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■461 / inTopicNo.1)  炎の中で
  
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/05/05(Mon) 01:16:56)
    みなさんはじめまして。
    こんなんでいーのかな??と恐れつつ投稿いたします。
    ま、初参加だし皆さんも大目に見てくださるでしょう。(決め付けてます)
    では、適当に流し読みしてくださいませ。
    最後まで行き着けるか・・・不安。

    ****************************************
                                                         
    「ほぇー。」
    突然、リッキーが素っ頓狂な声をあげた。
    「・・・ぶないよなー。でも・・・まさか?」


    ミネルバのリビングルームでのティータイム。
    いつの間にか習慣になっていた穏やかな時間。
    そう、アルフィンがチームに加わってからの。
    しかし、今そこには彼女の姿は無い。
    アルフィンはピザンに帰省していた。
    彼らは集まってコーヒーを飲みつつ、無意識に物足りなさを感じている。
    会話も途切れ、各々が好きに過ごしながら。
    タロスは通信端末に向かい、ジョウはうたた寝。
    相手にしてもらえないリッキーは、仕方なくスクリーンに流れるニュースパックを
    つまらなそうに見ていた。
    最近よくある光景。でも、今日はいつもと違っていた。
    やっと、仕事に区切りがついた。けだるい開放感。
    明日からは久しぶりの休暇・・もし、何事も無ければだが。
    それに。
    二週間ぶりにアルフィンが帰ってくる!
    次の休暇の為に今向かってる、惑星ビューラで落ち合うのだ。


    疲れを癒す、ゆったりとした空気が流れていた。


    が、リッキーの甲高い声がそれをぶち壊す。
    「なんじゃい、クソガキ。テメエは、ニュースも黙って見れねぇのか」
    画面から顔を上げ、タロスが抑えた声で叱るように言った。そして、リッキーの横に
    座るジョウにさり気なく目をやる。
    大丈夫だ、起きる気配は無い。タロスはジョウが無理をしていたのを知っていた。
    昨日も徹夜で報告レポートを作っていたに違いない。


    ここ数ヶ月は休む間もなかった。正確に言うと、まとまった休みを取ろうとするのだ
    が、狙ったようにアラミスから緊急通信が入った・・・モチロン断れない。
    さすがに切れて、ジョウは三度目の緊急通信が来た時にゴネた。
    先手必勝、余程の事が無い限りアラミスからの通信は無いだろう。


    幸い、手軽な仕事が続いたお陰で身体の負担は少なかった。
    しかし、事前のチェック、打ち合わせ、後処理等・・・これらは省くわけにはいか   
    ない。一件ごとの拘束期間は短いが、それらを毎回行うのだ。
    大概は、仕事の拘束時間外や休暇の時間を割いて行っているが、あまりに忙しくそれ
    もままならない。
    その結果、時間短縮を図る為にジョウは自分の睡眠を削って、レポートや事前チェッ
    ク等を可能な限りこなしていた。
    そうやって、なんとか時間を調整してきたのに、最後で躓いた。
    ビューラに向かって出航する直前、宇宙港が火災で一時閉鎖になったのだ。
    結局、予定より十五時間も遅れてる。
    その間もジョウは溜まった仕事を黙々と片付けてたのは言うまでも無い。
    だから、少しでも眠らせてやりたかった、タロスとしては。
    離れていた分、更にパワーアップしてジョウを引き回すに違いないアルフィンが待ち
    構えてるのだから。


    しかし、何を思ったのかリッキーはせっかくのタロスの配慮までもぶち壊す。
    その視線で横を見た彼はジョウが眠ってるのに気づき、なんとその肩を両手で掴むと
    揺すって起こしにかかったのだ。
    「あ、兄貴、兄貴。大変だって、寝てる場合じゃないぜ!」
    「ば、馬鹿。よさねーか」
    「・・・ん」
    慌ててタロスがリッキーを捕まえたが間に合わず、ジョウが微かに眉間に皺を寄せな
    がら、その黒い瞳をゆっくりと覗かせた。
    「・・・・」
    ジョウがぼんやりと周囲を見回す。実は以外に彼は寝起きが悪い。オフの時は一気に
    緊張感が抜けるらしく、夢遊病者と大差無い時すらあるのだ。仕事中の彼から想像も
    つかないが。
    その視線がやっとリッキーに向けられる。
    「・・・・なんだよ。」
    面倒臭そうに言いながら、ジョウは髪を掻きあげた。


