FAN FICTION
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■43 / inTopicNo.1)  Coffee Break
  
□投稿者/ なつ -(2002/03/09(Sat) 06:36:39)
    連載中の話でアルフィンが書けなくてつまんないので(自業自得と言わないで…;_;)、単発で短いの書いちゃいました。気晴らしです。

    興味がおありでしたら読んでみてくださいまし<(_ _)>。
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■44 / inTopicNo.2)  Coffee Break
□投稿者/ なつ -(2002/03/09(Sat) 06:38:39)
    <Part1・タロス>

    「ねえ、タロス。ここには紅茶はないの?」
     キッチンから出てきたアルフィンに訊ねられたタロスは、倉庫から大きな袋を運び出すと彼女に手渡した。
     ずしりと重い、大きな袋を抱えてアルフィンは目を丸くする。
    「なに、これ?」
    「紅茶だろ?」
     唖然とした様子のアルフィンに疑問を感じながらタロスが言う。
     するとアルフィンはそのとき初めて袋を見た。
     袋の表面の字は確かにTEAと読める。袋を開けて香りを確かめ、アルフィンは眉間にしわを寄せた。
    「ほんの少しだけ紅茶っぽい香りはするわ。でもこれ、インスタントの粉じゃないのよ」
    「熱湯を入れりゃ紅茶になるんだ。あるだけ上等だろう?」
     アルフィンの頬がみるみる赤くなる。
     なんなんだ?
     タロスは首を傾げた。
     宇宙生活者にとっては、嗜好品である紅茶が船に積んであるだけで上等だ。タロスにはアルフィンの反応の意味がわからない。
    「こんなもの、紅茶って言わないわよ。あんたたち、コーヒーもこんな粉でごまかしてんの?」
    「ごまかしてねえよ。当たり前だろう」
    「冗談じゃないわよっ!」
     アルフィンは目を吊り上げた。
     ああ、あれは怒りの反応だったのかとタロスがいまさら合点する。
     しかしタロスの慌てた風もない、淡々とした態度はアルフィンの怒りをさらにあおっていた。
    「食事がフリージングやドライフードでごまかされるのは我慢するわ。でもいくら食事が貧しいからって、コーヒーも紅茶もそんなんじゃ人間枯れちゃうわよ。食後のお茶くらいまともなもん飲みなさいよ!」
    「まさかアルフィン、まともなもんて…葉っぱだ豆だって言わねえだろうな?」
    「そんなの当然じゃない」
    「大量にごみを出すような茶は、普通宇宙船にゃ積まねえよ」
    「ふざけないで、あんなまがいもんは飲めないわ」
     強い口調でアルフィンは言い切った。元王女の威厳か、人生50年・ベテランクラッシャーのタロスでさえ口を噤んでしまう。 
    「あんたたちに任しとけない。あたしが次の寄港地で買うわ」
     アルフィンは言葉を切り、じろっとタロスを睨む。
    「文句ないわよね?」
    「…」
     タロスが黙り込むのを見てアルフィンは頷き、手にした袋をダスト・ボックスに放り込むとにっこりと微笑んだ。
     ダスト・ボックスからはみ出すほど大きなインスタント・ティーの袋。
     あれで何回紅茶が飲めたろう?
     タロスはアルフィンに見咎められないようにこっそりため息をついた。
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■45 / inTopicNo.3)  Coffee Break
□投稿者/ なつ -(2002/03/09(Sat) 07:27:29)
    <Part2・リッキー>

