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■37 / inTopicNo.1)  GARNET PIERCE
  
□投稿者/ う〜ろん -(2002/03/03(Sun) 21:09:24)
    ☆その1☆

    「ドンゴ! こっちよ、こっち!」
    アルフィンの声がハッチに響き渡った。
    ガラモスが起こしたクーデターからピザンを救った、クラッシャージョウチームのミネルバが停泊している、ピザン宇宙港。
    クーデター事件で傷ついたミネルバは、修理の為に数週間ドック入りしていたが、2日前にやっと蘇り、まもなくピザンを後にする。
    そのミネルバの緊急ハッチ入り口で、アルフィンは大荷物を抱えて立っていた。
    彼女の長い金髪は束ねられて黒いキャスケットの中に収まり、ありふれたモスグリーンの地味なスペースジャケットに身を包んでいる。
    この姿ではおそらく誰も、彼女が「王女アルフィン」とは気がつかないだろう。
    「キャハ!アルフィン」
    船内からドンゴが、カタカタとキャタピラーの音をさせて近づいてきた。
    「荷物ハ、コレダケデスカ?」
    「そ! これでもずい分減らしたのよ」
    足元のスーツケースを、コツンと軽く蹴飛ばした。
    全部で3個ある。アルフィン一人でここまで運んできたのは、一苦労だったに違いない。
    「マルデ、夜逃ゲノヨウデス!」
    「夜逃げじゃないわよ! 密航よ、密航!」
    「夜逃ゲモ、密航モ、同ジヨウナモノデス」
    「ひっどーい! でもあんまり変らないか…」


    次の仕事が差し迫っていたジョウのチームは、クーデターが解決次第、すぐにピザンを出立する予定でいた。
    しかし予想外にミネルバの修理に時間が掛かってしまったのと、国を挙げての解放記念行事に付き合うことになってしまい、今日の今日までピザンに滞在することになってしまったのだ。
    今ごろ盛大に、最後のお別れの式典が王宮で行われているはずだ。
    ピザンの王女であるアルフィンは、本来ならこの式典に出席しなくてはならないのだが、「気分がすぐれない」との理由で欠席していた。
    もちろん「仮病」である。
    最初からアルフィンは、お別れの式典に出席するつもりはまるでなかったのだ。
    数時間もかかる来賓の挨拶と、数千人におよぶ握手。出航の時間ギリギリまで式典に拘束される今こそ最大のチャンスだ。
    『ミネルバに乗りたい、クラッシャーになりたい』
    面と向かってお願いしたって、たぶんジョウは許してくれないだろう。
    どうしてもジョウと一緒にいたい。
    これで終ってしまうなんて、絶対にイヤだ。
    アルフィンは決心した。
    実力行使しかない。
    密航しちゃえ!


    「荷物ハ、ドコニ置キマショウ?」
    「そうね。とりあえず、私が使わせてもらってた第六船室に置いておくわ」
    ドンゴはスーツケースをヒョイと積み上げて、走行しはじめた。
    ジョウ達が乗り込む前にミネルバに潜伏すれば、しめたものだ。
    「うふ。上手くいったわ! ここまでくればもうこっちのもんよ♪」
    アルフィンはドンゴの後を、鼻歌まじりに歩いていく。
    「式典ハ、マダ終ワラナイノデスカ?」
    器用に3つのスーツケースを運びながら、ドンゴが聞いた。
    「ミネルバの出航時間に間に合う時間、ギリギリまでかかるハズよ」
    アルフィンは密航にあたり、綿密に計画をねった。
    まず、ドンゴをグリップ社の最高級オイルで買収し、味方につけた。
    お別れの式典のタイムスケジュールを調べ、ちょっぴり時間を延長してもらえるように執務長にお願いした。ついでに来賓挨拶も長くしてもらった。
    国民の関心が式典に集まっており、街のあちこちに設置されたモニターで放送される様子に見入る人が多かったからだろう、王宮から宇宙港に辿り着くまでに、誰かに気づかれることもなかった。
    宇宙港の出国管理事務官にもお願いして、ミネルバのお見送りに来ている人たちに見つからないように、とりはからってもらうことも忘れなかった。
    ここまで計画は完璧に上手くいっている。
    いずれ、アルフィンがピザンを出てクラッシャーになったことは、国民の知るところになるだろうが、今はまだ公にしないほうが良いだろう。
    ミネルバが宇宙に出てしまえば、もう戻ることは無理なハズだ。ピザンに戻れば、次の仕事に間に合わなくなってしまうことも調べてあった。このあとは宇宙に出てしまうまで、見つからないように船室でじっとしていればいい。
    「うふ。今ごろジョウ達は握手攻めにあってる頃かな?」
    いたずらっぽい顔をしてほくそ笑む。
    「ドンゴ、このあともヨロシクね!」
    「キャハ。オ任セクダサイ〜」
    アルフィンがキャスケットを脱ぐと、美しい金色の髪がさらさらと肩に落ちた。
    腕を宙にぐーっと伸ばして背伸びする。
    「う〜ん! なんだかワクワクしてきちゃった!」