    「二人ともさー、ニュース見てくれよ。」
    目を見開き、スクリーンを指差すリッキー。
    「んー」
    「・・・ったく、ビューラでも爆発したのか?こ煩いガキだ」
    寝惚け眼のジョウと鬱陶しそうに顔を顰めるタロスが、スクリーンに目を向けると、
    燃え盛る宇宙船らしきものが写っていた。どうやら、墜落事故のようだ。
    「で?」
    一見して大惨事である事は分かったが、直ぐに次のニュースに移ってしまった為、何
    のことやらさっぱり分からない。
    「もー、しっかりしてくれよ兄貴!」リッキーは興奮して、ジョウの上着を引っ張
    って早口でまくし立てながら、空いてる方の手を振り回す。
    「ドンゴ、ドンゴ、今のニュース、巻き戻してくれよ!」
    「キャハ、りょーかい」
    近くに控えてたドンゴが即座に応じ、ジョウの上着から手を離したリッキーも座
    り直す。
    困惑しながらも、リッキーの勢いに押されて二人は神妙な顔つきでスクリーンに再び
    見入った。


    ニュースは銀河系標準時間で四十時間前に起きた事故の続報らしい。
    場所は彼らの目的地、惑星ビューラ。
    そして、その船はアル・ピザンからの定期便だった・・・
    原因は調査中だが、宇宙港に辿り着く前に失速し、墜落した。ただ、運の良い事にパ
    イロットの腕が良かったせいか、ある程度の高度まで下がってから墜落したようだ。
    普通なら全員死亡は免れない。
    現時点で、二十名ほどの生存が確認されていた。
    「・・・なお、十歳の少女を救出した女性ですが、意識不明で病院に収容されたとの
    事です。また、当局のーーー」


    ジョウは不意に視線をそらす。声を少し上ずらせながらしゃべるレポーターのこの
    コメントを聞くと、彼の眉が僅かに動いた。
    リッキーも不安気にジョウの表情を窺う。
    「・・・兄貴、どう思う?」
    「・・・」
    ジョウは腕を組み無言であった。まさか、アルフィンが・・・不安がよぎる。でも、
    まだ彼女がビューラに着く筈が無い。自分達が遅れる可能性があるので、来るのは彼ら
    が到着する三十時間後以降にしろと、言ってあったのだから。
    事実、彼女からは、キッチリ三十時間後に到着する便を予約したとの連絡がきていた
    ・・・
    ジョウは肩を竦め、リッキーを見る。平常を装い、心に浮かんだ事を隠して。
    「宇宙港に突っ込んだんじゃないんだぜ?別にーーー」
    「違うよ、アルフィンだよ!」
    リッキーはジョウとタロスの顔を交互に見ながら、落ち着かない様子で早口に捲くし
    立てる。
    「アルフィン、俺ら達が先に着くの知ってて、我慢してると思えないよ。逆に、早く
    着て驚かそうって考えそうじゃん」
    「・・・でも、連絡ではあれよりずっと後の便だ。それにピザンからも、何も言って
    きてないだろ?」
    ジョウはゆっくりと言い聞かせるように言った、リッキーよりも自分に。
    リッキーは鼻の先を人差し指で擦り、不安を顕にしてジョウを見上げる。
    「けど・・・けど・・・意識不明の女の人・・・少女を救助したって、言ってたじゃ
    んか?アルフィン・・・いたら、きっとそうしてるぜ?普通の女の人に、あんな事故
    の時救助なんて出来るかな?」
    答えないジョウ。リッキーの声が焦れたように高くなる。
    「二週間も離れてたんだぜ?」リッキーは心の中で、兄貴とね、と付け足す。
    「・・・だって、到着予定をしつこく聞いてたじゃないか」
    「縁起でもねェこたァ、そのヘンにしとけ」
    タロスが立ち上がり首をコキコキ鳴らす。ジョウが同じ不安を持ってるのに、それを
    押し殺してるのを見破っていた。
    「そろそろ、ですぜ」
    話を打ち切るためにも、タロスはわざとらしくクロノメータに目をやり、他の二人を
    促した。本当にブリッジに行かねばならない時間でもある。
    ジョウは無表情にゆっくり立ち上がる。そして、そのままブリッジに向かう。
    後姿をボンヤリと見送ったリッキーだが、彼も溜息をつくと勢い良く立ち上がり二人
    の後を追って行く。
    そうだ、現地に着けば分かるさ。リッキーは柄にも無く、冷静になろうと努力する。
    アルフィンはきっと、先に待ってるはず。待ち伏せして兄貴に抱きつくさ。
    彼女が・・・あんな事故に巻き込まれるなんて、あるはず無い。


