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私は、待っていた。 もう、来てくれないんじゃないかと思いながら、ハラハラして、みっともないくらい落ち着きなく待っていた。 王室のプライベートの客間で、王妃も私と同じくらいハラハラしていた。 国王は、のんびりとコーヒーを飲んでいた。 約束の時間まで、あと3分。 というころで、ものすごい轟音が聞こえた。 一体何だと、大きな窓の外を見ると、中庭に、真っ赤な戦闘機が降りてくるんだよ! 狭い中庭に、垂直着陸する赤い戦闘機。大変な技術だ。 王妃が、額に手を当てて瞑目していた。 国王は、楽しそうに笑っていた。 私は呆然として、突っ立っていた。 すると、キャノピーが開いて、ひらりと赤いスペースジャケットの女性が降りてきた。 長い金髪、すらりとした手足、凛とした姿。
ああ、彼女だ。 きてくれた。
安堵して、彼女が私の前に立ってその蒼い目で私を睨みつけても、私は手にキスすることも忘れて、ただ彼女に見惚れていた。
「ミスター・ファース、先日は式典にご臨席くださいましてありがとうございました。せっかくのお申し出ですが、ご覧の通り私はいまやピザンの王女でも何でもありません。クラッシャーです。私はクラッシャーという仕事に誇りを持っています。それに、まだ19歳です。率直に申し上げますが、結婚は一切考えておりません。そういうわけで、このお話はお断りさせていただきます。では、失礼いたします」
聞かせてあげたいよ、あの声を。 張り詰めた銀の糸をはじくような声で、一気にそう言うと、くるりと私に背を向けた。金髪がふわりと揺れてね、眩暈がしそうだった。 「お父様お母様、またね」 彼女は手を振って、部屋を出て行く。 中庭の戦闘機にひらりと乗りこむのを見て、私の身体はやっと動いた。 走って、キャノピーが閉まる直前に、彼女に声をかけることができた。
「プリンセス・アルフィン!!」 「…なんでしょうか」 そのときの仏頂面といったら!!
「お会いできて光栄でした。今すぐの結婚は諦めます。ですが、あと5年、10年経って、あなたの気持ちが変わることがあれば私を思い出していただけますか。私は、あなたを忘れる事なんか絶対にできません。いつかまた、会えたときには…」 そこで戦闘機のエンジンが入って、私の声はかき消された。 そして、マイクを通して彼女の声が降ってきた。
「おっさん危ないわよ!!ふっ飛ばされたいの!?おどき!!」
轟音と爆風、私は本当にふっ飛ばされそうになりながら、空に飛び立っていく彼女の機体を見送った。
それから、腹がよじれるほど笑った。
最高だ、プリンセス・アルフィン!! その時、決めた、 私の伴侶は、彼女しかいないってね。
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