| バルコニーから見える夜空には大きくて美しい満月が輝いていた。 またたく星空に、エリアナはそのどこかにいる愛しい娘を思う。 おだやかな日々。その毎日の中で、アルフィンを思わないことはない。 今にも「お母様。何していらっしゃるの?」とドアを開けて入ってきそうなくらいに、アルフィンがピザンを出たときのままになっている彼女の私室は、16年間の思い出をたくさん閉じ込めていた。
本棚から取り出したアルバムは、彼女が誕生した時から毎年必ず誕生日に撮影していたポートレートの数々が貼られている。 ページをめくるごとに成長している愛しい娘。 指先で写真の中の娘の輪郭をなぞりながら、今日届いたビデオメールの中の声を、エリアナは思い出していた。 起き抜けのチームメンバーをカメラに収め、大笑いしていた娘の声。 どこかのホテルの部屋でくつろぐ姿の娘。 元気いっぱいな声と笑顔の娘の姿は、今見ている写真よりも少し大人びて、また少しきれいになったように思えた。
アルフィンがピザンを去って2年少し。 たまにやってくるビデオメールや、ハイパーウェーブ通信でのやりとりはあっても、なかなか会うことはままならない。 寂しくもあり、頼もしくもあり。 たくましく自分の道を切り開いて前へと進む娘を誇りらしく思う反面、身を投じた世界を思うと、心配で眠れないこともある。
あの事件がなければ、アルフィンはピザンから出ることもなく、また、クラッシャーという命がけで生きる世界に身を投じることもなかったと思う。
そうであれば、アルフィンが自分のすべてを投げ打ってでもついていきたいと思える異性に出会うこともなかったかもしれないと思うと、あれはあれで運命だったのだ、と最後には必ず思えてしまうのだった。 幾度も幾度も考え、悩んだ毎日は、きっとこの先も正解がでないままだと思う。 それが子育てというもので、それが女の幸せというものなのかもしれないと思った。
16歳の誕生日に撮影したものを最後に写真は終わり、その後ろにアルフィンが自筆の手紙を書き添えていたのを発見したのは、彼女が飛び出して数か月してからの事。
生きていて、生まれてきてよかった。 私は今本当にそう思えます。 私を育ててくれて、この世界へ導いてくださって、感謝しています。 本当にありがとうございました。
そんな風に締められていた手紙。 きっとこの言葉は、ジョウに出会えたからこそ、彼女から出た心からの言葉だという事。 まっすぐで純粋で、決してあきらめることをせずに前を向いて進んでいく娘は、自分の生きていく道を見つけて飛び立っていった。
あなたもそうなるのかしらね・・。 大きくなったおなかに手をあてて、そっと呟いた。
「・・・・チャンスを作って必ずピザンへ帰るわ!私にも抱っこさせて! お父様お母様、本当に本当におめでとう、私もすっごくうれしいわ!! あ、それと、彼には美しくて気品あるお姉さまの存在をきちんと伝えてちょうだいね!」
そんな言葉で締められたビデオメールには、クラッシャージョウチームの面々からもたくさんのおめでとうの言葉が入っていた。 この年齢になっての妊娠と出産に、不安を感じないわけではなかったけれど、誰より喜んでくれていたアルフィンの応援にも後押しされた。
アルバムを閉じ、窓からもう一度夜空を見上げた。 「私こそありがとう。あなたが娘でいてくれてよかった」 星に向かって言葉をかけ、新しい命と娘の無事を月に願った。
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