    あるはずが無い、そう誰もが信じていたかった・・・・


    惑星ビューラ。
    予想はしていたが、事故の影響で入国するのに時間がかかる。必要な手続きを手分け
    して素早く終え、彼らはすぐにエアカーをレンタルして宿泊するホテルに向かった。
    ジョウはエアカーをスタートさせてからも無口だった。
    ただ、早くこの不安をなだめたかった。
    彼女がいるかもしれない。
    いや、遅れる可能性のが高いが、何かメッセージが届いてるはずだ。
    どちらにしろ、彼女は帰ってくる。
    そして、「ばっかねー」と、呆れ顔で吹き出すだろう。
    海上に真っ直ぐ伸びるハイウエイ。
    アルフィンの瞳と同じく紺碧に輝く海。それがやけに胸に堪えた。
    エアカーを運転するジョウは少しスピードを上げる。
    今、胸の奥に押しやった蟠りを解かしてくれるのは・・・彼女の碧い瞳だけなのだ
    から。


    一時間後、彼らはホテルに到着した。
    海に浮かぶ巨大な人工島が丸々ホテルになっている。見た目は距離を置いて、タイプ
    の違うホテルがいくつも建ってるように見えるが、それらは地下で一つに繋がり、簡
    単に行き来が出来るようになっていた。
    アルフィンがニュースパックで見て惹かれたホテル。
    待ち合わせを此処に決めたのは、彼女だった。彼女が選んだホテルは力説した通り、
    白亜が映える海を見下ろす高台に建っている。咲き乱れる花々、潮風・・・何もが素
    晴らしく誘いをかけてくる。
    しかし、重い気持ちを抱えたジョウには何も響いてこない。ただ、先を急ぐ。
    だが、フロントに向かうジョウの足が次第に遅くなってくる。
    (俺は何を恐れてるんだ?あれは、彼女の予約した便ではないんだ)
    彼は心で呟き、自分を納得させようとした。
    チェックインをしていると、フロントマンがジョウに一通の封筒を差し出した。
    「メッセージが届いております」
    「あ、ああ。」
    ジョウは動揺してビクッと身を震わせた。思い通りの筈なのに。どうしても、不安は
    拭えない。いや、かえって増しているのを自分でも分かっていた。
    タロスとリッキーも黙ってジョウが受け取った封筒を見ている。
    「あの、失礼ですが・・・こちらがお部屋のキーになっております。」
    「あ、ああ・・・」
    固まるジョウと彼らの重苦しい雰囲気に、フロントマンは遠慮がちにカードキーを差
    し出した。
    それを受け取り、ジョウは踵を返した。メッセージは読みもせずに。二人も後に続く。
    急ぎ足でホールを横切り、エレベーターを目指す。
    ホールの中程に置いてあるソファの前を足早に過ぎようとした。


    「・・・あの」
    低く抑えた声。フロントが良く見える位置に座って、先程から彼等を見つめていた女
    性が立ち上がり近づく。
    彼女はジョウの持つ封筒に視線を向けてから、彼の目を見つめた。
    「メッセージ、私です」
    戸惑うジョウ。ウエーブのかかったセミロングのプラチナブロンド。水色の瞳。隙の
    無い身のこなし。年の頃は二十二、三歳か。ジョウはマジマジと相手を見てしまう。
    そして、気付く。
    「君は・・・確か、アルフィンの」
    「ええ、アルフィン様がピザンにいらしたとき」
    微笑んで、彼女は素早く敬礼した。
    それを見て、タロスとリッキーも声をあげる。
    「あ?あー、あのいつも一緒だった・・・」
    「護衛のネエチャンだな。で、相方も一緒かい?」
    「・・・いえ」
    微笑が一瞬で消えた。嫌な予感。タロスはそっとジョウの顔を窺う。
    ジョウは動揺を隠そうとしてる。王女を辞したアルフィンには護衛は付かない。なの
    に、此処で彼等を待っていたことの意味。ジョウの脳裏にニュースパックで見た炎上
    する船の映像が浮かぶ。
    ズレ込みそうになる仕事を、寝る間も惜しんで間に合うように終らせたのは何の為、
    だ?誰の為・・・だ?
    無言で自分を凝視するジョウに、彼女は大きく息をひとつ吸って向き合う。そして、
    静かに告げた。
    「−−−レナは、怪我をして手当てを受けています。あの事故、お聞きになりました
    か?」
    「−−−ああ」
    ジョウは頷く。それしか出来ない。横ではリッキーが口を開きかけたが、タロスが
    素早く押さえ込んだ。
    「レナも乗ってたんです。−−−アルフィン様と」
    彼女はそう言うと目を伏せた。
    「−−−で?」
    掠れた声。ジョウは手に持ったままの封筒を握り締める。アルフィンはどうした?
    なぜ、此処にいない?どうして、君が来てるんだ?
    ジョウは唇を噛む。心で叫びながら。
    沈黙を破ったのはタロスだった。
    「立ち話もなんですから、部屋に行きませんか?」
    タロスは人事のような口調でさらりと言った。捲くし立てそうなリッキーを開放し、
    眼で制しながら。
    「−−−ここじゃ、落ち着いて話も出来ませんぜ」
    しかし、ジョウは動かない。
    「ーーーステラ」ジョウはピザンからの使者に低い声で先を促した。
    「どうして、君が此処にいる?」
    「・・・・・・」
    言葉に詰まる、ステラ。
    張り詰める空気。堪らずリッキーが震える声で口を挟む。
    「な、なぁ、アルフィンは無事なんだろ?怪我しちゃたのかい?まだ来てないの?
    でも・・・すぐ、来れんだろ?」
    「リッキー!」
    タロスがたしなめる。もし、最悪の結果だとすれば・・・こんな所で聞くわけには
    いかない。ジョウの肩に手をかけ再び促した。
    「とにかく部屋へ行きーーー」
    「無事なのか?」
    ジョウは静かに肩にかけられた手を外して問い掛けた。
    ステラがその視線を真っ向から受け止める。
    「アルフィン様は・・・暫く意識不明だったのですが、私がピザンを立つ前に覚醒さ
    れました」そこまで言って、気が挫けたように俯く。
    「・・・・だけど」
    「・・・・けど?」
    ジョウが虚ろに繰り返す。
    彼女の言葉に安堵しかけていた三人の顔が強張る。
    「意識は戻りました。怪我も・・・命に別状はありません。けれども・・・」
    ステラの声が震えた。
    「−−−記憶が、途切れてしまってるんです。王女時代の記憶しか・・・反乱前の記
    憶しかお持ちで無いんです」