     リッキーがごそごそとキッチンで探し物をしていた。
     お目当てのものが見つからずに、肩を落としてキッチンを出る。
    「どうした?」
     リビングルームに入ってきたリッキーの様子がおかしいのに気づいてジョウが声をかけた。
    「なんかコーヒー飲みたい気分でさ、探したんだけど」
    「ああ、そういやこれで最後だった」
     リッキーがテーブルの上を見ると、置かれた樹脂製のマグカップの中にコーヒーが入っている。
     苦いものが苦手なリッキーはミルクをたっぷり入れ、インスタント・コーヒーは少ししか入れない。対するジョウは焙煎の深いコーヒーを好み、インスタントであれば標準より多めに粉を入れる。ジョウの1杯分でリッキーのコーヒーは2杯飲めた。
     ジョウより早くキッチンへ行っていれば、との思いが頭を掠める。
    「ジョウ、いっつも濃い目につくるんだもんな。減るの早すぎだよ」
    「悪かったな」
     言葉とは裏腹に悪びれず笑って言うジョウを残し、コーヒーを諦めたリッキーが自室に向かう。階層を下り、居住区に入ったところで彼はアルフィンに声を掛けられた。
    「リッキー、どうしたの?なんか悪いものでも食べた?」
    「はあ?何でだよ。おんなじもん食ってるだろ?」
    「元気ないんだもの」
     アルフィンは小首を傾げる。長い金色の髪が揺れた。
     彼女の本性らしいものを多少知っているリッキーでもどきりとするほど愛らしいしぐさだ。わかっていながらリッキーは多少動揺する。そしてぶっきらぼうに理由を説明した。
    「コーヒーが飲みたかったんだけど、なかったんだ」
    「コーヒー?」
    「ジョウが好きなんだよな、コーヒー。しかも苦いやつ。で、すぐなくなっちまうんだよ」
     ジョウが話に出てきたところでアルフィンは思わずリッキーに近づいた。アルフィンの接近にリッキーはつい後ずさる。
    「ジョウがコーヒー好き?でもここのコーヒーって、インスタントなんでしょ?」
    「うん、そうだけど」
     なんなんだ。アルフィンのこの雰囲気は。
     俺らからジョウの好みを聞き出すつもりなのか?
     畳み掛けるように質問をぶつけてくるアルフィンに気圧され、リッキーは足を半歩ばかり後ろに下げた。
    「苦いのが好みなの?ジョウの豆の種類の好みは知ってる?」
    「苦いのが好きなのは知ってるけど、豆の好みまでは俺ら知らないよ」
     リッキーはさらに1歩さがった。リッキーが1歩下がると、アルフィンが1歩前に出る。リッキーが背後の壁に追い詰められるのは時間の問題だろう。
    「だって、宇宙船じゃ豆なんか積まないし。俺らが初めてコーヒー飲んだのはミネルバに乗ってからだし…」
    「そっか。そうよね。あんた、浮浪児だったって言ってたもんね」
    「う、うん」
     アルフィンがリビングルームへ続く通路へと目をやった。
     アルフィンはもう自分の方を見ていない。
     開放されるチャンスと踏んだリッキーは、おそるおそるアルフィンに言った。
    「あの、アルフィン。もう、いいかい?」
    「あ、うん。もういいわ。教えてくれてありがと、リッキー」
     何事か考え込むアルフィンを残し、リッキーはゆっくりと、しかし急いで自分の部屋に逃げ込んだ。
     あの気迫。数日前クラッシャーになったばかりの後輩とはとても思えない。
     もしかすると、自分は立場が一番弱いままなのかも知れない。
     リッキーの危惧は悲しいことに当たってしまいそうだった。
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■51 / inTopicNo.4)  Coffee Break
□投稿者/ なつ -(2002/03/14(Thu) 19:43:38)
    <Part3・アルフィン>
     
     アルフィンはこじんまりとしたカフェを見つけて入った。
     看板に『自家焙煎珈琲の店』と書いてある。
     タロスに啖呵を切ったものの、実のところアルフィンには聞きかじった程度の知識しかない。
     料理長の茶飲み話、真面目に聞いておくんだったわ…。
     アルフィンは彼らの話を右から左へ聞き流していた。彼女は王女時代の行状をほんの少しだけ後悔した。

