| 「ねえ、医療ユニットのディスプレイが調子悪いの。見てくれる?」 「ああ。」 仕事が一段落した後、リッキーに当直を変わってもらって遅めの食事をとっていたジョウに、食事の後始末のためにダイニングにいたアルフィンが頼みごとをしてきた。タロスは武器庫の点検で席をはずしていた。 「なんか、動きが遅いのよ。」 「うーん、もうハードが古いのかもな。医療系のパーツはあまり更新しないから。」 「じゃあ、一緒に来てくれる?こちらの在庫点検、もう何か月もしてないから そろそろ取り掛かりたいの。」 「OK、じゃあ、行こうか。」 食事が終わり、二人で一緒にメディカルルームへ向かった。
「ほら、この辺とか無駄に点滅してない?」 「そうだなあ、もうこいつダメかな・・・。」 ユニットのディスプレイから、を何枚も画像や資料を立体映像で開き、チェックを始めた。 「アルフィン、そっちのマニュアルをとってもらえるかな?」 ユニットを新しく変えるのは簡単だが、直せるものはつい直そうとしてしまうのがジョウの性格。 コンピューターをいじるのは好きなだけに、いろいろ立ち上がってきた資料の中まで調べて始めた。 「何だこれ?」 アルフィンがマニュアルを探して、ほかの棚を覗いていたとき、ジョウは資料の中から、医療記録という名前のファイルを見つけた。 カルテは別にファイルがあるのに、これは何だろう? 好奇心でファイルのマークを指を触れて、クリックする。 すると、立体映像が新しく目の前に出てきた。 出てきた画面は真っ白だった。 やがて、聞き慣れた声が聞こえてきた。 「えっと、左の下の方。」 アルフィンの声だった。 すると、画面のカメラがすうっと引いていき、やがて白いものの正体がわかった。 アルフィンの背中だ。 淡い金髪が少し乱れて背中に張り付き、なんとも艶めかしく映っている。 「うわあっ。」 思わず声が出た。頬が熱くなるのを感じて、椅子の背もたれまで体を引く。 「ちょ、ちょっと、なにこれーーーーーー。」 マニュアル探しの手が止まり、アルフィンが大声でディスプレイの方へ飛んできた。 「や、やだ、ちょっと、ちょっと止めてよ。」 肩越しからアルフィンが乗り出してきた。 「止めろって言われても、いや、何でこれが出たのか俺にも。」 画面を指さし、もう一度見る。 「やん、もう、見ないでよ!」 とっさにアルフィンは手で覆ってジョウの目を塞いだ。 「見えないと操作できないんだけど。アルフィン。」 「も、もう、じゃあ、目をつむって!」 「一緒だろう。」 「じゃあ、後ろ向いててよ!」 ジョウの座っている椅子をくるりと反転させ、アルフィンは慌ててディスプレイをあちらこちらクローズさせた。 「止まったか?」 「う、うん。」 アルフィンは額から汗が噴き出していた。顔は真っ赤だ。 「なんだったんだ、今の。」 椅子を向きなおしてジョウが聞いた。 「うー。た、多分、この間、治療してもらった時のだと思う・・・。」 「治療って?」 「ほ、ほら、この間、ジャングルで敵に撃たれたじゃない?背中。クラッシュジャケットは防弾着だけど、打ち身は残るでしょ・・・。それで・・・。」 「それで?」 「・・・ドンゴにテーピングしてもらって・・・。」 「なんで?ドンゴに頼んだんだ。」 アルフィンは目を伏せて、ますます真っ赤になって口ごもった。 「だって・・・。リッキーやタロスに頼むわけには・・。いかないし・・・。」 ― 頼む奴一人抜かしてやしないか?俺は無視かよ。 「で?もしかして今までドンゴに頼んでたのか?」 「う、うん・・・。」 「全く、大した治療もできないだろう。それじゃあ。」 「だって、じゃあ、一人じゃできないし・・・。」 「わかった、新しい医療ユニットを入れよう。全自動で軽い治療も対応できる奴。」 人差し指を立てて、いい提案とばかりにジョウが言った。 「え?」 「あんまり、怪我されっぱなしでも、いけないからな。」 そういって、ポンポンとアルフィンの頭をたたいた。 「あ、ありがとう!えっと、えっと、この映像はじゃあ、消しちゃっていいかなあ?」 アルフィンは頬を染めながら、嬉しそうに尋ねた。 ちろっとジョウは他のディスプレイ画面をみて、 「ああ、いいさ。」 「じゃあ、あたしがしておく!あ、ドンゴにも言っておかなくちゃ。これからは画像残さなくていいって。」 「そうだな。俺が言っておくよ。」 ドンゴは4人の命令には絶対服従するようにプログラムされている。 どんな命令でも、クルーの命令には従うようジョウが改造したのだ。 必死でディスプレイを睨みつけ、画像ファイルをゴミ箱に入れているアルフィンを置いて、ジョウはそっと廊下に出た。
「ドーンーゴ!」 リビングに戻ったジョウは、床をクリーニング中のドンゴを見つけた。 「キャハ?何カ御用デスカ?」 「お前さあ、医療用のコンピューターに治療記録画像残す事、誰の命令でやってるんだよ。」 「アレハ、ガンビーノカラノ依頼デヤッテマシタ。女性ノ治療記録は必ズ残スヨウニト。」 爺さんかよ。やっぱり。んで、その命令まだ残ってたんだ。 「おい、アルフィンにバレたぜ。すげえ、勢いで怒ってたからな。お前がわざとやったって知れたら、お前今日にもネジ一本も残らず、宇宙の塵になるかもな。」 「ヒー、御助ケヲ」 ドンゴのセンサーがチカチカ赤を点滅させる。 「後、お前さあ、ちょっと見せろよ。」 そういうとジョウはしゃがんで、自分の携帯パッドとドンゴのメモリーを繋いだ。 「当たりだぜ。」 ドンゴのメモリーの中に先ほどの画像のファイルが残されていた。 「全く、本当にお前ロボットなのかよ。時々小さい人間が入ってるんじゃねえの?って思うことがあるぜ。」 呆れ顔でジョウはドンゴに言った。 「ソレハ、ばっくあっぷノタメデス。」 カチャカチャとハンドルを振ってドンゴは抗議した。 「いいか、このことは皆に黙っておいてやるよ。その代り、このことも内緒だ。」 ジョウはさっきの画像を自分の携帯Podにコピーさせ、ドンゴのメモリーを消去させた。 「嗚呼、人デナシ・・・。」 ドンゴは今度はセンサーを青色に点滅させ抗議した。 「まあ、今度医療ユニット入れ替える時に、お前のパーツも頼んどいてやるから。」 ニカッと笑うと、ジョウは繋いでいた携帯Podを外して、上に投げて、手で受け止めなおした。 ―保存、保存。 「超高級ぱーつジャナイト、訴エテヤルー!」 喚くドンゴに手をひらひらさせて、ジョウはまたアルフィンのいるメディカルルームへもどっていった。 fin
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