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■485 / inTopicNo.2)  Re[1]: 炎の中で
□投稿者/ 夕海 碧 -(2003/07/31(Thu) 03:08:53)
    誰も黙したままだった。
    南国の華やかな空気も。ロビーを飾る花々さえ。全てが目に入らない。音も、聞こえ
    ない。まるで、彼らのいる場所だけ切り取られたように。
    予想だにしなかった出来事。
    ステラはゆっくりと顔を上げた。ジョウの表情を窺う。だが、ステラは胸を塞がれる
    苦しさに唇を噛む。ジョウは無表情だった―――感情を一切無くした精気の無い顔。
    ステラは言葉が紡ぎ出せない。また視線を落とす。その耳に小さな溜息が聞こえた。
    ジョウだった。
    「---そうか」
    ポツリと呟くジョウに、ステラは再び目を向けた。彼の表情には僅かだが精気が戻っ
    ていた。でも、複雑に混ざり合った表情から、心の内は読み取れない。
    「たいした怪我じゃないんだ、な」
    ジョウはステラに念を押した。ステラは無言で頷く。
    「---そうか」ジョウは噛み締めるように低い声で言った。
    「---良かった」
    短い言葉。でも、それは限りなく重い響きを含んでる。アルフィンが助かったのを喜
    ぶ気持の影で、ステラから告げられた事実が心を重くする。今、彼女にとって自分達
    は見知らぬ者だと。
    リッキーも虚脱状態から我に返った。誰にとも無く視線を泳がせる。
    「う、嘘だろ」リッキーの声は震えていた。
    「冗談、って言ってくれよ。そんなの。アルフィンが、忘れるわけないよ。なぁ、嘘
    だろ?お、俺ら達を---兄貴を覚えてないなんて。ありえないよ」
    しかし、ステラは静かに首を振る。
    避け様の無い、事実。
    が、リッキーは認めたくなかった。なおも言いかけるのを、タロスが首根っこを捕ま
    えて引き戻す。
    「なんだよ!」
    もがくリッキーの口をタロスの大きな手のひらが塞ぐ。
    「む、ぐがぐぐ・・・」
    「部屋に行きますぜ」
    タロスは言うなり、リッキーを引きずってエレベーターに向かった。リッキーは抵抗
    するがモチロンされるがままだ。それでもジタバタと暴れる。ややあって、ジョウと
    ステラも後に続いた。先の二人の事に全く無反応で。傍から見れば、異様な光景であ
    る。
    抵抗するいたいけな少年を、無理やり拉致する強面の大男。その光景を目の前にしな
    がら平然と後ろを歩く、若い男女。そこに漂う、陰鬱な雰囲気。
    小心者が見たら、誘拐事件と見まごう。


    その頃。
    フロントでも小競り合いが起きていた。
    小心者がそこにいた。運悪く、タロスがリッキーを引きずる光景だけ目にした。必死
    に抵抗してるリッキーが無理やりエレベーターに押し込まれるのを見て、彼は青ざめ
    パニック状態に陥り、警察を呼ぼうとする。
    それをすんでのところで止めたのは、チェックインするジョウに対応したフロントマ
    ンだった・・・・


