| 後日談。
<ミネルバ>のブリッジにて、今日も二人は仕事のチェックに余念がない。
「はー…!もーやだ。一体いつまで続くのよ」 「深夜」 「冷静に返さないでくれる。そういう答えが聞きたいんじゃない」 「じゃあさっさと片付けろ。そうしたら楽しいオフが待っている」 「もー!アラミスのおやじ共、面倒な仕事は全部あたし達に押し付けてんじゃないの?どんだけあんのよ。この膨大なデータ!」 「さあて。爺さんたちもそろそろ年だしな。頼んだ瞬間に忘れてるんじゃないか?」 「冗談じゃないわよ。そこんところをきちんと上に意見して、チーム内のモチベーションを高く保つのがリーダーの仕事でしょ」 「やってんだろ、だから。次のオフはケンタウルス星系のレグルスだぜ」 「うそ!あの高級リゾートの」 「そう。だからさっさとやれ」 「わあお。どこ行こっかなー」 「さっさと仕事をやれっての」 「はあーい」
その後、二人はどうなったかと言えば、別段どう変わったということはなかった。 相変わらず、アルフィンはキレやすいしルーに対してもライバル心バリバリだ。 一方のジョウは相変わらず仕事が一番でオフは二の次、キレるアルフィンに辟易しては溜息を洩らす。 あの告白は、仕事に疲れた頭が見せた白昼夢だったのではないかと思うこともしばしばだった。 けれども。
アルフィンは目の前でキーボードを叩くジョウにちらりと視線を流し、その腕に触れる。 そーっと。ほんの少しだけ。
すると。 「どうした」 「べつに」 「退屈か」 「退屈じゃないけど。ただ早くシャワー浴びて寝たい」 ジョウは小さく笑って 「もう少し我慢しろ」 と言う。 「あたしにいて欲しい?」 と冗談で聞いたアルフィンに 「もちろん」 と呟いて「いてくれるとホッとする」とジョウは言う。
これには少々驚いた顔をしてアルフィンは「そうなの?」と言った。 「ああ。俺は昔からそうだぜ」 なんてことなく言ったジョウに、 アルフィンは「昔から?知らなかった」と答えた。
「…どれくらい昔?」 「だから、アルフィンがここに密航してきた時から」 「…、そんな前からあたしって特別だったの?」 「そう。…すごい特別」 「そんなにあたしって大切だった?」 「大切。…だから、きみはにぶいって散々俺、言ったろ」 「…だからジョウにだけは、言われたくないんだってバ」
多少、長年慣れ親しんだ疲れを感じながらアルフィンは膨れる。 そうして、そんなアルフィンを見て、ジョウも静かに笑った。
いつもの<ミネルバ>のいつもの光景。
アルフィンの薬指に光る小さな宝石のように、ささやかな幸せが眩しい夜だった。
「そんな夜」
|