     アルフィンはジョウと一緒にくるつもりだったが、彼はクライアントとの打ち合わせを理由に別行動を取っていた。ジョウの好みをリサーチするつもりだった当てが外れ、わらにもすがる思いで店の主人らしき男性の向かいのカウンター席に座る。
    「いらっしゃいませ」
     目の前に水の入ったグラスが差し出された。
     アルフィンはメニューを見た。が、書いてあることがさっぱり判らない。
     意を決し、男性を見上げて言った。
    「あの、コーヒーをお願いします」
    「ブレンドでいいですか?」
    「…ブレンドって何かしら」
    「何種類かの豆を混ぜた、当店独自のコーヒーですよ。カフェに来られるのは初めて?」
    「はい、そうなんです。今までは出されたものをそのまま頂いていたの」
     アルフィンは頬を染めて恥ずかしそうに言った。
     男性はアルフィンににっこり笑いかけ、その笑顔でようやくアルフィンの緊張が解ける。
     30代半ばってとこかしら。顔つきが怖いし、妙にがっしりしててエプロンが似合ってない。でもこの人、笑うと子供みたいな表情になるんだわ。
     マスターはその笑顔のままアルフィンの問いに答えてくれる。
    「ブレンドにはその店の特徴が出るんですよ。自分の好みに合う店かどうかが手っ取り早く判ります」
    「じゃ、ブレンドをお願いします。…それ、苦めなのかしら?」
    「ブレンドでも苦めのものがありますよ。うちではストロングブレンドと言っています。それがいいですか?」
    「はい」
    「かしこまりました」
     オーダーを終えて一息ついたアルフィンが店を見回す。客はアルフィンひとり。カウンターの中に男性がひとり、奥の厨房にウェイトレスらしい女性がひとり。
     これなら話が聞けるかも。
    「あの、マスター?」
    「はい?」
    「コーヒーのこと、聞きたいの。聞いていいかしら」
     アルフィンは恐る恐る切り出した。
     上目遣いの碧い瞳が縋るように主人を見る。
     一見の客。しかも自分はコーヒーのことを知らないも同然の素人。でも心底申し訳ないけれど、と思って願った事柄が叶わなかったことはない。運の強さか、自分の生まれ持った徳か。そんなものがあるのなら。
     アルフィンはマスターと思しき人物の瞳を見つめる。
     この類の質問には慣れているのか、マスターは笑って応じた。
    「お答えできることであれば、どうぞ」
     アルフィンの不安に曇っていた表情が一転してぱっと輝いた。
     思っていたことがすらすらと口から言葉となって流れ出す。
    「コーヒーを美味しく淹れてあげたい人がいるの。だけど、コーヒーのことってわかんなくて。今日もその人と一緒に来たかったんだけど、仕事なんだって来てくんなかったのよ」
    「苦め、というのはその方の好みなんですね」
     マスターの指摘にアルフィンは頬を染めた。
    「ええ、そうなの。でも、苦めって言ってもいろいろあるんですって?」
    「そうですね」
     布製のフィルターを水の入った器から引き上げながら、マスターは話し始めた。
     豆の種類、焙煎、淹れ方。
     なんでそんなに種類があんのよ、なんでそんなに細かいのよ。マスターは楽しげに話してるけど。
     アルフィンは文句を言いたいのを堪え、マスターの話に聞き入った。
     最後に小売もしているという豆とコーヒー器具の問屋を紹介してもらって、アルフィンは店を出た。
     きっと全部覚えてないけど、何とかなるでしょ。
     最初っから上手くできる人なんていないはず。
     
     夕方、ミネルバに戻ったアルフィンはかなり大きな荷物を抱えていた。
     彼女の帰還に出くわしたジョウが手を差し伸べ、その荷物を受け取る。
    「ありがとう、ジョウ」
    「いや、いいよ」
     嬉しげなアルフィンの笑顔に、とっさに赤くなった顔をそむけた。アルフィンは不可解なジョウの態度を気にする様子もなく、上機嫌で彼の隣を歩く。
     かなり重い抱えた袋の中身に思い当たるものもなく、ジョウはアルフィンに訊ねた。 
    「なんなんだい、これは?」
    「コーヒーと紅茶よ。他のお茶も買いたかったんだけど、今日はこれで精一杯だったわ」
    「お茶?お茶ってなんだよ?」
     アルフィンは微笑んでジョウを見る。
    「インスタントなんてケチなもん飲んでちゃだめよ。美味しい飲み物は命の洗濯なの。これからあたしがとびっきりの淹れたげるわ」
    「そんな、大変だろう?俺たちはインスタントでも…」
    「だーめ」
     アルフィンはぴしゃりとジョウの言葉をさえぎった。
    「それ、あたしの淹れるコーヒーを飲んでから言って」
    「あ、ああ」
    「というわけだからジョウ、その荷物キッチンまでお願いね」
    「はいはい」
     ジョウは素直に頷いて荷物をキッチンへと運んだ。
     隣を歩く楽しげなアルフィンの横顔を盗み見ながら思った。
     機嫌がいいならそのまま損ねないようにするに限る。
引用投稿 削除キー/



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