    「むぐぐ・・ぐがががむ!」(離せ・・・馬鹿タロス!)
    リッキーは押し込まれたエレベーターの中でも暴れていた。タロスにまだ押さえ込ま
    れたままだからだ。
    やっと、タロスはリッキーを解放する。
    「ぷはぁ」リッキーは深呼吸する。タロスの大きな手は彼の呼吸まで止めていたから。
    「何すんだ、馬鹿タロス!息、できないだろ!」
    「おめぇのトンチキ頭にゃ、少しぐれぇ酸素回んなくたって変わりゃしねえ!」
    「あんだとぉ」
    リッキーがタロスに飛びかかる。タロスも迎え撃つ体制をとった。
    だが。
    二人は同時に動きを止めた。気まずい思いで振り返る。いつもなら、癇癪を起こして
    止めに入るジョウを。
    しかし。彼は壁に背中を預け、海を見ていた。このエレベーターは海側が強化ガラス
    になっている。ジョウは無言で海に見入っていた。その向かいでは、ステラも同じよ
    うに海を見つめている。
    タロスとリッキーは顔を見合すと、肩をすぼめ小さくなって大人しくなった。
    微かに沈み込む感覚。
    エレベーターは彼らの客室のある20階に到着した。
    ドアが開くと、ジョウは壁から身体を引き剥がし、ゆっくりと降りた。その後にステ
    ラが続く。そして、一拍置いてタロスとリッキーもエレベーターを降りた。
    部屋はすぐ近くだった。
    ジョウはキーを差し込む。
    開錠のランブが一瞬光り、静かにドアがスライドする。
    ジョウは身体の位置を少しずらす。後ろにいるはずの<彼女>を先に通す為のいつも
    の習慣。目の前に長いブロンドが翻る光景を、彼の瞳は無意識に求めてしまう。しか
    し、目にしたのは短いブロンドが微かに揺れて過ぎた現実。
    「・・・・」
    ジョウの顔が強張った。そのままステラの後姿を凝視していたが、頭を一つ振ると自
    分も中に入っていく。タロスとリッキーは顔を見合わせたが、あえて何も言わずに後
    に続く。その後ろで、ドアがゆっくりと閉じていった。