    出航の準備の為にブリッジに向かうドンゴを見送ったあと、アルフィンはドンゴが用意してくれていた、クラッシュジャケットに着替えた。
    真っ赤なクラッシュジャケットを着ると、なんだか身が引き締まる思いがする。
    クーデターによって、彼女の人生は大きく変化したのだ。
    与えられた「王女」という肩書きで生きていくより、自ら望んだ道を歩いていく方が爽快だ。
    ピザンを飛び出すことに後悔はみじんもなかった。
    しばらくして、床や壁から振動が伝わってきた。ミネルバが滑走路に入って、離陸する態勢に入ったらしい。
    見つからないように、ドンゴが上手くやってくれたようだ。
    「やった! 密航作戦成功!」
    ミネルバは宇宙に飛び立った。


    大気圏を離脱した頃を見計らって、アルフィンは、スーツケースから小型のスタンドミラーと、小さなキットを取り出した。ピアスする為に耳朶に穴をあける道具、ピアッサーだ。
    キットにセットされたピアスは、シンプルなカットが施された赤い小さなガーネット。
    母のエリアナが自らのネックレスを解いてピアスに作り直し、ピザンを立つアルフィンに贈ったものだった。
    テーブルに立たせたスタンドミラーに、髪をかきわけて耳を映す。
    キットで左の耳朶を挟み、力を込める。「カシャン」と音がして、わずかに痛みが走った。
    「…痛」
    少しだけ顔をしかめて鏡を覗くと、ピアスはちゃんと耳朶についていた。
    「・・・ん!OK!」
    次は右耳。同じように挟み込んで力を込める。こちらも上手くいった。
    アルフィンの両耳に、赤いガーネットのピアスが輝いた。
    できるだけ体が写りこむようにしながら、小さな鏡に自分の姿を映す。
    真っ赤なクラッシュジャケットに、赤いピアスはよく似合った。
    娘の幸せを願って母から贈られたガーネットのピアスは、アルフィンの小さな決意のしるし。
    「よし、バッチリよ!」
    鏡の中のちょっぴり誇らしげな自分に向かって、アルフィンはにっこり微笑んだ。


    やがて鏡を閉じると、ドアのむこうからバタバタと忙しい音が聞こえてきた。
    「あ、来た!」
    ドアがスライドするのももどかしく、ジョウ、タロス、リッキーの三人が、物凄い勢いで部屋に入ってきた。自分の姿を見て、三人は唖然と立ち尽くしている。
    「アルフィン!」
    三人の声がハーモニーした。
    にっこりと微笑みアルフィンは言った。
    「あららら。もう見つかっちゃった?」




    ☆GARNET(1月の誕生石。真実・友愛・忠実の象徴)☆
    ガーネットは、チェコ・ボヘミア地方では「身を守り幸せを呼ぶ宝石」と言われ、ローマ時代には十字軍の護符として騎士が身に付けていました。特にチェコのクリスタルガラスの彫刻技術でカットされたものは、「ボヘミアンガーネット」と呼ばれ、ヨーロッパでは、母親が娘に幸せを願って贈ります。1月生まれのアルフィンの誕生石でもあります。
    (原作のアルフィンはピアスなんてしてないですが、お許しください〜)

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■38 / inTopicNo.2)  Re[1]: GARNET PIERCE
□投稿者/ う〜ろん -(2002/03/03(Sun) 21:15:34)
    ★その2★

