| みなさんはじめまして。 こんなんでいーのかな??と恐れつつ投稿いたします。 ま、初参加だし皆さんも大目に見てくださるでしょう。(決め付けてます) では、適当に流し読みしてくださいませ。 最後まで行き着けるか・・・不安。
**************************************** 「ほぇー。」 突然、リッキーが素っ頓狂な声をあげた。 「・・・ぶないよなー。でも・・・まさか?」
ミネルバのリビングルームでのティータイム。 いつの間にか習慣になっていた穏やかな時間。 そう、アルフィンがチームに加わってからの。 しかし、今そこには彼女の姿は無い。 アルフィンはピザンに帰省していた。 彼らは集まってコーヒーを飲みつつ、無意識に物足りなさを感じている。 会話も途切れ、各々が好きに過ごしながら。 タロスは通信端末に向かい、ジョウはうたた寝。 相手にしてもらえないリッキーは、仕方なくスクリーンに流れるニュースパックを つまらなそうに見ていた。 最近よくある光景。でも、今日はいつもと違っていた。 やっと、仕事に区切りがついた。けだるい開放感。 明日からは久しぶりの休暇・・もし、何事も無ければだが。 それに。 二週間ぶりにアルフィンが帰ってくる! 次の休暇の為に今向かってる、惑星ビューラで落ち合うのだ。
疲れを癒す、ゆったりとした空気が流れていた。
が、リッキーの甲高い声がそれをぶち壊す。 「なんじゃい、クソガキ。テメエは、ニュースも黙って見れねぇのか」 画面から顔を上げ、タロスが抑えた声で叱るように言った。そして、リッキーの横に 座るジョウにさり気なく目をやる。 大丈夫だ、起きる気配は無い。タロスはジョウが無理をしていたのを知っていた。 昨日も徹夜で報告レポートを作っていたに違いない。
ここ数ヶ月は休む間もなかった。正確に言うと、まとまった休みを取ろうとするのだ が、狙ったようにアラミスから緊急通信が入った・・・モチロン断れない。 さすがに切れて、ジョウは三度目の緊急通信が来た時にゴネた。 先手必勝、余程の事が無い限りアラミスからの通信は無いだろう。
幸い、手軽な仕事が続いたお陰で身体の負担は少なかった。 しかし、事前のチェック、打ち合わせ、後処理等・・・これらは省くわけにはいか ない。一件ごとの拘束期間は短いが、それらを毎回行うのだ。 大概は、仕事の拘束時間外や休暇の時間を割いて行っているが、あまりに忙しくそれ もままならない。 その結果、時間短縮を図る為にジョウは自分の睡眠を削って、レポートや事前チェッ ク等を可能な限りこなしていた。 そうやって、なんとか時間を調整してきたのに、最後で躓いた。 ビューラに向かって出航する直前、宇宙港が火災で一時閉鎖になったのだ。 結局、予定より十五時間も遅れてる。 その間もジョウは溜まった仕事を黙々と片付けてたのは言うまでも無い。 だから、少しでも眠らせてやりたかった、タロスとしては。 離れていた分、更にパワーアップしてジョウを引き回すに違いないアルフィンが待ち 構えてるのだから。
しかし、何を思ったのかリッキーはせっかくのタロスの配慮までもぶち壊す。 その視線で横を見た彼はジョウが眠ってるのに気づき、なんとその肩を両手で掴むと 揺すって起こしにかかったのだ。 「あ、兄貴、兄貴。大変だって、寝てる場合じゃないぜ!」 「ば、馬鹿。よさねーか」 「・・・ん」 慌ててタロスがリッキーを捕まえたが間に合わず、ジョウが微かに眉間に皺を寄せな がら、その黒い瞳をゆっくりと覗かせた。 「・・・・」 ジョウがぼんやりと周囲を見回す。実は以外に彼は寝起きが悪い。オフの時は一気に 緊張感が抜けるらしく、夢遊病者と大差無い時すらあるのだ。仕事中の彼から想像も つかないが。 その視線がやっとリッキーに向けられる。 「・・・・なんだよ。」 面倒臭そうに言いながら、ジョウは髪を掻きあげた。
「二人ともさー、ニュース見てくれよ。」 目を見開き、スクリーンを指差すリッキー。 「んー」 「・・・ったく、ビューラでも爆発したのか?こ煩いガキだ」 寝惚け眼のジョウと鬱陶しそうに顔を顰めるタロスが、スクリーンに目を向けると、 燃え盛る宇宙船らしきものが写っていた。どうやら、墜落事故のようだ。 「で?」 一見して大惨事である事は分かったが、直ぐに次のニュースに移ってしまった為、何 のことやらさっぱり分からない。 「もー、しっかりしてくれよ兄貴!」リッキーは興奮して、ジョウの上着を引っ張 って早口でまくし立てながら、空いてる方の手を振り回す。 「ドンゴ、ドンゴ、今のニュース、巻き戻してくれよ!」 「キャハ、りょーかい」 近くに控えてたドンゴが即座に応じ、ジョウの上着から手を離したリッキーも座 り直す。 困惑しながらも、リッキーの勢いに押されて二人は神妙な顔つきでスクリーンに再び 見入った。