    ジョウは腕を組んで窓辺に立ったまま、ステラの話を聞いていた。
    他の三人は、近くにあるソファに座っていたが、ステラが用意したコーヒーは、テー
    ブルの上で誰も手を付けないまま冷め切っていた。
    「---アルフィン様は、皆さんを驚かせたいとおっしゃって、早い便に切り替えな
    さいました。それで、事故に巻き込まれてしまわれたのです・・・」
    ステラは長い沈黙の後、そう話し出した。
    事故自体の内容はほぼニューズパックで見た通りであった。しかし、ニュースでは伝
    えられなかった事。アルフィンは、一度避難したのに、ワザワザ船内に戻っていたの
    だ---少女を救出する為に。少女の母親が悲嘆に暮れているのを見て、アルフィン
    は躊躇わず引き返した。そして、救出したものの爆風に煽られ、彼女は記憶を失うほ
    どのダメージ受けた。アルフィンの指示で、別の場所で避難の誘導をしていたレナも
    大怪我をおった。
    「---でも、アルフィン、タイミング悪すぎるよ」リッキーは鼻をすすり上げた。
    「なんだよ、かえって遅くなっちゃうぜ・・・会えるの」
    「今更、とやかく言うんじゃねぇ。助かっただけでも、良しと思わにゃいけねぇ」
    タロスが人事のように言った。事態が深刻なほど彼はそんな口調になる。アルフィン
    は、戻らないかもしれない。そんな不安が頭を過ぎる。彼女はチームにとって無くて
    はならない存在。そして、ジョウの心中を思うと。力の及ばないもどかしさで、タロ
    スは奥歯をギリッと噛み締めた。
    「で、医者はなんて言ってるんだ?」タロスはステラを見る。
    「一時的なものか?それとも---記憶が、戻る見込みが、薄いの、か?」
    「今はまだ、何とも言えないそうです」
    ステラが伏し目がちで答える。
    「俺ら達、会えるの?」リッキーが堪らず立ち上がる。
    「行こうよ、ピザンに。こんなトコで、のんびりしてられないよ!なぁ、兄貴。行こ
    うぜ!」
    「落ち着け、リッキー!」タロスはたしなめる。そして、低い声でステラに聞く。
    「今から行ったとして---俺達が会うことは、可能なのか?」
    ステラは小さく首を振る。
    「今は、混乱されています。経過次第ですが、お会いになれないでしょう、すぐには。
    少なくとも、二週間は。今は、残された記憶を安定させ、その後の記憶に繋げる為の
    治療を行ってるので、その期間はどなたも直接にはお会いになれません」
    「に・二週間・・・。そんな、休暇終っちまうよ」
    リッキーはがっくりとして崩れるように腰を下ろした。彼にも分かっていた。今行け
    ねば、この先数ヶ月は無理だと。仕事が立て込んでいるのだ。むろん、ピザンに途中
    で寄れる余裕など無い事も。
    「ですから、スケジュールを伺いたいのです。それ以後で、いつ頃ピザンに来ていた
    だけるのか。それも、できるだけ長く」
    タロスはジョウに目を向けた。ジョウがどんな結論を出すか分かっていたが。
    ステラとリッキーも、ジョウを見ている。
    ずっと黙してたジョウの口が開く。
    「----半年は、無理、だ」
    「半年・・・」
    ステラはぼんやりと繰り返す。ジョウは組んでいた腕を解き、窓にもたれていた背を
    起こすと身体の位置を変えた。皆に横顔を見せながら、視線は窓の外を見ていた。
    「兄貴!そんな---」
    分かっていながらもリッキーは叫ぶ。一つぐらい、キャンセルできそうな仕事がある
    はず、そう思ってしまう。だが、リッキーはタロスにまたしても口を塞がれ最後まで
    言えない。
    「むぐぐ・・・」
    ステラも感情を押さえきれなくなってきた。口調が強いものになる。
    「半年って。その間、少しも時間を取っていただけないのですか?一日も?仮に長く
    は、半年先になるとしても」
    「無理、だ」
    ジョウの答えは短い。ステラは唇を噛む。彼らがどんなに忙しいか、彼女は分かって
    いる。しかし、アルフィンがピザンを出た経緯を熟知してるステラにとって、これで
    はあまりにもやるせない。半年先など、遠すぎる。ましてや、彼らには飛び込みの仕
    事も多いのだ。このまま、二度と。そんな思いが過ぎる。ステラは食い下がった。
    「では、スケジュールを教えていただけますか?経過の報告をさせていただきますわ。
    その時点で、もし、お寄りになれそうな時がありましたら・・・」
    「悪いが、スケジュールは教えられない」
    「え?」
    ジョウの意外な返答にステラの顔が強張った。彼を睨みつけるように見つめる。ジョ
    ウもステラに顔を向けたが、すぐに視線を外した。
    「---アラミス気付にしておいてくれ。折り返し、こちらから連絡を入れる」
    「---なぜ?」
    ステラの声には微かに怒りと悲しみの色がこもっていた。全てを捨てて彼について行
    ったアルフィンの存在は、こんな程度なのだろうか。

    ―――――優しくしてくれるけど。ジョウの気持が、全然わかんないの。
         あたしがいなくなっても、平気なのかなって・・・時々、思うわ。

    ビューラに向かう前日のアルフィンの言葉。ステラは悲しい気持で思いだす。それで
    も幸せそうに用意する彼女の姿も。
    「---アルフィン様が、便を早めた理由、お判りになりますか?」
    ステラの声は震えていた。
    「あなた方を手料理でお迎えしたいと・・・。だから、キッチン付きのこの部屋を選
    ばれたのですわ。忙しいと、皆さん・・・ちゃんとした食事なさらないからって。そ
    んな、あの方を。なぜ、です?」
    ジョウは海を見ながら答えた。
    「極秘任務もある。その打ち合わせも、な。アラミスは俺達のスケジュールを把握し
    てるから、一番確実な方法だ」
    「でも、こんな場合には」
    ステラの言葉にジョウは首を振る。ステラは、喉にこみ上げるモノをグッと飲み下す。
    そして彼女は、窓に映るジョウの瞳を見捉える。
    「----アルフィン様の為、でも?」
    「----誰の為で、あっても、だ」
    感情を押し殺した声で答えながら、ジョウは拳を握り締めていた。その姿を見て、ス
    テラは何も言えなくなる。隠そうとしても、どれほどジョウが動揺してるか彼女には
    伝わっていた。
    ステラは立ち上がった。
    「---分かりました。私はこのままピザンに戻ります。では、連絡お待ちしています」
    ジョウは頷きソファに近づく。彼は、手を差し出した。
    「頼む、な」
    ステラは胸が詰まって言葉が出ず、代わりにぎこちなく微笑んで見せた。
    タロスとやっと彼から解放してもらえたリッキーもステラと握手を交わす。
    そして、ステラは敬礼すると部屋を出て行った。