    「ジョウ! あたしっ」
    標準時間で日付がそろそろ変る頃、インターフォンから、なにやら切迫した声が聞こえてきた。
    部屋の主であるジョウの返事を待たずにドアがスライドし、アルフィンがつんのめって入ってくる。
    慌てふためいたアルフィンの様子に、ソファでくつろいでいたジョウが体を起こし振りかえった。
    「なんだ、どうかしたのか?」
    ジョウはかなり行儀の悪い格好でソファに寝そべって、録画してあったサッカーを見ていた。
    『ギャラクシーカップ』と呼ばれる、銀河系ナンバー1のサッカークラブチームを決めるトーナメント戦だ。ジョウが自室でくつろいでいるときは、大抵、サッカーやフットボールやバスケットなど、スポーツ番組を見ていることが多い。
    部屋に入るなりアルフィンは、きょろきょろと室内を見わたし、かなり焦った様子でジョウに聞いた。
    「あたしのピアス見なかった?」
    「ピアス?」
    「あたしがいつもしてる赤いやつ。・・・これよ」
    アルフィンはジョウの傍に近づいて、金髪をかき分け右耳を示した。耳朶には赤いピアスが輝いている。
    あぁ…これか。そういやよくしてるやつだな…。
    ジョウはなんとなく思い出した。
    「片方どっかいっちゃって…。さっき気がついたの」
    「リビングやブリッジは探したのか?」
    「ドンゴに手伝ってもらって探したんだけど、出てこなかったの。廊下も。ドンゴが見つけられないなら絶対に無いわ」
    ジョウの問いかけに答えながら、アルフィンはテーブルの上や床に視線をめぐらした。
    「自分の部屋は?」
    「そんなの一番最初に、ぜーんぶ見たわよっ」
    イライラしてきたアルフィンは、のん気に座っているジョウの背中のクッションを無理やりひっぱりだした。
    「ほらっ、ジョウも座ってないで探してよ!」
    「…あ、はい」 
    「あと怪しい所は、ジョウの部屋だけなんだから」
    アルフィンの真剣な表情に、ジョウも立ち上がって探す事にした。
    アルフィンはすぐに、今までジョウが座っていたソファに飛び乗って、隙間をくまなく探し始めた。
    「こうゆうソファの隙間とかに、あったりするのよ」
    邪魔くさそうに、ソファの上にあったクッションを、ポンポンと放り投げる。
    「うへっ」
    放り投げられたクッションの一つが、床を探すジョウの頭に落下してきた。
    アルフィンは全く気づかずに、今度はソファの下を這いつくばって覗いている。一心不乱だ。
    「ないわ… どこへ行っちゃったんだろう」
    アルフィンは唇をかんだ。余程大切なものらしい。
    「そんなに大事なピアスなのか?」
    「ピザンを出てくる時に、ママがプレゼントしてくれたピアスなの。自分のネックレスを解いて作ってくれて。お守りにしなさいって」
    声がため息まじりになってしまう。
    アルフィンがクラッシャーになって何年たったが、ジョウがピアスの話を聞いたのは初めてだった。
    国を捨ててクラッシャーになったアルフィンにとって、母親の愛情がこめられたピアスは大切なお守りなんだろう。
    曇るアルフィンの顔を見て、ジョウは優しく言った。
    「ミネルバの中で無くなったんなら、何処かにあるはずだ。必ず出てくるって」
    「…うん」
    「よく探そう」
    大体、ジョウの部屋にはあまりもモノがない。作り付けのベッドやクローゼットを使っているし、オーディオやテレビモニターも壁にはめ込まれている。家具といってもソファやテーブルくらいだ。
    それでもテーブルの下を覗いたり、読みかけの雑誌のページの間をチェックしたが、ピアスは見つからなかった。
    「ないなぁ。ここにはないんじゃないか?」
    「でも、もうここしか探す所ないもの。―――あ!」
    思いついたのか、アルフィンはすくっと立ち上がると、つかつかと部屋の奥にベッドあるに近づいた。
    ブランケットを勢いよくめくってベッドに飛び上がる。ブランケットやシーツの間を、注意深く目を凝らして探した。
    「なんで無いのよ〜!」
    んもう、とばかりに今度は枕を放り投げる。飛んできた枕を、ジョウはあわててキャッチした。
    「おっと。放るなって」
    必死の形相で探すアルフィンを眺めながら、ジョウが小声で言った。
    「んなところにあるか…」
    心当たりはあったのだ。
    「あっ!」
    アルフィンが叫んだ。また放り投げようとした枕の下に、赤いピアスがころんと転がっていた。
    「あった! あったわ! 発見! うれし〜!!」
    アルフィンはベッドの上で、子供のようにぴょんぴょんと飛び上がって、喜んだ。
    「よかったぁ!」
    満面の笑みを浮かべてベッドから降りると、足元にちらかった枕やクッションを、ひょいひょいと軽やかにジャンプして、ジョウの元へ駆けよった。
    ジョウはピアスが見つかってホッとしたのか、苦笑いなのか、バツが悪いのか、それとも照れくさいのか、あれこれと混ざり合った表情を口元に浮かべて言った。
    「・・・・よかったな、見つかって」
    「うん!」
    アルフィンは、またピアスを何処かへ無くしてしまわないように、ポケットからキャッチを取り出して、すぐに左の耳につけた。
    「良かった。これで安心して眠れるわ」
    にっこりと微笑みながら、ジョウの首に腕をまわして、頬に顔をよせた。
    「さんきゅ! じゃ、今日はおやすみなさい」
    「・・・おやすみ」

    自分の腕からするりと離れ、足取りも軽く部屋を出て行くアルフィンを見送ったあと、ジョウは自分の部屋を見渡し、苦笑した。
    あちこちに放り投げられた枕やクッション。ページが開かれたままの雑誌。ソファの位置は、最初にあった場所からかなり移動している。
    やれやれとソファを元に戻し、クッションを拾い集めていると、テレビモニターが試合終了を告げた。いつのまにかサッカーの試合には決着がついている。
    「どこまで見たんだっけなぁ」
    ジョウはリモコンを操作して、先程の展開まで試合を引き戻した。 


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