れて顔にへばり付いていた。湯を飲んだのか咳き込んでいる。
    「なに…すんのよう」
     苦しそうな掠れた声で、恨めしげにジョウをその碧眼を細めて睨みつけた。
     ジョウは鼻で笑って片目を軽く瞑ってみせた。それで彼女はジョウの視力が戻った事に気がつく。ニッコリと笑った。ずぶ濡れで美しい金髪も乱れているが、特上の微笑みだった。ジョウもそんな彼女に微笑み返す。
     またジョウがアルフィンの前に手を差し伸べた。
     ついアルフィンはその手を取ってしまう。肩を抱き寄せられ、腕の中にその細身をすっぽり収めると顔を摺り寄せるようにして耳元に囁いた。
    「やっぱり俺と入りたかったんだろ」
     また抱き上げられた。アルフィンが抗い暴れはじめる。あまりの暴れ様にジョウのバランスが崩れた。
     とうとう二人で湯に沈んだ。
     あとはもうめちゃくちゃである。ただのジャレ合いになっていた。ふたりの楽しげな声が静かな森に響きわたっていた。

     突然爆音が轟いた。頭上に赤いデルタ翼の機体。翼に青と白の流星マークがある。<ファイターU>だ。
     楽しみ過ぎてリッキーの到着に気がつかなかった。
     僅かな空き地を探し、小さな竜巻をつくりながら着陸しようとしている。ジョウとアルフィンも慌てて湯庭から離れた。荷物を拾い集め、<ファイターU>の元に急ぐ。
     キャノピーが開いた。リッキーがひょこっと顔を出す。二人の姿を見て丸い目を更に大きく開け広げた。
    「なにやってたんだい?」
     リッキーの目に映ったのはずぶ濡れの二人。未だポタポタと水を滴らせているが、身体からはほんわかと湯気が立ち昇り、アルフィンはまるで湯上りのように頬を火照らせている。なんとも奇妙な姿だった。
    「俺らが来る間にふたりで風呂でも入ってたみたいだ」
     ジロジロと眺めながらリッキーは言った。
     ジョウは苦笑するだけで別に反論もしない。リッキーは正しい。だからそのまま<ファイターU>に乗り込んだ。あれやこれやと反論すればもっと怪しまれるからだ。怪しみはじめるとリッキーは五月蝿い。遊んでいた事がバレればもっと五月蝿い。こんな事は二人の秘密にしておけばいい。アルフィンはジョウの態度でそれを理解している。だから肩をすくめる様にしてカーゴエリアに潜り込んだ。
    「なんだかズルイなぁ」リッキーは一人愚痴っている。
     <ファイターU>がゆっくり浮かび上がり、<ミネルバ>への帰路についた。

     一方<ミネルバ>ではタロスとドンゴがエンジンの応急処置を終え様としていた。
     回収状況を聞こうと通信機を取った途端、リッキーの叫び声が通信機から漏れてきた。
    「ちょっと、アルフィン!そんなところでジャケット絞らないで!」
     どうやらアルフィンが濡れたクラッシュジャケットを絞っているらしい。何やら文句を言っているアルフィンの声が聞こえる。
    「整備する身になってよぉ」
     リッキーの声は半ば泣き声にちかい。
     また苛められてやがる。
     タロスは口元に笑いを浮かべながら通信機を元に戻した。

    END 

引用投稿 削除キー/
■363 / inTopicNo.8)  Re[7]: 墜落
□投稿者/ めばる -(2002/12/11(Wed) 16:31:10)


    <最後まで読んで下さった方への、苦しい弁解>

    いやぁ〜。言葉のボキャが相当に足りなくって参りました。
    つまらない展開になってしまった事をお詫びします(汗)
    話を進めるうちに方向性が無くなってしまって…(泣)
    おや?方向性など最初から無きに等しいことでしたが(爆)

    ごめんなさい。次こそは… 
fin.
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