    もう、日が傾いている。
    夕日が空を茜色に染め、溜息すらつけないほど美しい。
    ジョウは独りテラスに出ていた。
    ステラが帰った後、三人はひとまず食事をし、それぞれに休息する事にした。
    部屋はリビングと実際は二つのツインルームなのだが、片方にエキストラベッドを入
    れてトリプルルームにしてあった。予定では、アルフィンが一部屋使い、男性陣がト
    リプルルームを使う事になっていた。
    ジョウはアルフィンが使う予定だった部屋のテラスで、彼女の言葉を思い出していた。

    ―――――久しぶりだもの。リビングで皆楽しく騒ぎましょ。

    それなのに。
    食事の後、何処にも行く気になれず、ジョウはブランデーを入れたグラスを手にぼん
    やりと海を見ていた。テラスには、テーブルと二つの大きな籐椅子あり結構広い。
    小さく溜息をつき、ジョウは籐椅子に腰を下ろす。無意識にグラスを目にかざし、琥
    珀色の中に浮かぶ氷を見ていた。
      カラ・・・ン・・
    微かにグラスが揺れ、氷が音をたてる。その音に我に返り、ジョウは一口ブランデー
    を飲むとグラスをテーブルに置いた。
    (どうして、こんな事になっちまったんだろうな・・・)
    ジョウの胸の内は複雑だった。アルフィンにピザンへの里帰りを勧めた事を後悔して
    るわけじゃない。ただ、どうしようもない程の喪失感と寂寥に苛まれていた。彼女の
    存在。その大きさを思い知らされた、これほどまでに。
    やがて、ジョウは自分の首に両手を回すと、胸に下げていたペンダントを外した。そ
    れを、いったん右手で握り締める。そっと手を開き、ジッと見つめた。
    金の鎖。ヘッドは金貨-----女神の浮き彫りのある。
    女神の名はアテナ。別名、ミネルバ。
    ジョウの心は、あの日へとさ迷いだした・・・