ニュースは銀河系標準時間で四十時間前に起きた事故の続報らしい。 場所は彼らの目的地、惑星ビューラ。 そして、その船はアル・ピザンからの定期便だった・・・ 原因は調査中だが、宇宙港に辿り着く前に失速し、墜落した。ただ、運の良い事にパ イロットの腕が良かったせいか、ある程度の高度まで下がってから墜落したようだ。 普通なら全員死亡は免れない。 現時点で、二十名ほどの生存が確認されていた。 「・・・なお、十歳の少女を救出した女性ですが、意識不明で病院に収容されたとの 事です。また、当局のーーー」
ジョウは不意に視線をそらす。声を少し上ずらせながらしゃべるレポーターのこの コメントを聞くと、彼の眉が僅かに動いた。 リッキーも不安気にジョウの表情を窺う。 「・・・兄貴、どう思う?」 「・・・」 ジョウは腕を組み無言であった。まさか、アルフィンが・・・不安がよぎる。でも、 まだ彼女がビューラに着く筈が無い。自分達が遅れる可能性があるので、来るのは彼ら が到着する三十時間後以降にしろと、言ってあったのだから。 事実、彼女からは、キッチリ三十時間後に到着する便を予約したとの連絡がきていた ・・・ ジョウは肩を竦め、リッキーを見る。平常を装い、心に浮かんだ事を隠して。 「宇宙港に突っ込んだんじゃないんだぜ?別にーーー」 「違うよ、アルフィンだよ!」 リッキーはジョウとタロスの顔を交互に見ながら、落ち着かない様子で早口に捲くし 立てる。 「アルフィン、俺ら達が先に着くの知ってて、我慢してると思えないよ。逆に、早く 着て驚かそうって考えそうじゃん」 「・・・でも、連絡ではあれよりずっと後の便だ。それにピザンからも、何も言って きてないだろ?」 ジョウはゆっくりと言い聞かせるように言った、リッキーよりも自分に。 リッキーは鼻の先を人差し指で擦り、不安を顕にしてジョウを見上げる。 「けど・・・けど・・・意識不明の女の人・・・少女を救助したって、言ってたじゃ んか?アルフィン・・・いたら、きっとそうしてるぜ?普通の女の人に、あんな事故 の時救助なんて出来るかな?」 答えないジョウ。リッキーの声が焦れたように高くなる。 「二週間も離れてたんだぜ?」リッキーは心の中で、兄貴とね、と付け足す。 「・・・だって、到着予定をしつこく聞いてたじゃないか」 「縁起でもねェこたァ、そのヘンにしとけ」 タロスが立ち上がり首をコキコキ鳴らす。ジョウが同じ不安を持ってるのに、それを 押し殺してるのを見破っていた。 「そろそろ、ですぜ」 話を打ち切るためにも、タロスはわざとらしくクロノメータに目をやり、他の二人を 促した。本当にブリッジに行かねばならない時間でもある。 ジョウは無表情にゆっくり立ち上がる。そして、そのままブリッジに向かう。 後姿をボンヤリと見送ったリッキーだが、彼も溜息をつくと勢い良く立ち上がり二人 の後を追って行く。 そうだ、現地に着けば分かるさ。リッキーは柄にも無く、冷静になろうと努力する。 アルフィンはきっと、先に待ってるはず。待ち伏せして兄貴に抱きつくさ。 彼女が・・・あんな事故に巻き込まれるなんて、あるはず無い。
あるはずが無い、そう誰もが信じていたかった・・・・
惑星ビューラ。 予想はしていたが、事故の影響で入国するのに時間がかかる。必要な手続きを手分け して素早く終え、彼らはすぐにエアカーをレンタルして宿泊するホテルに向かった。 ジョウはエアカーをスタートさせてからも無口だった。 ただ、早くこの不安をなだめたかった。 彼女がいるかもしれない。 いや、遅れる可能性のが高いが、何かメッセージが届いてるはずだ。 どちらにしろ、彼女は帰ってくる。 そして、「ばっかねー」と、呆れ顔で吹き出すだろう。 海上に真っ直ぐ伸びるハイウエイ。 アルフィンの瞳と同じく紺碧に輝く海。それがやけに胸に堪えた。 エアカーを運転するジョウは少しスピードを上げる。 今、胸の奥に押しやった蟠りを解かしてくれるのは・・・彼女の碧い瞳だけなのだ から。
