| <Part1・タロス>
「ねえ、タロス。ここには紅茶はないの?」 キッチンから出てきたアルフィンに訊ねられたタロスは、倉庫から大きな袋を運び出すと彼女に手渡した。 ずしりと重い、大きな袋を抱えてアルフィンは目を丸くする。 「なに、これ?」 「紅茶だろ?」 唖然とした様子のアルフィンに疑問を感じながらタロスが言う。 するとアルフィンはそのとき初めて袋を見た。 袋の表面の字は確かにTEAと読める。袋を開けて香りを確かめ、アルフィンは眉間にしわを寄せた。 「ほんの少しだけ紅茶っぽい香りはするわ。でもこれ、インスタントの粉じゃないのよ」 「熱湯を入れりゃ紅茶になるんだ。あるだけ上等だろう?」 アルフィンの頬がみるみる赤くなる。 なんなんだ? タロスは首を傾げた。 宇宙生活者にとっては、嗜好品である紅茶が船に積んであるだけで上等だ。タロスにはアルフィンの反応の意味がわからない。 「こんなもの、紅茶って言わないわよ。あんたたち、コーヒーもこんな粉でごまかしてんの?」 「ごまかしてねえよ。当たり前だろう」 「冗談じゃないわよっ!」 アルフィンは目を吊り上げた。 ああ、あれは怒りの反応だったのかとタロスがいまさら合点する。 しかしタロスの慌てた風もない、淡々とした態度はアルフィンの怒りをさらにあおっていた。 「食事がフリージングやドライフードでごまかされるのは我慢するわ。でもいくら食事が貧しいからって、コーヒーも紅茶もそんなんじゃ人間枯れちゃうわよ。食後のお茶くらいまともなもん飲みなさいよ!」 「まさかアルフィン、まともなもんて…葉っぱだ豆だって言わねえだろうな?」 「そんなの当然じゃない」 「大量にごみを出すような茶は、普通宇宙船にゃ積まねえよ」 「ふざけないで、あんなまがいもんは飲めないわ」 強い口調でアルフィンは言い切った。元王女の威厳か、人生50年・ベテランクラッシャーのタロスでさえ口を噤んでしまう。 「あんたたちに任しとけない。あたしが次の寄港地で買うわ」 アルフィンは言葉を切り、じろっとタロスを睨む。 「文句ないわよね?」 「…」 タロスが黙り込むのを見てアルフィンは頷き、手にした袋をダスト・ボックスに放り込むとにっこりと微笑んだ。 ダスト・ボックスからはみ出すほど大きなインスタント・ティーの袋。 あれで何回紅茶が飲めたろう? タロスはアルフィンに見咎められないようにこっそりため息をついた。
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