    危険物輸送船の護衛の任務についていた時だった。
    静まった標準時間0時過ぎのミネルバ。
    何か飲みたくなり、何気なくジョウがリビングに行くと先客がいた。アルフィンだっ
    た。テーブルにコーヒーを入れたカップが置いてあるが、口をつけた様子も無い。彼
    女は、ただ、ぼんやりとカップを見つめソファに座っている。
    「アルフィン。どうしたんだ、こんな時間に?」ジョウは静かに声を掛けた。
    「何か、あったのか?」
    アルフィンの肩が小さく跳ねた。
    「あ・・・ジョウ?」
    ジョウはアルフィンの横に腰を下ろす。
    「どうした?」
    「ううん。ちょっと、眠れなくて」アルフィンは首を振り冷めたコーヒーを飲む。
    「コレ飲んだら、部屋に戻るわ」
    「コーヒーなんて飲んだら、余計に眠れなくなるだろ?」
    「う・・・ん。そうね」
    力無く言って、アルフィンは微笑もうとした。無理をしている。ジョウにはそう見え
    た。
    「どうしたんだ?」
    「・・・・・」
    アルフィンは、カップを置く。暫し躊躇った後、彼女は伏し目がちで言った。
    「お母様、ぉ倒れになったの」
    「!」
    驚いた表情で自分を見るジョウに、アルフィンは安心させるようにぎこちなくも笑っ
    てみせた。
    「別に、暫く療養なされば、ぜんぜん心配ないんですって。さっき、レナと話してた
    ら、そう言ってたの。過労が原因ね、きっと。だから、あたし。自分が好きな事やっ
    てて、傍で手伝って差し上げられないから---辛いの。ホントは、あたしに言わな
    いようにって、レナは言われてたらしいけど。ピザンを出るとき、お母様は言ってら
    したの。『自分で決めた道です、チームの事を最優先に考えなさい。ピザンよりもア
    ラミスを。わたくし達より仲間の事を大事になさい』って」
    「そうか・・・」
    ジョウは、そっとアルフィンの肩に腕を回し引き寄せた。そして、少し安心したよう
    に彼の肩に頬を当てる彼女の顔を覗き込む。心労の為もあるのだろう。顔色が冴えな
    い。しかし、彼女自身も相当疲労が溜まってるようだ。無理も無かった。ここのとこ
    ろ、仕事・仕事で休暇などロクに取れなかったのだから。
    ふと、ジョウは頭に浮かんだ事を口にする。
    「この仕事が終ったら、里帰りするか?」
    「え?」
    アルフィンが顔を上げ、顔を強張らせてジョウを見た。至近距離で凝視され、ジョウ
    は焦って肩に回していた腕を離す。
    「い・いや。見舞いに行きたいだろ?」
    「でも・・・」アルフィンは碧い瞳を落ち着き無く泳がせる。
    「休暇、まだ先じゃない。次の仕事だってすぐ・・・」
    口篭もるアルフィンに、ジョウは優しく笑って言った。
    「今度の仕事は宇宙航路開設だ。それも、大してやっかいなヤツじゃない。だから、
    君が抜けてもドンゴでカバー出来るさ。ま、ピザンまで送ってやる暇は無いが」
    ジョウは手を伸ばし、アルフィンの肩を軽く叩いた。
    「次の休暇、ビューラにしょうとか言ってたろ?あそこなら、ピザンからそんなに遠
    くないからな。そこで落ち合えばいい。俺達がいる間に、戻ってくれば良いだろ?」
    「だけど・・・」
    「王妃の言葉は嬉しいさ。でも、こんな時は別だ。絆を切るような真似は、させたく
    ないよ、俺は。そうは言っても、今は任務中だから行かせてやれないが」
    「ジョウ」
    アルフィンは大きな瞳を潤ませてジョウに抱きつく。慌てたジョウはアルフィンを引
    き剥がした。頬が微かに赤い。彼女の感情表現の開けっぴろげなところに、少し慣れ
    たジョウだが。やはり、こんな不意打ちは動揺してしまう。
    「と、とにかく。君は王妃に元気な顔を見せてやれよ」
    「ん。ありがと、ジョウ」
    アルフィンは涙も滲ませながらもニッコリ笑う。と、その顔が急に不安げに曇る。
    「でも、あなた達・・・ちゃんと、来るわよね?」
    「へ?」
    ジョウは、キョトンとしてアルフィンを見る。すると、彼女は急に顔を近づけジョウ
    の瞳を覗きこむ。
    「飛込みとか、受けないわよね?あたしが行っても・・・誰もいないなんて嫌よ?」
    アルフィンは真剣な声で言った。切なそうな表情で。心が双方に引き裂かれる、そん
    な苦しみを味わってるのだろう。
    「何だよ。ひでーな」ジョウはニヤリと笑って言い放つ。からかうように、わざと。
    「君こそどうなんだ?----ちゃんと、戻って来いよ」
    「---当たり前じゃない!」
    アルフィンも口を尖らせて、わざといじけてみせる。フッと空気が和んだ。二人は顔
    を見合わせて微笑む。それから、アルフィンが何かを思いついたように顔を輝かせて
    ジョウに向き直った。
    「ね、ジョウ?約束のしるし」アルフィンは自分の首に手を回す。
    「これ、預かってて。で、ビューラで返してねv」
    「ん?」
    首を傾げるジョウの目の前に差し出されたのは、金のペンダントだった。わけが判ら
    ず、マジマジとそれを見つめるジョウ。そんな彼の首に、アルフィンの細い腕が巻き
    ついた。
    「ちょ、ちょっと。ななな・・・」
    アルフィンの腕が離れると。焦るジョウの首には、先程のペンダントが揺れていた。
    アルフィンは悪戯っぽく微笑んだ。
    「それ、大事なの。お母様からピザンを出るときに頂いたのよ。だから、ちゃんと預
    かっててね」
    「そ、そんなもん・・・渡されても。無くしたら、どーすんだよ?」
    「だ・か・ら!大事に持っててねv」アルフィンはジョウの瞳をジッと見た。
    「あたし、絶対、戻ってくるから」
    そう言って、アルフィンはジョウに抱きついた。今度は彼も彼女の身体をそっと抱き
    締める。

    ―――――ペンダントに彫られてるのテラの女神アテネなの。別名、ミネルバ。
         ステキでしょ?ミネルバは---


    ジョウは現実に引き戻される。
    腕の中のアルフィンが呟いてた言葉を思い出しながら。
    ジョウは一瞬ぐっと握り締めてから、再びペンダントを首に掛ける。そして、グラス
    を手に取りブランデーを喉に流し込む。酔えそうに、ない。いくら飲んでも。これで
    良かったのかもしれない、そうも思ってみる。もう、彼女が危険な目に遭うことは無
    くなるのだから。だが、心の奥底では激しく否定する。彼女はミネルバに帰ってくる
    と誓った。自分はそれを信じている・・・
    ジョウはテーブルにグラスを戻し、椅子の背にもたれた。顔だけ横に向けると海が目
    に入る。日も沈み、暗い碧色。微かな風にサザナミが立つ。
    (まるで、アルフィンが泣きそうな時の瞳の色みたいだ、な)
    ぼんやりとジョウは思う。そして、思いを断ち切るように瞳を閉じた。


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