一時間後、彼らはホテルに到着した。 海に浮かぶ巨大な人工島が丸々ホテルになっている。見た目は距離を置いて、タイプ の違うホテルがいくつも建ってるように見えるが、それらは地下で一つに繋がり、簡 単に行き来が出来るようになっていた。 アルフィンがニュースパックで見て惹かれたホテル。 待ち合わせを此処に決めたのは、彼女だった。彼女が選んだホテルは力説した通り、 白亜が映える海を見下ろす高台に建っている。咲き乱れる花々、潮風・・・何もが素 晴らしく誘いをかけてくる。 しかし、重い気持ちを抱えたジョウには何も響いてこない。ただ、先を急ぐ。 だが、フロントに向かうジョウの足が次第に遅くなってくる。 (俺は何を恐れてるんだ?あれは、彼女の予約した便ではないんだ) 彼は心で呟き、自分を納得させようとした。 チェックインをしていると、フロントマンがジョウに一通の封筒を差し出した。 「メッセージが届いております」 「あ、ああ。」 ジョウは動揺してビクッと身を震わせた。思い通りの筈なのに。どうしても、不安は 拭えない。いや、かえって増しているのを自分でも分かっていた。 タロスとリッキーも黙ってジョウが受け取った封筒を見ている。 「あの、失礼ですが・・・こちらがお部屋のキーになっております。」 「あ、ああ・・・」 固まるジョウと彼らの重苦しい雰囲気に、フロントマンは遠慮がちにカードキーを差 し出した。 それを受け取り、ジョウは踵を返した。メッセージは読みもせずに。二人も後に続く。 急ぎ足でホールを横切り、エレベーターを目指す。 ホールの中程に置いてあるソファの前を足早に過ぎようとした。
「・・・あの」 低く抑えた声。フロントが良く見える位置に座って、先程から彼等を見つめていた女 性が立ち上がり近づく。 彼女はジョウの持つ封筒に視線を向けてから、彼の目を見つめた。 「メッセージ、私です」 戸惑うジョウ。ウエーブのかかったセミロングのプラチナブロンド。水色の瞳。隙の 無い身のこなし。年の頃は二十二、三歳か。ジョウはマジマジと相手を見てしまう。 そして、気付く。 「君は・・・確か、アルフィンの」 「ええ、アルフィン様がピザンにいらしたとき」 微笑んで、彼女は素早く敬礼した。 それを見て、タロスとリッキーも声をあげる。 「あ?あー、あのいつも一緒だった・・・」 「護衛のネエチャンだな。で、相方も一緒かい?」 「・・・いえ」 微笑が一瞬で消えた。嫌な予感。タロスはそっとジョウの顔を窺う。 ジョウは動揺を隠そうとしてる。王女を辞したアルフィンには護衛は付かない。なの に、此処で彼等を待っていたことの意味。ジョウの脳裏にニュースパックで見た炎上 する船の映像が浮かぶ。 ズレ込みそうになる仕事を、寝る間も惜しんで間に合うように終らせたのは何の為、 だ?誰の為・・・だ? 無言で自分を凝視するジョウに、彼女は大きく息をひとつ吸って向き合う。そして、 静かに告げた。 「−−−レナは、怪我をして手当てを受けています。あの事故、お聞きになりました か?」 「−−−ああ」 ジョウは頷く。それしか出来ない。横ではリッキーが口を開きかけたが、タロスが 素早く押さえ込んだ。 「レナも乗ってたんです。−−−アルフィン様と」 彼女はそう言うと目を伏せた。 「−−−で?」 掠れた声。ジョウは手に持ったままの封筒を握り締める。アルフィンはどうした? なぜ、此処にいない?どうして、君が来てるんだ? ジョウは唇を噛む。心で叫びながら。 沈黙を破ったのはタロスだった。 「立ち話もなんですから、部屋に行きませんか?」 タロスは人事のような口調でさらりと言った。捲くし立てそうなリッキーを開放し、 眼で制しながら。 「−−−ここじゃ、落ち着いて話も出来ませんぜ」 しかし、ジョウは動かない。 「ーーーステラ」ジョウはピザンからの使者に低い声で先を促した。 「どうして、君が此処にいる?」 「・・・・・・」 言葉に詰まる、ステラ。 張り詰める空気。堪らずリッキーが震える声で口を挟む。 「な、なぁ、アルフィンは無事なんだろ?怪我しちゃたのかい?まだ来てないの? でも・・・すぐ、来れんだろ?」 「リッキー!」 タロスがたしなめる。もし、最悪の結果だとすれば・・・こんな所で聞くわけには いかない。ジョウの肩に手をかけ再び促した。 「とにかく部屋へ行きーーー」 「無事なのか?」 ジョウは静かに肩にかけられた手を外して問い掛けた。 ステラがその視線を真っ向から受け止める。 「アルフィン様は・・・暫く意識不明だったのですが、私がピザンを立つ前に覚醒さ れました」そこまで言って、気が挫けたように俯く。 「・・・・だけど」 「・・・・けど?」 ジョウが虚ろに繰り返す。 彼女の言葉に安堵しかけていた三人の顔が強張る。 「意識は戻りました。怪我も・・・命に別状はありません。けれども・・・」 ステラの声が震えた。 「−−−記憶が、途切れてしまってるんです。王女時代の記憶しか・・・反乱前の記 憶しかお持ちで無いんです」
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